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人は「盾」? 大型肉食獣から身を守る都会の野生動物の知恵 隠しカメラにくっきり:朝日新聞GLOBE+
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ひとは「たて」? 大型おおがた肉食にくしょくじゅうからまも都会とかい野生やせい動物どうぶつ知恵ちえ かくしカメラにくっきり

ニューヨークタイムズ 世界せかい話題わだい 更新こうしん 公開こうかい
動物や人間を自動的に撮影するカメラトラップに写ったハイイロオオカミ
動物どうぶつ人間にんげん自動的じどうてき撮影さつえいするカメラトラップにうつったハイイロオオカミ=カナダ・ブリティッシュコロンビアしゅうのイッチャ・イルガチューズ州立しゅうりつ公園こうえん、Cole Burton, UBC WildCo via The New York Times/©The New York Times

くらいニュースばかりがながれたコロナ初期しょきのころに、ひとつの心温こころあたたまるはなし世間せけんひろまった。

人間にんげんいえめられ、野生やせい動物どうぶつにとって世界せかいふたた安全あんぜんになった。だから、それまではひとであふれていた都会とかい街並まちなみや駐車ちゅうしゃじょう、それにはたけも、自由じゆううごまわれるようになったというものだった。

でも、事実じじつはそんなに単純たんじゅんではなかったようだ。人間にんげん野生やせい生物せいぶつ活動かつどう撮影さつえいしたリモートカメラの映像えいぞう分析ぶんせきした世界せかい規模きぼあたらしい研究けんきゅう論文ろんぶんに、そうしるされている。

わたしたちも、みのはじめのころは、いささか単純たんじゅんしてかんがえていた」とこの研究けんきゅう主導しゅどうしたコール・バートンはみとめる。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学だいがく野生やせい生物せいぶつ生態せいたい学者がくしゃで、保全ほぜん生物せいぶつ学者がくしゃでもある。

ひと活動かつどうまる。動物どうぶつたちは安堵あんど(あんど)のためいきをつき、もっと自然しぜんうごまわるようになる――とおもっていたが、調しらべてみると実体じったいはかなりちがっていた」

ロックダウンのあいだに、人影ひとかげえた場所ばしょもあったが、より大勢おおぜいあつまるようになったところもあったことに研究けんきゅうしゃたちはづいた。たとえば、閉鎖へいさされなかったごく一部いちぶ公園こうえんがそうだ。

野生やせい哺乳類ほにゅうるい人間にんげん行動こうどう変化へんかにどう対応たいおうしたかとなると、はるかに多様たよう複雑ふくざつだった。人里ひとざとはなれた場所ばしょにすむ動物どうぶつ肉食にくしょく動物どうぶつなどの場合ばあいは、ひと姿すがたえるとより活発かっぱつうごくようになった。

カメラトラップがとらえたオオヤマネコ
カメラトラップがとらえたオオヤマネコ=カナダ・ブリティッシュコロンビアしゅうのカテドラル州立しゅうりつ公園こうえん、Cole Burton, UBC WildCo via The New York Times/©The New York Times

しかし、おおきな草食そうしょく動物どうぶつ都会とかいらす野生やせい動物どうぶつは、一般いっぱんてきにそのせい反対はんたいだった。この研究けんきゅうをまとめた論文ろんぶんが2024ねん3がつ、オンライン限定げんてい生態せいたいがく生物せいぶつがくジャーナル「Nature Ecology & Evolution(ネイチャーエコロジー&エボリューション)」で発表はっぴょうされた。

それは、新型しんがたコロナウイルスのだい流行りゅうこうによるロックダウンで人類じんるい活動かつどう形態けいたい根本こんぽんてき変化へんかした「人類じんるい休止きゅうし(anthropause)」とばれる期間きかんについての科学かがくしゃ理解りかいふかめつつ、複雑ふくざつにもしている。

さらには、人間にんげん野生やせい生物せいぶつのそれぞれのらしに微妙びみょうことなる影響えいきょうあたえている様子ようすあきらかにし、多様たよう多角たかくてき保護ほご活動かつどうもとめられていることもりにした、と論文ろんぶん筆者ひっしゃたちはべている。

