(Translated by https://www.hiragana.jp/)
語彙 - Wikipedia

語彙ごい

ある特定とくてい範囲はんいにおいて使つかわれる単語たんご総体そうたい

語彙ごい(ごい)とは、ある特定とくてい範囲はんいたとえば、ひとつの文学ぶんがく作品さくひんや、一個人いっこじん発言はつげん記録きろくなど)において使つかわれる単語たんご総体そうたい(「彙」は「あつまり」の意味いみ[1]。したがって、通例つうれい語彙ごい」を個々ここかたりしめ表現ひょうげんとしてもちいることはできない。たとえば、「あのひと語彙ごい豊富ほうふだ。」というぶん容認ようにんできるが、「『もったいない』という語彙ごい」とべることには不自然ふしぜんさがともなう。語彙ごい体系たいけいてき記述きじゅつ研究けんきゅうする言語げんごがく分野ぶんや語彙ごいろんという。

語彙ごい種類しゅるい 編集へんしゅう

基礎きそ語彙ごい
その言語げんご根幹こんかん部分ぶぶんをなすかたりあつまりをす。使用しよう頻度ひんどたかく、日常にちじょう生活せいかつ必要ひつよう不可欠ふかけつで、子供こどもでもっており、言語げんごにもそれに相当そうとうするかたりがあり、なが歴史れきしつうじて変化へんかしにくいなどの条件じょうけんたすかたりあつまりである。
一般いっぱんに、「」「」「あし」などの身体しんたい、「ちち」「はは」「むすめ」などの親族しんぞくもの動物どうぶつ気象きしょうなどにかんする身近みぢか名詞めいし、ごく基本きほんてき動詞どうし形容詞けいようし数詞すうしなどが基礎きそ語彙ごいとしてあつかわれる。
基礎きそ語彙ごいひょう」は言語げんごがくのいくつかの分野ぶんやにおいても重要じゅうようであり、各種かくしゅ統計とうけいてき評価ひょうか素材そざいとしてよくもちいられる。
基本きほん語彙ごい
その語彙ごいなか中核ちゅうかくてき部分ぶぶんめる重要じゅうようかたりあつまりをす。たとえば、新聞しんぶんのスポーツめんでの基本きほん語彙ごいとしては「投手とうしゅ打者だしゃ投球とうきゅうスライダー安打あんだ本塁打ほんるいだ…」などがありる。だれもがかならずしも日常にちじょうてき使つかかたりではないが、対象たいしょうとなる文章ぶんしょう談話だんわ理解りかいするのに不可欠ふかけつかたりあつまりである。
理解りかい語彙ごい使用しよう語彙ごい
理解りかい語彙ごい」は、見聞みききして意味いみがわかることばのあつまりである。一方いっぽう、「使用しよう語彙ごい」は、自分じぶん使つかうことのできることばのあつまりである。一般いっぱんに、だれでも、理解りかい語彙ごいのほうが使用しよう語彙ごいよりも範囲はんいひろい。いわゆる「めるけどけない」という漢字かんじは、理解りかい語彙ごい厳密げんみつには理解りかい文字もじ)にぞくすることになる。また、学校がっこう古典こてん文章ぶんしょうまなんでめるようになっても、自分じぶんでその語彙ごいもちいて文章ぶんしょうくことはすくない。古典こてん語彙ごいのうちすくなからぬ割合わりあいは、われわれにとって理解りかい語彙ごいではあっても使用しよう語彙ごいではないことになる。

基礎きそ語彙ごい基本きほん語彙ごいとはしばしば混同こんどうされるが、うえのように定義ていぎことなる。もっとも、両者りょうしゃおおきくかさなっている場合ばあいもある。英語えいご学習がくしゅう最初さいしょ必要ひつような1500 - 3000ほどの語彙ごいは、特定とくてい目的もくてきのためにあつめた語彙ごいであるから「基本きほん語彙ごい」とかんがえられるが、そこには「hand, foot, say, eat, good, bad...」などの基礎きそ語彙ごいがほぼふくまれる。しかし、「apple, bike, Christmas...」などは、英語えいご学習がくしゅうかせない基本きほん語彙ごいではあるものの、かならずしも基礎きそ語彙ごいとはいえない。

