第だい33回かい：ホンダ・アコード（前編ぜんぺん）　―果断かだんか暴挙ぼうきょか!?　このご時世じせいに“普通ふつうのセダン”を世よに問とう― 【カーデザイン曼荼羅まんだら】

セダン不遇ふぐうの日本にっぽんに、超然ちょうぜんと登場とうじょうした新型しんがた「ホンダ・アコード」。しかもそのデザインは、ゴージャスでもなけりゃスポーティーでもない、まさかの“なんの変哲へんてつもない普通ふつうのセダン”だった！ ホンダの奇策きさくか？　自暴自棄じぼうじきか？　元もとカーデザイナーの識者しきしゃと考かんがえる。

マジで何なにもしていない

webCGほった（以下いか、ほった）：今回こんかいは、こないだ発売はつばいになりましたホンダ・アコードを中心ちゅうしんに、“国産こくさんセダン”なんていう今いまやディープでマニアックな世界せかいのお話はなしをしていければと思おもいます。まずは提案ていあん者しゃの清水しみずさん、なんでこんなテーマを思おもいついたんです？

清水しみず草くさ一いち（以下いか、清水しみず）：いや、アコード、本ほん当とう好すきなんですよ（参照さんしょう）。デザインをはじめとして何なにもかもが。“俺おれ＝アコード”って感かんじるくらい（全員ぜんいん笑わらい）。

ほった：どうしたんですか一体いったい!?

清水しみず：伸のびやかで雄大ゆうだいでありながら、本当ほんとうに飾かざり気けのない、ケレン味あじのないこのデザイン……。今いま、世界中せかいじゅう探さがしても、これほどシンプルなセダンはないんじゃないか？　これをあえて出だしてくるホンダってすごいと思おもうんですよ。

渕ふち野の健太郎けんたろう（以下いか、渕ふち野の）：なるほど。

清水しみず：これは逆ぎゃく張はりだと思おもうんですよね。セダンって世界中せかいじゅうで市場いちばがシュリンクして、古典こてん的てきで特殊とくしゅなカテゴリーになっていて、ある意味いみスポーツカー化かしていると思おもうんです。スポーツカーはデザイン的てきに先祖返せんぞがえりしてますよね。古臭ふるくさいほうがむしろうれしいと。

ほった：それは確たしかに。

清水しみず：セダンもそうだと思おもうんですよ。でもスポーツカー同様どうよう高級こうきゅう化かもしてるので、どうしてもいろいろ飾かざってるんですよね。

ほった：セダンが比較的ひかくてき強つよい、中国ちゅうごく市場いちばの嗜好しこう（しこう）ってのもありそうですけど。

清水しみず：どのセダンを見みても、よそと差別さべつ化かをはかろうと飾かざり立たてている。ところがアコードはコレですよ（全員ぜんいん笑わらい）！ 全然ぜんぜんそういうことをしてない。そうすると逆ぎゃくに、すごく個性こせい的てきに見みえるんですよね。

渕ふち野の：確たしかに。

ほった：いや、ホンダは空気くうきが読よめてないだけでは……（汗あせ）。

11代目だいめとなる新型しんがた「ホンダ・アコード」。2022年ねん11月の世界せかい初はつ公開こうかい、2023年ねん9月がつの日本にっぽん導入どうにゅう発表はっぴょう＆先行せんこう公開こうかいを経へて、2024年ねん3月がつに、ようやく日本にっぽんでの販売はんばいが開始かいしされた。

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新型しんがた「アコード」の特徴とくちょうといえば、非常ひじょうにシンプルなこのデザイン。フロントグリルがギラギラしていることもなければ、ボディーサイドを縦横無尽じゅうおうむじんにプレスラインが走はしっていることもない。

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ちなみに、永遠えいえんのライバルである「トヨタ・カムリ」の今いまのデザインはこちら。　
清水しみず「これは……強烈きょうれつだねえ」　
ほった「日本にっぽんでは2023年ねんいっぱいでお役やく御免ごめんになってましたけど、海外かいがいではこんなことになってるんですね」

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こちらもミドルクラスFFセダンの「ヒョンデ・ソナタ」。横よこ一いち文字もじのヘッドランプが目めを引ひくフロントマスクに、ボディーサイドを走はしるパッキパキのプレスラインと、各所かくしょで「これでもか！」と個性こせいを追求ついきゅうしている。

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清水しみず「見みよ！ このマジでなんもしていない『アコード』のデザインを」　
ほった「それホメてます？」　
（写真しゃしん：花村はなむら英典ひでのり）

