姫ひめ鶴一つるいち文字もじ

姫ひめ鶴一つるいち文字もじ（ひめつるいちもんじ / ひめづるいちもんじ）は、鎌倉かまくら時代ときよに作つくられたとされる日本にっぽん刀がたな（太刀たち）。日本にっぽんの重要じゅうよう文化財ぶんかざいに指定していされており、山形やまがた県けん米沢よねざわ市しにある米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかんが所蔵しょぞうする（米沢よねざわ市し所有しょゆう）。指定してい名称めいしょうは「太刀たち 銘めい一いち」（たち めいいち）で、外装がいそうも「打だ刀がたな拵こしらえ」（うちがたなごしらえ）の名称めいしょうで重要じゅうよう文化財ぶんかざいの附ふ（つけたり）として指定していされている。上杉うえすぎ家か伝来でんらい。

姫ひめ鶴一つるいち文字もじ
指定してい情報じょうほう
種別しゅべつ	重要じゅうよう文化財ぶんかざい
名称めいしょう	太刀たち 銘めい一いち
‍	附ふ　打だ刀かたな拵こしらえ
基本きほん情報じょうほう
種類しゅるい	太刀たち
時代じだい	鎌倉かまくら時代ときよ（13世紀せいき）
刃は長ちょう	71.5 cm
反そり	2.1 cm
所蔵しょぞう	米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん（山形やまがた県けん米沢よねざわ市し）
所有しょゆう	山形やまがた県けん米沢よねざわ市し

概要がいよう

福岡ふくおか一文字ひともじ派はについて

鎌倉かまくら時代じだい（13世紀せいき）に福岡ふくおか一文字ひともじ派はの刀工とうこうによって作つくられたとされる。福岡ふくおか一文字ひともじ派はは鎌倉かまくら時代じだい初期しょきから中期ちゅうきにかけて繁栄はんえいした刀工とうこう一いち派はであり、名前なまえの由来ゆらいは備前びぜん国こく吉井川よしいがわの東岸とうがんにある福岡ふくおかが活動かつどう拠点きょてんであったことに由来ゆらいする。福岡ふくおか一文字ひともじ派はは刃は文ぶんが華麗かれいであることから古来こらいより珍重ちんちょうされており、後鳥羽上皇ごとばじょうこうが1ケ月かげつ交代こうたいで各地かくちの刀工とうこうを招まねいて刀かたなを作つくらせた御ご番ばん鍛冶たんや（ごばんかじ）13名めいのうち、福岡ふくおか一文字ひともじ派はより7名めいの刀工とうこうが選えらばれている。福岡ふくおか一文字ひともじ派はの刃は文ぶんは匂におい出来でき（においでき）で花はなの咲さき誇ほこる姿すがたにも似にた丁子ちょうじ乱らん（ちょうじみだれ）が特色とくしょくであり、古こ一文字ひともじや鎌倉かまくら時代じだい後半こうはんの一部いちぶを除のぞいては、焼しょう幅はばの広ひろい姿すがたに鎺元から切先きっさきまで丁子ちょうじ乱らんの焼しょう幅はばが安定あんていして付つき丁子ちょうじの頭あたまが揃そろった華麗かれいな重じゅう花はな丁子ちょうじ乱らん（じゅうかちょうじみだれ）や大房おおふさ丁子ちょうじ乱みだれ（おおふさちょうじみだれ）の刃は文ぶんがある。一文字ひともじ派はは銘めい字じを「一いち」とのみ切きる作さく刀がたながあることからこのように呼よばれており、本ほん作さくの銘めいも「一いち」のみで個別こべつの刀工とうこう名めいは明あきらかでない。

名前なまえの由来ゆらい

姫ひめ鶴一つるいち文字もじの名前なまえの由来ゆらいには諸説しょせつあり、1958年ねん（昭和しょうわ33年ねん）6月がつに開催かいさいされた「歴史れきしが物語ものがたる名刀めいとう展てん」リーフレットの解説かいせつでは、波紋はもんが鶴づるの翼つばさに似にていることを挙あげている。2001年ねんの米沢よねざわ上杉うえすぎ博物館はくぶつかんにて開催かいさいされた展示てんじでは号ごうの由来ゆらいは曖昧あいまいなものとされている。刀剣とうけん研究けんきゅう家かの福永ふくなが酔よい剣けんは著書ちょしょで、御ご腰こし物ぶつ係がかりが研師とぎしに磨すり上あげの依頼いらいを出だしたところ、二人ふたりの夢ゆめに二に晩ばんに渡わたってつると名乗なのる姫ひめが現あらわれ依頼いらいの中止ちゅうしを嘆願たんがんした由来ゆらいを紹介しょうかいしているが、一方いっぽうで呼よび名なが姫ひめ鶴づるであって鶴づる姫ひめでないことに関かんしても触ふれている。

