ライフリング

ライフリング (rifling) は、銃じゅう砲ほうの銃砲じゅうほう身み内うちに施ほどこされた螺旋らせん状じょうの溝みぞを意味いみし、日本語にほんごでは施ほどこせ条じょう（しじょう）、あるいは腔綫（腔線）（こうせん、綫は線せんの別べつ体たい。常用漢字じょうようかんじでないため、「線せん」と書かくこともある）、もしくは腔旋と呼よぶ。この螺旋らせん状じょうの浅あさい溝みぞにより、銃身じゅうしん内ないで加速かそくされる弾丸だんがんに旋回せんかい運動うんどうを与あたえ、ジャイロ効果こうかによって弾たま軸じくの安定あんていを図はかり、直進ちょくしん性せいを高たかめる目的もくてきで用もちいられる。

ロイヤル・オードナンス L7 105mm戦車せんしゃ砲ほうのカットモデル。ライフリングが観察かんさつできる

ライフリングのない滑すべり腔銃砲身ほうしんから椎しいの実弾じつだんを発射はっしゃすると、旋転せんてんされない弾丸だんがんは空気くうき抵抗ていこうを受うけて横よこ弾だんとなったり、でんぐり返がえりながら飛とぶので命中めいちゅう精度せいどはまったく期待きたいできない（こうしたタイプの銃じゅうに、FP-45などの超ちょう至近しきん距離きょり用ようの簡易かんい拳銃けんじゅうが存在そんざいする）。なお、同おなじく滑すべり腔銃身じゅうしんの散弾さんだん銃じゅう用ようスラッグ弾だんは、さまざまな方法ほうほう（設もうけた翼つばさにより、空気くうき抵抗ていこうを受うけて回転かいてんするなど）でジャイロ効果こうかを発揮はっきさせている。

概要がいよう

ライフリングの転てん度ど（周期しゅうき）をライフリング・ツイストまたはライフリング・ピッチと呼よび、銃身じゅうしんの能力のうりょくを表あらわす。「1/12」や「1-12」などと表記ひょうきされ、この場合ばあいは弾頭だんとうが銃身じゅうしん腔内を12インチ移動いどうして1回転かいてんすることを示しめす。基本きほん的てきには、安定あんていした弾道だんどうを確保かくほするために、より重おもい弾頭だんとうの使用しようを想定そうていしたライフリングの方ほうが転てん度どが大おおきい（周期しゅうきが短みじかい）。ただし、同おなじ弾頭だんとうの場合ばあいには転てん度どが大おおきい方ほうが若干じゃっかん初速しょそくが劣おとる。

起おこり線せん部ぶから銃口じゅうこうまでの腔線の傾かたぶけ角かくが一定いっていであることを等ひとし斉ひとし転てん度ど（uniform twist ないし constant twist）、傾かたぶけ角かくが増加ぞうかすることを漸増ぜんぞう転てん度ど（gain twist ないし progressive twist）と称しょうする。薬くすり室しつで静止せいし状態じょうたいにある被ひ甲かぶと弾丸だんがんを急激きゅうげきに加速かそくさせると、弾丸だんがん本体ほんたいと被ひ甲かぶとの間あいだに大おおきなストレスがかかり、最悪さいあくの場合ばあいには両者りょうしゃが剥離はくりして弾道だんどうが不安定ふあんていになる。また銃身じゅうしん内ない腔の薬くすり室しつ直前ちょくぜん部分ぶぶんも、発射はっしゃの度たびに高たかい腔圧を受うけるため消耗しょうもうしやすい。漸増ぜんぞう転てん度どのライフリングは主おもにこうした問題もんだいを防ふせぐためのもので、弾丸だんがんをまず緩ゆるやかな転てん度どでスタートさせ、銃口じゅうこうから発射はっしゃするまでに転てん度どを徐々じょじょに上あげることができる。

銃身じゅうしんの内径ないけいは銃弾じゅうだんの外そと径みちよりも狭せまいため、発射はっしゃされた銃弾じゅうだんにはライフリングによって跡あとが刻きざみ込こまれる。これがライフルマークで、日本語にほんごでは施ほどこせ条じょう痕こん、線条せんじょう痕こんと呼よぶ（なお、「旋」の字じを使つかった表記ひょうきは誤あやまり）。複数ふくすうの銃身じゅうしんに同おなじ工作こうさく機械きかいでライフリングを刻きざむ場合ばあい、これを切削せっさくで行おこなうと削けずる工具こうぐの刃はが少すこしずつ摩耗まもうするので、ライフリングの形状けいじょうは銃じゅう1挺ていごとに微妙びみょうに異ことなってくる。そのため指紋しもんと同様どうように銃弾じゅうだんから発射はっしゃした銃器じゅうきの種類しゅるいだけでなく個々ここの銃じゅうまで特定とくていすることができ、犯罪はんざい捜査そうさに利用りようできる。

