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膜電位 - Wikipedia

まく電位でんい(まくでんい、えい: membrane potential)は細胞さいぼう内外ないがい存在そんざいする電位でんいのこと。すべての細胞さいぼう細胞さいぼうまくをはさんで細胞さいぼうなかそととでイオン組成そせいことなっており、この電荷でんかつイオンの分布ぶんぷが、電位でんいをもたらす。通常つうじょう細胞さいぼうない細胞さいぼうがいたいしてまけ(陰性いんせい)の電位でんいにある。

ちゅうのうくろしつ緻密ちみつから神経しんけい細胞さいぼうにて、電流でんりゅう固定こていほう(カレントクランプほう)によって観察かんさつされた、まく電位でんい変動へんどうだつ分極ぶんきょく刺激しげきあたえられた神経しんけい細胞さいぼうが8ほん活動かつどう電位でんい発生はっせいしていることが観察かんさつされる。

神経しんけい細胞さいぼうすじ細胞さいぼうは、まく電位でんい素早すばやく、動的どうてき変化へんかさせることにより、生体せいたい活動かつどうおおきく貢献こうけんしている。そのため、まく電位でんいとはこれらの細胞さいぼう特有とくゆう現象げんしょうであるかのように誤解ごかいされることおおい。しかし現実げんじつには、すべての細胞さいぼうにおいてまく内外ないがいのイオン組成そせいことなっており、まく電位でんい存在そんざいする。たとえばゾウリムシ繊毛せんもう方向ほうこう制御せいぎょまく電位でんい変化へんかによって制御せいぎょされている。また植物しょくぶつ細胞さいぼうにおいて有名ゆうめいれいとしては、オジギソウしょうれることによりじるのも、オジギソウの細胞さいぼうまく電位でんい変化へんかによるものであることられている。このように、まく電位でんい(とその変化へんか)は、単細胞たんさいぼう生物せいぶつ植物しょくぶつ細胞さいぼうにさえ存在そんざいする、生物せいぶつ共通きょうつう基本きほん原理げんりである。

概要がいよう

編集へんしゅう

すべての細胞さいぼうは、細胞さいぼうまくによって外界がいかい内部ないぶへだてている。このことは細胞さいぼう内部ないぶ必要ひつようなモノをむことと、不要ふようなモノを積極せっきょくてき排除はいじょすることを可能かのうにしている。必要ひつようなモノとしては細胞さいぼうしょう器官きかん種々しゅじゅタンパク質たんぱくしつなど、また不要ふようなモノとしては老廃ろうはいぶつ毒素どくそなどが一番いちばんかんがえられるが、それ以外いがいにも、細胞さいぼう特定とくていイオン選択せんたくてきみ、またべつのイオンを選択せんたくてき排出はいしゅつすることによって、内外ないがいのイオンのバランスにつくっている。もっと原始げんしてき生物せいぶつかんがえられているシアノバクテリアにさえまく電位でんいとそれを利用りようしたイオンチャネル存在そんざいられており、このことは生物せいぶつ誕生たんじょうともまく電位でんい形成けいせいされたことを示唆しさしている。

内外ないがい濃度のうどつくられたイオンは電荷でんかっているので、内外ないがいのイオンバランスのは、内外ないがい電気でんきてきポテンシャルのをもたらす。つまり、イオンの分布ぶんぷそのものが、細胞さいぼう内外ないがい電位でんいをもたらすということである。この、イオン分布ぶんぷによる細胞さいぼう内外ないがい電位差でんいさを、まく電位でんいぶのである。

かりまくがいに1イオンが100あり、まくないに1イオンが40あるという状況じょうきょう想定そうていする。この場合ばあいまくがいまくないたいして、イオン60ぶんのプラスの電位差でんいさっているといえる(ぎゃくに、まくないまくがいくらべ、イオン60ぶんマイナスの電位差でんいさがあるといえる)。このように、まく電位でんいとはまく内外ないがい陰陽いんようりょうイオンの電荷でんか総和そうわ決定けっていされる。現実げんじつにはまく内外ないがい存在そんざいするイオンはいち種類しゅるいではなく、またイオンしゅによってあたいすうちがうため、計算けいさん容易よういではない。また、電荷でんかバランスがくずれた領域りょういきは、まく近傍きんぼうの2~3nm(デバイちょう)のところのみである。したがって、だい部分ぶぶん電荷でんかまく表面ひょうめん付近ふきん集中しゅうちゅうする。電位差でんいさ計算けいさんについては、のち詳述しょうじゅつする。

