見落みおとしがちな「消費しょうひ増税ぞうぜい前まえにやるべき本当ほんとうのこと」…車くるまや家いえの駆かけ込こみ購入こうにゅうで損そんも？

　今年ことし3月がつ末まつ、2019年ねん10月がつの消費しょうひ税ぜいの8％から10％への引ひき上あげを前提ぜんていとした2019年度ねんど予算よさんが参院さんいん本ほん会議かいぎで成立せいりつした。今年度こんねんど予算よさんは、個人こじん消費しょうひを下した支ささえする増税ぞうぜい対策たいさくが盛もり込こまれた内容ないようになっており、「2度どあることは3度どある」とばかりに、「もしかして3回かい目めの増税ぞうぜい延期えんきもあり得えるのでは？」と期待きたいしていた人ひとも、もうそろそろ観念かんねんしたほうがよさそうだ。

　今回こんかいのコラムでは、実施じっしされる予定よていの消費しょうひ増税ぞうぜい対策たいさくを踏ふまえて、消費しょうひ増税ぞうぜい前まえにやっておくべきポイントについてご紹介しょうかいしたい。

そもそも、なぜ消費しょうひ増税ぞうぜいが必要ひつようなのか？

　最初さいしょにちょっとおさらいしておこう。消費しょうひ税ぜいが10％にアップされる目的もくてきは、国民こくみんの社会しゃかい保障ほしょうの安定あんていである。年金ねんきんや医療いりょう、介護かいご、生活せいかつ保護ほご等とうを安定あんてい的てきに運営うんえいするための財源ざいげんとなる。

　では、なぜ消費しょうひ税ぜいなのかというと、所得しょとく税ぜいや法人ほうじん税ぜいだと、景気けいきに左右さゆうされやすく、税収ぜいしゅう額がくが安定あんていしないのだ。消費しょうひ税ぜいは、モノやサービスの消費しょうひに対たいしてかかる税金ぜいきんだから、同様どうように景気けいきの影響えいきょうを受うけやすそうだが、実みのところ、その税収ぜいしゅう額がくは安定あんていしている。

　財務省ざいむしょうの一般いっぱん会計かいけい税収ぜいしゅうの推移すいいをみると、所得しょとく税ぜいや法人ほうじん税ぜいが大おおきく変動へんどうしているのに対たいし、1997年ねん4月がつに3％から5％、2014年ねん4月がつに5％から8％に、それぞれ税率ぜいりつがアップして税収ぜいしゅうが増ふえた後のち、安定あんていして推移すいいしていることが読よみ取とれる（【図表ずひょう1】参照さんしょう）。食料しょくりょう品ひんや日用にちよう雑貨ざっかなど、日常にちじょう生活せいかつを送おくる上じょうでかかる最低限さいていげんの消費しょうひは、ある程度ていど一律いちりつに必要ひつようなものだからだろう。

　しかも、モノを買かったり、サービスを受うけたりしたその場ばで徴収ちょうしゅうされるので、脱税だつぜいされにくく、現役げんえき世代せだいの負担ふたんが大おおきい所得しょとく税ぜい等とうと違ちがって、いずれの年代ねんだいにも等ひとしくかかるので、世代せだい間あいだの格差かくさもない。まさに、増ふえ続つづける国民こくみんの社会しゃかい保障ほしょう費ひとして、消費しょうひ税ぜいはうってつけの財源ざいげんなのである。

消費しょうひ増税ぞうぜいの最大さいだいの問題もんだいは個人こじん消費しょうひに与あたえる影響えいきょう

　しかし、最大さいだいの問題もんだいは、消費しょうひ増税ぞうぜいが個人こじん消費しょうひ、つまり家計かけいに少すくなからず影響えいきょうを与あたえるということだ。

　よく引ひき合あいに出だされるのが前回ぜんかいの増税ぞうぜい後ごの状況じょうきょうである。たしかに、2014年ねん4月がつに5％から8％に消費しょうひ税ぜいがアップされたことによって、同どう年度ねんどの日本にっぽんの実質じっしつGDP（国内こくない総そう生産せいさん）成長せいちょう率りつは、前年ぜんねん比ひ0.9％減げんのマイナスとなっている。

