砲架を無蓋貨車に搭載するか、無蓋貨車そのものを砲架として砲を搭載したもので、砲の口径と口径長はまちまちであるが、搭載される砲はカノン砲(カノン・加農)の中でも特に大口径(20cm以上)・長砲身・大重量・高初速・大威力なものが使用されることが多い。また、大口径・大重量の榴弾砲や臼砲も使用された。基本的に超長距離射撃を前提とし、大口径砲から発射される砲弾(破甲榴弾・榴弾)の破壊力は多大なものであり、砲によっては最大射程は40,000m(40km)以上を誇った[注釈 1]。
列車砲自体には自走能力はなく、機関車によって牽引されて移動し、搭載砲が大型のものは砲架は固定式で左右への旋回はできないか、可能であっても360度の全周旋回はできない[注釈 2]。左右の射界の確保はカーブの付いたレール上を移動させるか、転車台を用いて対応した。鉄道車両であるため、線路のない場所へ移動することはできないが、鉄道網の発達した近代の欧米においては[注釈 3]、まだ整備された道路網が未発達であった自動車に比べて迅速な移動が可能であり、鉄道路線のない場所であっても、工兵隊によって軌道を敷設することにより移動や展開が可能であった。
戦間期に出現した中・大型の爆撃機は、すでに列車砲の砲弾以上の威力のある爆弾を投下することが可能となっており、また列車砲の最大射程と爆撃機の航続距離(戦闘行動半径)は比較にならず、列車砲の存在価値は大きく減じられるものとなった。しかしながら、当時の航空機の性能の限界——全天候行動能力の欠如や照準装置の精度の低さ——ゆえに、列車砲に対して航空機が絶対的な優位を確保していたわけではなかった。
このため、適切な状況で運用した場合には、列車砲もなお圧倒的な威力を発揮した。列車砲にも「相手が同様の射程を持つ火砲を装備している場合には撃ち返される」という脆弱性はあったが、対砲兵レーダーが未発達なこの時代には、現実的には射撃されている側が「攻撃中の敵火砲の位置を正確に逆算して即座に撃ち返す」という即時対砲兵射撃を常に行うことは難しく、また列車砲の側も数発撃つごとに移動する、地形が許せば隧道(トンネル)を利用しての射撃を行う(射撃時だけ隧道から出て、所定の発数を射撃したらすぐに隧道内に戻る)ことで敵の攻撃を避ける、といった対策方法もとっていた。
しかし、列車砲は編成を含めてその大きさは格好の目標であり、移動においては線路に制限されるという関係上、制空権を確保していない状況においてはその運用は困難であった。砲自体の運用に多数の人員が必要であった上、移動のために牽引する機関車とその運用要員、軌道を整備・修繕し必要に応じて敷設するための工兵隊、更には航空機が発達するとそれから守るための防空部隊(高射砲部隊)といった付属要員・部隊が多数必要であり、継続的な運用のための後方整備にも多大なリソースが必要だった。長大で大口径な備砲は砲身の交換一つとっても多大な資源と設備、人員が必要であった為である。
また、沿岸防衛や国境線防衛のための兵器としてではなく、進軍する友軍部隊を支援した場合、移動そのものは鉄道網を利用して迅速に行えたとしても、前述したような付属部隊を総合すると膨大な資材と人員を移動させねばならないため、投入を決定してから実際に現地に移動し、到着の後展開を完了して射撃準備が完了するまでには相応の時間を要した。特に特別な複線[注釈 4]が前提となっていた一部の巨大な列車砲は運用そのものに多大な制限を受けており、第二次大戦直後にドイツ国防軍の列車砲を調査した連合軍の評価は「技術的には驚異的だが、戦術的には失敗策だ」というもので「列車砲に注がれた資金、資材、技術者、兵員を爆撃機の開発に回していれば大きな脅威になったが、列車砲に回されたおかげで連合軍には有利に働いた」と評されている。
第二次大戦後の現代においては、自動車道路網の発達や戦闘ドクトリンの変化、兵器技術の進化、特にロケット技術の急速な発達により、「長大な射程を持ち、破壊力の大きな大口径大重量の砲弾を発射できる」という巨砲兵器の存在意義そのものが、弾道ミサイルや地上発射型巡航ミサイルおよび地対艦ミサイルの前に失われてしまい、列車砲という兵器カテゴリーそのものが、大型の多輪式自走ミサイル発射機(輸送起立発射機:TEL(transporter erector launcher)にとって代わられているが、ソビエト連邦軍 / ロシア連邦軍の大陸間弾道弾には列車移動が可能なタイプが存在していたことや、近年では朝鮮人民軍による有蓋貨車からの短距離弾道ミサイル発射が報告されている。見方によってはこれは列車砲の子孫とも言える。
- ^ 野戦砲として陸上で用いられる一般的な15cmクラスのカノン砲は、第二次大戦当時最新型の物で最大射程25,000m前後程度。
- ^ 全ての大口径列車砲が固定砲架式なわけではないが、旋回式ではあっても旋回可能範囲が限定されているか、砲架自体は全周旋回ができても、射撃可能な範囲は限定されている、というものが多い。
- ^ なお、軌間は路線・国ごとにまちまちであったため、それらの地域に持ち込むには台車の交換など改軌の必要があった
- ^ この上を走行するのは列車砲1両のみであり、車両がすれ違いも並走もしないので、厳密な意味での“複線”の定義には当てはまらないが、ともあれ「並行する4本のレールが必要になる」という意味では複線である。
- イアン・V.フォッグ:著、小野佐吉郎:訳 『第二次世界大戦ブックス 37 大砲撃戦 野戦の主役、列強の火砲』 サンケイ新聞社出版局:刊 1972年
- イアン・V.フォッグ:著、 岩堂憲人:訳 『第二次世界大戦文庫 25 大砲撃戦』(ISBN 978-4383024389) サンケイ出版:刊 1985年 ※上記第二次大戦ブックス版の再刊行版
- 広田厚司:著
- グランドパワー2013年3月号別冊『第2次大戦 世界の列車砲』 ガリレオ出版:刊 2013年