台たい密みつ

台たい密みつ（たいみつ）とは、天台宗てんだいしゅうに伝つたわる密教みっきょうのこと。京都きょうと東寺とうじを根本こんぽん道場どうじょうとした真言しんごん密教みっきょうを東あずま密ひそかと呼よぶのに対たいする呼称こしょうであり、日本にっぽん天台宗てんだいしゅうの開祖かいそである最澄さいちょう（伝教大師でんぎょうだいし）によって創始そうしされたものである。

概要がいよう編集へんしゅう

日本にっぽん天台宗てんだいしゅうと密教みっきょう編集へんしゅう

天台宗てんだいしゅうは法華経ほけきょうを所ところ依よ、つまり根本こんぽん経典きょうてんとしているため、顕教けんぎょう（釈迦しゃかが一般いっぱんにわかりやすく説といた教おしえ）とされているが、最澄さいちょう（伝教大師でんぎょうだいし）は天台てんだい教学きょうがくとともに、密教みっきょう（中期ちゅうき密教みっきょう）・禅ぜん（北方ほっぽう禅ぜん）・念仏ねんぶつ（浄土じょうど教きょう）を日本にっぽんに持もち帰かえっており、さらには9世紀せいきの中なかごろ円仁えんにん（慈覚大師だいし）・円珍えんちん（智さとし証しょう大師だいし）が唐とうに渡わたって中国ちゅうごく密教みっきょうを本格ほんかく的てきに学まなんだことから、日本にっぽんの天台宗てんだいしゅうは密教みっきょうを包含ほうがんした。日本にっぽん天台宗てんだいしゅうに伝つたわる密教みっきょうを台たい密みつと呼よぶ。

四よん宗むね兼学けんがく編集へんしゅう

最澄さいちょうは唐とうへ渡わたり天台てんだい教学きょうがくを中心ちゅうしんに学まなんだが、当時とうじの中国ちゅうごくでは念仏ねんぶつや禅ぜん、また戒律かいりつ、そして密教みっきょうが流行りゅうこうしていた。最澄さいちょうはそれらの教おしえと共ともにその密教みっきょうを越こし州しゅうの順じゅん暁あかつきから学まなび持もち帰かえり、天台てんだい教学きょうがくに取とり入いれようとしていた。最澄さいちょうは智さとし顗が創始そうしした中国ちゅうごくの天台てんだい教学きょうがくを基礎きそとしつつも、中国ちゅうごく天台宗てんだいしゅうとは趣おもむきが異ことなる独自どくじの日本にっぽん天台宗てんだいしゅうとしての教学きょうがく確立かくりつを目指めざしていた。法華経ほけきょうを中心ちゅうしんに、天台てんだい教学きょうがく・戒律かいりつ（大乗だいじょう菩薩戒ぼさつかい）・密教みっきょう・禅ぜんの4つの思想しそうを日本にっぽんに伝つたえたことから、比叡山ひえいざんの延暦寺えんりゃくじは四よん宗むね兼学けんがくの道場どうじょうと呼よばれている。

歴史れきし編集へんしゅう

最澄さいちょうによる密教みっきょう伝来でんらい編集へんしゅう

最澄さいちょう（伝教大師でんぎょうだいし）は唐とうから帰国きこくして朝廷ちょうていからの信任しんにんを得えるも、その翌年よくねんに真言しんごん密教みっきょうのすべてを修おさめた空海くうかいが帰国きこくし、すぐに朝廷ちょうていから信任しんにんを受うけ活躍かつやくすると、最澄さいちょうは自身じしんが学まなんできた密教みっきょうは一部いちぶの傍系ぼうけいのものでしかないことに気きづき、空海くうかいに礼れいを尽つくし自みずからの弟子でし共々ともども、高こう雄山ゆうざん神護かんご寺てらにおいて空海くうかいの弟子でしとなった。しかし最澄さいちょうは弟子でしをして空海くうかいに借か経けいを繰くり返かえし、「理り趣おもむき釈しゃく経けい（理り趣おもむき経けいの解説かいせつ本ほん）」を借かりようとしたところ、ついに空海くうかいから拒絶きょぜつされ、また最澄さいちょうの一番いちばん弟子でしである泰範やすのりなど諸しょ弟子でしたちが空海くうかいの元もとへ行いって比叡山ひえいざんへ帰かえらなかったことなど、さまざまな理由りゆうから最澄さいちょうと空海くうかいの交流こうりゅうが断たたれた。これにより最澄さいちょうが目指めざしていた法華経ほけきょうを中心ちゅうしんとする戒律かいりつや禅ぜん、念仏ねんぶつ、そして密教みっきょうを融合ゆうごうさせた総合そうごう仏教ぶっきょうといわれる日本にっぽん独特どくとくの天台宗てんだいしゅうの教学きょうがく確立かくりつはそこで中断ちゅうだんせざるを得えなくなった。