　多おおくの人ひとが消費しょうひ税ぜいの上あがる前まえに買かい物ものをして、その後ご、買かい控ひかえるという駆かけ込こみ需要じゅようとその反動はんどう減げんにより、一時いちじ的てきに景気けいきが落おちこんだ。とりわけ、60歳さい未満みまんの低てい所得しょとく者しゃ層そうや年金ねんきん生活せいかつ者しゃは消費しょうひを抑制よくせい。ますます財布さいふのヒモを固かたく締しめるようになった。

　収入しゅうにゅうの多寡たかにかかわらず、食料しょくりょう品ひんや日用にちよう雑貨ざっかなどの費用ひようはある程度ていどかかるものなので、収入しゅうにゅうが低ひくければ消費しょうひ税ぜいの負担ふたん感かんは大おおきくなる。また、年金ねんきん生活せいかつ者しゃは収入しゅうにゅう源げんが限かぎられており、収入しゅうにゅうがアップする見込みこみが少すくないため、先々さきざきを考かんがえて、消費しょうひを控ひかえておこうとするのは当あたり前まえの行動こうどうといえるだろう

実施じっしされる予定よていの消費しょうひ増税ぞうぜい対策たいさくとは？

　そして、2019年度ねんど予算よさんは、このような個人こじん消費しょうひの落おち込こみを懸念けねんして組くまれている。具体ぐたい的てきに、消費しょうひ税ぜいがアップする今年ことし10月がつ以降いこうに実施じっしされる予定よていのおもな施策しさくは、以下いかの通とおり（【図表ずひょう2】参照さんしょう）。

　まず年収ねんしゅうを問とわず、どの年代ねんだいでも共通きょうつうして活用かつようできるのは、飲食料品いんしょくりょうひんや新聞しんぶんに対たいする軽減けいげん税率ぜいりつやキャッシュレス決済けっさいによるポイント還元かんげんである。

　ただし前者ぜんしゃについては、ハンバーガーや牛丼ぎゅうどんなど同おなじ飲食料品いんしょくりょうひんでも、テイクアウトの場合ばあいは8％、イートインの場合ばあい10％と税率ぜいりつが異ことなる。同おなじく軽減けいげん税率ぜいりつの対象たいしょうである新聞しんぶんも、定期ていき購読こうどく（週しゅう2回かい以上いじょう発行はっこう）の場合ばあい8％、電子でんし版ばんやコンビニで買かった場合ばあいは10％というように、同一どういつの商品しょうひんによって税率ぜいりつが異ことなっている。しばらくは、これらの扱あつかいに戸惑とまどいが出でそうなので、紛まぎらわしいものの“線引せんひき”には注意ちゅういしておきたい。

　また、低てい所得しょとく者しゃ層そうや子育こそだて世代せだいであれば、プレミアム商品しょうひん券けんや幼児ようじ教育きょういく・保育ほいくの無償むしょう化か、年金ねんきん生活せいかつ者しゃであれば、年金ねんきん生活せいかつ者しゃ支援しえん給付きゅうふ金きんの支給しきゅうが有効ゆうこうだろう。こちらも有効ゆうこう期限きげんや対象たいしょうの適否てきひ、手続てつづきの有無うむなどがあるので、きっちり恩恵おんけいを受うけたいなら、情報じょうほうは入手にゅうしゅしておくべし。

マイホームや車くるまの購入こうにゅうはいつがオトク？

　住宅じゅうたくや自動車じどうしゃといった消費しょうひ税ぜいの影響えいきょうを大おおきく受うける高額こうがくな買かい物ものも、購入こうにゅうのタイミングが気きになるところだろう。いずれも対策たいさくが講こうじられているので、適用てきよう前後ぜんこうでどちらがオトクかの見極みきわめが重要じゅうようである。

