伊藤いとう宗はじめ看み (3代だい)

三さん代だい伊藤いとう宗はじめ看み（さんだいいとうそうかん、1706年ねん（宝永ほうえい3年ねん）－1761年ねん6月2日にち（宝たから暦れき11年ねん4月がつ29日にち））は江戸えど時代じだいの将棋しょうぎ指さし。七なな世せい名人めいじん。将棋しょうぎ三さん家いえの一ひとつである伊藤いとう家か当主とうしゅ。別名べつめいに政長まさなが、印しるし寿ことぶき。

父ちちは五ご世せい名人めいじん二に代だい伊藤いとう宗はじめ印しるし（次男じなん）。兄あにに伊藤いとう印しるし達たち（五ご段だん）。弟おとうとに八はち代だい大橋おおはし宗そう桂かつら（八はち段だん）、伊藤いとう看み恕じょ（七なな段だん）、初代しょだい伊藤いとう看み寿ことぶき（八はち段だん、贈名おくりな人じん）。子こに四よん代だい伊藤いとう得とく寿ことぶき（五ご段だん）。養子ようしに弟おとうとの初代しょだい看み寿ことぶき。

指さし将棋しょうぎ、詰将棋つめしょうぎともに優すぐれ、「鬼おに宗むね看み」とも呼よばれる。御ご城しろ将棋しょうぎでは、18勝しょう6敗はい1持じ将棋しょうぎと圧倒的あっとうてきな強つよさを誇ほこった（名人めいじん就位しゅうい前まえの戦績せんせきは10勝しょう1敗はい）。

経歴けいれき

兄あにの印しるし達たちは四よん世せい名人めいじん五代ごだい大橋おおはし宗そう桂かつらの時代じだいである正徳まさのり2年ねん（1712年ねん）に夭折ようせつしたため、次男じなんの印しるし寿ことぶきが伊藤いとう家かの後継こうけいとなる。それまでの印しるし寿ことぶきは将棋しょうぎに関心かんしんを示しめさず、武事ぶじのみに熱中ねっちゅうしていたが、印しるし達たちの死後しごには見違みちがえるように将棋しょうぎに打うち込こむようになったという。

父ちちの二に代だい宗そう印しるしは正徳しょうとく3年ねん（1713年ねん）に五ご代だい宗そう桂かつらの死しを受うけて五ご世せい名人めいじんとなった。印しるし寿ことぶきは享とおる保ほ元年がんねん（1716年ねん）に11歳さい・初段しょだんで御ご城しろ将棋しょうぎに初はつ出勤しゅっきんし、三さん代だい大橋おおはし宗はじめ与あずかに飛車ひしゃ落おとされで対戦たいせんし勝利しょうりした。享とおる保ほ8年ねん（1723年ねん）、父ちちの二に代だい宗そう印しるしが死去しきょし、18歳さいで伊藤いとう家かを継つぐ。翌よく享とおる保ほ9年ねん（1724年ねん）に三さん代だい宗むね看みを襲名しゅうめいした。享とおる保ほ12年ねん（1727年ねん）に八はち段だんに昇段しょうだん。

父ちちの死後しごに名人めいじん位いを襲おそっていた六世名人三代大橋宗与は実子じっしの宗むね民みん（後ごの四よん代だい宗むね与あずか）を宗むね看みと競きそわせるように御ご城しろ将棋しょうぎに出勤しゅっきんさせたため、宗むね看みの初期しょきの対戦たいせんは宗むね民みんとのものが多おおい。三さん代だい宗むね与あずかが享とおる保ほ13年ねん（1728年ねん）4月がつ5日にちに死去しきょすると、同年どうねんのうちに図式ずしき献上けんじょうのないまま23歳さいで七なな世せい名人めいじんを就位しゅういした。享とおる保ほ19年ねん（1734年ねん）に『象ぞう戯作げさく物ぶつ』を提出ていしゅつ。

