曖昧あいまいになる社会しゃかい保険ほけんと再さい分配ぶんぱい政策せいさくの境界きょうかい

社会しゃかい保障ほしょう制度せいどは、仕組しくみが複雑ふくざつで分わかりにくいといわれる。しかも、その持続じぞく性せいが疑うたがわれているという見解けんかいや報道ほうどうが多おおいため、人々ひとびとは先行さきゆきに不安ふあんを覚おぼえることになる。負担ふたんはますます増ふえ、給付きゅうふは削減さくげんされていく。そんな捉とらえ方かたをしている人ひとは少すくなくないだろう。

厚生こうせい労働省ろうどうしょう「所得しょとく再さい分配ぶんぱい調査ちょうさ」によると、再さい分配ぶんぱい政策せいさくによる所得しょとく格差かくさ（ジニ係数けいすう）の改善かいぜん度どは、税ぜいで4.8％、社会しゃかい保障ほしょうで30.1％である（2017年ねん）。所得しょとく再さい分配ぶんぱいは政府せいふだけが行おこなえる政府せいふの最もっとも重要じゅうような役割やくわりの一ひとつで様々さまざまな手段しゅだんが考かんがえられるが、その大だい部分ぶぶんは社会しゃかい保障ほしょう制度せいどを通つうじて行おこなわれている。

だが、本来ほんらい、再さい分配ぶんぱい政策せいさくは累進税るいしんぜい率りつや所得しょとく控除こうじょ・税額ぜいがく控除こうじょなどを備そなえた税制ぜいせいや、税ぜいを財源ざいげんとした給付きゅうふ制度せいどが担になうべきである。他方たほう、長生ながいきリスクや疾病しっぺいリスク、要よう介護かいごとなるリスクは所得しょとくとはあまり関係かんけいがないのだから、社会しゃかい保険ほけんといえども年金ねんきん保険ほけんや医療いりょう・介護かいご保険ほけんには保険ほけん数理すうり上じょうの公正こうせいさが求もとめられる。

現実げんじつの制度せいどを見渡みわたすと、賃金ちんぎんに対たいして一律いちりつの保険ほけん料りょう率りつが課かされている年金ねんきんは、基礎きそ年金ねんきんの給付きゅうふが定額ていがくであるため、報酬ほうしゅう比例ひれい年金ねんきんとの合計ごうけいで見みても再さい分配ぶんぱいの機能きのうが内在ないざいされている。また、2019年ねん秋あきにスタートした年金ねんきん生活せいかつ者しゃ支援しえん給付きゅうふ金きんは低てい年金ねんきん者しゃに対たいして支給しきゅうされているが、財源ざいげんは消費しょうひ税ぜいである。金額きんがくは保険ほけん料りょうの納付のうふ期間きかんに応おうじたものであるものの、保険ほけん給付きゅうふである年金ねんきんの一部いちぶではない福祉ふくし的てきな給付きゅうふである。

介護かいご保険ほけんの保険ほけん料りょう負担ふたんには、所得しょとくに応おうじたきめ細こまかい段階だんかい区分くぶんがある。つまり、保険ほけん料りょうそのものが所得しょとくに応おうじた負担ふたんとなっている。さらに、低てい所得しょとく者しゃについてはその仕組しくみに上乗うわのせして消費しょうひ税ぜい財源ざいげんで保険ほけん料りょうを軽減けいげんする仕組しくみが導入どうにゅうされている。そもそも、介護かいご保険ほけんは給付きゅうふ費ひの半分はんぶんが公費こうひ（税ぜい財源ざいげん）である。保険ほけん料りょうを負担ふたんしなければ給付きゅうふを受うけられないとはいえ、再さい分配ぶんぱいの要素ようそが強つよい仕組しくみといえる。

この点てんは、高齢こうれい者しゃ向むけの医療いりょうでなおさらである。後期こうき高齢こうれい者しゃ医療いりょう制度せいどにおける後期こうき高齢こうれい者しゃが負担ふたんする保険ほけん料りょうは給付きゅうふ費ひ全体ぜんたいの1割わり程度ていどにすぎず、給付きゅうふ費ひの半分はんぶんは公費こうひである。足下あしもとで負担ふたん能力のうりょくのある高齢こうれい者しゃの保険ほけん料りょうを引ひき上あげることが検討けんとうされているが、それは高齢こうれい者しゃの中なかでの再さい分配ぶんぱいを保険ほけんの世界せかいで強化きょうかすることを意味いみする。

後期こうき高齢こうれい者しゃ向むけ医療いりょう給付きゅうふ費ひの残のこり約やく4割わりは、現役げんえき層そうが健康けんこう保険ほけん料りょうとして負担ふたんしている。当初とうしょ、この負担ふたんは現役げんえきの人数にんずうで頭割あたまわりしていた（所得しょとくに関係かんけいなく同額どうがくだった）が、2017年度ねんど以降いこうは報酬ほうしゅう割わりに完全かんぜん移行いこうしている。負担ふたん能力のうりょくのある現役げんえき層そうに一定いっていの負担ふたんを求もとめるという方針ほうしんを理解りかいするとしても、見みえにくい一部いちぶの現役げんえき層そうの保険ほけん料りょう引ひき上あげではなく、賃金ちんぎんに対たいする課税かぜいで調達ちょうたつする方ほうがまだ透明とうめい性せいがあるのではないか。

現在げんざい、前期ぜんき高齢こうれい者しゃの医療いりょう費ひに関かんする財政ざいせい調整ちょうせいにも、報酬ほうしゅうに応おうじた調整ちょうせいの仕組しくみを導入どうにゅうすることが検討けんとうされている。ただ、報酬ほうしゅうが高たかいのは、企業きぎょうや個人こじんがリスクをとった投資とうしの結果けっかである。報酬ほうしゅうを高たかめると社会しゃかい保障ほしょうの負担ふたんをますます求もとめられるということが行いき過すぎれば、賃金ちんぎんを上あげるための工夫くふうや努力どりょくを削そぐことにならないか注意ちゅういする必要ひつようがある。

2012年ねんに成案せいあんを得えた「社会しゃかい保障ほしょうと税ぜいの一体いったい改革かいかく」以降いこう、リスクをシェアする社会しゃかい保険ほけん（共助きょうじょ）と、負担ふたんとは紐ひもづかない再さい分配ぶんぱい（公おおやけ助すけ）との境界きょうかいがどんどん曖昧あいまいになり、制度せいどは複雑ふくざつさを増ましている。また“負担ふたん能力のうりょくに応おうじて支ささえ合あう”という考かんがえ方かたを、医療いりょうの患者かんじゃ窓口まどぐち負担ふたんや介護かいごの利用りよう者しゃ負担ふたんについて適用てきようすることと、強制きょうせい的てきに賦課ふかされる保険ほけん料りょうに適用てきようすることの意味合いみあいは全まったく異ことなる。保険ほけん料りょうと税ぜい、さらには自己じこ負担ふたん（自助じじょ）の役割やくわりを整理せいりし、制度せいどの持続じぞく性せいと経済けいざい活動かつどうへの中立ちゅうりつ性せいを追求ついきゅうした視点してんが、今後こんごの社会しゃかい保障ほしょう改革かいかくでは改あらためて必要ひつようではないか。

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