　まず、住宅じゅうたくについては、消費しょうひ税ぜいの対象たいしょうとなるのは「建物たてもの部分ぶぶん」と中古ちゅうこ物件ぶっけん等とうの「仲介ちゅうかい手数料てすうりょう」。消費しょうひ税ぜいがかからない「土地とち部分ぶぶん」の比重ひじゅうが大おおきいような一戸建いっこだての場合ばあい、消費しょうひ増税ぞうぜいの影響えいきょうはそれほど大おおきくない可能かのう性せいもある。また、消費しょうひ税ぜい課税かぜい業者ぎょうしゃではない個人こじんから中古ちゅうこ住宅じゅうたくや中古ちゅうこマンションを購入こうにゅうする場合ばあいも、消費しょうひ税ぜいはかからない。

　となると、消費しょうひ増税ぞうぜいの影響えいきょうが最もっとも大おおきいのは新築しんちくマンション購入こうにゅう希望きぼう者しゃといえそうだが、すまい給付きゅうふ金きんなどがフルに活用かつようできる人ひとなら、増税ぞうぜい後ごのほうがオトクなケースもある。たとえば、物件ぶっけんの税ぜい抜価格かかく2,000万まん円えん、建物たてもの価格かかく1,200万まん円えんだとすると、消費しょうひ税額ぜいがくは消費しょうひ税ぜい8％なら96万まん円えん、同どう10％なら120万まん円えんで、差額さがく24万まん円えんとなる。年収ねんしゅう525万まん円えん超ちょう600万まん円えん以下いかの人ひとは、これまですまい給付きゅうふ金きんの対象たいしょう外がいだったが、消費しょうひ税ぜい10％になると30万まん円えんが受うけ取とれるので、増税ぞうぜい後ごに購入こうにゅうしたほうが6万まん円えんのプラスになるというわけだ。

　なお、不動産ふどうさんについては契約けいやく締結ていけつ時期じきにも注意ちゅういしたい。引ひき渡わたしが2019年ねん9月がつ30日にちまでに完了かんりょうすれば8％のまま。引ひき渡わたしが同年どうねん10月がつ1日にち以降いこうになると10％になる。住宅じゅうたくリフォームも、2019年ねん9月がつ30日にちまでに工事こうじが終おわっていればOK。

　ただし、注文ちゅうもん住宅じゅうたくは一般いっぱん的てきに請負うけおい契約けいやくから引ひき渡わたしまで6カ月かげつほどかかるため、注文ちゅうもん住宅じゅうたくの工事こうじの請負うけおい契約けいやくが2019年ねん3月がつ31日にちまでに完了かんりょうしていれば、引ひき渡わたし時期じきにかかわらず、消費しょうひ税ぜいは8％となっている。

　一方いっぽうの車くるまについては、若干じゃっかん状況じょうきょうが異ことなっていて、税制ぜいせい自体じたいが変かわる。

　消費しょうひ増税ぞうぜいと同時どうじに従来じゅうらいの自動車じどうしゃ取得しゅとく税ぜいが廃止はいしされ、環境かんきょう性能せいのう割わりという新しん制度せいどに移行いこう。購入こうにゅう年ねんの自動車じどうしゃ税ぜいおよび軽自動車けいじどうしゃ税ぜいに上乗うわのせするというもので、燃費ねんぴ基準きじゅんの達成たっせい度どによって0～3％の税率ぜいりつが設定せっていされている（ただし、2019年ねん10月がつ１日にちから2020年ねん9月がつ30日にちまでの間あいだの取得しゅとく分ぶんについては税率ぜいりつが1％分ぶん軽減けいげん）。また、車くるまの所有しょゆう者しゃに毎年まいとしかかる自動車じどうしゃ税ぜいは最大さいだい年ねん4,500円えん減税げんぜいされる。エコカー減税げんぜいの対象たいしょう車種しゃしゅ絞しぼり込こみなど縮小しゅくしょうされる分ぶんで財源ざいげんを捻出ねんしゅつするという。