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アメリカが諦あきらめた“ゆるいセダン”の継承けいしょう者しゃ

清水しみず：渕ふち野のさん、アコードのデザインどうですか？　僕ぼくは日本にっぽん的てき精緻せいちさのあるアメリカンデザインだと思おもうんですけど。

渕ふち野の：私わたしの印象いんしょうはですね、清水しみずさんと同おなじような見方みかたですけど、1990年代ねんだいぐらいまでの古ふるきよきアメリカ車しゃのセダンみたいだと思おもいます。

清水しみず：「キャデラック・セビル」とかですか？

ほった：いやぁ、キャデラックじゃないですよね。ちょっと前まえの「シボレー・インパラ」とか「マリブ」とか、大衆たいしゅうブランドの、マジで“普通ふつうのセダン”のほうでしょう。

渕ふち野の：そう。インパラとか「フォード・トーラス」とか。90年代ねんだいの何なにも邪念じゃねんがないセダンデザインって、すごくおおらかな感かんじで、今いま見みると逆ぎゃくに新鮮しんせんなんですよ。でも現代げんだいは、アメリカ車しゃもみんな欧州おうしゅう的てきなプロポーションをしてる。

清水しみず：ですよね～。

渕ふち野の：アメリカ車しゃ独自どくじのゆるい感かんじっていうのが今いまのアメリカ車しゃにはなくて、逆ぎゃくにホンダにはあるわけです。

清水しみず：アコードはゆるいですか？

渕ふち野の：ゆるい、というかおおらかですね。顔かおなどのディテールはすごく精悍せいかん（せいかん）ですが、長ながさを強調きょうちょうしたプロポーションや各部かくぶの造形ぞうけい処理しょりが非常ひじょうにシンプルなので、現代げんだいのクルマによくあるような「変へんな気負きおい」がない印象いんしょうを受うけました。

ほった：横よこから見みるとスゴいですね。ああ、コレはいいわぁ。

清水しみず：いいよねぇ……（全員ぜんいん笑わらい）。

渕ふち野の：後うしろ下さがりまではいかないけど、あまりリアが高たかくなくて、前まえから後うしろまできれいな張はりのあるキャラクターラインで、それだけを見みせてるところがすごくシンプルだと思おもいます。90年代ねんだいのアメリカのセダンも、割わりとリアが下さがり気味ぎみだったじゃないですか。私わたしは「日産にっさんレパードJ.フェリー」が昔むかしから気きになってるんですけど。アコードにもそんな雰囲気ふんいきがある。アコードのアメリカでの販売はんばいってどうなんですか？

清水しみず：まだまだ元気げんきですよ。アメリカだけで去年きょねん20万まん台だい近ちかく売うれてますから。全米ぜんべい販売はんばいランキングは17位いだったそうです。昔むかしは1位いも取とったことあるので激減げきげんはしてますけど、それでも20万まん台だいはすごいですよね。

ほった：ライバルがどんどん勝手かってに自滅じめつしていってるのもありますけどね。フォードはもうセダンをやめているし、 シボレーも今いまやマリブだけになっちゃったし。

新型しんがた「アコード」のフロントマスク。フルLEDの薄型うすがたヘッドライトと六角形ろっかっけいのフロントグリルを組くみ合あわせた、シンプルなデザインだ。（写真しゃしん：花村はなむら英典ひでのり）

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リアでは横よこ一いち文字もじのリアコンビネーションランプが、ワイドなイメージを強調きょうちょう。……その意匠いしょうに「プジョー508」を思おもい出だしたのは私わたし（webCGほった）だけだろうか？（写真しゃしん：花村はなむら英典ひでのり）

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スタイリングの意匠いしょうもシンプルそのもの。前まえから後うしろまで一いち筆ぴつ書がきでつながるキャラクターラインも伸のびやかだ。また、車体しゃたい底部ていぶのブラックガーニッシュは、ボディーの上下じょうげ幅はばを短みじかく見みせることで、“長ながさ感かん”をより強調きょうちょうする役割やくわりを果はたしている。（写真しゃしん：花村はなむら英典ひでのり）

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1990年代ねんだいのアメリカでは、なんの変哲へんてつもない普通ふつうのセダンが往来おうらいを闊歩かっぽ（かっぽ）していた。写真しゃしんは上うえが「フォード・トーラス」（1992年ねん）、下したが「シボレー・インパラ」（1996年ねん）。

