「最高さいこうのヒーローショー」を目指めざして

中村なかむら獅童しどうと人気にんきバーチャル・シンガー初音はつねミクが共演きょうえんする歌舞伎かぶき公演こうえん「超ちょう歌舞伎かぶき」は、伝統でんとう芸能げいのうと最新さいしんテクノロジーが融合ゆうごうする“歌舞伎かぶきの超ちょう最新さいしん形がた”。目めにも鮮あざやかなプロジェクションマッピングや、ライブのようなロックで派手はでなステージング、そこに歌舞伎かぶきが育はぐくんできた芸げいの力ちから、物語ものがたり性せい、個性こせい的てきなキャラクターの面白おもしろさがミックスされた斬新ざんしんなステージだ。新あらたなファン層そうを開拓かいたくしながら、毎まい春はる、動画どうが配信はいしんサービス・ニコニコ動画どうがの参加さんか型がたメガ祭典さいてん「ニコニコ超ちょう会議かいぎ」で開催かいさいされている同どう企画きかくが、今月こんげつ、ついに歌舞伎座かぶきざに進出しんしゅつした。毎年まいとし初日しょにちは会場かいじょうで、楽日らくびは配信はいしんで楽たのしんでいる筆者ひっしゃも、今年ことしの4月がつ30日にち、大だい千せん穐楽のカーテンコールで獅童しどうから「2023年ねん12月、東京とうきょう、歌舞伎座かぶきざ公演こうえん決定けっていしましたー！」という言葉ことばを聞きいたときは、画面がめんの前まえで「をを……！」と思おもわず驚おどろきの声こえが漏もれた。「超ちょう歌舞伎かぶき」の挑戦ちょうせんと躍進やくしんと感動かんどうの「これまで」を振ふり返かえっていきたい。

歌舞伎座かぶきざ新しん開場かいじょう十じゅう周年しゅうねん「十二月じゅうにがつ大だい歌舞伎かぶき」第だい一部いちぶ「超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』」特別とくべつポスター

すべてのスタートは2016年ねん4月がつ「ニコニコ超ちょう会議かいぎ 2016」だった。総合そうごうプロデューサーを務つとめる株式会社かぶしきがいしゃドワンゴ 取締役とりしまりやくCCOの横澤よこざわ大輔だいすけは、“前夜ぜんや”をこう振ふり返かえる。「スーパー歌舞伎かぶきII『ワンピース』を観劇かんげきしたのが僕ぼくにとって初はじめての歌舞伎かぶきで、古典こてんはまだ観みたことがありませんでした。でも老若男女ろうにゃくなんにょがスタンディングオベーションをする姿すがたを観みて、『僕ぼくもこんな歌舞伎かぶきをつくりたい』と思おもい、松竹まつたけさんにご提案ていあんしたのが始はじまりです。僕ぼくがいつもこの『超ちょう歌舞伎かぶき』をつくる上じょうで大切たいせつにしているのは、『最高さいこうのヒーローショーをつくりたい』という思おもい。いつの時代じだいも人ひとはヒーローを求もとめています。江戸えど時代じだいから続つづくこの“傾かたむく”精神せいしんを現代げんだいの混沌こんとんとした世よの中なかに“魅みせて”いきたいんです」（横澤よこざわ）。

