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アイソフォーム - Wikipedia

タンパク質たんぱくしつアイソフォームえい: Protein isoform)またはバリアント(variant)[1]は、単一たんいつ遺伝子いでんしまたは遺伝子いでんしファミリー由来ゆらいする、類似るいじした一連いちれんタンパク質たんぱくしつ意味いみする。おおくの場合ばあいかくアイソフォームは同一どういつもしくは類似るいじした生物せいぶつがくてき役割やくわりたすが、一部いちぶのアイソフォームにのみ特有とくゆう機能きのう存在そんざいしている場合ばあいもある。一連いちれんのアイソフォームは、選択せんたくてきスプライシング転写てんしゃ利用りようされるプロモーター差異さいやその転写てんしゃ修飾しゅうしょくなどによって形成けいせいされるが、翻訳ほんやく修飾しゅうしょくによってしょうじた差異さいはアイソフォームとしては考慮こうりょされないのが一般いっぱんてきである。

Protein A、B、Cは、選択せんたくてきスプライシングによってしょうじた、同一どういつ遺伝子いでんしにコードされるアイソフォームである。

選択せんたくてきスプライシングが関与かんよする機構きこうでは、スプライシング過程かてい遺伝子いでんしじょうことなるエクソンタンパク質たんぱくしつコード領域りょういき)が選択せんたくされたり、エクソンのことなる部分ぶぶん選択せんたくされたりすることによって、1種類しゅるいmRNA前駆ぜんくたいから複数ふくすう種類しゅるいmRNA配列はいれつ形成けいせいされる。

さまざまなアイソフォーム形成けいせい機構きこう発見はっけんされたことで、ヒトゲノム計画けいかくあきらかにされたタンパク質たんぱくしつコード遺伝子いでんしかず個体こたいつかるタンパク質たんぱくしつ多様たようせいとのあいだ乖離かいり説明せつめいできるようになった。すなわち、同一どういつ遺伝子いでんし複数ふくすうことなるタンパク質たんぱくしつがコードされることで、プロテオーム多様たようせい増大ぞうだいしているのである。かくアイソフォームはcDNA解析かいせきによって容易ようい同定どうていすることができ、ヒトの遺伝子いでんしおおくで選択せんたくてきスプライシングによって複数ふくすうのアイソフォームが形成けいせいされることが確認かくにんされている。かくアイソフォームあいだ差異さいタンパク質たんぱくしつ表面ひょうめん位置いちする部分ぶぶんしょうじていることがおおく、ドメイン全体ぜんたいかけしつやループ部分ぶぶん短縮たんしゅくなどがしょうじていることがおお[2]

概説がいせつ

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かく遺伝子いでんしは、構造こうぞう組成そせいことなる複数ふくすう種類しゅるいタンパク質たんぱくしつさんせいする能力のうりょくゆうしている場合ばあいがある[3][4]。この過程かていおもにmRNAの選択せんたくてきスプライシングによって調節ちょうせつされるが、こうした過程かていがヒトのプロテオームの多様たようせいにどの程度ていど影響えいきょうおよぼしているのかはあきらかではない。というのも、mRNA転写てんしゃ産物さんぶつレベルでのかくアイソフォームの存在そんざいりょうタンパク質たんぱくしつレベルでのかくアイソフォームの存在そんざいりょうとはかならずしも相関そうかんしているわけではないからである[5]

翻訳ほんやくされたかくアイソフォームの特異とくいせいは、タンパク質たんぱくしつ構造こうぞう機能きのう、ならびに細胞さいぼうしゅやそれらがさんされた発生はっせい段階だんかいによって決定けっていされる[3][4]タンパク質たんぱくしつ複数ふくすうのサブユニットからなり、そのかくサブユニットに複数ふくすうのアイソフォームが存在そんざいするときには、特異とくいせい決定けっていはより複雑ふくざつなものとなる。

たとえば、ヒトの細胞さいぼうでさまざまな機能きのうたすAMP活性かっせいプロテインキナーゼ(AMPK)は3つのサブユニットからなる[6]

  • αあるふぁサブユニットは触媒しょくばいサブユニットで、2つのアイソフォームが存在そんざいする。αあるふぁ1とαあるふぁ2はそれぞれPRKAA1PRKAA2遺伝子いでんしにコードされている。
  • βべーたサブユニットは調節ちょうせつサブユニットで、2つのアイソフォームが存在そんざいする。βべーた1とβべーた2はそれぞれPRKAB1PRKAB2遺伝子いでんしにコードされている。
  • γがんまサブユニットは調節ちょうせつサブユニットで、3つのアイソフォームが存在そんざいする。γがんま1、γがんま2、γがんま3はそれぞれPRKAG1PRKAG2PRKAG3遺伝子いでんしにコードされている。