まく電位でんい必要ひつよう理由りゆうの1つとして、細胞さいぼう内外ないがいおおきな電位でんいつくっておいた場合ばあいに、その電位でんい利用りようした非常ひじょうはや情報じょうほう伝達でんたつ可能かのうになるという利点りてんがある。これはイオンによる電位差でんいさとその開放かいほうによるエネルギーという概念がいねんを、ダムによる水位すいいとその開放かいほうによるエネルギーによっての水力すいりょく発電はつでんえてかんがえるとわかりやすいだろう。つまり、電位差でんいさ水位すいい)を一気いっきにイオンチャネル(水門すいもん)をひらくことによってちからはなつと、おおきく、かつすばやい駆動くどうりょくすことが可能かのうになるのである。

基本きほん原理げんり

編集へんしゅう

細胞さいぼうまく重要じゅうよう性質せいしつの1つとして、細胞さいぼうまく構成こうせいする脂質ししつ重層じゅうそう内部ないぶ疎水そすいせいであるということがあげられる。このため、イオンは細胞さいぼうまくかいして自由じゆうすることができない。そのため、一旦いったんしょうじたイオン組成そせいは、そのまま細胞さいぼうまく内外ないがい電荷でんか原因げんいんとなる。つまり、まく電位でんいしょうじるためにはそもそも細胞さいぼう内外ないがいのイオン分布ぶんぷしょうじる必要ひつようがある。以下いか、イオン分布ぶんぷこす要素ようそについて詳述しょうじゅつする。

イオンポンプによるイオンの移動いどう

編集へんしゅう
 
イオンポンプのいちれいNa+/K+-ATPアーゼ

イオン分布ぶんぷしょうじさせるだいいち要素ようそとして、イオンポンプ存在そんざいげられる。イオンポンプはATPひとしのエネルギーを利用りようして、特定とくていのイオンを能動のうどう輸送ゆそうするタンパク質たんぱくしつである。このイオンポンプはまく内外ないがいのイオン組成そせいちがいがどういう条件じょうけんであろうと、一方いっぽうから他方たほうへ、能動のうどうてきつね一方いっぽう通行つうこうのイオン輸送ゆそうになう。

イオンポンプの輸送ゆそう速度そくどはそれほどはやくなく、1分子ぶんしのポンプ1びょうあたりせいぜいすうひゃくのイオンを輸送ゆそうできるにとどまるが、ATPのエネルギーがあるかぎつねうごつづける。実際じっさいにはきた細胞さいぼうないでATPが枯渇こかつすることかんがえられないため、結果けっかてきにイオン分布ぶんぷ変化へんかへの貢献こうけんはそれなりにおおきくなる。

まく電位でんいかかわるイオンポンプとして、もっとも有名ゆうめいかつ研究けんきゅうがなされたものとして、Na+/K+-ATPアーゼ(ナトリウム-カリウムポンプ、ナトリウムポンプとも)がげられる。これはATPの加水かすい分解ぶんかいによるエネルギーを利用りようして3ナトリウムイオン(Na+)を細胞さいぼうがいすとともに、2カリウムイオン(K+)を細胞さいぼうないむタンパクである。このタンパクがはたらいているおかげで、細胞さいぼうないはナトリウムイオンがすくなく、カリウムイオンがおおいという条件じょうけん維持いじできるのである。そのほかにもカルシウムイオン(Ca2+)や水素すいそイオン(H+)を輸送ゆそうするポンプなども存在そんざいし、成分せいぶんとしてはちいさいものの、まく電位でんい貢献こうけんしている。