人間にんげん行動こうどう野生やせい動物どうぶつあたえる影響えいきょうやわらげるうえで、『万能ばんのうやく』なんてありえない」。やはりブリティッシュコロンビア大学だいがく野生やせい生物せいぶつ生態せいたい学者がくしゃ保全ほぜん生物せいぶつ学者がくしゃのケイトリン・ゲイナーは、こう明言めいげんする。「すべてのたねが、人間にんげんたいしておなじように反応はんのうするのではないことがかっているからだ」

 動作どうさ体温たいおんをセンサーで感知かんちし、自動的じどうてき野生やせい動物どうぶつ撮影さつえいするカメラトラップが、この調査ちょうさをした野生やせい生物せいぶつ学者がくしゃたちのふだとなった。その結果けっかをまとめた今回こんかい論文ろんぶんは、21カ国かこく・102地点ちてんでの撮影さつえい調査ちょうさ分析ぶんせきをもとにしている(ほとんどは北米ほくべい欧州おうしゅうだが、南米なんべいやアフリカ、アジアもふくまれている)。

このデータにより、研究けんきゅうしゃたちは163しゅ野生やせい哺乳類ほにゅうるい行動こうどうパターンを把握はあくした。さらに、おな場所ばしょ人間にんげんがどれだけの頻度ひんどあらわれたかもつかむことができた。

カメラトラップに写ったバイソン
カメラトラップにうつったバイソン=べいモンタナしゅう、Snapshot USA via The New York Times/©The New York Times

「この論文ろんぶんつよみのひとつは、ひと動物どうぶつ双方そうほう情報じょうほう入手にゅうしゅできることだ」とオランダのラドバウド大学だいがく生態せいたい学者がくしゃマーリー・タッカーは指摘してきする(今回こんかい研究けんきゅうにはかかわっていない)。

コロナのロックダウンちゅう人間にんげん活動かつどうった撮影さつえい場所ばしょもあったが、ぎゃくえたところもあった。研究けんきゅうじんは、ロックダウンちゅうだったかかにかかわらず、人間にんげんうごきが活発かっぱつだったときと活発かっぱつでなかったときに動物どうぶつがどれだけの頻度ひんどうつっているかをそれぞれの場所ばしょごとにくらべた。

まず、オオカミやボブキャット(訳注やくちゅう北米ほくべいなどにすむ中型ちゅうがたのヤマネコ)などの肉食にくしょく動物どうぶつ。こちらは人間にんげんにかなり敏感びんかんなようで、ひと活動かつどうえると、そのうごきはもっとおおきくっていた。

肉食にくしょく動物どうぶつは、とくに大型おおがたになるほど人間にんげん対立たいりつしてきたなが歴史れきしがある」とさきのブリティッシュコロンビア大学だいがくのバートンは説明せつめいする。「人間にんげん鉢合はちあわせたり接近せっきんしすぎたりした結果けっかは、しばしば意味いみしてきた」

対照たいしょうてきだったのは大型おおがた草食そうしょく動物どうぶつだ。シカやヘラジカは、人間にんげんいえから外出がいしゅつできるようになると、活動かつどう活発かっぱつさせた。

単純たんじゅんに、人波ひとなみけるために、よりおおうご必要ひつようがあったとることもできよう。でも、人間にんげん肉食にくしょく動物どうぶつとおざけてくれるので、草食そうしょく動物どうぶつにとってはすみかから行動こうどうするさい安全あんぜんせいしたということもかんがえられる。

草食そうしょく動物どうぶつほうが、人間にんげんをそれほどおそれない傾向けいこうがある。実際じっさい肉食にくしょく動物どうぶつからまもたてとして利用りようしているのかもしれない」。さきのラドバウド大学だいがくのタッカーはこうしながら、「人間にんげんあたえるさまざまな影響えいきょうのすべてをくことを可能かのうにしてくれた」と今回こんかい論文ろんぶん研究けんきゅうじんをたたえた。

