18歳から25歳までの誕生日『誕生日のできごと』
主人公は、変わり者の姉をかっこいいと思う恵里。彼女の18歳から25歳までの誕生日の出来事を定点観測的に描く連作短編です。
- 著者
- 加藤千恵
- 出版日
- 2010-09-07
恋愛、進学、就職、車の免許取得などを通して、主人公の変化、成長を表現します。親しかった友人と疎遠になったり、姉の人生が予想外のものになっていたり、読者の心に残る場面は多いはず。
各章のタイトル名は、ハヤシライス、バーニャカウダ、カップ麺など、その年の誕生日に食べた物で、本作の象徴的なテーマに繋がっています。おいしそうな料理についての記述豊富にあるのも、本作の特徴かもしれません。
恋愛の比重は大きいですが、ひとりの女性の成長の記録として、とても自然に読むことができますよ。
舞台は、い伝えのある中学校『春へつづく』
本連作短編集では、生まれて初めての相手に告白をしようする少年、母親から「お父さんはミュージシャンの岡村靖幸よ」とい聞かされてきた少女、自称「本の森の番人で1200歳」の図書館司書などの物語が、地方都市の中学校を舞台に展開されます。地方都市のモデルは、北海道・旭川市。それぞれの短編は「卒業式の日に開かずの教室に入ったら願いが叶う」という学校のい伝えによって繋がっていて、最終話で伏線がみごとにまとまります。
- 著者
- 加藤千恵
- 出版日
- 2013-05-01
中学生の日常シーンを淡々と描く話は、どれもバットエンド傾向にありますが、後味は悪くありません。
ただ、中学生にしては少々達観しすぎているような場面や、逆に大人の行動は衝動的で子どもっぽいと思わせる場面もあります。加藤千恵の計算ずくの表現だったらすごいのですが、どうなのでしょう。
読後には、ふうっと春を感じるような1冊。切ないけれど癒されます。
同じ映画を観た女性たちのストーリー『映画じゃない日々』
本連作短編の主人公の年齢や境遇は、バラバラ。彼女たちの共通項は、「ある映画館でレディースデーにある映画を観ている」こと。同じ映画館で同じ映画を観ていても、映画を観にきた理由も感想も、その後の行動もまったく違います。それらの様子を眺める感覚がとても面白い作品です。
- 著者
- 加藤 千恵
- 出版日
- 2012-10-12
それぞれの作品後に短歌が添えられている点は、歌人である作者ならでは。短歌は本文の行間に描かれた心境などを表現しており、重要な役割を果たしています。また、すべての作品が「○○じゃない××」というタイトルで統一されており、とても洒落た構成です。
映画好きにはもちろん、映画好きでない方にもとても響く1作です。