イオンチャネルによるイオンの移動いどう

編集へんしゅう
 
イオンチャネルをかいしたイオンの移動いどう: イオンのまく横切よこぎ移動いどう通常つうじょうさえぎられるが、イオンチャネルにぶつかったイオンだけが、方向ほうこう選択せんたくてきまく横切よこぎ様子ようす

つぎに、イオンポンプなどの活動かつどうにより一旦いったんイオン分布ぶんぷまれると、今度こんどはその濃度のうど利用りようした受動じゅどう輸送ゆそう可能かのうになる。この受動じゅどう輸送ゆそうは、イオンチャネルばれるタンパク質たんぱくしつによってなされる。イオンチャネルは、イオンポンプとうによって濃度のうどつくられたイオンを、イオン濃度のうどたかいほうからひくいほうへ拡散かくさんさせる、イオンのとおみちである。よって、方向ほうこう選択せんたくせいはなく、まく電位でんいがない場合ばあいつねにイオンの濃度のうど勾配こうばいしたがった輸送ゆそうである。 ただし、イオン濃度のうどひくほうからたかほうへの移動いどうまったくないわけではないことに注意ちゅういすべきである。イオンがチャネルを通過つうかするかどうかはそのイオンがブラウン運動うんどうによってチャネル分子ぶんし衝突しょうとつするかどうかに依存いぞんしており、イオン濃度のうどたかがわでは、イオンのチャネルへの衝突しょうとつが、ひくいほうにくらべて圧倒的あっとうてききやすいため、全体ぜんたいとしてはたかほうからひくほうへのながれがしょうじるわけである。

イオンチャネルのおおくは通常つうじょう活性かっせいがたであり、なんらかの刺激しげき(まく電位でんい変化へんかリガンド結合けつごうリン酸化さんか機械きかい刺激しげきなど)におうじて開閉かいへいする。そのため、定常ていじょう状態じょうたい細胞さいぼうにおいて、はたらいているイオンチャネルはすくないとえる。ただし、漏洩ろうえいチャネルとばれるタイプのイオンチャネルはつねひらいており、静止せいしまく電位でんい貢献こうけんする(後述こうじゅつ)。

まく電位でんいそのものによるイオンの移動いどう

編集へんしゅう

まく内外ないがい電位差でんいさそのものも、イオンの移動いどう影響えいきょうおよぼす。たとえば、静止せいし状態じょうたいまく電位でんい細胞さいぼうない細胞さいぼうがいくらべてまけであることはすでにべたが、まけ細胞さいぼうないけてイオンははいりやすく、かげイオンははいりにくい。ぎゃくに、せい細胞さいぼうがいけてかげイオンはきやすく、イオンはきにくい。これは、単純たんじゅん細胞さいぼうがいせい電荷でんか環境かんきょうが、イオンを反発はんぱつさせようとするからである。現実げんじつに、塩化えんかぶつイオン(Cl-)の移動いどう細胞さいぼうまくとおしてかなり自由じゆうたかいため、このまく電位でんいによる移動いどうにほとんど依存いぞんしている。

静止せいしまく電位でんい

編集へんしゅう

このように、いくつものタンパクの作用さようにより、イオンはつねに、えず細胞さいぼう内外ないがい移動いどうしている。イオンの流出りゅうしゅついれ細胞さいぼうきているかぎまることはないが、電荷でんか移動いどうはある条件じょうけんにおいてかけじょううごかなくなる。この条件じょうけんをもたらすまく電位でんい静止せいしまく電位でんい(せいしまくでんい、えい: Resting Membrane Potential)という。この条件じょうけんにおいて、細胞さいぼう一種いっしゅ定常ていじょう状態じょうたいにあり、かけじょう電荷でんか移動いどうはなく、まく電位でんい安定あんていする。ただし、この条件じょうけんにおいてもイオンの流出りゅうしゅついれつづいていることに注目ちゅうもくすべきである。つまり、単位たんい時間じかんたりに流出りゅうしゅつするイオンのそう電荷でんかりょう流入りゅうにゅうするイオンそう電荷でんかりょう一致いっちしており、かつその状態じょうたいながつづくような条件じょうけんが、静止せいしまく電位でんいである。

