イオンチャネル

イオンチャネルまたはイオンチャンネル（英えい: ion channel）とは、細胞さいぼうの生体せいたい膜まく（細胞さいぼう膜まくや内うち膜まくなど）にある膜まく貫通かんつうタンパク質たんぱくしつの一種いっしゅで、受動じゅどう的てきにイオンを透過とうかさせるタンパク質たんぱくしつの総称そうしょうである。細胞さいぼうの膜まく電位でんいを維持いじ・変化へんかさせるほか、細胞さいぼうでのイオンの流出りゅうしゅつ入いれも行おこなう。神経しんけい細胞さいぼうなど電気でんき的てき興奮こうふん性せい細胞さいぼうでの活動かつどう電位でんいの発生はっせい、感覚かんかく細胞さいぼうでの受容じゅよう器き電位でんいの発生はっせい、細胞さいぼうでの静止せいし膜まく電位でんいの維持いじなどに関与かんよする。

原理げんり

電荷でんかを持もつイオンは、誘電ゆうでん率りつの小ちいさい油あぶらに入はいる際さいに大おおきなエネルギーを必要ひつようとするので、油あぶらに入はいりにくい。このために脂質ししつ二に重層じゅうそうで構成こうせいされた部分ぶぶんの生体せいたい膜まくをほとんど透過とうかできない。生体せいたい膜まくにあって、イオンを透過とうかさせる経路けいろ（チャネル）を提供ていきょうする膜まくタンパクがイオンチャネルである。イオンは細ほそ孔あな（ポア）を通とおって流ながれるが、多おおくのチャネルはその途中とちゅうにゲートと呼よばれる構造こうぞうがある。ゲートは閉とじた状態じょうたいと開ひらいた状態じょうたいの2状態じょうたいをとり、開ひらいているときのみイオンを透過とうかさせる。

イオン選択せんたく性せい

イオンの選択せんたく性せいはチャネルによってさまざまであり、一いち種類しゅるいのイオンのみ選択せんたく的てきに透過とうかさせるイオンチャネル（カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、塩素えんそチャネル^[1]など）もあれば、多おおくの種類しゅるいの陽ひイオンを通とおすイオンチャネル陽ひイオンチャネル（カチオンチャネル）も存在そんざいする。イオンチャネルはイオンの電荷でんかや大おおきさを識別しきべつして、特定とくていのイオンのみを通とおす仕組しくみを実現じつげんさせている。カリウムチャネルの場合ばあい、カリウムイオンが通とおる小しょう孔あな部ぶの周まわりのポリペプチド鎖くさりから酸素さんそ原子げんしが突つき出でている。この酸素さんそ原子げんしはカリウムイオンがぴったり配はい位いされる太ふとさに配置はいちされており、カリウムイオンはこの小しょう孔あなを通とおることができる。カリウムイオンとナトリウムイオンは直径ちょっけいがそれぞれ0.133 nm と0.095 nm でナトリウムイオンのほうが小ちいさいが、カリウムチャネルはナトリウムイオンをほぼ通とおさない。これは、ナトリウムイオンは小しょう孔あな中ちゅうで酸素さんそ原子げんしと離はなれすぎており、小しょう孔あなに入はいるときに水みず和わが外はずれることによるエネルギー損失そんしつを回復かいふくできないからである^[2]。イオンチャネルはイオンを電気でんき化学かがくポテンシャルの高たかい方ほうから低ひくい方ほうへ透過とうかする。細胞さいぼうの場合ばあい、電気でんき化学かがくポテンシャルの勾配こうばいは、膜まく内外ないがいでのイオン濃度のうど差さによる化学かがくポテンシャルの勾配こうばいと、膜まく電位でんいによる電気でんきポテンシャルの勾配こうばいの和やわである。すなわち、濃度のうどの高たかい方ほうから低ひくい方ほうへ流ながれる傾向けいこうと、陽ひイオンの場合ばあいでは電位でんいが負まけの方向ほうこうへ動うごこうとする傾向けいこうの釣つり合あいにより、流ながれる方向ほうこうが決きまる。細胞さいぼうの内うち向むきにはイオンを透過とうかさせるが、外そと向むきには透過とうかさせにくい内向ないこう整流せいりゅう性せいチャネルも存在そんざいする。

