語かたり

語かたり（ご）、単語たんご（たんご）とは、一ひとつ以上いじょうの形態素けいたいそから構成こうせいされる、言語げんごの構成こうせい単位たんいの一ひとつである。語かたりが集あつまることで句く、節ふし、文ぶんが作つくられる。語かたりの先頭せんとうを語頭ごとう（ごとう）、末尾まつびを語末ごまつ（ごまつ）、その中なか間あいだを語かたり中ちゅう（ごちゅう）という。

概説がいせつ

語かたりは複数ふくすうの語形ごけいを持もつことがある。これは屈折くっせつ語ごに顕著けんちょである。例たとえばドイツ語ごの動詞どうし lieben は、現在げんざい形がたに「 liebe, 」・「liebst,」・「liebt,」・「lieben」の4種類しゅるいがある。

また多た総合そうごう語ごでは、多おおくの接辞せつじがつながって、一ひとつの語かたりが文ぶんに当あたる内容ないようを持もてる。たとえばユピク語ごの「 angyaghllangyugtuq 」は「彼かれは大おおきな船ふねを手てに入いれたい」という意味いみの語かたりである。

用語ようごは、発声はっせいされた語かたりや書かかれた語かたり、または、いずれかの背後はいごにある抽象ちゅうしょう的てきな概念がいねんを指さす場合ばあいもある。

日本語にほんご文法ぶんぽうでは自立じりつ語ご・付属ふぞく語ごという名前なまえの「語かたり」があるが、これらは言語げんご学的がくてきには語かたりよりも細こまかい形態素けいたいそであり、語かたりに相当そうとうするのはむしろ文節ぶんせつのほうが近ちかい。また、付属ふぞく語ごは言語げんご学的がくてきには接せっ語ごあるいは接辞せつじである。

一般いっぱんに表音ひょうおん文字もじを使つかう場合ばあい、語かたりの切きれ目めを空白くうはくなどで示しめす。しかし空白くうはくは必かならずしも語かたりの切きれ目めではない。例たとえば英語えいごの「 ice cream 」は2語ごのように書かかれるが、固定こていした独自どくじの意味いみがあり、間あいだに他たの形態素けいたいそを入いれたり順番じゅんばんを変かえたりできないので、1 語ごである。固有名詞こゆうめいしもまた、どれほど長ながくても 1 語ごである。空白くうはくは語かたりの中なかで最さい上位じょういの形態素けいたいその切きれ目めですらないこともある。例たとえば英語えいごの複合語ふくごうご「 New Yorker 」は「 New York 」と「 -er 」からなるのであり、「 New 」と「 Yorker 」からなるのではない。

文字もじ一ひとつ一ひとつがある特定とくていの語かたりに対応たいおうする文字もじのことを表ひょう語ご文字もじと呼よび、漢字かんじなどがその代表だいひょう例れいである。

定義ていぎ・用法ようほう

語かたりの厳密げんみつな定義ていぎは各かく言語げんごによるが、一般いっぱんに以下いかの性質せいしつがある。

1. 発音はつおん上うえ、まとまっている（接せっ語ごを除のぞく）。
2. 意味いみを変かえずに分割ぶんかつできない（接せっ中ちゅう辞じ、分離ぶんり接辞せつじを含ふくむ語かたりを除のぞく）。
3. 単独たんどくで質問しつもんの答こたえになり得える（機能きのう語ごを除のぞく）。

たとえば日本語にほんごの辞典じてんで、「考かんがえた」「考かんがえない」「考かんがえれば」「考かんがえろ」などとは記載きさいされず、「考かんがえる」だけが記載きさいされる。これは「考かんがえる」という項目こうもくによって代表だいひょうすればその他たの意味いみ・用法ようほうは分わかるという前提ぜんていをおいているためで、このような意味いみの「語かたり」は語彙ごいを構成こうせいするため、特とくに区別くべつするには語彙ごい素もと（lexeme）と呼よぶ。対照たいしょう的てきに、「考かんがえた」「考かんがえない」「考かんがえれば」「考かんがえろ」を、形かたちが異ことなっているために違ちがった「語かたり」として区別くべつするには語形ごけい（word form）と呼よぶ。語彙ごい素そであることを示しめすために《考かんがえる》、語形ごけいであることを示しめすために〈考かんがえる〉のように山やま括弧かっこで区別くべつする。

