5分ふんでわかる『斜陽しゃよう』！太宰だざい治おさむの名作めいさくをあらすじ、名言めいげんなどからネタバレ考察こうさつ！

太宰だざい治おさむの傑作けっさく小説しょうせつ『斜陽しゃよう』あらすじを簡単かんたんに紹介しょうかい！【2019年ねん秋あき映画えいが化か！】

「上流じょうりゅう貴族きぞくのゆるやかな破滅はめつと、滅ほろびの中なかの美び」を描えがいた物語ものがたり。太宰だざい治おさむ生誕せいたん110年ねんである2019年ねん、2度目どめの映画えいが化かが決定けっていしています。2019年ねん1月がつ現在げんざいの段階だんかいでは、キャストはまだ明あきらかにされていません。

本ほん作さくの舞台ぶたいは、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんで敗戦はいせんした後のちの日本にっぽん。戦前せんぜんは華族かぞくであった、かず子ことその母はは、そして弟おとうと・直治なおじは、時代じだいの流ながれに翻弄ほんろうされて、ゆるやかに没落ぼつらくしていきます。そんななかで母ははは弱よわり、直治なおじは荒すさんでいきますが、それでもかず子こは気丈きじょうに、力強ちからづよく生いきていくのです。

そして直治なおじの友人ゆうじんである小説しょうせつ家か・上原うえはらとの恋こいが、彼女かのじょに変化へんかを与あたえていきます。

斜陽しゃよう・人間にんげん失格しっかく・桜桃おうとう・走はしれメロス 外がい七なな篇へん (文春ぶんしゅん文庫ぶんこ)

著者ちょしゃ

太宰だざい 治おさむ

出版しゅっぱん日び

あまりに売うれたこの小説しょうせつの影響えいきょうで、辞書じしょで「斜陽しゃよう」という言葉ことばに「没落ぼつらく」という意味いみが加くわえられた、とも言いわれています。没落ぼつらく貴族きぞくを「斜陽しゃよう族ぞく」と呼よび、潰つぶれていこうとする企業きぎょうや産業さんぎょうを「斜陽しゃよう産業さんぎょう」と呼よぶようになったのも、本ほん作さくの影響えいきょうなのです。

また、バンド「Mr.Children」のアルバム『REFLECTION』に収録しゅうろくされている『斜陽しゃよう』という曲きょくも、本ほん作さくがモチーフであるとボーカルの桜井さくらい和寿かずとしが語かたっていました。歌詞かしのなかの、

時どきの流ながれ　音おとをたてぬ速はやさで　様々さまざまなものに翳かげりをあたえていく
（Mr.Children『REFLECTION』収録しゅうろく曲きょく『斜陽しゃよう』より引用いんよう）

という辺あたりが、まさしく小説しょうせつ『斜陽しゃよう』ですね。

しかし、かず子この「斜陽しゃよう」は没落ぼつらくして終おわりではありません。「暗くらい」の一言ひとことで片かたづけられやすい太宰だざい作品さくひんですが、本ほん作さくはむしろ、ラストに希望きぼうや強つよさが立たち上のぼってくる作品さくひんなのです。

『斜陽しゃよう』の背景はいけいと登場とうじょう人物じんぶつを紹介しょうかい！

本ほん作さくは、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん敗戦はいせん後ごの日本にっぽんが舞台ぶたいです。かず子こたち華族かぞくだけでなく、日本にっぽんという国くにそのものが憂うき目めにあっていた頃ころでした。

主人公しゅじんこう・かず子こは29歳さい。「斜陽しゃよう」しつつある運命うんめいのなかで、もっとも順応じゅんのうが早はやいのが彼女かのじょです。畑はたけを耕たがやしたり、母ははの着物きものを売うったりしながら華族かぞくらしくない暮くらしを受うけ入いれていき、そういうことのできる自分じぶんを誇ほこらしく感かんじたりもします。

しかし、その一方いっぽうで、いつまでも華族かぞくらしく上品じょうひんで美うつくしい母ははには、憧憬どうけいの念ねんを抱いだき続つづけていました。

華族かぞくとしての暮くらしが長ながかった母ははは、華族かぞくでなくなることを受うけ入いれられません。そんな彼女かのじょは「最後さいごの貴族きぞく」としての品位ひんいを保たもったまま、少すこしずつ弱よわっていきます。

かず子この弟おとうと・直治なおじは、華族かぞくであっただけでなく自称じしょう・芸術げいじゅつ家かで、ちっとも現実げんじつには目めを向むけません。心しんの弱よわい彼かれは家いえの金かねを持もち出だして、既婚きこんの小説しょうせつ家か・上原うえはらのもので荒すさんだ生活せいかつを送おくり続つづけます。

彼かれの心しんが弱よわいということは、裏うらを返かえせば繊細せんさいで優やさしいということ。荒すさんだ暮くらしをしながらも、彼かれは姉あねや母ははに対たいしては思おもいやり深ふかく、優やさしい青年せいねんでした。