享とおる保ほ20年ねん（1735年ねん）には、名めい村立そんりつ摩まと七なな段だん昇段しょうだんをかけて角すみ香かおり交まじりで対戦たいせんし、香こう落おち番ばんでは「立たて摩ま流りゅう」に敗やぶれたものの角かく落おち番ばんで勝利しょうりし、立たて摩まに七なな段だん昇段しょうだんを断念だんねんさせたという。

元もと文ぶん2年ねん（1737年ねん）5月がつには「碁ご将棋しょうぎ席次せきじ争あらそい」を起おこした。それまでは御ご城しろ碁ご将棋しょうぎの席順せきじゅん（つまり上下じょうげ関係かんけい）は伝統でんとうとして碁ごの家元いえもとが上うえ、将棋しょうぎの家元いえもとを下したとするものであったが、宗むね看みらはそれを変更へんこうしようとしていた。その頃ころは碁ごの家元いえもとは傑出けっしゅつした人物じんぶつが出でず、低迷ていめいしていたのに対たいし、将棋しょうぎの家元いえもとは宗むね看みを筆頭ひっとうに、弟おとうとの宗そう桂かつら、看み寿ことぶきらがおり、さらに奉行ぶぎょう側がわのうち、井上いのうえ河内かわうち守まもる・松平まつだいら紀伊きい守もりが宗むね看みの門人もんじんであったため、勢いきおいとしては、宗むね看みの意見いけんが通とおりそうであった。が、旧きゅう守もり派はの大岡越前守おおおかえちぜんのかみが「そのまま」の判決はんけつを下くだしたため、碁ごの家元いえもと側がわは命拾いのちびろいした。

元もと文ぶん5年ねん（1740年ねん）に実子じっしの得とく寿ことぶきが誕生たんじょうする。

延のべ享とおる2年ねん（1745年ねん）に、後継こうけい者しゃに定さだめて養子ようしとしていた弟おとうとの看み寿ことぶきと、八はち段だんで宗むね看みに次つぐ実力じつりょく者しゃの四よん代だい宗むね与あずかが右みぎ香が落おちで対戦たいせんし、看み寿ことぶきが勝利しょうりした。この時ときに看み寿ことぶきが放はなった金きむ底そこの歩ふの名手めいしゅを見みて、看み寿ことぶきの勝かちを確信かくしんした宗むね看みが魚釣さかなつりに出でかけたという逸話いつわがある（魚釣さかなつりの歩ふ）。

長ながく御ご城しろ将棋しょうぎでは手て明あかりが続つづいていた宗むね看みであったが、寛延かんえい元年がんねん（1748年ねん）に久ひさしぶりに御ご城しろ将棋しょうぎに出勤しゅっきんしている（右みぎ香が落おちで四よん代だい宗むね与あずかに勝利しょうり。）。宝たから暦れき2年ねん（1752年ねん）に5年ねんぶりに出勤しゅっきんし八はち代だい宗そう桂かつらに右みぎ香が落おちで勝利しょうり。

宝たから暦れき3年ねん（1753年ねん）に兄あにの八はち代だい宗そう桂かつらとの平手ひらて戦せんに勝利しょうりした看み寿ことぶきは翌よく宝たから暦れき4年ねん（1754年ねん）に宗そう桂かつらに先さきんじて八はち段だんに昇段しょうだんし、翌よく宝たから暦れき5年ねん（1755年ねん）には献上けんじょう図式ずしき（将棋しょうぎ図ず巧たくみ）を作成さくせいした。こうして看み寿ことぶきが次期じき将棋しょうぎ所しょに内定ないていしたとされる。同年どうねんには甥おいの大橋おおはし印しるし寿ことぶき（八はち代だい宗そう桂かつらの子こ、後ごの九きゅう代だい宗そう桂かつら）が御ご城しろ将棋しょうぎに初はつ出勤しゅっきんするなど全盛期ぜんせいきを迎むかえていた伊藤いとう家かであったが、宝たから暦れき10年ねん（1760年ねん）には弟おとうとの看み恕じょと看み寿ことぶきが相次あいついで没ぼっし、翌よく宝たから暦れき11年ねん（1761年ねん）4月がつ29日にちには宗むね看みもまた56歳さいで没ぼっする。法名ほうみょうは玉将ぎょくしょう院いん宗むね看み源げん立りつ日び盤ばん。墓所はかしょは東京とうきょう本所ほんじょの本法ほんぽう院いんにある。