円仁えんにん・円珍えんちんによる密教みっきょうの本格ほんかく化か編集へんしゅう

最澄さいちょう（伝教大師でんぎょうだいし）の入寂にゅうじゃく後ごに、中国ちゅうごく密教みっきょうの拠点きょてんであった唐とうの青あお龍りゅう寺てらで本格ほんかく的てきに修学しゅうがくした円仁えんにん（慈覚大師だいし）、円珍えんちん（智さとし証しょう大師だいし）によって、密教みっきょうがより本格ほんかく的てきに日本にっぽんに紹介しょうかいされた。したがって天台宗てんだいしゅうにおける密教みっきょう、つまり台だい密みつは最澄さいちょうによって創始そうしせられたもので、円仁えんにん（慈覚大師だいし）・円珍えんちん（智さとし証しょう大師だいし）により日本にっぽん天台てんだい教学きょうがくの完成かんせいを見みたといえる。

その後ご、円仁えんにん（慈覚大師だいし）の流ながれをくむ山門さんもん派はと、円珍えんちん（智さとし証しょう大師だいし）の流ながれを汲くむ寺てら門派もんぱに分わかれた。東ひがし密みつでは金剛こんごう界かい・胎蔵による説せつを説とくが、台たい密みつでは胎蔵・金剛こんごう界かい・蘇そ悉地（そしつじ）の三さん大法たいほうを説とく。

安然あんねんによる台たい密みつの完成かんせい編集へんしゅう

博識はくしきで多おおくの著作ちょさくを残のこした安然あんねんは、台たい密みつの完成かんせい者しゃと目めされる。安然あんねんにあっては顕教けんぎょうに対たいする密教みっきょうの優越ゆうえつは自明じめいのことと前提ぜんていされ、自みずから真言宗しんごんしゅうと称しょうする。しかし空海くうかいの真言宗しんごんしゅうにはない「四よん一いち教きょう判ばん」という独特どくとくの理論りろんを打うちだした。この教おしえは後年こうねんの「本もと覚さとし思想しそう」に採とり入いれられ、多大ただいな影響えいきょうを与あたえた。

天海あまみの活躍かつやく編集へんしゅう

江戸えど時代じだいの初期しょき、天台宗てんだいしゅうの天海てんかい（慈眼じげん大師だいし）は江戸えど幕府ばくふを開ひらいた初代しょだい将軍しょうぐん徳川とくがわ家康いえやす、2代だい将軍しょうぐん徳川とくがわ秀忠ひでただ・3代だい徳川とくがわ家光いえみつの三さん代だいに仕つかえて、宗教しゅうきょう活動かつどうに関連かんれんする徳川とくがわ家かのブレーンとして活躍かつやくした。東ひがしの比叡山ひえいざん（山号さんごうは東ひがし叡山えいざん）として開山かいさんした上野うえの寛永寺かんえいじは、江戸えど時代じだいを通つうじて天台宗てんだいしゅうの総本山そうほんざんとして大おおいに繁栄はんえいした。

日本にっぽん伝来でんらいの宗教しゅうきょうとの結むすびつき編集へんしゅう

台たい密みつは日本にっぽん伝来でんらいの宗教しゅうきょうを包含ほうがんしようと意欲いよく的てきであり，日本にっぽんの山岳さんがく宗教しゅうきょうである修験しゅげん道どう、特とくに本山ほんざん派はと結むすびつきを強つよめた。また、本地垂迹ほんじすいじゃく説せつに立たつ山王さんのう一実かずみ神道しんとうも推進すいしんした。