そんな彼かれの友人ゆうじんであった小説しょうせつ家か・上原うえはらは、既婚きこんにも関かかわらず、かず子こと恋愛れんあい関係かんけいに陥おちいります。彼かれもまた、直治なおじ同様どうように弱よわい男おとこでした。かず子この人生じんせいに影響えいきょうを与あたえますが、それは彼かれが光ひかり輝かがやいていたからではなく、かず子こが強つよかったからなのです。

考察こうさつ①『斜陽しゃよう』の物語ものがたりは太宰だざい治おさむ自身じしん？名家めいかであった実家じっかの没落ぼつらくを描えがいた作品さくひん

太宰だざいは、津軽つがるの生家せいかである津島つしま家かで終戦しゅうせんを迎むかえました。「金木かなぎの殿様とのさま」と呼よばれるほどであった自分じぶんの生家せいかが敗戦はいせんのあおりを受うけて没落ぼつらくしていくさまを見みた彼かれは、「『桜さくらの園えん』だ。『桜さくらの園えん』そのままではないか。」とくり返がえし言いったそうです。

彼かれは、終戦しゅうせん後ごの実家じっかがチェーホフの『桜さくらの園えん』という戯曲ぎきょくのように寂さびれてしまったことに衝撃しょうげきを受うけ、『斜陽しゃよう』を描えがいたのでした。本ほん作さくが『桜さくらの園えん』の影響えいきょうを受うけていることは、太宰だざい自身じしんも認みとめています。

桜さくらの園えん・三さん人にん姉妹しまい (新潮しんちょう文庫ぶんこ)

著者ちょしゃ

チェーホフ

出版しゅっぱん日び

1967-09-01

ただし、本ほん作さくを執筆しっぴつしている時期じきに彼かれと不倫ふりん関係かんけいにあった太田おおた静子しずこの日記にっきも参考さんこうにしたらしく、途中とちゅうからは『桜さくらの園えん』の内容ないようとはかけ離はなれてしまったようです。最終さいしゅう的てきには、どちらかといえば静子しずこの日記にっきの影響えいきょうが色濃いろこくなり、没落ぼつらくよりも恋こいが中心ちゅうしんとなったなどとも言いわれています。

かず子こは静子しずこ、上原うえはらは太宰だざい自身じしんをモデルにしており、箇所かしょによっては静子しずこの日記にっきをほとんどそのまま書かき写うつしたと、後のちに太宰だざいと静子しずこの娘むすめ・太田おおた治子はるこが明あかしています。

考察こうさつ②胸むねに刺ささる名言めいげん！孤独こどくのなかで、幸福こうふくとは何なになのかを模索もさくする主人公しゅじんこう

弱よわりゆく母ははと、荒廃こうはいしていく直治なおじの間あいだで、かず子こはしだいに孤独こどくを覚おぼえるようになります。誰だれにも相談そうだんできず、どちらかといえば2人ふたりを支ささえていかなければならない立場たちばから、いつしか幸福こうふくというものについて考かんがえを巡めぐらすようになっていくのです。

幸福こうふく感かんというものは、
悲哀ひあいの川かわの底そこに沈しずんで、幽かすかに光ひかっている砂金さきんのようなものではないだろうか。
悲かなしみの限かぎりを通とおり過すぎて、不思議ふしぎな薄うす明あかりの気持きもち、
あれが幸福こうふく感かんというものならば、
陛下へいかも、お母かあさまも、それから私わたしも、たしかにいま、幸福こうふくなのである。
（『斜陽しゃよう』より引用いんよう）

これが、さまざまな悲かなしみを味あじわった後のちの、かず子この結論けつろんです。幸福こうふくというものを、決けっして晴はれやかで華はなやかなものと捉とらえていないこの名言めいげんは、明あかるく振ふる舞まっている彼女かのじょの、本当ほんとうの悲かなしみを映うつし出だしています。

本当ほんとうは悲かなしくて、孤独こどくで、寂さびしかったかず子こ。だからこそ、上原うえはらとの禁断きんだんの恋こいに陥おちいってしまったのかもしれません。恋こいをしてからの、

不良ふりょうとは、優やさしさの事ことではないかしら。

 他たの生いき物ものには絶対ぜったいになくて、人間にんげんだけにあるもの。
それはね、ひめごとというものよ。
（『斜陽しゃよう』より引用いんよう）

といった彼女かのじょの言葉ことばも、恋こいをした人ひとの共感きょうかんを呼よぶ名言めいげんだといえますね。

考察こうさつ③かず子この手紙てがみ。「MC」は誰だれのこと？その意味いみとは

かず子こが、直治なおじの悪友あくゆうであり、自身じしんの恋こいの相手あいてである上原うえはらにあてた手紙てがみには、「MC」という言葉ことばが書かかれています。

「MC」は、かず子こが上原うえはらに恋こいをし始はじめた頃ころは「マイ・チェーホフ」という意味いみで、作家さっかである彼かれを文豪ぶんごうのチェーホフのようだと称たたえる言葉ことばでした。恋愛れんあい初期しょきの彼女かのじょにとっては、彼かれがチェーホフのごとく才能さいのうあふれて輝かがやく存在そんざいに思おもえたのでしょう。

