膜 まく 電位 でんい (まくでんい、英 えい : membrane potential )は細胞 さいぼう の内外 ないがい に存在 そんざい する電位 でんい の差 さ のこと。すべての細胞 さいぼう は細胞 さいぼう 膜 まく をはさんで細胞 さいぼう の中 なか と外 そと とでイオン の組成 そせい が異 こと なっており、この電荷 でんか を持 も つイオンの分布 ぶんぷ の差 さ が、電位 でんい の差 さ をもたらす。通常 つうじょう 、細胞 さいぼう 内 ない は細胞 さいぼう 外 がい に対 たい して負 まけ (陰性 いんせい )の電位 でんい にある。
中 ちゅう 脳 のう 黒 くろ 質 しつ 緻密 ちみつ 部 ぶ から得 え た神経 しんけい 細胞 さいぼう にて、電流 でんりゅう 固定 こてい 法 ほう (カレントクランプ法 ほう )によって観察 かんさつ された、膜 まく 電位 でんい の変動 へんどう 。脱 だつ 分極 ぶんきょく 刺激 しげき を与 あた えられた神経 しんけい 細胞 さいぼう が8本 ほん の活動 かつどう 電位 でんい を発生 はっせい していることが観察 かんさつ される。神経 しんけい 細胞 さいぼう や筋 すじ 細胞 さいぼう は、膜 まく 電位 でんい を素早 すばや く、動的 どうてき に変化 へんか させる事 こと により、生体 せいたい の活動 かつどう に大 おお きく貢献 こうけん している。そのため、膜 まく 電位 でんい とはこれらの細胞 さいぼう に特有 とくゆう の現象 げんしょう であるかのように誤解 ごかい される事 こと も多 おお い。しかし現実 げんじつ には、全 すべ ての細胞 さいぼう において膜 まく 内外 ないがい のイオン組成 そせい は異 こと なっており、膜 まく 電位 でんい は存在 そんざい する 。たとえばゾウリムシ の繊毛 せんもう の打 う つ方向 ほうこう の制御 せいぎょ は膜 まく 電位 でんい の変化 へんか によって制御 せいぎょ されている。また植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう において有名 ゆうめい な例 れい としては、オジギソウ の小 しょう 葉 は が触 ふ れる事 こと により閉 と じるのも、オジギソウの細胞 さいぼう の膜 まく 電位 でんい の変化 へんか によるものである事 こと が知 し られている。このように、膜 まく 電位 でんい (とその変化 へんか )は、単細胞 たんさいぼう 生物 せいぶつ や植物 しょくぶつ 細胞 さいぼう にさえ存在 そんざい する、生物 せいぶつ 共通 きょうつう の基本 きほん 原理 げんり である。
全 すべ ての細胞 さいぼう は、細胞 さいぼう 膜 まく によって外界 がいかい と内部 ないぶ を隔 へだ てている。このことは細胞 さいぼう が内部 ないぶ に必要 ひつよう なモノを溜 た め込 こ むことと、不要 ふよう なモノを積極 せっきょく 的 てき に排除 はいじょ することを可能 かのう にしている。必要 ひつよう なモノとしては細胞 さいぼう 小 しょう 器官 きかん や種々 しゅじゅ のタンパク質 たんぱくしつ など、また不要 ふよう なモノとしては老廃 ろうはい 物 ぶつ や毒素 どくそ などが一番 いちばん に考 かんが えられるが、それ以外 いがい にも、細胞 さいぼう は特定 とくてい のイオン を選択 せんたく 的 てき に取 と り込 こ み、また別 べつ のイオンを選択 せんたく 的 てき に排出 はいしゅつ することによって、内外 ないがい のイオンのバランスに差 さ を作 つく っている。最 もっと も原始 げんし 的 てき な生物 せいぶつ と考 かんが えられているシアノバクテリア にさえ膜 まく 電位 でんい とそれを利用 りよう したイオンチャネル の存在 そんざい が知 し られており、このことは生物 せいぶつ の誕生 たんじょう と共 とも に膜 まく 電位 でんい が形成 けいせい されたことを示唆 しさ している。
内外 ないがい に濃度 のうど 差 さ を作 つく られたイオンは電荷 でんか を持 も っているので、内外 ないがい のイオンバランスの差 さ は、内外 ないがい の電気 でんき 的 てき ポテンシャルの差 さ をもたらす。つまり、イオンの分布 ぶんぷ 差 さ そのものが、細胞 さいぼう 内外 ないがい に電位 でんい の差 さ をもたらすということである。この、イオン分布 ぶんぷ の差 さ による細胞 さいぼう 内外 ないがい の電位差 でんいさ を、膜 まく 電位 でんい と呼 よ ぶのである。
仮 かり に膜 まく 外 がい に1価 か の陽 ひ イオンが100個 こ あり、膜 まく 内 ない に1価 か の陽 ひ イオンが40個 こ あるという状況 じょうきょう を想定 そうてい する。この場合 ばあい 、膜 まく 外 がい は膜 まく 内 ない に対 たい して、イオン60個 こ 分 ぶん のプラスの電位差 でんいさ を持 も っているといえる(逆 ぎゃく に、膜 まく 内 ない は膜 まく 外 がい に比 くら べ、イオン60個 こ 分 ぶん マイナスの電位差 でんいさ があるといえる)。このように、膜 まく 電位 でんい とは膜 まく 内外 ないがい の陰陽 いんよう 両 りょう イオンの電荷 でんか の総和 そうわ で決定 けってい される。現実 げんじつ には膜 まく 内外 ないがい に存在 そんざい するイオンは一 いち 種類 しゅるい ではなく、またイオン種 しゅ によって価 あたい 数 すう も違 ちが うため、計算 けいさん は容易 ようい ではない。また、電荷 でんか バランスが崩 くず れた領域 りょういき は、膜 まく の近傍 きんぼう の2~3nm(デバイ長 ちょう )のところのみである。したがって、大 だい 部分 ぶぶん の電荷 でんか は膜 まく 表面 ひょうめん 付近 ふきん に集中 しゅうちゅう する。電位差 でんいさ の計算 けいさん については、後 のち に詳述 しょうじゅつ する。