ヒトの骨格こっかくすじ優先ゆうせんてき形成けいせいされるのはαあるふぁ2β2γ1であるが、肝臓かんぞうもっと豊富ほうふなのはαあるふぁ1β2γ1である[6]

 
RNAスプライシングのさまざまなメカニズム

複数ふくすうのアイソフォームがつくされる主要しゅよう機構きこうは、選択せんたくてきスプライシングとプロモーター利用りよう差異さいであるが、変異へんいかたといった遺伝いでんてき変化へんかによる修飾しゅうしょくことなるアイソフォームとして認識にんしきされることもある[7]

選択せんたくてきスプライシングはmRNA転写てんしゃ産物さんぶつのアイソフォームをつく主要しゅよう転写てんしゃ修飾しゅうしょく過程かていであり、タンパク質たんぱくしつ多様たようせい寄与きよする主要しゅよう分子ぶんし機構きこうである[4]巨大きょだいリボヌクレオタンパクしつであるスプライソソームは、かくうちでRNAの切断せつだん連結れんけつにな分子ぶんし装置そうちであり、タンパク質たんぱくしつをコードしない領域りょういきイントロン)を除去じょきょする[8]

スプライシングは転写てんしゃ翻訳ほんやくあいだこる過程かていであり、スプライシングがおよぼす主要しゅよう影響えいきょうゲノミクス技術ぎじゅつもちいて研究けんきゅうおこなわれてきた。たとえば、マイクロアレイ解析かいせきRNAシーケンシング英語えいごばん選択せんたくてきスプライシングをけた転写てんしゃ産物さんぶつ同定どうていやそのりょう測定そくてい利用りようされてきた[7]かく転写てんしゃ産物さんぶつ存在そんざいりょうかくアイソフォームのタンパク質たんぱくしつレベルでの存在そんざいりょう代替だいたいてき指標しひょうとしてしばしばもちいられるが、ゲル電気でんきおよげどう質量しつりょう分析ぶんせきもちいたプロテオミクス実験じっけんからは、転写てんしゃさん物量ぶつりょうタンパク質たんぱくしつりょう相関そうかんはしばしばひくく、通常つうじょうはいずれか1つのタンパク質たんぱくしつアイソフォームがだい部分ぶぶんめていることがしめされている[9]。このRNAレベルとタンパク質たんぱくしつレベルの相違そうい翻訳ほんやく段階だんかいこっているようであることが2015ねん研究けんきゅうしめされているが、その機構きこう基本きほんてきには解明かいめいされていない[10]。そのため、選択せんたくてきスプライシングによる多様たようせい疾患しっかんあいだには重要じゅうよう関連かんれんせい示唆しさされているものの、選択せんたくてきスプライシングが新奇しんきアイソフォームを主要しゅよう機構きこうであるとする決定的けっていてき証拠しょうこられているわけではない[9]

選択せんたくてきスプライシングは一般いっぱんてきには緊密きんみつ制御せいぎょされた過程かていであり、選択せんたくてき転写てんしゃ産物さんぶつはスプライシング装置そうちによって意図いとてきつくされる。しかしながら、このような転写てんしゃ産物さんぶつはノイジースプライシング(noisy splicing)とばれるスプライシングのエラーによってもつくされることがあり、それらもタンパク質たんぱくしつアイソフォームへと翻訳ほんやくされる可能かのうせいがある。複数ふくすうのエクソンを遺伝子いでんしやく95%が選択せんたくてきスプライシングをけるとかんがえられているが、ノイジースプライシングにかんするある研究けんきゅうではてい存在そんざいりょう転写てんしゃ産物さんぶつだい部分ぶぶんはノイズであることが観察かんさつされており、細胞さいぼうない存在そんざいする選択せんたくてき転写てんしゃ産物さんぶつタンパク質たんぱくしつアイソフォームのだい部分ぶぶん機能きのうてきでないことが予測よそくされている[11]

転写てんしゃ制御せいぎょ転写てんしゃ制御せいぎょ段階だんかいによってもさまざまなタンパク質たんぱくしつアイソフォームがつくされる[12]細胞さいぼう転写てんしゃ装置そうちRNAポリメラーゼ転写てんしゃ因子いんし酵素こうそ)がことなるプロモーターから転写てんしゃ開始かいしすることによって、わずかにことなる転写てんしゃ産物さんぶつタンパク質たんぱくしつアイソフォームがつくされる。