場所ばしょ重要じゅうようだった。ひとがもともとの景観けいかんをあまりえていない片田舎かたいなか開発かいはつでは、人間にんげん活動かつどう活発かっぱつになると、動物どうぶつうごきは一般いっぱんてきにぶくなった。しかし、都会とかい開発かいはつすすんだところでは、人間にんげん活動かつどうやすと、野生やせい哺乳類ほにゅうるいうごきがより活発かっぱつになる傾向けいこうがあった。

「これは、それまでの『常識じょうしき』にすこはんしており、意外いがいだった」とさきのブリティッシュコロンビア大学だいがくのゲイナーはかたる。「もっとくわしく調しらべると、そうした活動かつどうおおくは夜間やかんになされていた。動物どうぶつは、夜行やこうせい度合どあいをしていた」

いくつかの現象げんしょうが、こうした傾向けいこう裏付うらづけるだろう、と研究けんきゅうじんかんがえている。おそらく、このような自然しぜん環境かんきょう生存せいぞんしているたね個体こたいは、人間にんげんたいしてもっとたいせいがあり、人慣ひとなれしているのだろう。

ぎゃくに、そうではないクズリ(訳注やくちゅう北米ほくべい北欧ほくおう中国ちゅうごくなどに生息せいそくするイタチ食肉しょくにくるい別名べつめいクロアナグマ)のようなタイプは、ひと足跡あしあとすくないところにしか存在そんざいしていなかった。

人間にんげん社会しゃかいまわりにまとわりついている動物どうぶつは、ものなまごみといった「人的じんてき資源しげん」にひかれているのかもしれない。こうした「資源しげん」が豊富ほうふなときは活動かつどうもより活発かっぱつになる。ただし、ひとくわす可能かのうせいらすために、エサをあさるときあいだたい夕方ゆうがたにずらしているのかもしれない。

「こうして動物どうぶつは、人間にんげん共存きょうぞんするために適応てきおうしているようにえる」とバートンはいう。「これが、共存きょうぞんのために動物どうぶつほうたそうとしている役割やくわりなんだ」

ハイキングコースでカメラトラップがとらえたシロイワヤギ
ハイキングコースでカメラトラップがとらえたシロイワヤギ=カナダ・アルバータしゅうのバンフ国立こくりつ公園こうえん、Madeleine Wrazej, Parks Canada & UBC WildCo via The New York Times/©The New York Times

それでも、例外れいがいはここにもある。もっと開発かいはつすすんだところでは、人間にんげん活動かつどうえるほどクマやイノシシなど大型おおがた雑食ざっしょく動物どうぶつかける頻度ひんどった。これらの動物どうぶつも、ごみばこ果樹かじゅといった「人的じんてき資源しげん」にせられるてんわりはない。

しかし、からだおおきい動物どうぶつにとって、おおくの人間にんげん周辺しゅうへんにいるときはリスクがおおきすぎるということだろう。

裏庭うらにわにフクロネズミがいるぐらいなら、わたしたちは寛容かんようでいられる。でも、クマともなれば、そうはいかない」とブリティッシュコロンビア大学だいがくのゲイナーはたとえる。

野生やせい動物どうぶつ人間にんげんあたえる影響えいきょうについての研究けんきゅうは、かぎられたたね場所ばしょ焦点しょうてんをあてた事例じれいおおい。しかし、今回こんかいのように一般いっぱんてきなパターンを解明かいめいすることは、科学かがく論文ろんぶんへのしん貢献こうけんになる、とべいミシガン州立しゅうりつ大学だいがく野生やせい生物せいぶつ保全ほぜん生態せいたい学者がくしゃジェロルド・ベラントはかたる(この論文ろんぶん執筆しっぴつにはかかわっていない)。

「ものごとを俯瞰ふかん(ふかん)することは大切たいせつだ。それは、ひろ範囲はんいおよ洞察どうさつ可能かのうにし、そこから一般いっぱんてき法則ほうそくみちびみなもとになる」とベラントは位置いちづける。

そして、こう期待きたいする。「それをひとつのパッケージにしてしめしているこの論文ろんぶんじつ有意義ゆういぎで、える研究けんきゅう進展しんてんをこれからもたらしてくれることだろう」(抄訳しょうやく敬称けいしょうりゃく

(Emily Anthes)©2024 The New York Times

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