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日産にっさんが、1992年ねんから1996年ねんにかけて販売はんばいしていた上級じょうきゅうセダン「レパードJ.フェリー」。日本にっぽんでは温和おんわなスタイリングが不評ふひょうだったが、「インフィニティJ30」として導入どうにゅうされた米国べいこくでは、そこそこ人気にんきを博はくしていた。

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オーバーハングの長ながさをあえて隠かくさない

清水しみず：アコードはアメリカンといえばアメリカンだけど、本当ほんとうのアメリカンは、デザインがもっと全然ぜんぜんゆるかったじゃないですか。

ほった：ほんっとにベロンベロンでしたね（笑）。「ホイールベースよりもオーバーハングのほうが長ながいんじゃないか」みたいなのがいっぱいあった。

清水しみず：それに比くらべると、アコードのデザインはものすごく精緻せいちなんですよね、やっぱり質感しつかんがちがう！

渕ふち野の：それはそうですよ（笑）。

清水しみず：アメリカの精神せいしんを日本にっぽんの品質ひんしつで実現じつげんしてると思おもうんですよ。でも斜ななめ後うしろから見みると、アウディのスポーツバック系けいにも似にてる。いい意味いみで。

渕ふち野の：そこを見みますか。自分じぶんはフロントのオーバーハングを長ながく見みせてるところに注目ちゅうもくしてました。

ほった：これ、わざとやってますよね。

渕ふち野の：恐おそらくは。最近さいきんは、オーバーハングが長ながいクルマは「どう短みじかく見みせようか」っていう小細工こざいくを必かならずやるんですよ。短みじかいほうが運動うんどう性能せいのうがよく見みえる、タイヤが踏ふん張ばって見みえますから。デザイナーにはオーバーハングが短みじかいほうがいいという刷すり込こみがあるんですけど、アコードはそういう邪念じゃねんが全まったくなくて、むしろ長ながく見みせようとしてんじゃないかな。それがすごく新鮮しんせん。

清水しみず：いいんですよねぇ……。

渕ふち野の：ただ、これが市場いちばで受うけるかどうかはわかりません。

清水しみず：いやいや。日本にっぽんでもちょっと人気にんきが出でそうな気配けはいがありますよ。5月は416台だい売うれて、販売はんばいランキング49位いに入はいったんです！ 50位い以内いないに！

ほった：入はいっただけですごい。

清水しみず：ディーラー展示てんじ車しゃばっかりかもしれないけど……いや、展示てんじするかな？　このクルマ。

ほった：しないんじゃないですか（笑）。

（語かたり＝渕ふち野の健太郎けんたろう／文ぶん＝清水しみず草くさ一いち／写真しゃしん＝本田技研工業ほんだぎけんこうぎょう、トヨタ自動車とよたじどうしゃ、ヒョンデ、フォード、ゼネラルモーターズ、日産自動車にっさんじどうしゃ、花村はなむら英典ひでのり、webCG／編集へんしゅう＝堀田ほった剛つよし資し）

どこか往年おうねんのアメリカのセダンを思おもわせる新型しんがた「アコード」のスタイリングだが、実際じっさいにはかつてのアメリカ車しゃは、もっともっとゆるいデザインをしていた。写真しゃしんは1992年ねん「フォード・クラウンビクトリア」。

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2024年ねん3月がつの発売はつばい記念きねんイベントの様子ようす。伸のびやかなルーフラインもあって、この角度かくどからだとドイツ系けいメーカーが“グランクーペ”や“スポーツバック”などと呼よぶ、5ドアクーペ風ふうにも見みえる。

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見みよ！ このフロントオーバーハングの長ながさを。通常つうじょう、ここまでオーバーハングが長ながいと「短みじかく見みせよう（汗あせ）」と策さくを弄ろう（ろう）するものだが、「アコード」にはそういった邪念じゃねん（？）がなく、むしろ細長ほそながいヘッドランプなどで、それを強調きょうちょうしているかのようにも見みえる。（写真しゃしん：花村はなむら英典ひでのり）

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当とう記事きじでは話題わだいに上のぼらなかったが、インテリアはこんな感かんじ。横よこ基調きちょうのダッシュボードにセンターコンソールが突つき刺ささる、典型てんけい的てきな“T字じ”のレイアウトとなっている。

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清水しみず「新型しんがた『アコード』は2024年ねん5月がつの登録とうろく車しゃ販売はんばいだランキングで49位いに入はいっているんだよ！」　
ほった「スゴい。このご時世じせいに普通ふつうも普通ふつうのアッパーミドルセダンが、ランキングに入はいってくるなんて……」　

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