立法りっぽう（読よみ）リッポウ

公権力こうけんりょく（おもに国家こっか）が一般いっぱん的てき・抽象ちゅうしょう的てきな準則じゅんそくを定さだめることをいう。一般いっぱん的てき・抽象ちゅうしょう的てき準則じゅんそくとは，不ふ特定とくてい多数たすうの人ひとの将来しょうらいの行動こうどうを規律きりつするものをさす。しかし，今日きょうにおいては，具体ぐたい的てきな問題もんだいを処理しょりするための立法りっぽう（ドイツでは処分しょぶん法律ほうりつMassnahmegesetzと呼よばれる）もみられるようになった。

　国家こっかの活動かつどうがすべて法ほうに基もとづかなければならないという原則げんそく（法治ほうち主義しゅぎ）より進すすんで，その法ほうが国民こくみんの意思いしを反映はんえいしていなければならないという原則げんそく（法ほうの支配しはい）が，国家こっか機構きこうの中なかに貫徹かんてつする近代きんだい以降いこうの民主みんしゅ主義しゅぎ国家こっかにおいては，国民こくみんの意思いしを選挙せんきょを通とおして反映はんえいする議会ぎかいが，まず，一般いっぱん的てき・抽象ちゅうしょう的てきな準則じゅんそく（法律ほうりつ）を定さだめ，それに拠よりどころ（よ）って行政ぎょうせいが行おこなわれ，あるいは，人々ひとびとがこの準則じゅんそくに拠よって行動こうどうし，さらにこれら準則じゅんそくをめぐる争あらそいを裁判所さいばんしょが解決かいけつするというしくみが通例つうれいのものとなっている。したがって，議会ぎかいが立法りっぽう機関きかんとなるのがふつうである。日本国にっぽんこく憲法けんぽうはこの点てんを強調きょうちょうして，国会こっかいは唯一ゆいいつの立法りっぽう機関きかんであるとしている（41条じょう後段こうだん）が，後述こうじゅつのごとく例外れいがいはある。

　近代きんだい民主みんしゅ政治せいじ以前いぜんの君主くんしゅ制せい（絶対ぜったい主義しゅぎ）の場合ばあいには，議会ぎかいの立法りっぽうは，君主くんしゅの承認しょうにん（裁可さいか）を必要ひつようとしていた。そのなごりがイギリスなどにみられるが，今いまでは，この裁可さいか権けんは周知しゅうちのごとく名目めいもく化かしている。ところで，明治めいじ憲法けんぽうは，立法りっぽう権けんは天皇てんのうにあり，帝国ていこく議会ぎかいは〈協賛きょうさん〉するたてまえであったから，天皇てんのうの裁可さいか権けんは強力きょうりょくであった。しかし日本国にっぽんこく憲法けんぽうにおける天皇てんのうの法律ほうりつ等とうの公布こうふ（7条じょう1号ごう）は，形式けいしき的てきなもので法律ほうりつの成否せいひにはかかわりがないと解ほぐせられている。なお，アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは，議会ぎかいの法律ほうりつに対たいし，大統領だいとうりょうは拒否きょひ権けんを発動はつどうできるが，議会ぎかいが3分ぶんの2の多数たすう意思いしでこれを克服こくふくできることになっている。

　国会こっかいは〈唯一ゆいいつの立法りっぽう機関きかん〉と定さだめられていても，国会こっかいの立法りっぽう形式けいしきである〈法律ほうりつ〉以外いがいに，他たの国家こっか機関きかんによる法ほう形式けいしき（後述こうじゅつ）があり，また，〈法律ほうりつ〉の立法りっぽうについても，その全ぜん過程かていが国会こっかいの作業さぎょうで終始しゅうしするとはかぎらないことに留意りゅういする必要ひつようがある。

立法りっぽうのプロセス

まず，法律ほうりつの立法りっぽう手続てつづきであるが，発案はつあん→審議しんぎ→議決ぎけつ→公布こうふというプロセスを経へる。発案はつあんが議員ぎいんに認みとめられることはもとよりである（議員ぎいん立法りっぽう）が，内閣ないかくにも発案はつあん権けんが認みとめられるというのが通説つうせつで，かつ慣例かんれいであり（憲法けんぽう72条じょう参照さんしょう），成立せいりつする法律ほうりつのほとんどが内閣ないかく提出ていしゅつ法案ほうあんとなっている。そこで審議しんぎ・議決ぎけつに国会こっかいの立法りっぽう意思いしが集中しゅうちゅう的てきにあらわれることになるが，国会こっかいを構成こうせいする衆議院しゅうぎいんの意思いしと参議院さんぎいんのそれとの齟齬そごは，衆議院しゅうぎいんが優越ゆうえつするように調整ちょうせいされる。すなわち，法律ほうりつ案あんは原則げんそくとして両りょう議院ぎいんで可決かけつしたとき法律ほうりつとなるが，衆議院しゅうぎいんで可決かけつし，参議院さんぎいんでこれと異ことなる議決ぎけつをした場合ばあいは，衆議院しゅうぎいんが出席しゅっせき議員ぎいんの3分ぶんの2以上いじょうの多数たすうで再ふたたび可決かけつしたとき法律ほうりつとして成立せいりつする（59条じょう2項こう）。もっとも両りょう議院ぎいんの意思いしの調整ちょうせいを協議きょうぎ会かい（両院りょういん協議きょうぎ会かい）ではかったり，参議院さんぎいんが法律ほうりつ案あんについて態度たいどを明あきらかにしない場合ばあいの措置そちも定さだめられている（同どう条じょう3，4項こう）。