膜 まく 電位 でんい が必要 ひつよう な理由 りゆう の1つとして、細胞 さいぼう 内外 ないがい に大 おお きな電位 でんい の差 さ を作 つく っておいた場合 ばあい に、その電位 でんい の差 さ を利用 りよう した非常 ひじょう に早 はや い情報 じょうほう 伝達 でんたつ が可能 かのう になるという利点 りてん がある。これはイオンによる電位差 でんいさ とその開放 かいほう によるエネルギーという概念 がいねん を、ダム による水位 すいい の差 さ とその開放 かいほう によるエネルギーによっての水力 すいりょく 発電 はつでん と置 お き換 か えて考 かんが えるとわかりやすいだろう。つまり、電位差 でんいさ (水位 すいい 差 さ )を一気 いっき にイオンチャネル(水門 すいもん )を開 ひら くことによって力 ちから を解 と き放 はな つと、大 おお きく、かつすばやい駆動 くどう 力 りょく を生 う み出 だ すことが可能 かのう になるのである。
細胞 さいぼう 膜 まく の重要 じゅうよう な性質 せいしつ の1つとして、細胞 さいぼう 膜 まく を構成 こうせい する脂質 ししつ 二 に 重層 じゅうそう の内部 ないぶ は疎水 そすい 性 せい であるということがあげられる。このため、イオンは細胞 さいぼう 膜 まく を介 かい して自由 じゆう に行 い き来 き することができない。そのため、一旦 いったん 生 しょう じたイオン組成 そせい の差 さ は、そのまま細胞 さいぼう 膜 まく 内外 ないがい の電荷 でんか の差 さ の原因 げんいん となる。つまり、膜 まく 電位 でんい が生 しょう じるためにはそもそも細胞 さいぼう 内外 ないがい のイオン分布 ぶんぷ に差 さ が生 しょう じる必要 ひつよう がある。以下 いか 、イオン分布 ぶんぷ の差 さ を引 ひ き起 お こす要素 ようそ について詳述 しょうじゅつ する。
イオンポンプの一 いち 例 れい 、Na+ /K+ -ATPアーゼ 。
イオン分布 ぶんぷ の差 さ を生 しょう じさせる第 だい 一 いち の要素 ようそ として、イオンポンプ の存在 そんざい が挙 あ げられる。イオンポンプはATP 等 ひとし のエネルギーを利用 りよう して、特定 とくてい のイオンを能動 のうどう 輸送 ゆそう するタンパク質 たんぱくしつ である。このイオンポンプは膜 まく 内外 ないがい のイオン組成 そせい の違 ちが いがどういう条件 じょうけん であろうと、一方 いっぽう から他方 たほう へ、能動 のうどう 的 てき に常 つね に一方 いっぽう 通行 つうこう のイオン輸送 ゆそう を担 にな う。
イオンポンプの輸送 ゆそう 速度 そくど はそれほど速 はや くなく、1分子 ぶんし のポンプ1秒 びょう あたりせいぜい数 すう 百 ひゃく のイオンを輸送 ゆそう できるにとどまるが、ATPのエネルギーがある限 かぎ り常 つね に動 うご き続 つづ ける。実際 じっさい には生 い きた細胞 さいぼう 内 ない でATPが枯渇 こかつ する事 こと は考 かんが えられないため、結果 けっか 的 てき にイオン分布 ぶんぷ 変化 へんか への貢献 こうけん 度 ど はそれなりに大 おお きくなる。
膜 まく 電位 でんい に関 かか わるイオンポンプとして、もっとも有名 ゆうめい かつ研究 けんきゅう がなされたものとして、Na+ /K+ -ATPアーゼ (ナトリウム-カリウムポンプ、ナトリウムポンプとも)が挙 あ げられる。これはATPの加水 かすい 分解 ぶんかい によるエネルギーを利用 りよう して3個 こ のナトリウム イオン(Na+ )を細胞 さいぼう 外 がい に汲 く み出 だ すと共 とも に、2個 こ のカリウム イオン(K+ )を細胞 さいぼう 内 ない に汲 く み込 こ むタンパクである。このタンパクが働 はたら いているおかげで、細胞 さいぼう 内 ない はナトリウムイオンが少 すく なく、カリウムイオンが多 おお いという条件 じょうけん を維持 いじ できるのである。そのほかにもカルシウム イオン(Ca2+ )や水素 すいそ イオン(H+ )を輸送 ゆそう するポンプなども存在 そんざい し、成分 せいぶん としては小 ちい さいものの、膜 まく 電位 でんい に貢献 こうけん している。
イオンチャネルを介 かい したイオンの移動 いどう : イオンの膜 まく を横切 よこぎ る移動 いどう は通常 つうじょう さえぎられるが、イオンチャネルにぶつかったイオンだけが、方向 ほうこう は非 ひ 選択 せんたく 的 てき に膜 まく を横切 よこぎ る様子 ようす 。
次 つぎ に、イオンポンプなどの活動 かつどう により一旦 いったん イオン分布 ぶんぷ の差 さ が生 う まれると、今度 こんど はその濃度 のうど 差 さ を利用 りよう した受動 じゅどう 輸送 ゆそう が可能 かのう になる。この受動 じゅどう 輸送 ゆそう は、イオンチャネル と呼 よ ばれるタンパク質 たんぱくしつ によってなされる。イオンチャネルは、イオンポンプ等 とう によって濃度 のうど 差 さ が作 つく られたイオンを、イオン濃度 のうど の高 たか いほうから低 ひく いほうへ拡散 かくさん させる、イオンの通 とお り道 みち である。よって、方向 ほうこう に選択 せんたく 性 せい はなく、膜 まく 電位 でんい がない場合 ばあい は常 つね にイオンの濃度 のうど 勾配 こうばい に従 したが った輸送 ゆそう である。