特徴とくちょう

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一般いっぱんてきに、ある遺伝子いでんしからされるタンパク質たんぱくしつアイソフォームのうちの1つが、その普遍ふへんせいたねオルソログ(または機能きのうてきアナログ)との配列はいれつ類似るいじせいなどの基準きじゅんによって、標準ひょうじゅんてき配列はいれつとしてラベルされる[13]かくアイソフォームは、そのほとんどが類似るいじした配列はいれつゆうしていたり、一部いちぶまたはだい部分ぶぶんのエクソンを標準ひょうじゅんてき配列はいれつ共有きょうゆうしていたりするため、類似るいじした機能きのうゆうすると推測すいそくされる。しかし、一部いちぶのアイソフォームにはかなりおおきな差異さい存在そんざいし(たとえばトランススプライシングなどの機構きこうによって)、標準ひょうじゅんてき配列はいれつとほとんどまたはまったくエクソンを共有きょうゆうしていないこともある。くわえて、それらはことなる生物せいぶつがくてき影響えいきょうおよぼすこともあり、たとえば極端きょくたん場合ばあいとして、あるアイソフォームは細胞さいぼう生存せいぞん促進そくしんし、一方いっぽうのアイソフォームは細胞さいぼう促進そくしんする場合ばあいもある。また、基本きほんてき機能きのう類似るいじしているが、細胞さいぼうない局在きょくざいことなることもある[14]。2016ねん研究けんきゅうでは、1492の遺伝子いでんしすべてのアイソフォームが機能きのうてき特徴とくちょうづけられ、だい部分ぶぶんのアイソフォームが機能きのうてきことなる"functional alloform"としてうことがしめされた。この研究けんきゅう著者ちょしゃらは、アイソフォームのだい部分ぶぶん機能きのう重複じゅうふくしていないという観察かんさつをもとに、かくアイソフォームはことなるタンパク質たんぱくしつのようにうという結論けつろんたっした[15]一方いっぽうで、かくアイソフォームの機能きのう一般いっぱんてきには個別こべつ決定けっていされる必要ひつようがあり、同定どうていまたは予測よそくされたアイソフォームのだい部分ぶぶん機能きのう未知みちのままである。

関連かんれんする概念がいねん

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グリコフォーム

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グリコフォームもしくはグライコフォーム(glycoform)は、付加ふかされたとうくさりかず種類しゅるいだけがことなるタンパク質たんぱくしつである。とうタンパク質たんぱくしつはしばしば、付加ふかされた糖類とうるいオリゴとうことなる多数たすうのグリコフォームから構成こうせいされる。こうした差異さいは、グリコシル過程かていなま合成ごうせい差異さいや、グリコシダーゼグリコシルトランスフェラーゼ作用さよう差異さいによってしょうじる。グリコフォームは詳細しょうさい化学かがくてき分析ぶんせきによっても検出けんしゅつすることができるが、レクチンアフィニティークロマトグラフィーやレクチンアフィニティー電気でんきおよげどう英語えいごばんなど、レクチンたいする反応はんのう利用りようした簡便かんべん検出けんしゅつ可能かのうである。グリコフォームが存在そんざいするとうタンパク質たんぱくしつれいとしては、オロソムコイドアンチトリプシンハプトグロビンなどの血漿けっしょうタンパク質たんぱくしつげられる。NCAMには、ポリシアルさんからなる、一般いっぱんてきでないとうくさり修飾しゅうしょくつグリコフォームがみられる。

出典しゅってん

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  1. ^ “Alternative splicing and genome complexity”. Nature Genetics 30 (1): 29–30. (January 2002). doi:10.1038/ng803. PMID 11743582. 
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  3. ^ a b “Generation of protein isoform diversity by alternative splicing: mechanistic and biological implications”. Annual Review of Cell Biology 3 (1): 207–42. (1987-01-01). doi:10.1146/annurev.cb.03.110187.001231. PMID 2891362. 
  4. ^ a b c “Alternative splicing: a ubiquitous mechanism for the generation of multiple protein isoforms from single genes”. Annual Review of Biochemistry 56 (1): 467–95. (1987-01-01). doi:10.1146/annurev.bi.56.070187.002343. PMID 3304142. 
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  6. ^ a b “Evolving Lessons on the Complex Role of AMPK in Normal Physiology and Cancer” (English). Trends in Pharmacological Sciences 37 (3): 192–206. (March 2016). doi:10.1016/j.tips.2015.11.007. PMC 4764394. PMID 26711141. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4764394/. 
  7. ^ a b “Alternative splicing: a pivotal step between eukaryotic transcription and translation” (英語えいご). Nature Reviews. Molecular Cell Biology 14 (3): 153–65. (March 2013). doi:10.1038/nrm3525. PMID 23385723. 
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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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