上原うえはらという人間にんげんのことがよくわかりはじめてからのかず子こは、「MC」を「マイ・チャイルド」にあらためます。格好かっこうをつけているだけの彼かれを「子供こどものようだ」と捉とらえるようになったのかもしれません。口先くちさきで、理想りそうだの革命かくめいだの言いいながら、実じつは幸しあわせな家庭かていで安心あんしん感かんに浸つかりながら生活せいかつしている凡庸ぼんような上原うえはらを揶揄やゆしていたのでしょう。

そして、ラストの「MC」は「マイ・コメディアン」。かず子こも上原うえはらもさまざまな悲劇ひげきに見舞みまわれましたが、結局けっきょく自分じぶん達たちは喜劇きげき中ちゅうの登場とうじょう人物じんぶつだったと、自虐じぎゃく的てきに揶揄やゆしていたのかもしれません。

彼女かのじょは物語ものがたりの最後さいご、上原うえはらに手紙てがみを送おくります。そして自身じしんが産うんだ子供こどもについて「直治なおじがある女おんなに生うませた子こ」という一言ひとことを添そえて、上原うえはらの妻つまに子供こどもを抱いだかせることを望のぞむのです。

これは、正妻せいさいに自分じぶんと上原うえはらの子こをそうだとは悟さとらせずに抱いだかせるという嫌いやがらせの側面そくめんと、直治なおじが上原うえはらの妻つまに抱だいていた恋心こいごころを成就じょうじゅさせてやろうという側面そくめんを持もつ、とても複雑ふくざつなものとなっています。

物語ものがたり最後さいごのかず子この言動げんどうは、「最後さいご」というより「戦闘せんとう開始かいし」のような力強ちからづよさを持もつものなので、読よみ方かたによってさまざまな解釈かいしゃくができます。そうしたところが、また本ほん作さくの魅力みりょくなのでしょう。

考察こうさつ④：小説しょうせつ『斜陽しゃよう』の結末けつまつとは？小説しょうせつで描えがかれる、恋こいと革命かくめい

上原うえはらとの恋こいを経へて、

人間にんげんは恋こいと革命かくめいのために生うまれて来きたのだ。
（『斜陽しゃよう』より引用いんよう）

と断言だんげんするようになったかず子こからは、女性じょせいというものの強つよさを感かんじとらずにはいられません。ただ口くちにするだけでなく、彼女かのじょは本当ほんとうに自分じぶんで、自身じしんの生いきる道みちを切きり開ひらいていくのです。

「革命かくめい」というと、世よの中なかや政治せいじを変かえていくことだと考かんがえてしまいがちでしょう。しかし、我々われわれは彼女かのじょから、「自分じぶんの生いきる道みちを、自分じぶん自身じしんで見定みさだめて切きり開ひらいていくことこそが、革命かくめいだ」ということを学まなぶのです。

斜陽しゃよう・人間にんげん失格しっかく・桜桃おうとう・走はしれメロス 外がい七なな篇へん (文春ぶんしゅん文庫ぶんこ)

著者ちょしゃ

太宰だざい 治おさむ

出版しゅっぱん日び

太宰だざい治おさむは「かくめい」という、以下いかのよういな短みじかい文章ぶんしょうを書かいています。

じぶんで、したことは、そのように、はっきり言いわなければ、
かくめいも何なにも、おこなわれません。
じぶんで、そうしても、他たのおこないをしたく思おもって、
にんげんは、こうしなければならぬ、などとおっしゃっているうちは、
にんげんの底そこからの革命かくめいが、いつまでも、できないのです。
（『かくめい』より引用いんよう）

これは、『斜陽しゃよう』を読よんで我々われわれがたどり着つく結論けつろんと、同おなじことを述のべています。「こうでなければならない」といった道徳どうとくや常識じょうしきに縛しばられているうちは、革命かくめいなんて起おきないし、起おこせません。

かず子こは敗戦はいせん後ごまもなくの日本にっぽんで、誰だれかに訴うったえかけるわけでもなく、静しずかにそれらに反旗はんきを翻ひるがえすのです。その姿すがたに強つよい感動かんどうを覚おぼえない人ひとはいないでしょう。

『斜陽しゃよう』は誰だれの立場たちばで読よむか、自分じぶんは今いまどんな状況じょうきょうにあるかによって、見みえ方かたの変かわる作品さくひんです。ご紹介しょうかいした以外いがいにも琴線きんせんにふれる名言めいげんがたくさんあるので、ぜひご一読いちどくください。