ただし、イオン濃度 のうど の低 ひく い方 ほう から高 たか い方 ほう への移動 いどう が全 まった くないわけではないことに注意 ちゅうい すべきである。イオンがチャネルを通過 つうか するかどうかはそのイオンがブラウン運動 うんどう によってチャネル分子 ぶんし に衝突 しょうとつ するかどうかに依存 いぞん しており、イオン濃度 のうど の高 たか い側 がわ では、イオンのチャネルへの衝突 しょうとつ が、低 ひく いほうに比 くら べて圧倒的 あっとうてき に起 お きやすいため、全体 ぜんたい としては高 たか い方 ほう から低 ひく い方 ほう への流 なが れが生 しょう じるわけである。
イオンチャネルの多 おお くは通常 つうじょう 不 ふ 活性 かっせい 型 がた であり、何 なん らかの刺激 しげき (膜 まく 電位 でんい の変化 へんか ・リガンド の結合 けつごう ・リン酸化 さんか ・機械 きかい 刺激 しげき など)に応 おう じて開閉 かいへい する。そのため、定常 ていじょう 状態 じょうたい の細胞 さいぼう において、働 はたら いているイオンチャネルは少 すく ないと言 い える。ただし、漏洩 ろうえい チャネルと呼 よ ばれるタイプのイオンチャネルは常 つね に開 ひら いており、静止 せいし 膜 まく 電位 でんい に貢献 こうけん する(後述 こうじゅつ )。
膜 まく 内外 ないがい の電位差 でんいさ そのものも、イオンの移動 いどう に影響 えいきょう を及 およ ぼす。たとえば、静止 せいし 状態 じょうたい の膜 まく 電位 でんい は細胞 さいぼう 内 ない が細胞 さいぼう 外 がい に比 くら べて負 まけ であることはすでに述 の べたが、負 まけ の細胞 さいぼう 内 ない に向 む けて陽 ひ イオンは入 はい りやすく、陰 かげ イオンは入 はい りにくい。逆 ぎゃく に、正 せい の細胞 さいぼう 外 がい に向 む けて陰 かげ イオンは出 で て行 い きやすく、陽 ひ イオンは出 で て行 い きにくい。これは、単純 たんじゅん に細胞 さいぼう 外 がい の正 せい 電荷 でんか を持 も つ環境 かんきょう が、陽 ひ イオンを反発 はんぱつ させようとするからである。現実 げんじつ に、塩化 えんか 物 ぶつ イオン(Cl- )の移動 いどう は細胞 さいぼう 膜 まく を通 とお してかなり自由 じゆう 度 ど が高 たか いため、この膜 まく 電位 でんい による移動 いどう にほとんど依存 いぞん している。
このように、いくつものタンパクの作用 さよう により、イオンは常 つね に、絶 た えず細胞 さいぼう 内外 ないがい を移動 いどう している。イオンの流出 りゅうしゅつ 入 いれ は細胞 さいぼう が生 い きている限 かぎ り止 と まることはないが、電荷 でんか の移動 いどう はある条件 じょうけん において見 み かけ上 じょう 動 うご かなくなる。この条件 じょうけん をもたらす膜 まく 電位 でんい を静止 せいし 膜 まく 電位 でんい (せいしまくでんい、英 えい : Resting Membrane Potential )という。この条件 じょうけん において、細胞 さいぼう は一種 いっしゅ の定常 ていじょう 状態 じょうたい にあり、見 み かけ上 じょう 電荷 でんか の移動 いどう はなく、膜 まく 電位 でんい は安定 あんてい する。ただし、この条件 じょうけん においてもイオンの流出 りゅうしゅつ 入 いれ は続 つづ いていることに注目 ちゅうもく すべきである。つまり、単位 たんい 時間 じかん 当 あ たりに流出 りゅうしゅつ するイオンの総 そう 電荷 でんか 量 りょう と流入 りゅうにゅう するイオン総 そう 電荷 でんか 量 りょう が一致 いっち しており、かつその状態 じょうたい が長 なが く続 つづ くような条件 じょうけん が、静止 せいし 膜 まく 電位 でんい である。
神経 しんけい 細胞 さいぼう を例 れい に取 と れば、一般 いっぱん にナトリウム イオン(Na+ )や塩化 えんか 物 ぶつ イオン(Cl- )は細胞 さいぼう 内 ない に少 すく ない。その代 か わり、カリウム イオン(K+ )濃度 のうど は高 たか く、また負 ふ 電荷 でんか を持 も つ有機 ゆうき 低 てい 分子 ぶんし (アスパラギン酸 さん など)の濃度 のうど が高 たか い。これらはチャネル分子 ぶんし の存在 そんざい による膜 まく の選択 せんたく 的 てき 透過 とうか 性 せい と、イオンポンプによる能動 のうどう 輸送 ゆそう が関与 かんよ している。ただし、細胞 さいぼう 膜 まく の塩化 えんか 物 ぶつ イオンに対 たい する選択 せんたく 的 てき 透過 とうか 性 せい はかなり低 ひく いため、塩化 えんか 物 ぶつ イオンは比較的 ひかくてき 自由 じゆう に膜 まく 内外 ないがい を行 い き来 き することができる。それでも塩化 えんか 物 ぶつ イオン濃度 のうど が細胞 さいぼう 外 がい において高 たか いのは、細胞 さいぼう 外 がい が細胞 さいぼう 内 ない に比 くら べて正 せい 電荷 でんか を持 も つため、膜 まく 電位 でんい による電場 でんじょう によって受動 じゅどう 的 てき に引 ひ き寄 よ せられるためである(前述 ぜんじゅつ 「#膜 まく 電位 でんい そのものによるイオンの移動 いどう 」参照 さんしょう )。