語彙ごいりょう 編集へんしゅう

語彙ごい総量そうりょうを「語彙ごいりょう」という。満年齢まんねんれいで6さいになる子供こども場合ばあい理解りかい語彙ごい総量そうりょうは、およそ5000 - 6000ほど。13さいでは3まん前後ぜんこう。20さいではおよそ4まん5000 - 5まんほどという調査ちょうさ結果けっかている[2]

小型こがた国語こくご辞書じしょ収載しゅうさいされている語彙ごいりょうは、およそ6まん - 10まん程度ていどである。

文学ぶんがく作品さくひんでは、「源氏物語げんじものがたり」の語彙ごいりょうは、語数ごすうで20まん7808ことなり語数ごすうで1まん1423かぞえられている[3]。なお、語数ごすうとは、おな複数ふくすうあった場合ばあい、その出現しゅつげん回数かいすうだけかぞえた数値すうちことなり語数ごすうとは、おななんてきても1とかぞえた数値すうちである。

語彙ごい変化へんか 編集へんしゅう

言語げんご構成こうせいする語彙ごい内訳うちわけ歴史れきしてき変化へんかする。ちょうど、会社かいしゃ構成こうせいする社員しゃいん増減ぞうげんしたり、にゅう退社たいしゃしたり、上下じょうげ関係かんけい変化へんかしたりするのになぞらえることができる。

たとえば、トリーアによれば、ドイツで「知識ちしき」をあらわ語彙ごいには、1200ねんには Kunst貴族きぞく知識ちしき)と List庶民しょみん知識ちしき)の2があり、かつ、その2対立たいりつする Weisheit精神せいしんてき知識ちしき)があった。それが、1300ねんには、Kunst高邁こうまい知識ちしき)・Wissen技術ぎじゅつてき知識ちしき)・Weisheit宗教しゅうきょうてき知識ちしき)の3となり、ListWissenわったばかりでなく、相互そうご意味いみてき関係かんけい変化へんかした[4]

日本語にほんごでは、「彼方かなた」をあらわ語彙ごいとして、かつては「かなた」「あなた」の2使つかけられたが、のちに「あちら(あっち)」がこれにってわった。これも語彙ごい変化へんかれいといえる。

語彙ごい変化へんかという場合ばあい上述じょうじゅつのように、ある意味いみあらわかたりかおぶれや勢力せいりょく範囲はんいなどの変容へんようすのが普通ふつうであり、特定とくていかたり意味いみ形態けいたい変化へんかについてうものではない。「うつくし」の意味いみが「可憐かれん」から「美麗びれい」にわるようなれいは「語義ごぎ変化へんか」、「かきはらう」が「かっぱらう」にわるようなれいは「語形ごけい変化へんか」としょうする。

かたり交替こうたい 編集へんしゅう

ある意味いみあらわす1の1わるれいは、しばしば観察かんさつされる。本節ほんぶしでは、これをかたり交替こうたいしょうする。たとえば、「心持こころもち」「気持きもち」の2ると、明治めいじ時代じだいには「心持こころもち」が多用たようされ「気持きもち」の用例ようれいすくないが、だい世界せかい大戦たいせんは「気持きもち」がおお使つかわれ、わかひとあいだで「心持こころもち」は使つかわれなくなった[5]明治めいじ時代じだいから現代げんだいまでのあいだかぎっては、「心持こころもち」→「気持きもち」の交替こうたいこったとみることができる。

日本語にほんご場合ばあいかたり交替こうたい典型てんけいてきなのは、従来じゅうらい和語わご漢語かんご外来がいらいにいいかえられる場合ばあいである。「き」は今日きょうでは「デート」のかたりにほぼわったといえよう。「襟巻えりまき」「ぶどうしゅ」と「マフラー」「ワイン」なども、後者こうしゃ前者ぜんしゃってわりつつあるれいである。

意図いとてきかたり交替こうたいは、むしろ「いいかえ」としょうするのが適切てきせつである。中央ちゅうおう省庁しょうちょう再編さいへんさい、「大蔵省おおくらしょう」が組織そしき変更へんこうのないまま「財務省ざいむしょう」となったのは典型てんけいれいである。

