ええじゃないか

ええじゃないかは、日本にっぽんの江戸えど時代じだい末期まっきの慶応けいおう3年ねん（1867年ねん）8月がつから12月がつにかけて、近畿きんき、四国しこく、東海とうかい地方ちほうなどで発生はっせいした騒動そうどう。「天てんから御札おさつ（神かみ符ふ）が降ふってくる、これは慶事けいじの前触まえぶれだ」という話はなしが広ひろまるとともに、民衆みんしゅうが仮装かそうするなどして囃子はやし言葉ことばの「ええじゃないか」等とうを連呼れんこし、集団しゅうだんで町まちを練ねり歩あるきながら熱狂ねっきょう的てきに踊おどった。大政奉還たいせいほうかん、王政おうせい復古ふっこの大だい号令ごうれいの時期じきである。

「ええじゃないか」騒動そうどうに興きょうじる人々ひとびと

伊勢神宮いせじんぐうの御札おさつが降ふるおかげ参まいりと違ちがい、ええじゃないかの御札おさつは地域ちいきで信仰しんこうされている社寺しゃじの御札おさつが降ふったため、現地げんちで祭祀さいしが行おこなわれる事ことが多おおかった。降くだ札さつがあると、藩はんに届とどけ出でた上うえで屏風びょうぶを置おく、笹竹ささたけで家いえを飾かざる、酒さけや肴さかなを供そなえるなどして町まち全体ぜんたいで札さつを祀まつった。名古屋なごやの場合ばあい、降くだ札さつ後ごの祭事さいじは7日間にちかんに及および、その間あいだは日常にちじょう生活せいかつが麻痺まひした。

目的もくてき

その目的もくてきは定さだかでない。囃子はやし言葉ことばと共ともに政治せいじ情勢じょうせいが歌うたわれたことから、世直よなおしを訴うったえる民衆みんしゅう運動うんどうであったと一般いっぱん的てきには解釈かいしゃくされている。これに対たいし、倒幕とうばく派はが国内こくないを混乱こんらんさせるために引ひき起おこした陽動ようどう作戦さくせんだったという噂うわさを紹介しょうかいするものもある。

歌詞かし

岩倉いわくら具視ともみの『岩倉いわくら公こう実記じっき』によると、京きょうの都下とかにおいて、神かみ符ふがまかれ、ヨイジャナイカ、エイジャナイカ、エイジャーナカトと叫さけんだという。八はち月がつ下旬げじゅんに始はじまり十じゅう二に月がつ九きゅう日にち王政おうせい復古ふっこの大だい号令ごうれい発令はつれいの日ひに至いたりて止やむ、とあり、明治維新めいじいしん直前ちょくぜんの大衆たいしゅう騒動そうどうだったことがわかる。また、ええじゃないか、の語源ごげんは、京きょうの都下とかで叫さけばれた言葉ことばであったようだ。

歌詞かしは各地かくちで作つくられ、例たとえば「今年ことしは世よ直なおりええじゃないか」（淡路あわじ）、「日本にっぽん国こくの世よ直なおりはええじゃないか、豊年ほうねん踊おどりはお目め出でたい」（阿波あわ）といった世直よなおしの訴うったえのほか、「御ごかげでよいじゃないか、何なにんでもよいじゃないか、おまこに紙かみ張はれ、へげたら又またはれ、よいじゃないか」（淡路あわじ）という性せいの解放かいほう、「長州ちょうしゅうがのぼた、物ものが安やすうなる、えじゃないか」（西宮にしのみや）、「長州ちょうしゅうさんの御ご登のぼり、えじゃないか、長ちょうと醍と、えじゃないか」（備後びんご）の政治せいじ情勢じょうせいを語かたるもの、などがあった。