ただ、現代げんだいでは銃身じゅうしんを芯しん金きん（マンドレル）に打うち付つけてライフリングを刻きざむ工法こうほうになっているため、工場こうじょう出荷しゅっか時点じてんでライフリングの形状けいじょうが同一どういつの銃身じゅうしんが理論りろん上じょう、確かく率りつ的てきに考かんがえて少すくなくとも数すう十じゅう本ほんは存在そんざいすることになるが、この場合ばあいでも銃じゅうごとに発砲はっぽうのたびにライフリングが僅わずかずつ摩耗まもうし、独自どくじ性せいを持もつことから、個体こたい判別はんべつは可能かのうとされている。

riflingとは、古こフランス語ふらんすごのriflerからきており、riflerとは「かすめる、削けずる」というような意味いみである。

歴史れきし

ミニエー弾だんの構造こうぞう

ミニエー弾だん各種かくしゅ

ライフリングの発明はつめいは、1498年ねんにウィーンのガスパール・ゾラー(英えい:Gaspard Zoller)によって発明はつめいされた。ライフリングの溝みぞは、銃身じゅうしん内ないの汚よごれを減少げんしょうさせる目的もくてきで、最初さいしょは銃身じゅうしんに真まっ直すぐ彫ほられた。しかし、弾丸だんがんが銃身じゅうしん内ないで真まっ直すぐに向むけられているため、銃じゅうの射撃しゃげき精度せいどが向上こうじょうする傾向けいこうにあった。ライプツィヒの市民しみんは、この時期じきのターゲット練習れんしゅうにてこの真まっ直すぐなライフリングが施ほどこされた銃じゅうを使用しようした。

その後ご、1520年ねんにニュルンベルクのアウグストゥス・コッター（Augustus Kotter)が螺旋らせん状じょうの溝みぞを、導入どうにゅうしたと言いわれている。しかし、施ほどこせ条じょうを刻きざみ込こむ工程こうていのための製作せいさく費ひの高たかさや、弾丸だんがんが施ほどこせ条じょうに食くい込こんで回転かいてんするという仕組しくみ上じょう、やや大おおきめの弾丸だんがんを押おし込こまねばならず、この弾たま込こめの手間てまによる発射はっしゃ速度そくどの遅おそさなど多おおくの問題もんだいからすぐには普及ふきゅうすることはなかった。

結局けっきょく、ライフルは最初さいしょは娯楽ごらくに使用しようされ、17世紀せいきなかばまで戦争せんそうに使用しようされることはなかった。

状況じょうきょうが変化へんかしたのは、1836年ねんにロンドンのガンスミスであったウィリアム・グリーナーが考案こうあんしたアイディアを、1849年ねんにフランス陸軍りくぐん大尉たいいのクロード・エティエンヌ・ミニエーが採用さいようしたある形状けいじょうの弾丸だんがんであった。この弾丸だんがんは当時とうじ一般いっぱん的てきであった球たま形かたちではなく、先端せんたんの尖とがった円錐えんすい形がたのプリチェット弾だんであり、球形きゅうけいの弾丸だんがんと同おなじように銃口じゅうこうから込こめられ、内径ないけいより小ちいさめで押おし込こめやすく作つくられていた。底部ていぶには穴あながあり、ここに木き栓せん（コルク）が詰つめられている。発射はっしゃ時じには火薬かやくの爆発ばくはつで生しょうじた圧あつ力りょくにより木き栓せんが前進ぜんしん、木き栓せんにより押おし広ひろげられた弾丸だんがんの裾すそが広ひろがり、それによって弾丸だんがんが施ほどこせ条じょうに押おし付つけられ回転かいてんするのである。これをミニエー弾だんと呼よぶ。後のちには底部ていぶに鉄てつのキャップを押おしつけて裾すそを広ひろげ、木き栓せんが必要ひつようないエンフィールド弾だんに発展はってんする。

フランスではミニエー銃じゅうは直ただちに試験しけんされ、いくつかの実戦じっせんを経へた後のち、1857年ねんにはフランス陸軍りくぐんの制式せいしき装備そうびとなった。