静止せいし状態じょうたいのイオン組成そせい

編集へんしゅう

神経しんけい細胞さいぼうれいれば、一般いっぱんナトリウムイオン(Na+)や塩化えんかぶつイオン(Cl-)は細胞さいぼうないすくない。そのわり、カリウムイオン(K+)濃度のうどたかく、また電荷でんか有機ゆうきてい分子ぶんし(アスパラギンさんなど)の濃度のうどたかい。これらはチャネル分子ぶんし存在そんざいによるまく選択せんたくてき透過とうかせいと、イオンポンプによる能動のうどう輸送ゆそう関与かんよしている。ただし、細胞さいぼうまく塩化えんかぶつイオンにたいする選択せんたくてき透過とうかせいはかなりひくいため、塩化えんかぶつイオンは比較的ひかくてき自由じゆうまく内外ないがいすることができる。それでも塩化えんかぶつイオン濃度のうど細胞さいぼうがいにおいてたかいのは、細胞さいぼうがい細胞さいぼうないくらべてせい電荷でんかつため、まく電位でんいによる電場でんじょうによって受動じゅどうてきせられるためである(前述ぜんじゅつ#まく電位でんいそのものによるイオンの移動いどう参照さんしょう)。

そのカルシウムイオンCa2+マグネシウムイオンMg2+比較的ひかくてき細胞さいぼうないにはすくない。とくに、カルシウムイオン濃度のうど細胞さいぼうないにおいてすくなく維持いじされていることは、細胞さいぼうにとって大変たいへん重要じゅうようである。カルシウムイオンは必要ひつようおうじて細胞さいぼうがいや、しょう胞体から細胞さいぼうない放出ほうしゅつされ、カルモジュリンカルシウム依存いぞんせいキナーゼひとし種々しゅじゅのカルシウム依存いぞんせいタンパク質たんぱくしつ活動かつどうさせるがねであり、たくさんのシグナル伝達でんたつカスケードをうごかす最初さいしょのキューとして非常ひじょう大切たいせつである。そのため、カルシウムは細胞さいぼうがいへの輸送ゆそうだけでなく、しょう胞体うちへも能動のうどう輸送ゆそうされ、細胞さいぼうない濃度のうどひくたもっている。

漏洩ろうえいチャネルの貢献こうけん

編集へんしゅう

神経しんけい細胞さいぼう典型てんけいてきじくさくにおいて、静止せいしまく電位でんいまけであり、おおよそ-70mV程度ていどである。このことは、細胞さいぼうがいイオンが比較的ひかくてきおおい(もしくは細胞さいぼうないかげイオンが比較的ひかくてきおおい)ことを示唆しさしている。実際じっさいには前者ぜんしゃただしい。前述ぜんじゅつしたNa+-K+交換こうかんイオンポンプは3のナトリウムイオンと2のカリウムイオンを交換こうかんしているだけなのでまく電位でんい変化へんかにはそれほどおおきく寄与きよしないが、そとにくみされたナトリウムイオンが細胞さいぼうないはいむためのナトリウムチャネル通常つうじょう活性かっせいされており、ひらいていないのにたいし、カリウムが細胞さいぼうがい流出りゅうしゅつするカリウムチャネルのなかには、通常つうじょうひらきっぱなしのものが存在そんざいする。つまり、カリウムイオンはれてもれても、ある程度ていど細胞さいぼうがいってしまうのである。これが、静止せいしまく電位でんいまけになってしまうおも原因げんいんである。このカリウムイオンをさせてしまうチャネルを、カリウム漏洩ろうえいチャネルとぶ。

静止せいしまく電位でんいのカリウムイオンの動態どうたい

編集へんしゅう
 
静止せいしまく電位でんい状態じょうたいにおけるカリウムイオンの移動いどう概略がいりゃく
(P): Na+-K+交換こうかんポンプの作用さようるイオン移動いどう、(E): まく電位でんいそのものの電場でんじょうによってせられる電気でんき化学かがくてきなイオンの移動いどう、(L): 漏洩ろうえいチャネルによるイオン移動いどう、(F):静止せいしまく電位でんいにカリウムチャネルがひらいたときのカリウムイオンの透過とうかりょく

