イラクの古代都市ウルに遺されているジッグラトというピラミッドのような遺跡。4000年前に建てられたこの遺跡はすっかり放置され、崩壊しようとしていることが、イラク南部の遺跡を対象にした最近の調査で分かった。ウルはバグダッドから320キロほど南にある都市で、この写真は2008年6月に撮影されたものだ。ウルの街やジッグラトは湾岸戦争(1990~1991年)で爆撃の被害を受けた。その爆撃でジッグラトの保護層にひびが入り、古代のレンガに水が染み込んで侵食しているのではないかと懸念されている。
Photograph courtesy Crown Copyright
戦火にさらされたイラクでは
古代遺物の
略奪が
横行していたが、
最近ではその
心配もなくなっているという
調査結果が
得られた。
国際的な
学者チームがイラク
南部の
主要な
遺跡発掘現場8
カ所を6
月に
視察したところ、
最近になって
略奪があった
形跡は
見当たらなかったという。
古代遺物の
専門家らはこの
結果に
驚きの
声を
上げている。2003
年にアメリカ
軍が
侵攻して
以降、イラクの
遺跡は
破壊され
続けていると
考えられていたからだ。
調査チームのメンバーで、ニューヨーク
州立大学ストーニーブルック
校のメソポタミア
専門家であるエリザベス・ストーン
氏は、「
視察した8
カ所で
新たな
略奪の
跡は
確認されなかった。とても
勇気づけられる
結果が
得られた」と
喜んでいる。
ただし、
同調査チームは、イラク
国内のほかの
場所ではかなり
状況が
違う
可能性もあると
警告もしている。また、
古代メソポタミア
文明の
複数の
遺跡では、
放置や
軍事行動による
甚大な
被害も
見られたという。とはいえ、
現在のバグダッドからおよそ240キロ
南にあるラルサという
略奪の
被害がひどかった
遺跡ですら、「2003
年後半から2004
年ごろの
状況とは
一変していた」とストーン
氏は
報告している。なお、イラク
南部の
別の
遺跡では
略奪の
跡が
認められたが、
少なくとも4
年以上前に
行われたものと
考えられるという。
紀元前2100~2000
年にシュメール
文明の
主要都市として
栄えたウルなどの
遺跡では、
別の
種類の
被害が
確認された。ウルはジッグラトという
階段状の
聖塔や
王家の
墓があることで
有名な
遺跡だが、
湾岸戦争(1990~1991
年)で
近隣のタリル
空軍基地が
爆撃を
受けた
際に
被弾している。ウルのジッグラトについては、
前出のストーン
氏も「
最後に
視察した1992
年当時に
比べて“かなり
荒廃”していた」と
話す。
「
爆撃によって、ジッグラトを
守るコンクリート
製の
保護層にひびが
入り、
古代のレンガに
水が
染み
込んで
侵食しているのではないか」と
同氏は
懸念している。
同調査チームは、
複数の
王家の
墓で
壁の
崩落が
始まっていることも
確認したという。
今回の
調査報告では、2003
年の
軍事侵攻よりも
前に
掘られていたイラク
軍の
防御陣地や、その
後の
連合国軍による
統制のとれていない
行為が
遺跡に
悪影響を
及ぼしている
可能性も
指摘されている。「
数万人の
軍靴で
遺跡が
踏み
付けられたのは、われわれが
望まないことだった」。
調査チームメンバーで
大英博物館の
後期メソポタミアコレクションの
学芸員であるポール・コリンズ
氏は、「
全体的に
見て、
最も
深刻な
脅威は“
放置”だ」と
語る。「
目下の
問題としては、
略奪や
軍による
被害はさほどではなく、これらの
遺跡が30
年もの
間、
顧みられずにいたことだ。イラク
考古局は、
人員の
不足から、
遺跡の
調査や、
保全、
修復の
作業ができる
状態になかった」。
同氏の
話では、
多数の
古代遺跡が「
何の
対策も
取られず
朽ち
果てようとしている」という。
また
同氏は、「
研究対象になっている
遺跡で
略奪がなくなったように
見えるのは、2003
年にイラクがイタリアの
支援を
受けて
施設警備サービス(FPS)を
設置して
以来、セキュリティが
強化された
影響もあるかもしれない。
視察した
遺跡のいくつかでは
完全武装したFPSの
警備員を
見かけた」とも
語っている。
もっとも、「
国内に
何万とある
遺跡のうち、たった8
カ所を
調査したところで
全体の
状況は
分からない」と
同氏は
強調する。「
本当に
現状を
把握する」には、イラク
全域にわたって
同様の
調査を
進める
必要があるという。シカゴ
大学文化政策センターの
所長であるローレンス・ロスフィールド
氏は、「2003
年以降にも
複数の
遺跡でひどい
略奪が
行われた
証拠はたくさんある」と
指摘する。それでも、
今回の
調査報告からは、「
軍隊に
略奪を
許さない
姿勢があれば
予防も
可能だということがわかる」という。「イラクが
支援を
取り
付けられれば
今後も
略奪を
取り
締まっていけるかもしれない」。
Photograph courtesy Crown Copyright
文=James Owen in London