その他 た 、カルシウム イオンCa2+ やマグネシウム イオンMg2+ も比較的 ひかくてき 細胞 さいぼう 内 ない には少 すく ない。特 とく に、カルシウムイオン濃度 のうど が細胞 さいぼう 内 ない において少 すく なく維持 いじ されていることは、細胞 さいぼう にとって大変 たいへん 重要 じゅうよう である。カルシウムイオンは必要 ひつよう に応 おう じて細胞 さいぼう 外 がい や、小 しょう 胞体 から細胞 さいぼう 内 ない に放出 ほうしゅつ され、カルモジュリン やカルシウム依存 いぞん 性 せい キナーゼ 等 ひとし 、種々 しゅじゅ のカルシウム依存 いぞん 性 せい タンパク質 たんぱくしつ を活動 かつどう させる引 ひ き金 がね であり、たくさんのシグナル伝達 でんたつ カスケードを動 うご かす最初 さいしょ のキューとして非常 ひじょう に大切 たいせつ である。そのため、カルシウムは細胞 さいぼう 外 がい への輸送 ゆそう だけでなく、小 しょう 胞体内 うち へも能動 のうどう 輸送 ゆそう され、細胞 さいぼう 内 ない 濃度 のうど を低 ひく く保 たも っている。
神経 しんけい 細胞 さいぼう の典型 てんけい 的 てき な軸 じく 索 さく において、静止 せいし 膜 まく 電位 でんい は負 まけ であり、おおよそ-70mV程度 ていど である。このことは、細胞 さいぼう 外 がい に陽 ひ イオンが比較的 ひかくてき 多 おお い(もしくは細胞 さいぼう 内 ない に陰 かげ イオンが比較的 ひかくてき 多 おお い)ことを示唆 しさ している。実際 じっさい には前者 ぜんしゃ が正 ただ しい。前述 ぜんじゅつ したNa+ -K+ 交換 こうかん イオンポンプは3個 こ のナトリウムイオンと2個 こ のカリウムイオンを交換 こうかん しているだけなので膜 まく 電位 でんい の変化 へんか にはそれほど大 おお きく寄与 きよ しないが、外 そと にくみ出 だ されたナトリウムイオンが細胞 さいぼう 内 ない に入 はい り込 こ むためのナトリウムチャネル は通常 つうじょう 不 ふ 活性 かっせい 化 か されており、開 ひら いていないのに対 たい し、カリウムが細胞 さいぼう 外 がい に流出 りゅうしゅつ するカリウムチャネルの中 なか には、通常 つうじょう 開 ひら きっぱなしのものが存在 そんざい する。つまり、カリウムイオンは汲 く み入 い れても汲 く み入 い れても、ある程度 ていど は細胞 さいぼう 外 がい に漏 も れ出 で て行 い ってしまうのである。これが、静止 せいし 膜 まく 電位 でんい が負 まけ になってしまう主 おも な原因 げんいん である。このカリウムイオンを漏 も れ出 だ させてしまうチャネルを、カリウム漏洩 ろうえい チャネルと呼 よ ぶ。
静止 せいし 膜 まく 電位 でんい 時 じ のカリウムイオンの動態 どうたい
編集 へんしゅう
静止 せいし 膜 まく 電位 でんい の状態 じょうたい におけるカリウムイオンの移動 いどう の概略 がいりゃく 。 (P ): Na+ -K+ 交換 こうかん ポンプの作用 さよう に寄 よ るイオン移動 いどう 、(E ): 膜 まく 電位 でんい そのものの電場 でんじょう によって引 ひ き寄 よ せられる電気 でんき 化学 かがく 的 てき なイオンの移動 いどう 、(L ): 漏洩 ろうえい チャネルによるイオン移動 いどう 、(F ):静止 せいし 膜 まく 電位 でんい 時 じ にカリウムチャネルが開 ひら いた時 とき のカリウムイオンの透過 とうか 力 りょく 。
左 ひだり 図 ず の(P)と(E)が主要 しゅよう な内 うち 向 む きのカリウムイオンの移動 いどう である。この2者 しゃ による内 うち 向 む きの移動 いどう の合力 ごうりょく (P+E)が大 おお きな値 ね になることは図 ず から明 あき らかだろう。しかし、脊椎動物 せきついどうぶつ の静止 せいし 膜 まく 電位 でんい は-70mV付近 ふきん であり、そこからカリウムチャネルが開 ひら いても、せいぜい-90mV程度 ていど (カリウムの平衡 へいこう 電位 でんい )、つまり20mV分 ぶん 程度 ていど しか膜 まく 電位 でんい は変化 へんか しない。つまり内 ない 向 む きの大 おお きな力 ちから を相殺 そうさい するだけの外 そと 向 む きのイオン流 りゅう が最初 さいしょ から存在 そんざい しなければ説明 せつめい がつかないことになる。事実 じじつ その外 そと 向 む きのイオン流 りゅう を実現 じつげん しているのが(L)、前述 ぜんじゅつ の漏洩 ろうえい チャネルからのイオンの流出 りゅうしゅつ による。漏洩 ろうえい チャネルによる外 そと 向 む きイオン流 りゅう があるので、実際 じっさい に静止 せいし 膜 まく 電位 でんい からカリウムチャネルが開 ひら いた時 とき のカリウムイオンの流出 りゅうしゅつ は(F)程度 ていど となる。
静止 せいし 膜 まく 電位 でんい 時 じ のナトリウムイオンの動態 どうたい
編集 へんしゅう