ひだりの(P)と(E)が主要しゅよううちきのカリウムイオンの移動いどうである。この2しゃによるうちきの移動いどう合力ごうりょく(P+E)がおおきなになることはからあきらかだろう。しかし、脊椎動物せきついどうぶつ静止せいしまく電位でんいは-70mV付近ふきんであり、そこからカリウムチャネルがひらいても、せいぜい-90mV程度ていど(カリウムの平衡へいこう電位でんい)、つまり20mVぶん程度ていどしかまく電位でんい変化へんかしない。つまりないきのおおきなちから相殺そうさいするだけのそときのイオンりゅう最初さいしょから存在そんざいしなければ説明せつめいがつかないことになる。事実じじつそのそときのイオンりゅう実現じつげんしているのが(L)、前述ぜんじゅつ漏洩ろうえいチャネルからのイオンの流出りゅうしゅつによる。漏洩ろうえいチャネルによるそときイオンりゅうがあるので、実際じっさい静止せいしまく電位でんいからカリウムチャネルがひらいたときのカリウムイオンの流出りゅうしゅつは(F)程度ていどとなる。

静止せいしまく電位でんいのナトリウムイオンの動態どうたい

編集へんしゅう
 
静止せいしまく電位でんい状態じょうたいにおけるナトリウムイオンの移動いどう概略がいりゃく
(P): Na+-K+交換こうかんポンプの作用さようるイオン移動いどう、(E): まく電位でんいそのものの電場でんじょうによってせられる電気でんき化学かがくてきなイオンの移動いどう、(F):静止せいしまく電位でんいにナトリウムチャネルがひらいたときのナトリウムイオンの透過とうかりょく

つぎにナトリウムイオンにかんしてはみぎ注目ちゅうもくする。まず、上述じょうじゅつカリウムイオンの透過とうかことなり、 Na+-K+交換こうかんポンプの作用さようるイオン移動いどう(P)がぎゃく方向ほうこうであることに注目ちゅうもくすべきである。電気でんき化学かがくてきなイオンの移動いどう(E)はどう方向ほうこうであるので、ポンプによる電流でんりゅう電気でんき化学かがくてき移動いどう多少たしょう相殺そうさいしていることになる。しかし、ナトリウムイオンはほとんど細胞さいぼうない漏洩ろうえいしないので、ナトリウムチャネルがひらくとおおきな透過とうかりょく(F)を発生はっせいすることになる。これが活動かつどう電位でんい正体しょうたいであり、このおおきなちからにより、-70mV程度ていどまく電位でんいは、+40mV付近ふきんまで一気いっき変化へんかする。

平衡へいこう電位でんい

編集へんしゅう

前述ぜんじゅつのように、イオンのながれはまく電位でんいそのものがこす電場でんじょう影響えいきょうける。電場でんじょうによってこされるイオン移動いどう受動じゅどうてきなものであり、電場でんじょうすような方向ほうこうおこなわれるため、ある一定いっていまく電位でんいにおいて、そのイオンの移動いどうかけじょう停止ていしするてんがある。それを平衡へいこう電位でんい(へいこうでんい、えい: Equilibrium Potential)とぶ。細胞さいぼうまくのそれぞれのイオンにたいする選択せんたくてき透過とうかせいことなるため、平衡へいこう電位でんいはそれぞれのイオンについて別々べつべつ存在そんざいする。

ネルンストのしき

編集へんしゅう

平衡へいこう電位でんいもとめるためには、ドイツ化学かがくしゃヴァルター・ネルンストによってみちびかれたネルンストのしき利用りようする。

 

ただし、lnは自然しぜん対数たいすう(eそことする対数たいすう)であり、のパラメータは以下いかのとおりである。

ここで哺乳類ほにゅうるいからだ細胞さいぼうにおける1イオンにかぎってかんがえれば、Z=1、T=37+273=310を代入だいにゅうして;

 