島崎しまざき藤村とうそん『夜明よあけ前まえ』では以下いかの例れいが記述きじゅつされている。

ええじゃないか、ええじゃないか
挽ひいておくれよ一番いちばん挽ひきを
二に番ばん挽ひきにはわしが挽ひく
ええじゃないか、ええじゃないか

ええじゃないか、ええじゃないか
臼うすの軽かるさよ相手あいてのよさよ
相手あいてかわるなあすの夜よるも
ええじゃないか、ええじゃないか

ええじゃないか、ええじゃないか
こよい摺する臼うすはもう知しれたもの
婆ばば々さ夜食やしょくの鍋なべかけろ
ええじゃないか、ええじゃないか

お蔭かげ参まいり

お蔭かげ参まいりとは、お札さつが降ふるなど神かみ異ことのうわさをきっかけにして庶民しょみんが奉公ほうこう先さきから抜ぬけ出だし、伊勢参いせまいりに出でかける人ひとが急増きゅうぞうする現象げんしょうのことで、江戸えど時代じだいには元和がんわ3年ねん（1617年ねん）、慶安けいあん年間ねんかん（1648年ねん - 1652年ねん）、宝永ほうえい2年ねん（1705年ねん）、明和めいわ8年ねん（1771年ねん）、文政ぶんせい13年ねん・天保てんぽう元年がんねん（1830年ねん）というように約やく60年ねん周期しゅうきで自然しぜん発生はっせい的てきに繰くり返かえされた。いずれも期間きかんは3か月げつから5か月げつで終おわっている。明和めいわのお陰かげ参まいりの記録きろくでは300 - 400万まん人にんが伊勢いせに殺到さっとうした。十じゅう代だい将軍しょうぐん徳川とくがわ家治いえはるの時代じだいであり、享とおる保ほ年間ねんかんの日本にっぽんの人口じんこう統計とうけいでは当時とうじの人口じんこうは約やく2200万まん人にんであった。文政ぶんせい13年ねんのお蔭かげ参まいりは3か月げつで約やく500万まん人にんが伊勢いせに押おしかけたと記しるされている。お蔭かげ参まいりに参加さんかする者ものに対たいしては、大だい商人しょうにんがあって、店舗てんぽや屋敷やしきの開放かいほう、弁当べんとう・草鞋わらじの配布はいふを行おこなった。

研究けんきゅうの時とき系列けいれつ

最もっとも古ふるい研究けんきゅう文献ぶんけんは山口やまぐち吉一よしかずの『阿波あわえゝぢやないか』（徳島とくしま土俗どぞく芸術げいじゅつ研究所けんきゅうじょ、1931年ねん）であり、世直よなおしの願望がんぼうについて触ふれている。

次つぎに、藤谷ふじたに俊雄としお『「おかげまいり」と「ええじゃないか」』（岩波書店いわなみしょてん、1968年ねん）があげられる。同書どうしょでは慶応けいおう3年ねん8月がつ 尾張おわりが最初さいしょであると指摘してきされている。おかげまいりとの関連かんれんを指摘してきする。

京阪けいはん発祥はっしょう説せつ (京都きょうと発祥はっしょう説せつ)

京阪けいはん発祥はっしょう説せつは、岩倉いわくら具視ともみや福地ふくち源一郎げんいちろうなどの同どう時代じだい人じんの証言しょうげんや西宮にしのみや市し史しなどの近畿きんき地方ちほうの史料しりょうに基もとづく。

• 『岩倉いわくら公こう実記じっき』の記述きじゅつ。八はち月がつ下旬げじゅんに始はじまり十じゅう二に月がつ九きゅう日にち王政おうせい復古ふっこ発令はつれいの日ひに至いたりて止やむ。

• 1897年ねん、福地ふくち源一郎げんいちろう（幕臣ばくしん・ジャーナリスト）の「懐ふところ往事おうじ談だん」の記述きじゅつ。慶応けいおう3年ねん11月29日にちに大だい坂さかでええじゃないかを目撃もくげきし「或あるいは云うんふ。此御札さつ降ぶりは京都きょうと方かたの人々ひとびとが人心じんしんを騒擾そうじょうせしむる為ために施ほどこしたる計略けいりゃくかりと。其その果はたして然しかるや否いなやを知しざれども」と、原因げんいんに関かんする噂うわさについても記述きじゅつしている。

• 『西宮にしのみや市し史し』では、京都きょうとに始はじまり、大坂おおさかに移動いどうと記述きじゅつ。

• 1933年ねん、中山なかやま太郎たろう『日本にっぽん民俗みんぞく学がく辞典じてん』 、オフダガフル、慶応けいおう2年ねん - 慶応けいおう3年ねんの現象げんしょう。西宮にしのみや説せつと伊勢いせ説せつの両りょう説せつあり。伊勢いせ説せつは見聞けんぶん録ろくによる。当代とうだい記きに、文ぶん禄ろくのころに、伊勢神宮いせじんぐうの御札おさつが降ふったのが最初さいしょ。

• 1937年ねん、国書刊行会こくしょかんこうかい『静岡しずおか県けん鄉土きょうど研究けんきゅう』』第だい 9 - 11 巻かん（1937年ねん）、「御札おさつ降くだは京きょう坂ざかに始はじまり関西かんさい各地かくちに波及はきゅうし、東海道とうかいどうは遠江とおとうみ,駿河するが,伊豆いずの北部ほくぶまで及およんだ。」という記述きじゅつがある。