静止 せいし 膜 まく 電位 でんい の状態 じょうたい におけるナトリウムイオンの移動 いどう の概略 がいりゃく 。 (P ): Na+ -K+ 交換 こうかん ポンプの作用 さよう に寄 よ るイオン移動 いどう 、(E ): 膜 まく 電位 でんい そのものの電場 でんじょう によって引 ひ き寄 よ せられる電気 でんき 化学 かがく 的 てき なイオンの移動 いどう 、(F ):静止 せいし 膜 まく 電位 でんい 時 じ にナトリウムチャネルが開 ひら いた時 とき のナトリウムイオンの透過 とうか 力 りょく 。
次 つぎ にナトリウムイオンに関 かん しては右 みぎ 図 ず に注目 ちゅうもく する。まず、上述 じょうじゅつ カリウムイオンの透過 とうか と異 こと なり、 Na+ -K+ 交換 こうかん ポンプの作用 さよう に寄 よ るイオン移動 いどう (P)が逆 ぎゃく 方向 ほうこう であることに注目 ちゅうもく すべきである。電気 でんき 化学 かがく 的 てき なイオンの移動 いどう (E)は同 どう 方向 ほうこう であるので、ポンプによる電流 でんりゅう が電気 でんき 化学 かがく 的 てき 移動 いどう を多少 たしょう 相殺 そうさい していることになる。しかし、ナトリウムイオンはほとんど細胞 さいぼう 内 ない に漏洩 ろうえい しないので、ナトリウムチャネルが開 ひら くと大 おお きな透過 とうか 力 りょく (F)を発生 はっせい することになる。これが活動 かつどう 電位 でんい の正体 しょうたい であり、この大 おお きな力 ちから により、-70mV程度 ていど の膜 まく 電位 でんい は、+40mV付近 ふきん まで一気 いっき に変化 へんか する。
前述 ぜんじゅつ のように、イオンの流 なが れは膜 まく 電位 でんい そのものが起 お こす電場 でんじょう の影響 えいきょう を受 う ける。電場 でんじょう によって起 お こされるイオン移動 いどう は受動 じゅどう 的 てき なものであり、電場 でんじょう を打 う ち消 け すような方向 ほうこう に行 おこな われるため、ある一定 いってい の膜 まく 電位 でんい において、そのイオンの移動 いどう が見 み かけ上 じょう 停止 ていし する点 てん がある。それを平衡 へいこう 電位 でんい (へいこうでんい、英 えい : Equilibrium Potential )と呼 よ ぶ。細胞 さいぼう 膜 まく のそれぞれのイオンに対 たい する選択 せんたく 的 てき 透過 とうか 性 せい は異 こと なるため、平衡 へいこう 電位 でんい はそれぞれのイオンについて別々 べつべつ に存在 そんざい する。
平衡 へいこう 電位 でんい を求 もと めるためには、ドイツ の化学 かがく 者 しゃ 、ヴァルター・ネルンスト によって導 みちび かれたネルンストの式 しき を利用 りよう する。
E
i
o
n
=
R
T
z
F
ln
[
i
o
n
]
o
[
i
o
n
]
i
{\displaystyle E_{ion}={\frac {RT}{z{\rm {F}}}}\ln {\frac {[ion]_{o}}{[ion]_{i}}}}
ただし、lnは自然 しぜん 対数 たいすう (e を底 そこ とする対数 たいすう )であり、他 た のパラメータは以下 いか のとおりである。
ここで哺乳類 ほにゅうるい の体 からだ 細胞 さいぼう における1価 か の陽 ひ イオンに限 かぎ って考 かんが えれば、Z=1、T=37+273=310を代入 だいにゅう して;
E
i
o
n
=
26.7
ln
[
i
o
n
]
o
[
i
o
n
]
i
{\displaystyle E_{ion}=26.7\ln {\frac {[ion]_{o}}{[ion]_{i}}}}
となり、平衡 へいこう 電位 でんい は膜 まく 内外 ないがい のイオン濃度 のうど (厳密 げんみつ には活 かつ 量 りょう )によってのみ決定 けってい されていることがわかる。このことは二 ふた つの意味 いみ で重要 じゅうよう である。ひとつは、平衡 へいこう 電位 でんい は膜 まく 電位 でんい によって影響 えいきょう されないということである。様々 さまざま なイオンの平衡 へいこう 電位 でんい の総和 そうわ は、膜 まく 電位 でんい を決 き める重要 じゅうよう な要素 ようそ であるが、平衡 へいこう 電位 でんい そのものが膜 まく 電位 でんい に影響 えいきょう を受 う けることはない。もうひとつは、その様々 さまざま な他 ほか のイオンの存在 そんざい にも関係 かんけい なく、平衡 へいこう 電位 でんい は決 き まるということである。い換 いか えれば、他 た のイオンの作 つく る電場 でんじょう に、平衡 へいこう 電位 でんい は影響 えいきょう されない[1] 。
哺乳類 ほにゅうるい の典型 てんけい 的 てき な神経 しんけい 細胞 さいぼう 内 ない のイオン濃度 のうど と、体液 たいえき の組成 そせい による細胞 さいぼう 外 がい イオン濃度 のうど は以下 いか のとおりであるので、これらより、平衡 へいこう 電位 でんい を計算 けいさん することが可能 かのう である。
***
カリウムイオン(K+ )
ナトリウムイオン(Na+ )
塩化 えんか 物 ぶつ イオン(Cl- )
細胞 さいぼう 外 がい
5.5mM
135mM
125mM
細胞 さいぼう 内 ない
150mM
15mM
9mM
E
K
=
26.7
ln
5.5
150
=
−
88.27
m
V
,
E
N
a
=
26.7
ln
135
15
=