晩年ばんねんは権勢けんせいの高たかさに溺おぼれて棋力きりょくも衰おとろえ勝がちであったといわれる。

名人めいじん位いは初はじめての空位くういとなった。伊藤いとう家かは実子じっしの得とく寿ことぶきが継まましいだが、宝たから暦れき13年ねん（1763年ねん）10月がつ29日にちに24歳さいで没ぼっしたため、鳥飼とりかい忠七ちゅうしちが養子ようしに迎むかえられ五ご代だい伊藤いとう宗はじめ印しるしを名乗なのることになる。

『将棋しょうぎ営中日記にっき』によると、十じゅう一いち代だい大橋おおはし宗そう桂かつらは「代々だいだいの名人めいじんの内うちにては三さん代だい宗むね看み第だい一いちの由よし」「宗むね看みの将棋しょうぎはすがたいかにも位くらい高たかきといへり」と高たかく評価ひょうかしている。また同書どうしょの別べつの項こうでは、六ろく代だい大橋おおはし宗そう英すぐるに次つぐ第だい二に位いとされている。

詰将棋つめしょうぎ

宗むね看みの残のこした詰将棋つめしょうぎ作品さくひん集しゅう『象ぞう戯作げさく物ぶつ』（俗称ぞくしょう：『詰つむや詰つまざるや』『将棋しょうぎ無双むそう』）は、詰将棋つめしょうぎ史上しじょうの傑作けっさくとされる。これにより、詰将棋つめしょうぎの水準すいじゅんは格段かくだんに上あがったとされる。『象ぞう戯作げさく物ぶつ』は、八はち段だん昇段しょうだんが早はやかったため異例いれいの名人めいじん就位しゅうい6年ねん後ごに献上けんじょうされた。

象ぞう戯作げさく物ぶつ

宗むね看みによる献上けんじょう図式ずしき「象ぞう戯作げさく物ぶつ」は「将棋しょうぎ無双むそう」の俗称ぞくしょうで知しられる。

古今ここんで最もっとも難解なんかいとも言いわれるほどの作品さくひん集しゅうで、門脇かどわき芳雄よしお編へんの「詰つむや詰つまざるや」において、弟おとうとの看み寿ことぶきの「将棋しょうぎ図ず巧たくみ」と並ならんで詰将棋つめしょうぎの最高峰さいこうほうと書かかれている。

解答かいとうが付ついている原本げんぽんや解答かいとう本ほんはほとんど世よに出回でまわらなかったため、すべての問題もんだいが詰つむかどうか長年ながねん棋界きかいの謎なぞとされてきた。しかし、昭和しょうわ40年代ねんだいに将軍しょうぐんに献上けんじょうした原本げんぽんが皇居こうきょ内うちの内閣ないかく文庫ぶんこで発見はっけんされ、解決かいけつに至いたった。これにより、何なん題だいか最初さいしょから詰つまないことが分わかった。