となり、平衡へいこう電位でんいまく内外ないがいのイオン濃度のうど(厳密げんみつにはかつりょう)によってのみ決定けっていされていることがわかる。このことはふたつの意味いみ重要じゅうようである。ひとつは、平衡へいこう電位でんいまく電位でんいによって影響えいきょうされないということである。様々さまざまなイオンの平衡へいこう電位でんい総和そうわは、まく電位でんいめる重要じゅうよう要素ようそであるが、平衡へいこう電位でんいそのものがまく電位でんい影響えいきょうけることはない。もうひとつは、その様々さまざまほかのイオンの存在そんざいにも関係かんけいなく、平衡へいこう電位でんいまるということである。いいかえれば、のイオンのつく電場でんじょうに、平衡へいこう電位でんい影響えいきょうされない[1]

哺乳類ほにゅうるい典型てんけいてき神経しんけい細胞さいぼうないのイオン濃度のうどと、体液たいえき組成そせいによる細胞さいぼうがいイオン濃度のうど以下いかのとおりであるので、これらより、平衡へいこう電位でんい計算けいさんすることが可能かのうである。

*** カリウムイオン(K+) ナトリウムイオン(Na+) 塩化えんかぶつイオン(Cl-)
細胞さいぼうがい 5.5mM 135mM 125mM
細胞さいぼうない 150mM 15mM 9mM
 

以上いじょうからわかるとおり、かけじょうイオンの移動いどう停止ていしするまく電位でんいは、カリウムイオンについては-88mV、ナトリウムイオンは+59mVということである。ぎゃくえば、カリウムイオンはまく電位でんいが-88mVになるまで、ナトリウムイオンは+59mVになるまで移動いどうつづけようとするということである。このことは神経しんけい細胞さいぼう活動かつどう電位でんい発生はっせい観察かんさつすることができる。活動かつどう電位でんい発生はっせいするとき、じくさくうえナトリウムチャネル開放かいほうされ、ナトリウムイオンの細胞さいぼうまく内外ないがい自由じゆうになる。そのため、まく電位でんいは+59mVにけて変動へんどうする。これが活動かつどう電位でんいのスパイクの正体しょうたいである。そのナトリウムチャネルは活性かっせいされてじ、今度こんど電位でんい依存いぞんせいカリウムチャネル開放かいほうされる。そこで今度こんどは、まく電位でんいは-88mVにけて下降かこうし、静止せいしまく電位でんいである-70mV付近ふきんえてアンダーシュートするのである。

ゴールドマン・ホジキン・カッツのしき(GHK方程式ほうていしき

編集へんしゅう

前述ぜんじゅつしたネルンストのしきは、それぞれのイオンについて、そのながれがかけじょうまるてんみちびしきであり、まく電位でんいそのものは算出さんしゅつできない。まく電位でんい算出さんしゅつするためには、かくイオン電流でんりゅうが0になる電位でんいもとめる必要ひつようがあり、そのために導出みちびきだされたのが、ゴールドマン・ホジキン・カッツのしきえい: Goldman-Hodgkin-Katz Equation)、あるいはGHK方程式ほうていしきである。GHK方程式ほうていしきでは、細胞さいぼうまく透過とうかするイオンをすべてかんがえるのが、ネルンストのしきとの最大さいだいちがいである。ただしGHK方程式ほうていしき導出どうしゅつにおいては、あつか対象たいしょうのイオンのあたいすう絶対ぜったいひとしいことと、まく内部ないぶ電位でんい勾配こうばい一定いっていとした仮定かてい(constant field theory)をもちいている。

ここで、細胞さいぼうまく透過とうかするイオンがK+、Na+、Cl-のみと仮定かていすると、まく電位でんいEm以下いかしきあらわされる。

 

PK、PNa、PClは、それぞれのイオンの透過とうか係数けいすうであり、また、生体せいたいないにおいてはおおよそPK : PNa : PCl = 1 : 0.04 : 0.45程度ていどであるので、

  • PNa = 0.04PK
  • PCl = 0.45PK

さらに前述ぜんじゅつ細胞さいぼう内外ないがいのナトリウム・カリウムイオンおよび塩化えんかぶつイオン濃度のうど代入だいにゅうすると、

 
 