+
58.67
m
V
{\displaystyle E_{K}=26.7\ln {\frac {5.5}{150}}=-88.27mV,\ E_{Na}=26.7\ln {\frac {135}{15}}=+58.67mV}
以上 いじょう からわかるとおり、見 み かけ上 じょう イオンの移動 いどう が停止 ていし する膜 まく 電位 でんい は、カリウムイオンについては-88mV、ナトリウムイオンは+59mVということである。逆 ぎゃく に言 い えば、カリウムイオンは膜 まく 電位 でんい が-88mVになるまで、ナトリウムイオンは+59mVになるまで移動 いどう を続 つづ けようとするということである。このことは神経 しんけい 細胞 さいぼう の活動 かつどう 電位 でんい の発生 はっせい 時 じ に観察 かんさつ することができる。活動 かつどう 電位 でんい が発生 はっせい するとき、軸 じく 索 さく 上 うえ のナトリウムチャネル が開放 かいほう され、ナトリウムイオンの細胞 さいぼう 膜 まく 内外 ないがい の行 い き来 き は自由 じゆう になる。そのため、膜 まく 電位 でんい は+59mVに向 む けて変動 へんどう する。これが活動 かつどう 電位 でんい のスパイクの正体 しょうたい である。その後 ご ナトリウムチャネルは不 ふ 活性 かっせい 化 か されて閉 と じ、今度 こんど は電位 でんい 依存 いぞん 性 せい のカリウムチャネル が開放 かいほう される。そこで今度 こんど は、膜 まく 電位 でんい は-88mVに向 む けて下降 かこう し、静止 せいし 膜 まく 電位 でんい である-70mV付近 ふきん を越 こ えてアンダーシュートするのである。
ゴールドマン・ホジキン・カッツの式 しき (GHK方程式 ほうていしき )
編集 へんしゅう
前述 ぜんじゅつ したネルンストの式 しき は、それぞれのイオンについて、その流 なが れが見 み かけ上 じょう 止 と まる点 てん を導 みちび き出 だ す式 しき であり、膜 まく 電位 でんい そのものは算出 さんしゅつ できない。膜 まく 電位 でんい を算出 さんしゅつ するためには、各 かく イオン電流 でんりゅう の和 わ が0になる電位 でんい を求 もと める必要 ひつよう があり、そのために導出 みちびきだ されたのが、ゴールドマン・ホジキン・カッツの式 しき (英 えい : Goldman-Hodgkin-Katz Equation )、あるいはGHK方程式 ほうていしき である。GHK方程式 ほうていしき では、細胞 さいぼう 膜 まく を透過 とうか するイオンをすべて考 かんが えるのが、ネルンストの式 しき との最大 さいだい の違 ちが いである。ただしGHK方程式 ほうていしき の導出 どうしゅつ においては、扱 あつか う対象 たいしょう のイオンの価 あたい 数 すう の絶対 ぜったい 値 ち が等 ひと しいことと、膜 まく 内部 ないぶ の電位 でんい 勾配 こうばい が一定 いってい とした仮定 かてい (constant field theory)を用 もち いている。
ここで、細胞 さいぼう 膜 まく を透過 とうか するイオンがK+ 、Na+ 、Cl- のみと仮定 かてい すると、膜 まく 電位 でんい Em は以下 いか の式 しき で表 あらわ される。
E
m
=
R
T
F
ln
P
K
[
K
+
]
o
+
P
N
a
[
N
a
+
]
o
+
P
C
l
[
C
l
−
]
i
P
K
[
K
+
]
i
+
P
N
a
[
N
a
+
]
i
+
P
C
l
[
C
l
−
]
o
{\displaystyle E_{m}={\frac {RT}{F}}\ln {\frac {P_{K}[K^{+}]_{o}\ +P_{Na}[Na^{+}]_{o}\ +P_{Cl}[Cl^{-}]_{i}}{P_{K}[K^{+}]_{i}\ +P_{Na}[Na^{+}]_{i}\ +P_{Cl}[Cl^{-}]_{o}}}}
PK 、PNa 、PCl は、それぞれのイオンの透過 とうか 係数 けいすう であり、また、生体 せいたい 内 ない においてはおおよそPK : PNa : PCl = 1 : 0.04 : 0.45程度 ていど であるので、
PNa = 0.04PK
PCl = 0.45PK
さらに前述 ぜんじゅつ の細胞 さいぼう 内外 ないがい のナトリウム・カリウムイオンおよび塩化 えんか 物 ぶつ イオン濃度 のうど を代入 だいにゅう すると、
E
m
=
R
T
F
ln
5.5
P
K
+
135
×
0.04
P
K
+
9
×
0.45
P
K
150
P
K
+
15
×
0.04
P
K
+
125
×
0.45
P
K
{\displaystyle E_{m}={\frac {RT}{F}}\ln {\frac {5.5P_{K}\ +135\times 0.04P_{K}+9\times 0.45P_{K}}{150P_{K}+15\times 0.04P_{K}+125\times 0.45P_{K}}}}
E
m
=
R
T
F
ln
14.95
P
K
206.85
P
K
=
−
70.15
m
V
{\displaystyle E_{m}={\frac {RT}{F}}\ln {\frac {14.95P_{K}}{206.85P_{K}}}=-70.15mV}