正直しょうじきに告白こくはくすると、1年ねん目めの「超ちょう歌舞伎かぶき」を観みる前まえは内容ないようが未知数みちすうすぎて、「どゆこと？」というふわふわした気持きもちで、コスプレ姿すがたの方々かたがたとすれ違ちがいながら幕張まくはりメッセに向むかった。初演しょえんからの参加さんかスタッフである演出えんしゅつの藤間とうま勘かん十じゅう郎ろうと脚本きゃくほんの松岡まつおか亮あきらにスタート時じの思おもいを聞きくと「どう歌舞伎かぶきにするか！ それが一番いちばんでした」（勘かん十じゅう郎ろう）、「あまりにも傾かたむいた企画きかくすぎて、言葉ことばもありませんでした。『歌舞伎かぶきをまだ観みたことがないお客様きゃくさまに、歌舞伎かぶきの面白おもしろさ、素晴すばらしさを体感たいかんしていただける作品さくひんとはどんな作品さくひんなのか？』と自問自答じもんじとうしながら準備じゅんび稿こうを書かき進すすめたことは、今いまとなっては良よき思おもい出でです。加くわえて準備じゅんび稿こうができた段階だんかいで、すでにデジタル演出えんしゅつのためのCGや映像えいぞう制作せいさくはデッドラインを迎むかえていたという痺しびれるスケジュールにも驚おどろかされました」（松岡まつおか）と初はつ体験たいけんだらけの現場げんばをチャレンジ精神せいしんで乗のり越こえた様子ようすが伝つたわってくる。こうしたクリエイターたちの「初心者しょしんしゃに歌舞伎かぶきの魅力みりょくを」という強つよい思おもいが、あの日ひ集あつまった歌舞伎かぶき初はつ体験たいけんの観客かんきゃくに真まっ直すぐ刺ささった様子ようすは、「？」マークからだんだんと盛もり上あがっていく客席きゃくせきの素直すなおな反応はんのうから一目瞭然いちもくりょうぜんだった。歌舞伎かぶきならではの演技えんぎや化粧けしょうや衣裳いしょうや音おとがデジタルと融合ゆうごうし、さらなる個性こせいとパワーの渦うずが生しょうじたのだ。そうして「超ちょう歌舞伎かぶき」は、「ニコニコ超ちょう会議かいぎ」の目玉めだま企画きかくとしてファン層そうを開拓かいたくしていく。

超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」。©松竹しょうちく／超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』

作つくり手しゅとファンの思おもいが重かさなり、夢ゆめが現実げんじつに

「超ちょう歌舞伎かぶき」の歴史れきしで忘わすれられない瞬間しゅんかんは数かぞえきれないが、3年ねん目め、がんの闘病とうびょうを経へてステージに復帰ふっきしてきた獅童しどうが客席きゃくせきに向むかって叫さけんだ「帰かえってきたぞー！」は、とりわけ印象深いんしょうぶかい。前年ぜんねんの「超ちょう歌舞伎かぶき」後ごにがんを公表こうひょうした獅童しどうは、歌舞伎かぶきファンとミクファンが書かいた見舞みまいのメッセージカードを病室びょうしつに飾かざって心しんの支ささえにしたという。この年としの「超ちょう歌舞伎かぶき」のキャッチコピーは「これは、愛あいに似にた恩返おんがえし」だった。

幕張まくはりメッセから飛とび出だした劇場げきじょう公演こうえんもアツかった。2019年ねんの京都きょうと南座みなみざ公演こうえんでは、アニメグッズをリュックにいっぱい付つけた海外かいがいからの観光かんこう客きゃく、ミクTてぃーシャツを着込きこんだお兄にいさん、小ちいさなお子こさん、古典こてん芸能げいのうに親したしんできた着物きもの姿すがたの女性じょせい客きゃくが一体いったいとなって盛もり上あがり、なんとも微笑ほほえましい風景ふうけいを見みかけた。2022年ねんには福岡ふくおか・博多はかた座ざ、名古屋なごや・御園座みそのざ、東京とうきょう・新橋しんばし演舞えんぶ場じょう、京都きょうと・南座みなみざで上演じょうえんと、全国ぜんこくに広ひろがり続つづけている。松岡まつおかも「ニコニコ超ちょう会議かいぎから南座みなみざ公演こうえんへ、そして四よん都市とし公演こうえん、さらに今回こんかいの歌舞伎座かぶきざ公演こうえんの実現じつげんは、超ちょう歌舞伎かぶきファンの皆みなさんのお蔭かげといっても過言かごんでありません。お客様きゃくさまに育そだてられ、支ささえられている、それが“超ちょう歌舞伎かぶき”ですし、素晴すばらしいスタッフに恵めぐまれているのも、超ちょう歌舞伎かぶきの特色とくしょくで、より良よい作品さくひんとするべく、それぞれの得意とくい分野ぶんやで日夜にちや汗あせを流ながしています。そんなスタッフの皆みなさんの熱量ねつりょう、獅童しどうさん、ミクさんを始はじめとした出演しゅつえん者しゃの皆みなさんの熱量ねつりょう、お客様きゃくさまの熱量ねつりょうが共鳴きょうめいしあって、あの熱狂ねっきょう性せいが生うまれるのだと思おもいます」と分析ぶんせきする。南座みなみざ公演こうえんには、配信はいしんで「超ちょう歌舞伎かぶき」ファンとなり、台湾たいわんからわざわざ足あしを運はこんだ観客かんきゃくもいたと聞きく。その人ひとは現在げんざい、日本語にほんごを勉強べんきょうして日本にっぽんで就職しゅうしょくし、台湾たいわんでの「超ちょう歌舞伎かぶき」公演こうえんを夢見ゆめみているとか。ファンの間あいだでは、いつか海外かいがいへ……の期待きたいも高たかまっている。

