本質を見極めるのに必要なのは。『分別と多感』
ダッシュウッド家の19歳の長女エリナは、分別があり忍耐強く控え目で、反対に17歳の次女マリアンは、情熱的でロマンチストです。
遠縁の青年エドワードは物静かで内気な性格で、エリナは好感を持ちます。しかし、後に婚約者がいることが判明。一方、次女マリアンは、35歳で持病のあるブランドン大佐から興味を示されますが関心を持たず、ハンサムな紳士ウィロビーに夢中になり、人目をはばからず親しくします。しかしエリナは、二人から一向に婚約の話を聞かないことをいぶかしく感じていました。
- 著者
- ジェイン オースティン
- 出版日
マリアンは、純粋である分思い込むと激しいところがあり、それが魅力でもあります。本能や直観も人間として欠かせない要素ですので、読者もそれに引き付けられます。エリナとマリアンを単純に比較して、分別と多感どちらが重要か、という議論には終始していません。二人ともそれぞれの長所があり、且つ足りないところもあるのです。
オースティンは、少ない言葉でそれぞれの人物たちの性格を非常に豊かに描いてます。読み進めると、それまで悪者のように思えていた人物が、ある時にわかに同情を感じたり、行動の真意が理解できたりする瞬間は、オースティンの作品の醍醐味の一つです。
自分は自分を正しく評価できているだろうか。『エマ』
病弱な父と二人で暮らしているエマは、勝気で頭の回転が早い反面、自信過剰で独善的な面がありました。独身の自由を満喫しており、すぐに結婚したいという願望はありません。
エマが好意的に思い、周囲にも似合いだと思われている青年フランクには、焼きもちを焼くこともありました。しかし、フランクは別の女性と結婚してしまいます。
やがて、年上の大地主ナイトリーと出会い、会話するうち、その真摯な忠告に自分の言動を省みるようになります。
- 著者
- ジェーン オースティン
- 出版日
- 2000-10-16
エマは、裕福で、自分の意思が何でも通る家庭に暮らしており、周囲に批判してくれる人がいませんでした。自分の行動の正しさを信じ、相容れない相手は見下しさえしますが、実際はエマのほうが、根拠もなく物事を決めつけるなど勘違いの連続です。
はじめは身勝手なエマになかなか感情移入できないかも知れませんが、エマは徐々に、人の意見に聞く耳を持ち、素直に反省できる人間に成長していきます。
オースティンの作品には、現代の私たちが読んでも、こういう人いるな、自分にもこういうところあるな、と思わせるリアルな人物が沢山登場します。
すぐ隣にいながら、忍ぶ思い。『マンスフィールド・パーク』
内気で大人しいファニーは、10歳のとき実家の経済的事情で、マンスフィールド・パークに養女として引き取られました。この屋敷のサー・トマス・バートラムは厳格で古風な性格ですが、夫人は愛情深い女性でした。
子供たちは丁寧ながらどこかよそよそしい態度でしたが、何かと気を配ってくれる次男のエドマンドに、ファニーは時とともに穏やかな愛情を感じるようになります。しかしエドマンドは別の女性に恋い焦がれていて、そしてファニーにも縁談が持ち上がります。
- 著者
- ジェイン・オースティン
- 出版日
- 2010-11-12
サー・トマスの厳格さや、意地悪な叔母などの圧力を長年耐えながらも、優しく謙遜に育ったファニーが幸せをつかむまでのストーリーです。思いを寄せる人とすぐ近くにいながら、なかなか結ばれない境遇を耐える姿に、思わず応援したくなります。
オースティンの作品はどれも、本当の愛とは何か、人が持つべき道徳とは何かを示唆するものが多いですが、この作品もまたそうです。ファニーには引き取られた身であるというハンデが付きまとい、度々哀しい目に合いますが、それでも自分の愛情や感受性を豊かに保ったヒロインを好きにならずにいられません。
『高慢と偏見』が気に入ったなら、ぜひ他の4作も読んでみてください。舞台こそ狭いのに、それぞれの主人公たちは異なる事情を抱えていて、豊かな世界が広がっています。そして、日々、人間が繰り返す間違いの数々を、オースティンは、ユーモアと皮肉をもってそれを愛情豊かに肯定しています。