他国たこくもこれに追従ついしょうし、イギリス陸軍りくぐんは1851年ねんにミニエー弾丸だんがんの特許とっきょを購入こうにゅう、プロイセン陸軍りくぐんは1840年代ねんだいから独自どくじ規格きかくのライフル銃じゅうを製作せいさくしていたが、1854年ねん-1856年ねんにかけてミニエー銃じゅうを導入どうにゅう、アメリカ陸軍りくぐんは1855年ねんにライフル銃じゅうに切きり替かえた。

ねじれ率りつ

エマニュエル・カレッジ、ケンブリッジの数学すうがく者しゃジョージ・グリーンヒルが開発かいはつしたライフリングのねじれ率りつを計算けいさんするための公式こうしきは以下いかの通とおり。

$Twist={\frac {CD^{2}}{L}}\times {\sqrt {\frac {SG}{10.9}}}$

• C=150（砲ほう口速くちばや度どが2,800フィート/秒びょう（=853.44メートル/秒びょう）より高速こうそくであれば180を用もちいる）
• D=弾丸だんがんの直径ちょっけい（インチ）
• L=弾丸だんがんの長ながさ（インチ）
• SG=弾丸だんがんの比重ひじゅう（鉛なまり芯しんの弾丸だんがんであれば10.9を代入だいにゅうし、方程式ほうていしきの後半こうはんを約分やくぶんする）

方式ほうしき

普通ふつうのライフリング（左ひだり）とポリゴナルライフリング（右みぎ）

角張かくばった溝みぞを切きる通常つうじょうのライフリングのほか、次つぎのような方式ほうしきもある。

ポリゴナルライフリング

詳細しょうさいは「ポリゴナルライフリング」を参照さんしょう

銃身じゅうしん内部ないぶの形状けいじょうをねじれた多角柱たかくちゅうにする方式ほうしき。一般いっぱん的てきな溝みぞ形状けいじょうのライフリングに対たいして、弾頭だんとうと銃身じゅうしん（ライフリング）が線せんではなく面めんで接触せっしょくする。冷ひや間あいだ鍛造たんぞうによる大量たいりょう生産せいさんに向むく、装そう薬やくの燃焼ねんしょうガスが逃にげにくいため初速しょそくが上あがる、摩耗まもうしにくく銃身じゅうしんの命数めいすうが上あがる、応力おうりょくが集中しゅうちゅうする鋭角えいかく部ぶが無ないため異常いじょうな腔圧を受うけても破損はそんしにくい、清掃せいそうが簡単かんたんなどのメリットがある。反面はんめん、弾頭だんとうと銃身じゅうしんとの接触せっしょく面めんが増ふえ、接せっ圧あつが下さがるため、弾頭だんとうに旋回せんかい運動うんどうを与あたえる力ちからに限度げんどがある。そのため大だい口径こうけいの火砲かほうには用もちいられていない。

メトフォード・ライフリング

ポリゴナルライフリングの一種いっしゅ。リー・メトフォード小銃しょうじゅうで採用さいようされたことからこの名なで呼よばれる。溝みぞを切きる代かわりに波状はじょうの曲線きょくせんを用もちいる方式ほうしき。通常つうじょうのライフリングに比ひして弾道だんどう精度せいどに優すぐれるが、磨耗まもうが激はげしいという欠点けってんから開発かいはつ国こくであるイギリスを含ふくめ普及ふきゅうしなかった。大日本帝国だいにっぽんていこく陸軍りくぐんは二に十じゅう二に年ねん式しき村田むらた連発れんぱつ銃じゅう以後いごの主力しゅりょく小銃しょうじゅうに採用さいようした。

施ほどこせ条じょう砲ほうと滑すべり腔砲

左ひだり：砲ほう腔内の施ほどこせ条じょう溝みぞを追従ついしょうするよう、周囲しゅういにリベットを設もうけたライット・システムの砲弾ほうだん図解ずかい
右みぎ：戊辰戦争ぼしんせんそうで使用しようされた四よん斤きん山砲さんぽうの砲弾ほうだん。ライット・システムである

施ほどこせ条じょう砲ほうに対たいしてライフリングの施ほどこされていない銃じゅう砲ほうを滑すべり腔銃（砲ほう）と呼よび、火縄銃ひなわじゅう・散弾さんだん銃じゅう・迫撃はくげき砲ほう（ただし、全すべてが滑すべり腔砲ではない）などがその例れいである。つまり、現代げんだいでは拳銃けんじゅうやほとんどの重火器じゅうかきはすべてライフリングの施ほどこされた「ライフル」ガンであり、その中なかで小銃しょうじゅうのみを「ライフル」と呼よぶのは本来ほんらい奇妙きみょうなことと言いえる。これは、ライフリングが普及ふきゅうした19世紀せいき後半こうはんに、施ほどこせ条じょう銃じゅうをライフルと呼よんでそれ以前いぜんの、滑すべり腔銃であるマスケット銃じゅうから区別くべつしたことに由来ゆらいする。