超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」。©松竹しょうちく／超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』

進化しんかし続つづける「超ちょう歌舞伎かぶき」、高たかまるファンの期待きたい

この間あいだ積つみ重かさねられてきたNTTのデジタル技術でじたるぎじゅつの進化しんかもめざましく、また、芝居しばい・舞踊ぶようのみならず、長唄ながうたまで披露ひろうするなど、初はつ音おとミクの進化しんかも止とまらない。勘かん十じゅう郎ろうは「獅童しどうさんとミクさんには、同おなじ空間くうかんで芝居しばいをしていただきたかったので、3年ねん目めに二人ふたりが同おなじスクリーンに入はいったときは涙なみだが出でました。演劇えんげきは毎日まいにちがナマ物ものですから、日にちによって芝居しばいが変かわります。ミクさんにも毎日まいにち自由じゆうにお芝居しばいをしてほしい！」と語かたる。

個人こじん的てきに思おもい出深でぶかいのは2020年ねん、双方向そうほうこうオンライン公演こうえんでの「夏なつ祭さい版ばん 今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」だ。コロナ禍かを受うけ、この年としは無む観客かんきゃくの東京建物とうきょうたてもの Brillia HALLから全編ぜんぺん無料むりょう配信はいしんされた。実じつはあの日ひ、筆者ひっしゃはレポート取材しゅざいのためにガランとした客席きゃくせきに座すわり、その舞台ぶたいを生なまで見みていた。観客かんきゃくのいない寂さびしさ、ライブでできないもどかしさを出演しゅつえん者しゃ＆スタッフたちはエネルギーに変かえ、「カメラの向むこう」の観客かんきゃくを想像そうぞうしながら遠とおくへ届とどけようとしていた。あの現場げんばの熱気ねっき、集中しゅうちゅう力りょく高たかい空気くうき感かん。空からっぽの客席きゃくせきにだんだんとペンライトが灯ともっていくような不思議ふしぎな感覚かんかく。いち早はやくデジタルのノウハウを積つみ上あげてきた強つよみも生いきた。配信はいしん画面がめんはコメントで埋うめつくされ、約やく23万まん5000人にんが視聴しちょうした。

超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」。©松竹しょうちく／超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』

“デジタルケレン”も！新あらたな美びを追求ついきゅうし続つづける「超ちょう歌舞伎かぶき」

さあそしてついに、歌舞伎座かぶきざの幕まくが上あがった。「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」はここぞという時ときに上演じょうえんされてきた代表だいひょう作さくだが、脚本きゃくほんの松岡まつおかも「これまでも幕張まくはりメッセと劇場げきじょう公演こうえんでは舞台ぶたい機構きこうや演出えんしゅつの違ちがいなどもあり、脚本きゃくほんを見直みなおし、修正しゅうせいしてきました。そしてやはり歌舞伎座かぶきざは、特別とくべつな風格ふうかくを持もつ劇場げきじょうです。そのために歌舞伎座かぶきざで上演じょうえんするにふさわしいものとなるよう、演出えんしゅつの勘かん十じゅう郎ろう師しとも相談そうだんの上うえ、脚本きゃくほんを改訂かいていしました。豪華ごうかな顔かおぶれの揃そろった、歌舞伎座かぶきざならではの超ちょう歌舞伎かぶきに対たいして、お客様きゃくさまがどう反応はんのうしてくださるのか、大変たいへん緊張きんちょうしています」（松岡まつおか）と気合きあいをみなぎらせる。

