小説『野菊の墓』のあらすじを簡単に紹介!いとこ同士の切ない恋愛
本作は作者・伊藤左千夫の最初の作品であり、夏目漱石が「何百篇読んでもよろしい」と絶賛したことで有名です。現在は岩波文庫などから発行されています。
ではあらすじを追ってみましょう。
物語の語り手である僕(政夫)には、十年以上経ってもどうしても忘れられない、思い出すだけでも涙が出てくる出来事がありました。
それは彼が、15歳の時の話。病弱な母の看護や家事の手伝いなどをするために、親戚の家からいとこ・民子に来てもらっていました。当時、彼女は17歳。2人は幼い頃から仲良しで、それは今も変わりません。
掃除の合間などに、彼が勉強している座敷に遊びにやってきたり、ちょっかいを掛け合ったりして、それなりに楽しく過ごしていました。しかし微妙な年齢である2人に、周囲の目に冷ややかさが混じり始めます。
ある日、彼らは山仕事を命じられて出かけます。それは2人きりの、とても楽しい時間でした。花を摘んだり、他愛ないおしゃべりをしたり……。ずっと幼馴染で仲良しだった2人。しかし政夫は、彼女の美しさに気づき、そして恋心を自覚したのでした。それと同様に、民子も自分の心に気づくのです。
楽しかったこともあり、彼らの帰りは思いの他帰りが遅くなってしまいました。しかし、そのことをきっかけに、2人の運命は大きく変わってしまったのです。
- 著者
- 伊藤 左千夫
- 出版日
本作のメインとなるのは、山歩きの時間です。1つ1つの会話や行動が、子供の無邪気な様子から淡い恋心を通わせる甘い雰囲気に変化していくさまを表しているといえます。
本作で有名なセリフ「民さんは野菊のような人だ」「僕は野菊が大好きだ」などの微妙な会話は、この時間に生まれたものです。
本作は何度も、映画化や舞台化がされています。もっとも新しいものだと松田聖子が映画で主演を務め、舞台では宝塚歌劇や、座などが演じています。またドラマでは、1977年に山口百恵が民子を好演し話題となりました。
ちなみに本作はスマホアプリ「オーディオブック」で30日間無料で聞くこともできるので、2人の切ない恋路の様子を耳で味わうのもおすすめです。
『野菊の墓』の登場人物を紹介!
本作の主人公は政夫と民子ですが、その他にも個性的な登場人物が多数存在します。
-
政夫
語り手であり、物語の主役。当時は15歳という年齢もあり、民子に恋心を抱きながらも、まだまだ屈託のなさが目立つ少年です。
-
民子
物語のヒロイン。清純で真面目な性格の女性。まだまだ少女っぽさも感じられます。政夫への恋心を自覚してからは、自分の方が年上であるということを嘆いたりと、現実的な一面が見られます。
-
お増
政夫の家の、使用人の女性。物語前半では、民子のことを兄嫁に告げ口するなど、いじわるな存在です。読者をイライラとさせますが、後半には大きな変化が起こります。
-
政夫の母
きわめて常識的な人。息子を大切に思う気持ちが非常に強いです。彼女の言動が、若い2人の運命を大きく左右してしまうことに……。
『野菊の墓』の作者・伊藤左千夫とは?
伊藤左千夫は、明治時代に活躍した日本の歌人であり、小説家。正岡子規に師事し、彼の亡き後は意思を引き継いで若い歌人たちの育成に力を尽くしました。
彼は千葉県出身ですが、本作も千葉県松戸市が舞台となっています。政夫と民子の別れの場面となるのが、千葉県松戸市に存在する矢切の渡しなのです。
彼が生まれたのは、幕末。新しい時代とともに成長した10代であったといえます。さまざまな形の学問が流れ込み、それを吸収していった時期は、かなり濃厚なものであったと思われます。
そんな彼は20代で家出をしたり、牛乳搾取業の商売を始めたりと、かなり行動的なタイプだったよう。文学に関わるようになったのは、30歳を過ぎてからでした。
本作が書かれたのは、40代になってからのこと。彼の作品は、男女の繊細な心の動きを表したものが多いのが特徴です。それはきっと、さまざまな経験を積み重ねた若い時代があったからこその、独自の世界観あってのものだったのでしょう。
そして彼は48歳の時、決して長くないその生涯に幕を閉じたのでした。