テクストの語彙ごい統計とうけいの研究けんきゅうなどで、述のべ語数ごすうと異ことなり語数ごすうを対比たいひすることがある。テクストの中なかに同おなじ語形ごけいが現あらわれても複ふく数すう回かいカウントするのが述のべ語数ごすうで、1回かいのみ数かぞえるのが異ことなり語数ごすうである。一般いっぱんに異ことなり語数ごすうの意味いみでは語彙ごい素もとを指さしているが、異ことなる語形ごけいの数かずを指さす場合ばあいもあり、分析ぶんせきには厳密げんみつに区別くべつする必要ひつようがある。

語彙ごい素もとは、語形ごけいより一段いちだん抽象ちゅうしょう的てきな概念がいねんであると整理せいりすることができる。つまり、動詞どうし《考かんがえる》は、語形ごけい〈考かんがえる〉〈考かんがえた〉〈考かんがえて〉〈考かんがえない〉などを要素ようそとする集合しゅうごうであるし、形容詞けいようし《長ながい》は、語形ごけい〈長ながい〉〈長ながく〉〈長ながかった〉〈長たければ〉などを要素ようそとする集合しゅうごうであると考かんがえられる。《考かんがえる》や《長ながい》のように複数ふくすうの語形ごけいからなる語彙ごい素もとは活用かつようする語かたりであるといい、一ひとつ一ひとつの語形ごけいを活用かつよう形がたという。名詞めいし《目玉めだま》や副詞ふくし《じっと》は一ひとつの語形ごけいだけを要素ようそとする語彙ごい素そであると考かんがえられる。

分類ぶんるい

言語げんご学がくでは語かたりは独立どくりつして発声はっせいできる最小さいしょうの単位たんいである。文法ぶんぽう的てきな役割やくわりを持もつ語かたりを機能きのう語ご、一般いっぱん的てきな意味いみを持もつ語かたりを内容ないよう語ごという。一ひとつの形態素けいたいそからなる語かたりを単純たんじゅん語ご、複数ふくすうの形態素けいたいそからなる語かたりを合成ごうせい語ごという。

形態けいたい論ろん

「高たかい」「高たかさ」や「横よこ」「横切よこぎる」には、形態けいたいと意味いみのそれぞれに密接みっせつな関係かんけいがある。これは、形態素けいたいそ（taka-, yoko）を共有きょうゆうしているためである。形態素けいたいそを共有きょうゆうするのは2語ごとは限かぎらず、たとえば「長ながい」「長ながさ」「長ながめ」「長持ながもち」「面長おもなが」は形態素けいたいそ naga-を共有きょうゆうし、「長ながさ」「高たかさ」「重おもさ」「広ひろさ」「熱あつさ」「ひどさ」は形態素けいたいそ-saを共有きょうゆうする。

次つぎに挙あげる語形ごけいは、形態素けいたいそ taka- を共有きょうゆうしていても、3つの語彙ごい素もと（a.《高たかい》、b.《高たかめる》、c.《高たかぶる》）に跨またがっている。

1. a. 高たかい、高たかかった、高たかければ、高たかく、高たかくて、高たかくない、…
2. b. 高たかめる、高たかめた、高たかめれば、高たかめ、高たかめて、高たかめない、…
3. c. 高たかぶる、高たかぶった、高たかぶれば、高たかぶり、高たかぶって、高たかぶらない、…

語かたりと語かたりの関係かんけいのあり方かたや語形ごけいの内部ないぶでの形態素けいたいその結むすびつきを研究けんきゅうする言語げんご学がくの領域りょういきを、形態けいたい論ろんと呼よぶ。

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

• 風間かざま喜代三きよぞう, 上野うえの善道ぜんどう, 松村まつむら一いち登とう, 町田まちだ健けん『言語げんご学がく（第だい2版はん）』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん、2004。

関連かんれん項目こうもく

• 語種かたりぐさ
• 品詞ひんし
• 熟語じゅくご
• 長大ちょうだい語ご

外部がいぶリンク

• 『語かたり』 - コトバンク （日本語にほんご）