学術がくじゅつ分野ぶんやでも、しばしば用語ようご変更へんこうおこなわれる。江戸えど時代じだいオランダからやくされた「窮理きゅうりがく」「しゃみつ(せいみ)」は、幕末ばくまつにそれぞれ「科学かがく」「化学かがく」といいかえられた[6]現代げんだいでも、不適切ふてきせつ用語ようごをいいかえる場合ばあいれい、「こうむいにしえしょう」→「ダウン症だうんしょう」)、定義ていぎ矛盾むじゅんする用語ようごをいいかえる場合ばあいれい、「大和やまと朝廷ちょうてい」→「ヤマト王権おうけん」)などがある。その一方いっぽうで、「広汎こうはんせい発達はったつ障害しょうがい」という学術がくじゅつてき適切てきせつかたりがあるにもかかわらず、「自閉症じへいしょう」という誤解ごかいまね表現ひょうげん使つかわれつづけているというれい存在そんざいする。また、「南朝鮮みなみちょうせん」のように、政治せいじてき現在げんざいでは意図いとてき使つかわれなくなったかたり存在そんざいする。

言語げんご自立じりつせいたもとうとする目的もくてきで、使用しようする外来がいらい制限せいげんしたり、一度いちどはいった外来がいらいをいいかえる場合ばあいもある。江戸えど時代じだい国学こくがくものは、漢語かんご極力きょくりょく排除はいじょし、古来こらい大和言葉やまとことばおもとした擬古ぎこぶんしるした。たとえば、ほんきょ宣長のりながは、「漢籍かんせき」を「からぶみ」、「写本しゃほん」を「うつほん(マキ)」、「国学こくがく」を「皇国こうこく(みくに)のまなび」などといいかえている(れいはいずれも『たましょうあいだ』による)。現代げんだいでも、国立こくりつ国語こくご研究所けんきゅうじょ2003ねんから2006ねんにかけて、一般いっぱんになじみのうす外来がいらい日本語にほんごえる目的もくてき外来がいらい」いいか提案ていあんおこなったれいがある。

近年きんねんでは、ポリティカルコレクトネスさかんに提議ていぎされ、「看護かんご」→「看護かんご」など、より中立ちゅうりつてきかたりにいいかえたり、放送ほうそうじょう不適切ふてきせつかんがえられる用語ようご禁止きんし用語ようごとして自粛じしゅくしたりするれいえている。このような議論ぎろん前提ぜんていに「ことばが我々われわれ思想しそう影響えいきょうおよぼす」というかんがかたがあるとも指摘してきされる[7]。いいかえや使用しよう自粛じしゅくぎた場合ばあいには、言葉ことばとして問題もんだいされることもある。

出典しゅってん 編集へんしゅう

  1. ^ 精選せいせんばん 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてん語彙ごい
  2. ^ 森岡もりおか健二けんじ (1951)『国立こくりつ国語こくご研究所けんきゅうじょ年報ねんぽう2』。
  3. ^ 宮島みやじま達夫たつお (1971)『古典こてん対照たいしょうひょう』(笠間かさま書院しょいん)。
  4. ^ ピエール ギロー・佐藤さとう 信夫しのぶ[わけ] (1990)『意味いみろん』(白水しろみずしゃ 文庫ぶんこクセジュ)p.90-91。
  5. ^ 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてん だいはん』(小学館しょうがくかん)の「気持きもち」。
  6. ^ 樺島かばしま忠夫ただお飛田ひだ良文よしふみ米川よねかわ明彦あきひこ [へん] (1996)『明治めいじ大正たいしょう新語しんご俗語ぞくご辞典じてん』(東京とうきょうどう出版しゅっぱん)。
  7. ^ 飯野いいの公一こういち (2003)「ポリティカリー・コレクト」『しん世代せだい言語げんごがく社会しゃかい文化ぶんかにんをつなぐもの』(くろしお出版しゅっぱん)。

関連かんれん項目こうもく 編集へんしゅう

外部がいぶリンク 編集へんしゅう