• 1937年ねん、大口おおぐち喜六きろく『国史こくし上じょうより観みたる豊橋とよはし地方ちほう』、豊橋とよはし発祥はっしょう説せつの主張しゅちょう見みられず。 御蔭おかげ参まいり＝御札おさつ降ぶり＝よいぢゃないか を同一どういつ視しする。御蔭おかげ参まいりが8月がつ - 12月と記述きじゅつ。曲尺手かねんて、船ふな町まち、札木ふだきの名前なまえはあるが、牟呂むろと羽田はたの名前なまえはない。京都きょうと方かたの策動さくどうによるものと指摘してき。

• 1939年ねん 、『一宮いちのみや市し史し』第だい3巻かん（1939年ねん）では、慶応けいおう3年ねん9月がつ11日にち頃ごろ、三河そうご国吉田くによしだ付近ふきんで始はじまり、次つぎに名古屋なごやに移うつった、ただし、8月がつより京阪けいはん地方ちほうで始はじまるという説せつもあるという紹介しょうかいがなされている。

東海とうかい地方ちほう発祥はっしょう説せつ

東海とうかい地方ちほう発祥はっしょう説せつは比較的ひかくてき新あたらしい説せつである。

東海とうかい地方ちほう発祥はっしょう説せつの研究けんきゅうの時とき系列けいれつは以下いかの通とおり。

文献ぶんけん	出版しゅっぱん年ねん	発生はっせい日時にちじ	発生はっせい場所ばしょ
藤谷ふじたに俊雄としお『「おかげまいり」と「ええじゃないか」（岩波書店いわなみしょてん）』	1968年ねん（昭和しょうわ43年ねん）	慶応けいおう3年ねん8月がつ	尾張おわり国こく
西垣にしがき晴はる次じ『ええじゃないか』（新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ）	1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）	慶応けいおう3年ねん8月がつ15日にち	遠江とおとうみ国こく見附みつけ宿やど（静岡しずおか県けん磐田いわた市し）
『豊川とよかわ市し史し』	1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）	8月がつ4日にち	三河みかわ国こく御油ごゆ宿やど（愛知あいち県けん豊川とよかわ市し）
高木たかぎ俊輔しゅんすけ『ええじゃないか』（教育きょういく社しゃ）	1979年ねん（昭和しょうわ54年ねん）	慶応けいおう3年ねん7月がつ22日にち以前いぜん	三河みかわ国吉くにきち田宿たじゅく羽田はねだ八幡宮はちまんぐう付近ふきん（愛知あいち県けん豊橋とよはし市し）
田村たむら貞雄さだお『ええじゃないか始はじまる』（青木あおき書店しょてん）	1987年ねん（昭和しょうわ62年ねん）	慶応けいおう3年ねん7月がつ14日にち	三河みかわ国吉くにきち田宿たじゅく牟呂むろ八幡宮はちまんぐう付近ふきん（愛知あいち県けん豊橋とよはし市し）

このように最新さいしんの研究けんきゅうほど発生はっせい日び時じが早はやいと主張しゅちょうしている。これらは『岩倉いわくら公こう実記じっき』に見みえる京都きょうと・8月がつ下旬げじゅんより1か月げつ以上いじょう早はやい。

また、尾張おわり名古屋なごや説せつ発表はっぴょう以後いご、静岡しずおか県けん磐田いわた市し、愛知あいち県けん豊川とよかわ市し、愛知あいち県けん豊橋とよはし市しと、近隣きんりん地域ちいきで、起源きげん論争ろんそうが始はじまっていることがわかる。

豊橋とよはし市し説せつ

戦後せんごになって開示かいじされた「森田もりた家か文書ぶんしょ」の影響えいきょうが大おおきい。牟呂むろ八幡宮はちまんぐう神主かんぬし森田もりた光ひかり尋ひろの慶応けいおう当時とうじのメモ書がきである「留とめ記き（とめき）」（豊橋とよはし市し図書館としょかん所蔵しょぞう）によると、慶応けいおう3年ねん7月がつ14日にちに「御ご祓はらい」と記載きさいされ、この御ご祓はらいが、伊勢神宮いせじんぐうの札さつという説せつがある。1980年代ねんだいに研究けんきゅうが進すすむ。

名古屋なごや市し説せつ

1983年ねん（昭和しょうわ58年ねん）に製作せいさくされたアニメ『まんが日本にっぽん史し』では、幕末ばくまつのええじゃないか騒動そうどう発祥はっしょうは名古屋なごやになっていた。1988年ねん（昭和しょうわ63年ねん）発行はっこうの小学館しょうがくかんの日本にっぽん国語こくご大だい辞典じてんでも名古屋なごやが発祥はっしょうとなっている。