　今回こんかいの改正かいせいでは、住宅じゅうたくについては環境かんきょうや安全あんぜん・安心あんしん等とうに対応たいおうした物件ぶっけんの新築しんちく・リフォームを対象たいしょうにしたエコポイント制度せいどが創設そうせつされるが、車くるまについてもエコカー優遇ゆうぐう措置そちは継続けいぞくされ、環境かんきょう性能せいのうの良よい車くるまであれば、10月がつ以降いこうに買かったほうがオトクな可能かのう性せいは高たかい。

　あとは、エコカー以外いがいの車くるまや中古ちゅうこ車しゃを含ふくめ、販売はんばい店てんによるキャッシュバックがどれくらいあるか次第しだいなので、こちらもケースバイケースだと無難ぶなんにお答こたえするしかないのが、もどかしいところだ。

今回こんかいの消費しょうひ増税ぞうぜいの影響えいきょうは限定げんてい的てき？

　第一生命だいいちせいめい経済けいざい研究所けんきゅうじょの試算しさんによると、前述ぜんじゅつの軽減けいげん税率ぜいりつの導入どうにゅう等とうによって、単身たんしん世帯せたいを含ふくめた全ぜん世帯せたいの家計かけいに与あたえる影響えいきょうは年とし3万まん4000円えん。月額げつがくに換算かんさんすると、3,000円えんにも満みたない金額きんがくである。

　年齢ねんれい階層かいそう別べつにみると、もっとも影響えいきょうが大おおきいのは50代だいの約やく4万まん8000円えん。続つづいて40代だいの4万まん6000円えん、60代だいの4万まん2000円えんとなっているが、増税ぞうぜい幅はばが2％と前回ぜんかい増税ぞうぜいに比くらべて小ちいさいことと、食料しょくりょう品ひんなどが増税ぞうぜい対象たいしょう外がいとなることから、影響えいきょうは限定げんてい的てきとの見方みかたもある。

　とはいえ、消費しょうひ者しゃからすれば、負担ふたんが増ふえることに変かわりない。そこで、慌あわてて買かいだめなどの行動こうどうを起おこす前まえに改あらためて念ねん押おししておきたいのは、モノの値段ねだんは需要じゅようと供給きょうきゅうの関係かんけいで決きまるという大だい原則げんそくだ。

　つまり、欲ほしい人ひとが増ふえて需要じゅようが高たかまれば値上ねあがりし、需要じゅようが低ひくくなれば値下ねさがりするのである。今回こんかいも、増税ぞうぜい以上いじょうに需給じゅきゅう関係かんけいによって増税ぞうぜい前まえの駆かけ込こみ需要じゅようで値上ねあがりし、増税ぞうぜい後ごの買かい控びかえで値下ねさがりする幅はばが大おおきければ、とくに何なにもすることはないはずだ。ただ、もともとあまり値下ねさがりしないモノ。例たとえば、定期ていき券けんや航空こうくう券けん、映画えいがやアミューズメントパークのチケットなどは、増税ぞうぜい前まえに買かっておいたほうがいいだろう。

消費しょうひ増税ぞうぜい前まえにやっておきたい本当ほんとうのこととは？

　その上うえで知しっておきたいのは、家計かけいにマイナスの影響えいきょうを及およぼすのは、消費しょうひ増税ぞうぜいばかりではないという点てんである。2019年ねんは、食料しょくりょう品ひんや外食がいしょく、各種かくしゅサービスの値上ねあげラッシュが続つづく。値上ねあげの理由りゆうは、原材料げんざいりょう費ひや人件じんけん費ひ、物流ぶつりゅうコストの高騰こうとうだ。

　こうなると、多少たしょう買かいだめをしていてもキリがない。消費しょうひ増税ぞうぜい前まえに本当ほんとうにやっておくべきことは、消費しょうひ税率ぜいりつがアップする前まえに買かっておくべきモノのオトク度どをはかることではなく、根本こんぽん的てきな家計かけいの見直みなおしをすること。それと同時どうじに世帯せたい収入しゅうにゅうをアップさせる方法ほうほうも検討けんとうし、“合あわせ技わざ”でやりくりする方法ほうほうを真剣しんけんに考かんがえることである。
（文ぶん＝黒田くろだ尚子しょうこ／ファイナンシャルプランナー）