「デジタルケレン」という気きになるワードも飛とび出だした。「歌舞伎かぶきの本丸ほんまるでの公演こうえんでプレッシャーはありますが、初はじめてご覧らんになる方ほうも多おおいと思おもいますので、初心しょしんに帰かえる気持きもちで制作せいさくにあたっていますし、今いままで以上いじょうに製作せいさく陣じんの気合きあいが入はいっています。今回こんかいは獅童しどうさんとミクさんが舞台ぶたいで輝かがやいてもらうために『デジタルケレン』を意識いしきしてつくっています。伝統でんとう芸能げいのうとデジタルの融合ゆうごうの新あたらしい『美よし』を感かんじていただければと思おもいます。最新さいしんにして、最古さいこ。最古さいこにして、最新さいしん。こんなもの観みたことない！という舞台ぶたいになっていますので、劇場げきじょうで体感たいかんしていただけたら嬉うれしいです」（横澤よこざわ）

超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」。©松竹しょうちく／超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』

最後さいごに、獅童しどうとミクによる宙乗ちゅうのりについて演出えんしゅつ家かに聞きくと「歌舞伎かぶきにおける演出えんしゅつの場合ばあい、私わたしの演出えんしゅつの師しである奈河ながわ彰あきら輔先生せんせいから教おしえていただいたのは、宙乗ちゅうのりをするにも、ダンマリをするのも、その理由りゆうが大切たいせつであり、ただやれば歌舞伎かぶきになる訳わけではない！ということです。しかし今回こんかいは飛とぶ理由りゆうがないんです（笑）。天国てんごくの師しからお叱しかりを受うけるかもしれませんが、私わたしはあえてエンターテイメント性せいのある宙乗ちゅうのりという演出えんしゅつをとり、そこにさまざまなコラボレーションを考かんがえています。これが超ちょう歌舞伎かぶきファンの方ほう、歌舞伎かぶきファンの方ほう……客席きゃくせきもコラボレーションしてくだされば、宙乗ちゅうのりをする理由りゆうに繋つながると考かんがえています」（勘かん十じゅう郎ろう）と「参加さんか型がた」である『超ちょう歌舞伎かぶき』ならではのプランを匂におわせる。

日頃ひごろから「伝統でんとうを守まもり、革新かくしんを追求ついきゅうするのが僕ぼくの生いき方かた」と明言めいげんする獅童しどうが座頭ざがしらの「超ちょう歌舞伎かぶき」は、お弟子でしさんたちにも活躍かつやくの場ばを与あたえ、女流じょりゅう舞踊ぶよう家かも出演しゅつえん、盟友めいゆうである勘九郎かんくろうや七之助しちのすけらも加くわわり、フロンティア精神せいしんが横溢おういつする舞台ぶたいでもある。歌舞伎座かぶきざに“ノーボーダー”な空間くうかんが出現しゅつげんする瞬間しゅんかんを想像そうぞうすると、ワクワクしかない！ そして今回こんかい、すでに「超ちょう歌舞伎かぶき」ファンにはお馴染なじみの獅童しどうの長男ちょうなん・小川おがわ陽よう喜きくんも出演しゅつえんし、次男じなん・夏なつ幹みきくんが初はつお目見得めみえする。この夏なつ幹みきくん、お兄にいちゃんの陽ひ喜きくんと一緒いっしょに布袋ほてい寅泰ともやすの「スリル」のリズムに合あわせ、「ベビベビベイビー……」と順番じゅんばんに服ふくを脱ぬぎながら“立たて廻まわりごっこ”をするロックな男おとこの子ことか。未来みらいを見みせてくれる新あたらしいヒーロー誕生たんじょうが、とってもうれしい。

超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT「今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら」。©松竹しょうちく／超ちょう歌舞伎かぶき Powered by NTT『今昔こんじゃく饗宴きょうえん千本せんぼん桜さくら』