なお、田村たむら貞雄さだお『ええじゃないか始はじまる』には、1867年ねん(慶応けいおう3年ねん)の3月がつ18日にちに名古屋なごやで伊勢いせ内宮ないくうの御札おさつが降おりた、という記述きじゅつがあり、伊那いな市し史し 歴史れきし編へんにおいても、春はるのころからという説せつもあると紹介しょうかいされている。

豊川とよかわ市し説せつ

平凡社へいぼんしゃマイペディアでは、慶応けいおう3年ねん8月がつ4日にち（1867年ねん9月がつ1日にち）、東海道とうかいどうの御油ごゆ宿やど（愛知あいち県けん豊川とよかわ市し御油ごゆ）に秋葉神社あきばじんじゃの火ひ防ぼうの札さつが降下こうかしたのが最初さいしょという。

御札おさつ降ぶりとええじゃないかと御蔭おかげ参まいり

もともと御札おさつ降ふり、ええじゃないか、御蔭おかげ参まいりはまったくの別個べっこのものである。

近畿きんきや四国しこくなどの西日本にしにほん圏けんでは、ええじゃないか、という掛かけ声ごえが見みられるものの、東海とうかい地方ちほうではそうした掛かけ声ごえはなく、御札おさつ降ぶりのみ共通きょうつう点てんが見みられる。また、東海とうかい地方ちほうでは、狂乱きょうらん騒動そうどうを御ご鍬くわ祭まつりや御蔭おかげ参まいり（伊勢神宮いせじんぐう参拝さんぱい）に結むすび付つけて、共通きょうつう点てんとするという解釈かいしゃくがなされている。

ええじゃないかという掛かけ声ごえを要件ようけんとすれば、『岩倉いわくら公こう実記じっき』の記述きじゅつをもって、京都きょうと発祥はっしょう説せつになる。福地ふくち源一郎げんいちろうの懐ふところ往事おうじ談だんにおいても、京都きょうと方かたの策動さくどうという噂うわさがあったが真偽しんぎのほどはわからないと記述きじゅつされている。近畿きんき・四国しこくでは、いずれも、よいじゃないか、ええじゃないか、という掛かけ声ごえを伴ともなう。

東海とうかい地方ちほう発祥はっしょう説せつでは御札おさつ降ぶりや狂乱きょうらん騒動そうどうを共通きょうつう点てんとみなし、御蔭おかげ参まいりに関連かんれんするものとして、7月がつ・8月発祥はっしょう説せつを掲かかげるものの、ええじゃないかに相当そうとうする掛かけ声ごえや世直よなおしの願望がんぼうについては要件ようけん外がいにしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 高木たかぎ俊輔しゅんすけ 『ええじゃないか』 教育きょういく社しゃ歴史れきし新書しんしょ、1979年ねん（昭和しょうわ54年ねん）、238頁ぺーじ。

関連かんれん項目こうもく

• 伊勢いせ踊おどり
• 日本にっぽん史しの出来事できごと一覧いちらん
• ダンシングマニア
• サ・イラ

外部がいぶリンク

• 南みなみ和男かずお「京都きょうとの「ええじゃないか」について」『駒澤こまざわ史学しがく』42巻かん p.1-17, 1990年ねん9月がつ, 駒沢大学こまざわだいがく歴史れきし学がく研究けんきゅう室しつ内ない駒沢こまざわ史し学会がっかい, ISSN 04506928
• 南みなみ和男かずお「名古屋なごやの「ええじゃないか」について」『駒澤大學こまざわだいがく文學部ぶんがくぶ研究けんきゅう紀要きよう』51巻かん p.1-23, 1993年ねん3月がつ, 駒澤大学こまざわだいがく,ISSN 04523636
• 渡辺わたなべ良りょう智さとし「「ええじゃないか」の民衆みんしゅう運動うんどう(I)」『青山學院女子短期大學あおやまがくいんじょしたんきだいがく紀要きよう』第だい46巻かん、1992年ねん12月、181-198頁ぺーじ、CRID 1390009224575920640、doi:10.34321/826、ISSN 0385-6801。 
• 渡辺わたなべ良りょう智さとし「「ええじゃないか」の民衆みんしゅう運動うんどう(II)」『青山學院女子短期大學あおやまがくいんじょしたんきだいがく紀要きよう』第だい50巻かん、1996年ねん12月、251-284頁ぺーじ、CRID 1390290699552640640、doi:10.34321/897、ISSN 0385-6801。