代表だいひょう的てきな作品さくひん

十じゅう二に番ばん

盤上ばんじょうに攻せめ方かたがない「無む仕掛しかけ」。

三さん十じゅう番ばん

古来こらいより神かみ局きょくとよばれた奇跡きせきのように美うつくしい傑作けっさく。

七なな十じゅう番ばん

歩ふの利ききで行おこなう馬うま鋸のこの名作めいさく。

七なな十じゅう五ご番ばん

収録しゅうろく作さくの中なかで最長さいちょうの225手て詰つめ。

百ひゃく番ばん

象ぞう戯作げさく物ぶつのトリを飾かざる超ちょう大作たいさく。「大だい迷路めいろ」の名なの通とおり超ちょう難解なんかいである。

棋譜きふ

大橋おおはし宗はじめ民みん
△持駒もちごま　金きむ歩あゆみ

9	8	7	6	5	4	3	2	1
香こう						王おう	桂かつら	香こう	一いち
						金きむ			二に
					金きむ		歩ふ		三さん
歩ふ	飛ひ			歩ふ	歩ふ	歩ふ		歩ふ	四よん
					歩ふ	桂かつら	歩ふ		五ご
歩ふ	歩ふ	歩ふ	角かく	歩ふ					六ろく
	金きむ	歩ふ	銀ぎん						七なな
	玉たま					飛ひ			八はち
香こう	桂かつら						桂かつら	香こう	九きゅう

▲持駒もちごま　角すみ銀ぎん三さん歩ほ三さん
伊藤いとう宗はじめ看み

1725年ねん（享とおる保ほ10年ねん）、20歳さいの宗むね看みは17歳さいの大橋おおはし宗はじめ民みん（後ごの四よん代だい宗むね与あずか）と指さした御ご城しろ将棋しょうぎの一いち局きょくで宗むね看みが指さした▲3五ご桂かつらという一いち着ちゃくについて、その将棋しょうぎを収録しゅうろくした『日本にっぽん将棋しょうぎ大系たいけい』で該当がいとう巻まきの解説かいせつ担当たんとうの大山おおやま康晴やすはる十じゅう五ご世せい名人めいじんは「絶妙ぜつみょう手しゅである」と断言だんげんした。さらに『将棋しょうぎ世界せかい』で連載れんさいされた「イメージと読よみの将棋しょうぎ観かん」でもこの将棋しょうぎが取とり上あげられ、羽生はぶ善治よしはる、谷川たにがわ浩司こうじ、渡辺わたなべ明あきら、佐藤さとう康光やすみつ、森内もりうち俊之としゆき、藤井ふじい猛たけしという現代げんだいのトップクラスの棋士きしたちは一様いちように驚嘆きょうたんの声こえを上あげ、絶賛ぜっさんしている。

「局面きょくめんも現代げんだい風ふうだし、今いまの実戦じっせん譜ふだとしても全然ぜんぜんおかしくない。江戸えど時代じだいの将棋しょうぎはほとんど知しらないんですが、強つよい部分ぶぶんはけた違ちがいに強つよいという気きがする」（羽生はぶ）

関連かんれん項目こうもく

• 名人めいじん (将棋しょうぎ)

参考さんこう資料しりょう

• 大山おおやま康晴やすはる『日本にっぽん将棋しょうぎ大系たいけい　第だい5巻かん　三さん代だい伊藤いとう宗はじめ看み』（筑摩書房ちくましょぼう、1978年ねん）
  • 山本やまもと亨とおる介かい「人ひととその時代じだい五ご（三さん代だい伊藤いとう宗はじめ看み）」（同書どうしょ247頁ぺーじ所収しょしゅう）
• 原田はらだ泰夫やすお『日本にっぽん将棋しょうぎ大系たいけい　第だい6巻かん　伊藤いとう看み寿ことぶき』（筑摩書房ちくましょぼう、1979年ねん）
  • 山本やまもと亨とおる介かい「人ひととその時代じだい六ろく（伊藤いとう看み寿ことぶき）」（同書どうしょ249頁ぺーじ所収しょしゅう）
• 鈴木すずき宏彦ひろひこ『イメージと読よみの将棋しょうぎ観かん』（日本にっぽん将棋しょうぎ連盟れんめい、2008年ねん）169-180頁ぺーじ

脚注きゃくちゅう

外部がいぶリンク

• 詰将棋つめしょうぎ博物館はくぶつかん 象ぞう戯作げさく物ぶつ（館かんでは将棋しょうぎ無双むそう）の全ぜん作品さくひん。
• 伊藤いとう家かの紹介しょうかい - ウェイバックマシン（2014年ねん6月がつ26日にちアーカイブ分ぶん）（関西かんさい将棋しょうぎ会館かいかんホームページ）