前ぜん装そう式しきの大砲たいほうは、ミニエー弾だんの様ようなプリチェット式しきの砲弾ほうだんをそのまま使つかう訳わけにも行いかず、ライフリング開発かいはつ後ごも長ながらく球たま形かたち弾だんを飛とばす滑すべり腔砲であったが、長ちょう弾だんの弾頭だんとうにリベットを付つけ、施ほどこせ条じょうと噛かみ合あわせて旋転せんてんするライット・システムが19世紀せいきに開発かいはつされた。リベットの頭あたまとポリゴナルライフリングの溝みぞのあいだに大おおきな隙間すきまがあったため、現代げんだいの施ほどこせ条じょう砲ほうに比較ひかくすればガスが漏もれやすく、発射はっしゃの際さいのエネルギーロスは大おおきかったが、施ほどこせ条じょうによって射距離しゃきょりを伸張しんちょうし、長距離ちょうきょりをより正確せいかくに砲撃ほうげきすることが可能かのうになった。だが、砲ほう口こうからの砲弾ほうだん装填そうてんの面倒めんどうさもあって滑すべり腔砲を駆逐くちくするには至いたらず、完全かんぜんに施ほどこせ条じょう砲ほうが普及ふきゅうするのは、アームストロング砲ほうを初はじめとした後のち装そう砲ほうが実用じつよう化かされた19世紀せいき末まつ頃ごろになる。

20世紀せいきになると砲ほうの大半たいはんは施ほどこせ条じょう砲ほうとなったが、冷戦れいせん期きにこの流ながれが変かわった。それまでは戦車せんしゃの主砲しゅほう（戦車せんしゃ砲ほう）にも施ほどこせ条じょう砲ほうが用もちいられていたが、ライフリング回転かいてんの不要ふような（むしろライフリングが威力いりょくを落おとすことになる）HEAT弾だんやAPFSDS弾たまが主流しゅりゅうとなった1970年代ねんだい以降いこうに開発かいはつされた戦車せんしゃにおいては主砲しゅほうに滑すべり腔砲が採用さいようされるようになった。例外れいがい的てきに、2016年ねん現在げんざいにおいてイギリス軍ぐん最新さいしんの主力しゅりょく戦車せんしゃ・チャレンジャー2は120mm ライフル砲ほうを装備そうびしている。同どう砲ほう専用せんよう砲ほう弾だんの生産せいさん停止ていしや他国たこくとの互換ごかん性せいの問題もんだいから滑すべり腔砲への換かわ装そうが検討けんとうされていたが予算よさん不足ふそくにより中止ちゅうしされた。

APFSDSを施ほどこせ条じょう砲ほうで発射はっしゃするため、回転かいてんを軽減けいげんするスリッピング・バンドが利用りようされる。

火薬かやく

弾丸だんがんが銃身じゅうしんの中なかを進すすむ速度そくどよりも火薬かやくのガスが膨張ぼうちょうする速度そくどのほうが速はやく、弾丸だんがんがライフリングに食くい込こむようになると火薬かやくの力ちからが無駄むだなく伝つたわる反面はんめん、銃身じゅうしん内部ないぶの圧力あつりょくが高たかくなりすぎるようになった。従来じゅうらいの黒色こくしょく火薬かやくでは燃焼ねんしょう速度そくどが高たかすぎることが問題もんだいになったので、燃焼ねんしょう速度そくどの遅おそい褐色かっしょく火薬かやくが発明はつめいされた。 後のちにコルダイトなどの無煙むえん火薬かやくが使用しようされるようになっても火薬かやくの燃焼ねんしょう速度そくどは重要じゅうような問題もんだいであり、燃焼ねんしょう速度そくどを調節ちょうせつするために火薬かやくは粒子りゅうし状じょうや棒ぼう状じょうなどに加工かこうされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• マクニール, ウィリアム 著しる、高橋たかはし均ひとし 訳やく『戦争せんそうの世界せかい史し』（初版しょはん）刀かたな水すい書房しょぼう。ISBN 978-4887082717。 

関連かんれん項目こうもく

• 銃砲じゅうほう身み
• 銃口じゅうこう
• マスケット銃じゅう
• 小銃しょうじゅう
• 狙撃そげき銃じゅう
• 大砲たいほう