となり、おおむね実測じっそくとなることがわかる。このとき、イオンxの透過とうか係数けいすう(Px)の絶対ぜったいそのものは必要ひつようない。透過とうか係数けいすうはイオンのコンダクタンス(抵抗ていこう逆数ぎゃくすう)と密接みっせつかかわるりょうであるが、現実げんじつには算出さんしゅつ容易よういでない。GHK方程式ほうていしき便利べんりてんは、透過とうか係数けいすうのみでまく電位でんいもとまることである。

さらに、ナトリウムイオンと塩化えんかぶつイオンの透過とうかせいがゼロの条件じょうけんかんがえると、PNa=PCl=0より、

 

となり、まく電位でんいがカリウムの平衡へいこう電位でんいおなじになる。このしきはネルンストのしきまったおなじである。

また、GHK方程式ほうていしき自然しぜんたいすうにおいて、細胞さいぼうないイオン濃度のうど細胞さいぼうがいイオン濃度のうどこうが、イオンとかげイオンでぎゃくになる。これは、GHK方程式ほうていしきに、PK=PNa=0を代入だいにゅうした場合ばあいしたしきのようにCl-(z=-1)にたいするネルンストのしきになることに対応たいおうしている。

 

だつ分極ぶんきょく分極ぶんきょく

編集へんしゅう

細胞さいぼうまく静止せいしまく電位でんい定常ていじょう状態じょうたいたもっている。この状態じょうたいを、まく分極ぶんきょく(polarization)しているという。ここからプラス方向ほうこうまく電位でんい変化へんかすることをだつ分極ぶんきょく(depolarization)、さらにマイナス方向ほうこう変化へんかすることを分極ぶんきょく(hyperpolarization)と表現ひょうげんする。だつ分極ぶんきょくかならずしも、まく電位でんいまさ変化へんかすることをともなわず、-70mVから-30mVへの変化へんかでも、十分じゅうぶんだつ分極ぶんきょくである。また、一旦いったんプラスにてんじたまく電位でんい再度さいど静止せいしまく電位でんいもどることを、さい分極ぶんきょく(repolarization)という。

神経しんけい細胞さいぼうシナプスばれる構造こうぞうつうじて情報じょうほう伝達でんたつをしているが、伝達でんたつけた神経しんけい細胞さいぼうだつ分極ぶんきょくするか分極ぶんきょくするかは重要じゅうようなポイントである。それは、だつ分極ぶんきょくこす伝達でんたつは「興奮こうふんせい伝達でんたつ」とばれ、活動かつどう電位でんいこすたすけとなるのにたいし、分極ぶんきょくこす伝達でんたつは「抑制よくせいせい伝達でんたつ」とばれ、活動かつどう電位でんい発生はっせいおさえるはたらきをする。活動かつどう電位でんい発生はっせいは、入力にゅうりょくされた興奮こうふんせい/抑制よくせいせい伝達でんたつ総和そうわがある一定いってい(閾値という)にたっするかどうかによって決定けっていされるので、個々ここのシナプスが興奮こうふんせいであるか、抑制よくせいせいであるかは神経しんけい回路かいろ理解りかいするうえで大変たいへん重要じゅうようなのである。

まく電位でんい測定そくてい

編集へんしゅう

まく電位でんい電気でんきてき測定そくていするためには、細胞さいぼう内外ないがいにそれぞれいちほんずつ電極でんきょくをおくことが必要ひつようとなる。細胞さいぼうがいいとして、細胞さいぼうない電極でんきょくすことはなかなか困難こんなんである。これを最初さいしょ可能かのうにし、まく電位でんい測定そくていしたのがイギリス神経しんけい科学かがくしゃアラン・ホジキンアンドリュー・ハクスレーということになっている(後述こうじゅつ)。かれらはイカ巨大きょだいじくさくもちいて、まく電位でんいとその変化へんか観察かんさつした功績こうせきから、1963ねんノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした。イカの巨大きょだいじくさく直径ちょっけい1mmちかくあるので、内部ないぶ金属きんぞくせいのワイヤをむことが比較的ひかくてき容易よういだったためである。

