条例じょうれい（読よみ）ジョウレイ

都道府県とどうふけん，市町村しちょうそん，特別とくべつ区くの制定せいていする自主じしゅ法ほう。ただし，明治めいじ初期しょきには〈市区しく改正かいせい条例じょうれい〉〈新聞紙しんぶんし条例じょうれい〉のように国くにの法令ほうれいにも〈条例じょうれい〉の語かたりが使つかわれていた。地方自治体ちほうじちたいの条例じょうれい制定せいてい権けんは，今日きょう，日本国にっぽんこく憲法けんぽう94条じょうおよび地方ちほう自治じち法ほう14条じょうに保障ほしょうされているが，第だい2次じ大戦たいせん前まえの明治めいじ憲法けんぽうの下したでは条例じょうれい制定せいてい権けんの憲法けんぽう保障ほしょうは存在そんざいしなかった。市町村しちょうそんの条例じょうれい制定せいてい権けんは1888年ねん制定せいていの市制しせい，町村ちょうそん制せいに定さだめられたが，府県ふけんのそれは1929年ねんの府県ふけん制せいの改正かいせいによって認みとめられた。だが戦前せんぜんの条例じょうれい制定せいてい権けんは市町村しちょうそん，府県ふけんともに非ひ権力けんりょく的てきな行政ぎょうせい領域りょういきに限かぎられていた。これに対たいし現行げんこう憲法けんぽうおよび地方ちほう自治じち法ほうの下したでは，地方自治体ちほうじちたいは行政ぎょうせい組織そしき，公的こうてき施設しせつ，議会ぎかい委員いいん会かいの設置せっちや税ぜい，使用しよう料りょう，手数料てすうりょうの賦課ふか徴収ちょうしゅうなどを条例じょうれいで定さだめねばならないが，さらに住民じゅうみんの自由じゆうや権利けんりを規制きせいする〈行政ぎょうせい事務じむ条例じょうれい〉を制定せいていすることができ，また条例じょうれいの違反いはん者しゃに2年ねん以下いかの懲役ちょうえきもしくは禁錮きんこ，100万まん円えん以下いかの罰金ばっきん，拘留こうりゅう，科料かりょうまたは没収ぼっしゅうを科かす旨むねを規定きていすることができる。こうした条例じょうれい制定せいてい権けんの改革かいかくは，地方自治体ちほうじちたいを非ひ権力けんりょく的てき事業じぎょう団体だんたいから住民じゅうみんに身近みぢかな地方ちほう政府せいふへと転換てんかんさせるものであった。けれども，地方自治体ちほうじちたいが自主じしゅ立法りっぽう機能きのうの拡充かくじゅうに努つとめるようになったのは1960年代ねんだい末まつ以降いこうのことである。それ以前いぜんには条例じょうれいには国くにの法令ほうれいの地域ちいき的てき補完ほかん機能きのうが濃こく，条文じょうぶんも国こくないし府県ふけんの用意よういした〈モデル条例じょうれい〉を機械きかい的てきに適用てきようしたものが多おおかった。また〈公安こうあん条例じょうれい〉のように政治せいじ的てきに法律ほうりつ制定せいていが難むずかしい事項じこうについて国くにが条例じょうれい制定せいていを指導しどうし，それを受うけて制定せいていされたものもある。学問がくもん的てきにも〈法令ほうれいの先占せんせん理論りろん〉にみるごとく条例じょうれいは法令ほうれいに従属じゅうぞくするものと位置いちづけられていた。

　ところが，1960年代ねんだいの高度こうど経済けいざい成長せいちょうにともなう急激きゅうげきな都市とし化かと工業こうぎょう化かは，都市とし問題もんだいを一段いちだんと悪化あっかさせた。これを受うけて住民じゅうみんに直結ちょっけつした政治せいじを掲かかげる革新かくしん自治体じちたいが叢生そうせい（そうせい）したが，これらの自治体じちたいは公害こうがいや福祉ふくし行政ぎょうせいの充実じゅうじつのために，〈上乗うわのせ，横よこ出だし条例じょうれい〉と総称そうしょうされる条例じょうれいを制定せいていした。これは既存きそんの法令ほうれいが規定きていする給付きゅうふや規制きせい基準きじゅんにさらに上乗うわのせした基準きじゅんを設もうけ，また法令ほうれいの作用さよう対象たいしょうを拡大かくだい（横よこ出だし）することを定さだめるものであった。69年ねんの東京とうきょう都と公害こうがい防止ぼうし条例じょうれいはこうした自主じしゅ立法りっぽう機能きのうの強化きょうかに先鞭せんべんを付つけるものであったが，この種たねの条例じょうれいが各地かくちに波及はきゅうするにつれて法令ほうれいの先占せんせん理論りろんは事実じじつ上じょう崩壊ほうかいし，自主じしゅ立法りっぽう権けんは新あらたな時代じだいを迎むかえた。今日きょうでは空缶あきかん回収かいしゅう条例じょうれい，合成ごうせい洗剤せんざい禁止きんし条例じょうれい，情報じょうほう公開こうかい条例じょうれいのように，自治体じちたいの条例じょうれいには法令ほうれいの空白くうはく領域りょういきを対象たいしょうとするものが増加ぞうかしており，条例じょうれいの作成さくせい過程かていにも市民しみんの参加さんかがくふうされている。

　条例じょうれいの制定せいてい過程かていを概観がいかんすると，議会ぎかいに提出ていしゅつされる条例じょうれい案あんのほとんどが首長しゅちょう提案ていあんにかかるものであり，議員ぎいん提出ていしゅつ条例じょうれいや住民じゅうみん提出ていしゅつ条例じょうれいはきわめて少すくない。また首長しゅちょうは条例じょうれい制定せいていに一種いっしゅの拒否きょひ権けんである再議さいぎ権けんを行使こうしでき，首長しゅちょう主導しゅどうの要素ようそが強つよい。さらに条例じょうれいの運用うんようのために首長しゅちょうは施行しこう規則きそくを定さだめるが，いかなる範囲はんいまでを条例じょうれいに定さだめ，何なにを施行しこう規則きそくにゆだねるかは，条例じょうれい制定せいていの目的もくてきの実現じつげんを左右さゆうする難むずかしい問題もんだいである。なお，地方自治体ちほうじちたいの首長しゅちょうは，その権限けんげんに属ぞくする事務じむについて条例じょうれいとは別べつに規則きそくを定さだめることができ，かつ5万まん円えん以下いかの過料かりょうを違反いはん者しゃに課かすことを規定きていできる。長ちょうに属ぞくする権限けんげんは地方ちほう自治じち法ほう148条じょう，149条じょうに包括ほうかつ的てきに規定きていされているが，その多おおくは個別こべつ法令ほうれいに定さだめられた機関きかん委任いにん事務じむである。
執筆しっぴつ者しゃ：新藤しんどう 宗そう幸みゆき