曾我そが物語ものがたり（読よみ）そがものがたり

…団だん三郎さぶろう･鬼王おにおの兄弟きょうだいは，曾我そが十郎じゅうろう･五ご郎ろうの従者じゅうしゃとして知しられている。ただし，鬼王おにお･団だん三さん郎ろうは能のうや歌舞伎かぶきの曾我そが物ぶつでの呼称こしょうであり，《曾我そが物語ものがたり》では鬼おに王丸おうまる･丹たん三郎さぶろう(真名まな本ほん)，鬼王おにお･道どう三郎さぶろう(仮名かめい本ほん)である。幼少ようしょうのころより曾我そが兄弟きょうだいに仕つかえ，片時かたときも離はなれず付つき従したがっていたと《曾我そが物語ものがたり》にあるが，実際じっさいに物語ものがたり中ちゅうに登場とうじょうするのは後半こうはんになってからのことであり，2人ふたりの登場とうじょうには不審ふしんな点てんがある。…

…そのとき，兄弟きょうだいは敵討かたきうちへの固かたい決意けついを確たしかめ合あい，共ともに箱根はこねを下くだり，北条ほうじょう時政ときまさを烏帽子えぼし（えぼし）親おやとして元服げんぷくする。幸さいわい若わか舞曲ぶきょくの他ほかの曾我そが物ぶつ同様どうよう，仮名かめい本ほん《曾我そが物語ものがたり》に近ちかい内容ないようであるが，兄弟きょうだい対面たいめんの場面ばめんなどに，真名まな本ほんの描写びょうしゃに近ちかいと思おもわれるところもある。幸さいわい若わかに先行せんこうすると思おもわれる同名どうめいの能のうがあるが，本ほん曲きょくとも《曾我そが物語ものがたり》とも異ことなった点てんもある。…

…兄あには戦たたかいの場ばで死しに，弟おとうとは祐ゆう経けいの遺児いじに引ひき渡わたされて首くびを斬きられた。兄弟きょうだいの復讐ふくしゅう事件じけんは世間せけんに流布るふし，《曾我そが物語ものがたり》が生うまれた。【小田おだ 雄三ゆうぞう】
［伝承でんしょう］
　《曾我そが物語ものがたり》には，後ごの能のう，幸さいわい若わか舞まいその他たの作品さくひんとしても有名ゆうめいないくつかの説話せつわ群ぐんがある。…

…わが芸能げいのう史上しじょう最もっとも数かずの多おおい演目えんもくをもつ史実しじつ潤色じゅんしょくの作品さくひん群ぐん。源みなもと頼朝よりとも幕下まくしたの重臣じゅうしん工藤くどう祐ゆう経けい（すけつね）に，父ちち河津かわづ祐ゆう泰たいを討うたれた遺子いしの十郎じゅうろう祐成すけなり（すけなり）･五ご郎ろう時致ときむね（ときむね）の兄弟きょうだいが，18年ねん目めに富士ふじの裾野すそのの巻狩まきがりで工藤くどうを討うった事件じけんは《曾我そが物語ものがたり》になり，幸さいわい若わか舞まい，能のう，古こ浄瑠璃じょうるりをはじめおびただしい数かずの演目えんもくで，特とくに江戸えどの大衆たいしゅうに喜よろこばれた。近松ちかまつ門左衛門もんざえもんも人形浄瑠璃にんぎょうじょうるりのために書かいたが，歌舞伎かぶきでは，江戸えどの荒事あらごとが五郎ごろうという人物じんぶつを典型てんけい化かしたので，代々だいだいの市川いちかわ団だん十郎じゅうろうがこの役やくを演えんじた。…

…鎌倉かまくら初期しょきに相模さがみ国こく大磯おおいそ宿やどの遊女ゆうじょであったと伝つたえられる女性じょせい。《曾我そが物語ものがたり》に曾我そが兄弟きょうだいの兄あに十じゅう郎ろう祐成すけなりの愛人あいじんとして登場とうじょうする。《吾妻あづま鏡きょう》建たて久ひさ4年ねん(1193)6月がつ1日にち条じょうおよび18日にち条じょうにその名ながあらわれるが，実在じつざい性せいは疑うたがわしい。…

…義盛よしもりはこれに応おうじず，時政ときまさに内通ないつうしたが，忠常ただつねはあいまいな態度たいどを示しめしたため，疑うたがわれて時政ときまさに滅ほろぼされた。【細川ほそかわ 涼一りょういち】
［伝承でんしょう］
　《曾我そが物語ものがたり》巻まき八はち〈富士野ふじのの狩場かりばへの事こと〉によって，頼朝よりともの面前めんぜんで猪いのししに逆さかさまに乗のってしとめたという忠常ただつねの勇猛ゆうもうぶりは知しられているが，この猪いのししは実じつは山神さんじんであり，そのたたりで忠常ただつねはいくほどもなく謀反むほんの疑うたがいをかけられ，討うたれたとある。《曾我そが物語ものがたり》成立せいりつの動機どうきに，曾我そがの十郎じゅうろう，五郎ごろうの荒こうぶる霊れい(たたり)を鎮しずめる鎮魂ちんこんの意図いとがあることは明あきらかであるが，史実しじつとは異ことなる忠常ただつねの死しについてのこのような伝承でんしょうも，《曾我そが物語ものがたり》全体ぜんたいを通とおしてうかがえる御霊みたま（ごりよう）信仰しんこうとの関係かんけいで改変かいへんされたものであろう。…

…たとえば，同おなじ軍記物語ぐんきものがたりの《太平たいへい記き》は，しばしば《平家ひらか物語ものがたり》を念頭ねんとうにおいて，場面ばめんや人物じんぶつ像ぞうを構成こうせいしている。《義経よしつね記き（ぎけいき）》は，義経よしつねをめぐる《平家ひらか物語ものがたり》の続編ぞくへんともいうべき室町むろまち期きの語かたり物ものであり，《曾我そが物語ものがたり》は，その流動りゅうどうの過程かていで《平家ひらか物語ものがたり》から構成こうせい上じょうの影響えいきょうを受うけている。さらに能のうや狂言きょうげん，幸さいわい若わか（こうわか）舞曲ぶきょく，室町むろまち期きの物語ものがたり，江戸えど期きの各種かくしゅ小説しょうせつ，浄瑠璃じょうるり，歌舞伎かぶきから近代きんだいの小説しょうせつや劇げきに至いたるまで，直接ちょくせつもしくは間接かんせつ的てきに《平家ひらか物語ものがたり》の影響えいきょうを受うけている。…

…1724年ねん(享とおる保ほ9)市村いちむら座ざ初演しょえん《嫁よめ入いれ伊豆いず日記にっき》以後いごの歌舞伎かぶきや，また各地かくちに伝つたわる伝説でんせつでも曾我そが兄弟きょうだいの母ははをマンコウとするものが多おおい。しかし，《曾我そが物語ものがたり》には母ははの名なは記しるされていない。《東奥ひがしおく軍記ぐんき》《和賀わが一揆いっき（わがいつき）次第しだい》(ともに江戸えど初期しょきの成立せいりつか)などに伊東いとう入道にゅうどう祐親すけちかの娘むすめの名なを〈まんこう御前ごぜん〉とする。…