となり、おおむね実測 じっそく 値 ち となることがわかる。このとき、イオンxの透過 とうか 係数 けいすう (Px )の絶対 ぜったい 値 ち そのものは必要 ひつよう ない。透過 とうか 係数 けいすう はイオンのコンダクタンス (抵抗 ていこう 値 ね の逆数 ぎゃくすう )と密接 みっせつ に関 かか わる量 りょう であるが、現実 げんじつ には算出 さんしゅつ は容易 ようい でない。GHK方程式 ほうていしき の便利 べんり な点 てん は、透過 とうか 係数 けいすう の比 ひ のみで膜 まく 電位 でんい の値 ね が求 もと まることである。
さらに、ナトリウムイオンと塩化 えんか 物 ぶつ イオンの透過 とうか 性 せい がゼロの条件 じょうけん を考 かんが えると、PNa =PCl =0より、
E
m
=
R
T
z
F
ln
[
K
+
]
o
[
K
+
]
i
(
z
=
+
1
)
{\displaystyle E_{m}={\frac {RT}{zF}}\ln {\frac {[K^{+}]_{o}}{[K^{+}]_{i}}}\qquad (z=+1)}
となり、膜 まく 電位 でんい がカリウムの平衡 へいこう 電位 でんい と同 おな じになる。この式 しき はネルンストの式 しき と全 まった く同 おな じである。
また、GHK方程式 ほうていしき の自然 しぜん 対 たい 数 すう 部 ぶ において、細胞 さいぼう 内 ない イオン濃度 のうど と細胞 さいぼう 外 がい イオン濃度 のうど の項 こう が、陽 ひ イオンと陰 かげ イオンで逆 ぎゃく になる。これは、GHK方程式 ほうていしき に、PK =PNa =0を代入 だいにゅう した場合 ばあい 、下 した 式 しき のようにCl- (z=-1)に対 たい するネルンストの式 しき になることに対応 たいおう している。
E
m
=
R
T
F
ln
[
C
l
−
]
i
[
C
l
−
]
o
=
R
T
z
F
ln
[
C
l
−
]
o
[
C
l
−
]
i
(
z
=
−
1
)
{\displaystyle E_{m}={\frac {RT}{F}}\ln {\frac {[Cl^{-}]_{i}}{[Cl^{-}]_{o}}}={\frac {RT}{zF}}\ln {\frac {[Cl^{-}]_{o}}{[Cl^{-}]_{i}}}\qquad (z=-1)}
細胞 さいぼう 膜 まく は静止 せいし 膜 まく 電位 でんい で定常 ていじょう 状態 じょうたい を保 たも っている。この状態 じょうたい を、膜 まく が分極 ぶんきょく (polarization)しているという。ここからプラス方向 ほうこう に膜 まく 電位 でんい が変化 へんか することを脱 だつ 分極 ぶんきょく (depolarization)、さらにマイナス方向 ほうこう に変化 へんか することを過 か 分極 ぶんきょく (hyperpolarization)と表現 ひょうげん する。脱 だつ 分極 ぶんきょく は必 かなら ずしも、膜 まく 電位 でんい が正 まさ に変化 へんか することを伴 ともな わず、-70mVから-30mVへの変化 へんか でも、十分 じゅうぶん 脱 だつ 分極 ぶんきょく である。また、一旦 いったん プラスに転 てん じた膜 まく 電位 でんい が再度 さいど 静止 せいし 膜 まく 電位 でんい に戻 もど ることを、再 さい 分極 ぶんきょく (repolarization)という。
神経 しんけい 細胞 さいぼう はシナプス と呼 よ ばれる構造 こうぞう を通 つう じて情報 じょうほう の伝達 でんたつ をしているが、伝達 でんたつ を受 う けた神経 しんけい 細胞 さいぼう が脱 だつ 分極 ぶんきょく するか過 か 分極 ぶんきょく するかは重要 じゅうよう なポイントである。それは、脱 だつ 分極 ぶんきょく を引 ひ き起 お こす伝達 でんたつ は「興奮 こうふん 性 せい 伝達 でんたつ 」と呼 よ ばれ、活動 かつどう 電位 でんい を引 ひ き起 お こす助 たす けとなるのに対 たい し、過 か 分極 ぶんきょく を引 ひ き起 お こす伝達 でんたつ は「抑制 よくせい 性 せい 伝達 でんたつ 」と呼 よ ばれ、活動 かつどう 電位 でんい の発生 はっせい を抑 おさ える働 はたら きをする。活動 かつどう 電位 でんい の発生 はっせい は、入力 にゅうりょく された興奮 こうふん 性 せい /抑制 よくせい 性 せい 伝達 でんたつ の総和 そうわ がある一定 いってい の値 ね (閾値という)に達 たっ するかどうかによって決定 けってい されるので、個々 ここ のシナプスが興奮 こうふん 性 せい であるか、抑制 よくせい 性 せい であるかは神経 しんけい 回路 かいろ を理解 りかい するうえで大変 たいへん 重要 じゅうよう なのである。
膜 まく 電位 でんい を電気 でんき 的 てき に測定 そくてい するためには、細胞 さいぼう 内外 ないがい にそれぞれ一 いち 本 ほん ずつ電極 でんきょく をおくことが必要 ひつよう となる。細胞 さいぼう 外 がい は良 よ いとして、細胞 さいぼう 内 ない に電極 でんきょく を刺 さ すことはなかなか困難 こんなん である。これを最初 さいしょ に可能 かのう にし、膜 まく 電位 でんい を測定 そくてい したのがイギリス の神経 しんけい 科学 かがく 者 しゃ 、アラン・ホジキン とアンドリュー・ハクスレー ということになっている(後述 こうじゅつ )。彼 かれ らはイカ の巨大 きょだい 軸 じく 索 さく を用 もち いて、膜 まく 電位 でんい とその変化 へんか を観察 かんさつ した功績 こうせき から、1963年 ねん のノーベル生理学 せいりがく ・医学 いがく 賞 しょう を受賞 じゅしょう した。イカの巨大 きょだい 軸 じく 索 さく は直径 ちょっけい 1mm近 ちか くあるので、内部 ないぶ に金属 きんぞく 製 せい のワイヤを差 さ し込 こ むことが比較的 ひかくてき 容易 ようい だったためである。