 
パッチクランプほう概略がいりゃく。ここではガラスかん電極でんきょくによってかこんだチャネルからながれる電流でんりゅう測定そくていしているが、ガラス管内かんない細胞さいぼうないへだてる部分ぶぶん細胞さいぼうまくやぶることによって、細胞さいぼう全体ぜんたいする電流でんりゅう測定そくていすることも可能かのうである。

しかし、今日きょうでは細胞さいぼうないにワイヤをすことはまずおこなわれず、電解でんかいえきたしたほそいガラスかん電極でんきょく細胞さいぼうにあてて、まく電位でんい測定そくていするのが主流しゅりゅうである。細胞さいぼうない直接ちょくせつ電極でんきょくさっていなくても、測定そくてい電極でんきょく電解でんかいしつ溶液ようえき連続れんぞくしているかぎり、なんら問題もんだいはなくまく電位でんい測定そくていできるからである。この技術ぎじゅつパッチクランプほうばれ、神経しんけい科学かがく研究けんきゅう大切たいせつ技術ぎじゅつひとつである。また、これ自体じたい1991ねんのノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょう技術ぎじゅつである。

しかし、ホジキン(1955)やハクスレー(1951)に先行せんこうすること10ねん以上いじょうまえ日本人にっぽんじん科学かがくしゃ鎌田かまた武雄たけお英国えいこく留学りゅうがくちゅうゾウリムシまく電位でんい測定そくてい成功せいこうしていた(1934)。しかもかれはこの時点じてんですでにガラスかん電極でんきょく発明はつめいしてもちいており、ノーベルしょうきゅう技術ぎじゅつふた同時どうじ駆使くししていたことになる。

今日きょうでも、パッチクランプほう主要しゅようまく電位でんい測定そくてい技術ぎじゅつであるが、1970年代ねんだいから、細胞さいぼうまくみ、まく電位でんい変化へんかおうじて蛍光けいこうあるいは吸光が変化へんかする、まく電位でんい感受性かんじゅせい色素しきそ化学かがく物質ぶっしつ発明はつめいされ、光学こうがくてきまく電位でんい変化へんか計測けいそくする方法ほうほうまく電位でんいイメージング)が確立かくりつされた。まく電位でんいイメージングは複数ふくすう神経しんけい細胞さいぼうから同時どうじまく電位でんい記録きろくできるというおおきな利点りてんがあり、生体せいたいへの応用おうよう目指めざした研究けんきゅうさかんにおこなわれている。

関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ まく表面ひょうめん存在そんざいする電荷でんかデバイ遮蔽しゃへいされる程度ていどがイオン濃度のうど依存いぞんすることや、まく表面ひょうめんにあるリンさん部分ぶぶん電荷でんか存在そんざいによって、まく近傍きんぼう電位でんい構造こうぞう複雑ふくざつになるが、このことが、電位でんい感受性かんじゅせいのイオンチャネルのゲーティングに影響えいきょうあたえることはあっても、平衡へいこう電位でんいには影響えいきょうあたえない

参考さんこう文献ぶんけん

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  • Bertil Hille, Ionic Channel of Excitable Membranes Macmillan Education Australia (1984/11/30). ISBN 0-87893-322-0
  • Nicholls, J.G., Martin, A.R. and Wallace, B.G. From Neuron to Brain Sinauer Associates Inc; 4th Edition (2001/1/15). ISBN 0-87893-580-0
  • Kamada, T. Some observations on potential defference across the ectoplasm membrane of Paramecium. J. Exp. Biol. 11, 94-102 (1934)
  • Delcomyn, F. (translation by Ogura, A., Tominaga, K.) ニューロンの生物せいぶつがく 南江堂なんこうどう (2000/12). ISBN 4-524-22431-9
  • おか 良隆よしたか:「基礎きそからまなぶ 神経しんけい生物せいぶつがく」,ム社むしゃ,ISBN:978-4-274-21195-9,(2012ねん5がつ).