　法律ほうりつであっても，国会こっかいの意思いしのみで成立せいりつしない例外れいがいは特定とくていの地方ちほう公共こうきょう団体だんたいのみに適用てきようされる法律ほうりつで，その地方ちほう公共こうきょう団体だんたいの住民じゅうみん投票とうひょうで，その過半数かはんすうの同意どういを必要ひつようとする場合ばあいである（95条じょう）。これは，地方ちほう自治じちの観点かんてんからの国会こっかいの立法りっぽう権けんに対たいする制約せいやくである。また，法律ほうりつではないが，国会こっかいの立法りっぽう意思いしにその成立せいりつがかかわる法ほう形式けいしきとして〈条約じょうやく〉がある。もっとも条約じょうやくは，外国がいこくとの取決とりきめであるから国内こくない立法りっぽうと異ことなるうえ，条約じょうやく締結ていけつ権けんは内閣ないかくにあり，それに，国会こっかいの立法りっぽう意思いしが条約じょうやくに十分じゅうぶん生いかされる保障ほしょうがあるわけではない。

　国会こっかいの立法りっぽうに影響えいきょうを与あたえる社会しゃかい勢力せいりょくとしていわゆる圧力あつりょく団体だんたいの存在そんざいを閑却かんきゃくすることはできない。圧力あつりょく団体だんたいはさまざまの社会しゃかい領域りょういきにわたっており，内閣ないかくが提出ていしゅつする法案ほうあんの場合ばあいは，官庁かんちょうレベルでの働はたらきかけから始はじまって，一般いっぱん的てきには，与党よとうに重点じゅうてんを置おいた政党せいとうへの工作こうさくを試こころみることによって，立案りつあんとその推進すいしんあるいは，原案げんあん修正しゅうせい，それに法案ほうあんの成立せいりつ阻止そしとさまざまの方向ほうこうで活動かつどうする。おもな圧力あつりょく団体だんたいとしては，農業のうぎょう，経済けいざい，労働ろうどう，教育きょういく等とうの各かく団体だんたいがあり，国民こくみん生活せいかつに対たいする国くにの配慮はいりょを示しめす立法りっぽうの動うごきが目めだつようになる昭和しょうわ30年代ねんだい以降いこうは，福祉ふくし団体だんたい，市民しみん団体だんたいの活動かつどうもきわだっている。

国会こっかい以外いがいの公的こうてき機関きかんによる立法りっぽう

国会こっかい以外いがいの公的こうてき機関きかんも，一般いっぱん的てきには法律ほうりつの範囲はんい内ないで立法りっぽうが認みとめられている。両りょう議院ぎいんはそれぞれ議院ぎいん規則きそくを定さだめうる（憲法けんぽう58条じょう2項こう）し，内閣ないかくは政令せいれい（73条じょう6号ごう），大臣だいじんは命令めいれいについて（国家こっか行政ぎょうせい組織そしき法ほう12条じょう）それぞれ立法りっぽう権けんを有ゆうする。また，最高さいこう裁判さいばん所ところは，裁判さいばんに関連かんれんした事務じむ処理しょり，裁判所さいばんしょの内部ないぶ規律きりつ等とうについて規則きそくを定さだめることができる（裁判所さいばんしょ規則きそく。憲法けんぽう77条じょう1項こう）。さらに，地方ちほう公共こうきょう団体だんたいも条例じょうれいを制定せいていしうる（94条じょう）。政令せいれい，命令めいれい，条例じょうれいは法律ほうりつに反はんしえないことは規定きてい上じょう明あきらかであるが，議院ぎいん規則きそく，最高裁判所さいこうさいばんしょ規則きそくについても，法律ほうりつの下したにあるとの解釈かいしゃくが支配しはい的てきである。

　とりわけ，行政ぎょうせい権けんが法律ほうりつの委任いにんを受うけて行おこなう委任いにん立法りっぽうの数かずの増大ぞうだいは，社会しゃかいのしくみが複雑ふくざつになり，産業さんぎょう規制きせい，福祉ふくし等とう，国家こっかの行政ぎょうせい領域りょういきが拡大かくだい深化しんかしている現代げんだい国家こっかにおいては，不可避ふかひ的てきである。政令せいれいには，法律ほうりつの委任いにんがなければ罰則ばっそくを設もうけたり，または義務ぎむを課かしもしくは権利けんりを制限せいげんする規定きていを置おくことができない（憲法けんぽう73条じょう6号ごう，内閣ないかく法ほう11条じょう）のみならず，法律ほうりつで定さだめるべき事項じこう（国くにの組織そしき・作用さように関かんする事項じこう，国民こくみんの権利けんり義務ぎむにかかわる事項じこう一般いっぱん）を，白紙はくし委任いにん的てきに行政府ぎょうせいふにゆだねることは許ゆるされない。

　最後さいごに国民こくみんによる立法りっぽうについて述のべると，憲法けんぽう改正かいせい手続てつづきにおける国民こくみん投票とうひょう（憲法けんぽう96条じょう）はその一いち例れいであり，すでにふれた憲法けんぽう95条じょう（特別とくべつ法ほうの住民じゅうみん投票とうひょう）も，地方ちほう住民じゅうみんによる例れいである。地方ちほう自治じち法ほうは住民じゅうみんによる条例じょうれい制定せいてい改廃かいはいの直接ちょくせつ請求せいきゅう権けんを定さだめている（地方ちほう自治じち法ほう74条じょう以下いか）が，法律ほうりつについての，国民こくみんによる発案はつあん（イタリア憲法けんぽう71条じょう2項こう）や，国民こくみん投票とうひょう（フランス憲法けんぽう11条じょう）の制度せいどは，日本にっぽんではまだ認みとめられていない。
→議会ぎかい　→権力けんりょく分立ぶんりつ　→国会こっかい
執筆しっぴつ者しゃ：清水しみず 睦あつし