齋藤さいとう雅文まさふみが語かたる黙阿弥もくあみ・後編こうへん

前編ぜんぺん、中編ちゅうへんに引ひき続つづき、今年ことし、黙阿弥もくあみの作品さくひんを守まもり抜ぬいた娘むすめ、糸いと女おんなの情熱じょうねつを描えがいた新派しんぱの子こ「新編しんぺん 糸いと桜さくら」（参照さんしょう：波なみ乃久里子さとご「糸桜いとざくら」決定けってい版ばんが上演じょうえんへ、齋藤さいとう雅文まさふみ「今いま、見みるべきです、走はしり続つづける波なみ乃久里子さとごを！」）の脚本きゃくほん・演出えんしゅつを手掛てがけた新派しんぱ文芸ぶんげい部ぶの齋藤さいとう雅文まさふみにインタビューする。最終さいしゅう回かいとなる今回こんかいは、改あらためて黙阿弥もくあみの魅力みりょくを聞きく。なお「新編しんぺん 糸いと桜さくら」は12月31日にちまで配信はいしん中ちゅう、視聴しちょう申込もうしこみ受付うけつけ期間きかんは12月24日にちまで（参照さんしょう：「糸桜いとざくら」配信はいしんスタート、波なみ乃久里子さとご「素敵すてきなお誕生たんじょう日びプレゼントを頂戴ちょうだいしました！」）。また齋藤さいとうは1月がつ歌舞伎座かぶきざでは、高麗屋こうらいや三さん代だいがそろう小山内おさない薫かおる作さく「息子むすこ」の演出えんしゅつを担当たんとうする。

演劇えんげきユニット新派しんぱの子こ 錦にしき秋あき公演こうえん 河竹かわたけ黙阿弥もくあみ没ぼつ後ご百ひゃく三さん十じゅう年ねん「新編しんぺん 糸いと桜さくら」より。

──お話はなしを伺うかがってきて、黙阿弥もくあみと新派しんぱの、近ちかいようで遠とおい、遠とおいようで近ちかい関係かんけい性せいが見みえました。

私わたしが劇団げきだんに書かいた「明治めいじ花はなの写真しゃしん館かん」（1996年ねん、新橋しんばし演舞えんぶ場じょう）では、新富しんとみ座ざの舞台ぶたいで実際じっさいに上演じょうえんされた黙阿弥もくあみのざんぎり物ぶつ（明治維新めいじいしん以降いこうの風俗ふうぞくを世話物せわものとして取とり入いれた演目えんもく）を劇げき中ちゅう劇げきで出だしたこともあるんです。扱あつかったのは、黙阿弥もくあみ作さくの「勧善懲悪かんぜんちょうあく孝子たかこ誉ほまれ」三さん幕まく目め「北きた庭にわ筑波つくば写真しゃしん館かんの場ば」。この作品さくひんでは明治めいじ期きの写真しゃしん師し・北きた庭にわ筑波つくばを五ご代目だいめ尾上おがみ菊五郎きくごろうが演えんじたわけですが、新派しんぱの女方おざかた・二に代目だいめの英太郎えいたろうがその菊五郎きくごろうを、さっそうとした立役たちやくで演えんじてくれたのも懐なつかしい思おもい出でです。当時とうじの流行りゅうこうの最先端さいせんたんである写真しゃしんを、素早すばやく作品さくひんに取とり込こんで実名じつめいで舞台ぶたい化かした黙阿弥もくあみの姿勢しせいは、歌舞伎かぶきのジャーナリズムとしての側面そくめんをよく表あらわしていると思おもいますね。そして、明治めいじの歌舞伎かぶきと新派しんぱと社会しゃかい風俗ふうぞくが、とても近ちかいところで混こん然しかとなって躍動やくどうしていたことが感かんじられます。

──最後さいごに改あらためて……時代じだいを超こえて黙阿弥もくあみ作品さくひんが愛あいされる最大さいだいの理由りゆうはどこだと思おもいますか？

惜おしげもなく次つぎから次つぎにカードを切きってくるというか、マジックのように手てを変かえ品ひんを変かえ、観客かんきゃくに喜よろこんでもらうための技わざが惜おしげもなく出でてくるんです。そして人間にんげん描写びょうしゃの深ふかさ。この両方りょうほうを手てに入いれたからこその、あの完成かんせい度どなのでしょう。また、黙阿弥もくあみは自分じぶんで描えがいた番付ばんづけの下絵したえなんかも残のこっていて、扮装ふんそうから美術びじゅつの雰囲気ふんいきまで、脳のう内ないに詳細しょうさいな絵えコンテができていたんでしょうね。血ちわき肉にく踊おどるようなワクワク感かんじ、目めに鮮あざやかな舞台ぶたい、そこに味あじも十分じゅうぶん染しみ込こんで充実じゅうじつしている。つまり、エンタテインメントとして大変たいへん優すぐれているからこそ、時代じだいを超こえて愛あいされ続つづけるのだと思おもいます。

齋藤さいとう雅文まさふみ