パッチクランプ法 ほう の概略 がいりゃく 図 ず 。ここではガラス管 かん 電極 でんきょく によって囲 かこ んだチャネルから流 なが れる電流 でんりゅう を測定 そくてい しているが、ガラス管内 かんない と細胞 さいぼう 内 ない を隔 へだ てる部分 ぶぶん の細胞 さいぼう 膜 まく を破 やぶ ることによって、細胞 さいぼう 全体 ぜんたい を行 い き来 き する電流 でんりゅう を測定 そくてい することも可能 かのう である。
しかし、今日 きょう では細胞 さいぼう 内 ない にワイヤを刺 さ すことはまず行 おこな われず、電解 でんかい 液 えき で満 み たした細 ほそ いガラス管 かん 電極 でんきょく を細胞 さいぼう にあてて、膜 まく 電位 でんい を測定 そくてい するのが主流 しゅりゅう である。細胞 さいぼう 内 ない に直接 ちょくせつ 電極 でんきょく が刺 さ さっていなくても、測定 そくてい 電極 でんきょく と電解 でんかい 質 しつ 溶液 ようえき が連続 れんぞく している限 かぎ り、なんら問題 もんだい はなく膜 まく 電位 でんい は測定 そくてい できるからである。この技術 ぎじゅつ はパッチクランプ法 ほう と呼 よ ばれ、神経 しんけい 科学 かがく 研究 けんきゅう の大切 たいせつ な技術 ぎじゅつ の一 ひと つである。また、これ自体 じたい 1991年 ねん のノーベル生理学 せいりがく ・医学 いがく 賞 しょう 受賞 じゅしょう 技術 ぎじゅつ である。
しかし、ホジキン(1955)やハクスレー(1951)に先行 せんこう すること10年 ねん 以上 いじょう 前 まえ 、日本人 にっぽんじん の科学 かがく 者 しゃ 、鎌田 かまた 武雄 たけお が英国 えいこく 留学 りゅうがく 中 ちゅう にゾウリムシ の膜 まく 電位 でんい の測定 そくてい に成功 せいこう していた(1934)。しかも彼 かれ はこの時点 じてん ですでにガラス管 かん 電極 でんきょく を発明 はつめい して用 もち いており、ノーベル賞 しょう 級 きゅう の技術 ぎじゅつ を二 ふた つ同時 どうじ に駆使 くし していたことになる。
今日 きょう でも、パッチクランプ法 ほう は主要 しゅよう な膜 まく 電位 でんい の測定 そくてい 技術 ぎじゅつ であるが、1970年代 ねんだい から、細胞 さいぼう 膜 まく に溶 と け込 こ み、膜 まく 電位 でんい の変化 へんか に応 おう じて蛍光 けいこう あるいは吸光が変化 へんか する、膜 まく 電位 でんい 感受性 かんじゅせい 色素 しきそ と言 い う化学 かがく 物質 ぶっしつ が発明 はつめい され、光学 こうがく 的 てき に膜 まく 電位 でんい 変化 へんか を計測 けいそく する方法 ほうほう (膜 まく 電位 でんい イメージング )が確立 かくりつ された。膜 まく 電位 でんい イメージングは複数 ふくすう の神経 しんけい 細胞 さいぼう から同時 どうじ に膜 まく 電位 でんい を記録 きろく できるという大 おお きな利点 りてん があり、生体 せいたい への応用 おうよう を目指 めざ した研究 けんきゅう が盛 さか んにおこなわれている。
^ 膜 まく 表面 ひょうめん に存在 そんざい する電荷 でんか がデバイ遮蔽 しゃへい される程度 ていど がイオン濃度 のうど に依存 いぞん することや、膜 まく 表面 ひょうめん にあるリン酸 さん 部分 ぶぶん の負 ふ 電荷 でんか の存在 そんざい によって、膜 まく 近傍 きんぼう の電位 でんい の構造 こうぞう は複雑 ふくざつ になるが、このことが、電位 でんい 感受性 かんじゅせい のイオンチャネルのゲーティングに影響 えいきょう を与 あた えることはあっても、平衡 へいこう 電位 でんい には影響 えいきょう を与 あた えない
Bertil Hille, Ionic Channel of Excitable Membranes Macmillan Education Australia (1984/11/30). ISBN 0-87893-322-0
Nicholls, J.G., Martin, A.R. and Wallace, B.G. From Neuron to Brain Sinauer Associates Inc; 4th Edition (2001/1/15). ISBN 0-87893-580-0
Kamada, T. Some observations on potential defference across the ectoplasm membrane of Paramecium . J. Exp. Biol. 11, 94-102 (1934)
Delcomyn, F. (translation by Ogura, A., Tominaga, K.) ニューロンの生物 せいぶつ 学 がく 南江堂 なんこうどう (2000/12). ISBN 4-524-22431-9
岡 おか 良隆 よしたか :「基礎 きそ から学 まな ぶ 神経 しんけい 生物 せいぶつ 学 がく 」,オ お ーム社 むしゃ ,ISBN:978-4-274-21195-9,(2012年 ねん 5月 がつ ).