制御せいぎょ様式ようしき

イオンチャネルの開閉かいへいの制御せいぎょ様式ようしきには、いくつかある。

電位でんい依存いぞん性せい^[3]: 膜まく電位でんいに応おうじて開閉かいへいするもの。時とき定数ていすうの異ことなる複数ふくすうのゲートを持もち、膜まく電位でんい変化へんか時じに時間じかんに依存いぞんした特定とくていの開閉かいへいを行おこなうチャネルも多おおい。
リガンド依存いぞん性せい^[4]: 分子ぶんしの特異とくい的てきな結合けつごうによって開ひらくもの。この場合ばあいイオンチャネル自体じたいが受容じゅよう体たいとなっている。受容じゅよう体たいの側がわから見みれば、イオンチャネル共役きょうやく型がた受容じゅよう体たいとも呼よべる。たとえば、AMPA型がたグルタミン酸ぐるたみんさん受容じゅよう体たい、NMDA型がたグルタミン酸ぐるたみんさん受容じゅよう体たいなど。
機械きかい刺激しげき依存いぞん性せい^[5]: チャネル分子ぶんしに機械きかい的てき変形へんけいや力ちからが加くわわると開ひらくもの。触覚しょっかく、聴覚ちょうかく、重力じゅうりょく感覚かんかくなどを担になう。内耳ないじの有毛ありげ細胞さいぼうなどが有名ゆうめい。
温度おんど依存いぞん性せい: 温度おんどによるもの。種類しゅるいによって、開ひらきやすい温度おんどが決きまっている。
漏洩ろうえいチャネル: 通常つうじょう開ひらいており、少すこしずつ特定とくていのイオンを漏もらすように流ながすもの。
リン酸化さんか依存いぞん性せい: 他たタンパクからのリン酸化さんかシグナルによるもの。

他たの輸送ゆそうタンパク質たんぱくしつ

イオンを移動いどうさせるタンパク質たんぱくしつとして、ATPなどのエネルギーを使つかってイオンを「能動のうどう的てき」に輸送ゆそうするタンパク質たんぱくしつであるイオンポンプがある。これはイオンの選択せんたく性せいや膜まく内外ないがいへの輸送ゆそうという観点かんてんではイオンチャネルに似にたタンパクであるが、ポンプはイオンを電気でんき化学かがくポテンシャル勾配こうばいに逆さからってでも能動のうどう的てきに輸送ゆそうすることができるのに対たいし、イオンチャネルは電気でんき化学かがくポテンシャルが低ひくい方向ほうこうへ「受動じゅどう的てき」に移動いどうさせることしかできない。また、複数ふくすうの種類しゅるいのイオンを、ある個数こすう比ひで反対はんたい方向ほうこうに輸送ゆそうするイオン交換こうかん体たい、同おなじ方向ほうこうに輸送ゆそうする共きょう輸送ゆそう体たいもある。

脚注きゃくちゅう

^ “塩素えんそチャネル”. 脳のう科学かがく辞典じてん. 2020年ねん7月がつ20日はつか閲覧えつらん。
^ 細胞さいぼうの分子生物学ぶんしせいぶつがく. 株式会社かぶしきがいしゃニュートンプレス. (2017年ねん10月がつ5日にち). pp. 617-618
^ 英えい: voltage-dependent channel、voltage-gated channel
^ 英えい: ligand-gated channel
^ 英えい: mechanosensitive channel
^ 高こうカリウム血ち症しょうと心しん停止ていし[1]
^ 一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん日本にっぽん整理せいり学会がっかい　124.内うち向むき整流せいりゅう性せいカリウムチャネル透過とうか性せいの細胞さいぼう外がいK+濃度のうど依存いぞん性せいは、細胞さいぼう外がいNa+による競合きょうごう的てきブロックに起因きいんする～高だかカリウム血ち症しょうで心室しんしつ再さい分極ぶんきょく速度そくどが上昇じょうしょうするメカニズム～[2]

外部がいぶリンク

Ion channels （英語えいご） - スカラーペディア百科ひゃっか事典じてん「イオンチャネル」の項目こうもく。
膜まく電位でんいセンサー - 脳のう科学かがく辞典じてん　電位でんい依存いぞん性せいイオンチャネルの開閉かいへいのメカニズムを担になう。
開口かいこう確かく率りつ - 脳のう科学かがく辞典じてん　イオンチャネルの開ひらきやすさの指標しひょうであって、イオンチャネルの個数こすう、シングルチャネル電流でんりゅうとともに生体せいたい膜まくのイオン電流でんりゅう量りょうを規定きていする変数へんすうに関かんする解説かいせつ。
イオンチャネル - 脳のう科学かがく辞典じてん
ナトリウムチャネル - 脳のう科学かがく辞典じてん
カリウムチャネル - 脳のう科学かがく辞典じてん
カルシウムチャネル - 脳のう科学かがく辞典じてん

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[1] “塩素えんそチャネル”. 脳のう科学かがく辞典じてん. 2020年ねん7月がつ20日はつか閲覧えつらん。

[2] 細胞さいぼうの分子生物学ぶんしせいぶつがく. 株式会社かぶしきがいしゃニュートンプレス. (2017年ねん10月がつ5日にち). pp. 617-618

[3] 英えい: voltage-dependent channel、voltage-gated channel

[4] 英えい: ligand-gated channel

[5] 英えい: mechanosensitive channel

[6] 高こうカリウム血ち症しょうと心しん停止ていし[1]

[7] 一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん日本にっぽん整理せいり学会がっかい　124.内うち向むき整流せいりゅう性せいカリウムチャネル透過とうか性せいの細胞さいぼう外がいK+濃度のうど依存いぞん性せいは、細胞さいぼう外がいNa+による競合きょうごう的てきブロックに起因きいんする～高だかカリウム血ち症しょうで心室しんしつ再さい分極ぶんきょく速度そくどが上昇じょうしょうするメカニズム～[2]

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