本物ほんもののゲロも放送ほうそう禁止きんし用語ようごも…邦画ほうが界かい最さい重要じゅうよう人物じんぶつ・白石しらいし和彌かずやの演出えんしゅつ術じゅつ

和製わせいバイオレンス映画えいがの巨匠きょしょう・深作ふかさく欣二きんじ監督かんとくは、東映とうえい実録じつろく路線ろせんの傑作けっさく『仁義じんぎなき戦たたかい』（1973）を誕生たんじょうさせたとき、大部屋おおべやでくすぶっていた個性こせい豊ゆたかな脇役わきやく俳優はいゆうたちをチンピラ勢ぜいとして大量たいりょう投入とうにゅう。主演しゅえんを食くう勢いきおいで暴あばれまわった脇役わきやく達たちの存在そんざい感かんが、殺伐さつばつとした男おとこたちの弱肉強食じゃくにくきょうしょくを描えがいた作品さくひん世界せかいのインパクトとなり血肉けつにくとなった。

そして今世紀こんせいき。実力じつりょく派は脇役わきやく勢ぜいを引ひきたせることに長たけた、同おなじような匂においを放はなつ映画えいが人じんがいる。近年きんねんとみに現代げんだい日本にっぽん映画えいが界かいになくてはならない存在そんざいとなった、白石しらいし和彌かずや監督かんとく（44）だ。6月28日にちには香取かとり慎吾しんごと初はつタッグを組くんだ新作しんさく『凪なぎ待まち』が公開こうかいされる。

震災しんさい後ごの宮城みやぎ県けん石巻いしのまき市しを舞台ぶたいに、香取かとり演えんじる木き野本のもと郁男いくおの破滅はめつと再生さいせいを力強ちからづよく描えがき出だす本ほん作さくにおいても、西田にしだ尚美なおみ、吉澤よしざわ健けん、リリー・フランキーはいうに及およばず、名めいバイプレイヤーとして知しられる音おと尾お琢みがく真しん、宮崎みやざき吐夢、黒田くろだ大輔だいすけ、寺てら十じゅう吾われらの実在じつざい感かんには目めを見張みはるものがある。まさに“白石しらいし監督かんとく版ばんピラニア軍団ぐんだん”といったところか。

大泉おおいずみ洋ひろしらが属ぞくするTEAM NACSの中なかでも異彩いさいを放はなつ個性こせい派は・音おと尾お琢みがく真しん（43）は、映画えいが『日本にっぽんで一番いちばん悪わるい奴やつら』（2016）以降いこうの白石しらいし組ぐみ常連じょうれん俳優はいゆうとして、類るいまれなるセンスを発揮はっき。白石しらいし監督かんとくは「彼かれは高校こうこうの一ひとつ下かの後輩こうはいなので、僕ぼくに従順じゅうじゅんであらゆることをやってくれる。俳優はいゆうとしては最高さいこうのコマ」と冗談じょうだんめかすも「いい役やくを演えんじられる年齢ねんれいになってきたし、TEAM NACSで鍛きたえられた表現ひょうげん力りょくも併あわせ持もっている。いいバイプレイヤー」と信頼しんらいを寄よせている。

香取かとり演えんじる郁男いくおを貶おとしめる同僚どうりょうを演えんじた黒田くろだ大輔だいすけ（41）の役者やくしゃバカぶりも衝撃しょうげき的てき。香取かとりから追おいかけられて嘔吐おうとするシーン、実じつは“本物ほんもの”だ。「普通ふつうは作つくり物ものを口くちに含ふくんで吐はくけれど、黒田くろださんは自由じゆうに嘔吐おうとできる人ひとだった。『見みたいですか？』と言いわれたので、本番ほんばんでやってもらいました。冷ひやし中華ちゅうか5杯はいとナルトを食たべて、順番じゅんばんとしては最後さいごに食たべたナルトが最初さいしょに出でてくるはずなので、画が的てきに面白おもしろいと思おもったけれど結局けっきょくナルトは出でて来こず。それで俺おれの機嫌きげんがちょっとだけ悪わるくなるという（笑）」。脚本きゃくほん上じょうでは、追おいかけられた黒田くろだが香取かとりに殴なぐられるというシンプルな場面ばめんだった。

現場げんば判断はんだんで嘔吐おうとをプラスするという白石しらいし監督かんとくの発想はっそうもなかなかエッジが効きいているし、作品さくひんに貢献こうけんしようとゲロを吐はきまくった黒田くろだの役者やくしゃ魂たましいも胸むねアツ。「世界せかいの映画えいが史し的てきにも、ゲロが出でてくる映画えいがには傑作けっさくが多おおいというセオリーがある」と採択さいたく理由りゆうを説明せつめいする白石しろいし監督かんとくだが、その前まえのシーンで黒田くろだがラーメン屋やから出でてくる姿すがたを捉とらえて嘔吐おうとの伏線ふくせんを貼はるなど、本筋ほんすじに影響えいきょうしない細部さいぶにまでこだわる演出えんしゅつ力りょくは流石さすが。単たんに奇きをてらうのではなく、現実げんじつのこととして事象じしょうを描えがくことで説得せっとく力りょくが生うまれる。