上杉うえすぎ謙信けんしんの養子ようしとして上杉うえすぎ家かの家督かとくを継ついだ甥おいの景勝けいしょうは､愛あい刀がたな家かだった謙信けんしんの遺品いひんの中なかから特とくに自身じしんが気きに入いった刀かたな35振ふを選えらび出だした『上杉うえすぎ家か御ご手て選せん三さん十じゅう五ご腰こし』という名刀めいとうリストの一ひとつに選えらばれている。それ以外いがいにも景勝けいしょう自みずから「上じょうひざう（秘蔵ひぞう）」 と執筆しっぴつした 「腰こし物ぶつ目録もくろく」の上位じょういにも「ひめつる一いちもんし」の名称めいしょうで本ほん作さくが挙あげられている。

江戸えど時代じだい以降いこうの伝来でんらい

1882年ねん（明治めいじ14年ねん）に明治天皇めいじてんのうが米沢よねざわへの巡幸じゅんこうの際さいに本ほん作さくが天覧てんらんに供きょうされたところ、明治天皇めいじてんのうは本ほん作さくの絢爛けんらんたる刃は文ぶん（はもん）を気きに入いり、「押形を欲ほしい」と望のぞんだため、後のちに本ほん作さくの詳細しょうさいな刀かたな絵図えずが作つくられて献上けんじょうされたという。1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）12月24日にちには、上杉うえすぎ憲章のりあき伯爵はくしゃく名義めいぎにて重要じゅうよう美術びじゅつ品ひんに認定にんていされる。1949年ねん（昭和しょうわ24年ねん）5月がつ30日にち、国宝こくほう保存ほぞん法ほうに基もとづく旧きゅう国宝こくほう（文化財ぶんかざい保護ほご法ほうにおける重要じゅうよう文化財ぶんかざいに相当そうとう）に指定していされている。その後ご、上杉うえすぎ家かより散逸さんいつし、1997年ねん（平成へいせい9年ねん）当時とうじは東京とうきょう都と在住ざいじゅうの個人こじんが所持しょじしていた。その後ご、米沢よねざわ市しで上杉うえすぎ家か伝来でんらいの文化財ぶんかざい、美術びじゅつ品ひんを中心ちゅうしんに展示てんじする博物館はくぶつかん（後ごの米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん）が計画けいかくされた際さいに、新しん博物館はくぶつかんの資料しりょうとするため同年どうねんの米沢よねざわ市議会しぎかい六ろく月がつ市議会しぎかいで八はち千せん万まん円えんの予算よさんが計上けいじょうされ本ほん作さくが購入こうにゅうされることになった。本ほん作さくの購入こうにゅうに向むけて日本にっぽん美術びじゅつ刀剣とうけん保存ほぞん協会きょうかいと刀剣とうけん商しょうを通とおして当時とうじの所有しょゆう者しゃに交渉こうしょうし、折衝せっしょうの上うえで同どう協会きょうかいや専門せんもん家かで組織そしきする審査しんさ会かいが検討けんとうして価格かかくを決定けっていした。なお、財源ざいげんは市しの博物館はくぶつかん資料しりょう整備せいび基金ききんを取とり崩くずしており、購入こうにゅうに際さいして市長しちょうの高橋たかはし幸みゆき翁おうは「価格かかくは専門せんもん家かに十分じゅうぶん検討けんとうしてもらった。 市しの財政ざいせい事情じじょうは厳きびしいが、新しん博物館はくぶつかんの計画けいかくを進すすめるうえで購入こうにゅうを決きめた。」とコメントしている。

作風さくふう

刀身とうしん

刃は長ちょう（はちょう、切先きっさきと棟むね区くの直線ちょくせん距離きょり）は71.5センチメートル、反そり（切先きっさき・棟むね区くを結むすぶ直線ちょくせんから棟むねに下おろした垂線すいせんの最長さいちょうのもの）は2.1センチメートル。

刀かたな姿すがたは腰こし反そり高たかく、踏ふん張ばりがあり、切先きっさき（きっさき、刃はの先端せんたん部分ぶぶん）は中ちゅう切先きっさきが詰つまって猪首いくび（いくび）切先きっさきとなる。茎くき（なかご）は先端せんたんをやや切きり詰つめるほかは生なまぶで、ほぼ製作せいさく当初とうしょの姿すがたを残のこす。地ち鉄てつは板目いためを主体しゅたいに杢もく目め、流ながれ肌はだが交まじり、乱みだれ映うつりが立たつ。

刃は文ぶんは匂におい出来でき（においでき）が主体しゅたいで小しょう沸にえ（こにえ）交まじる。鎬にかかるほどの大だい模様もようの乱みだれ刃ばで、袋ふくろ丁子ちょうじ、大房おおふさ丁子ちょうじ、重じゅう花はな（じゅうか）丁子ちょうじなどの丁子ちょうじ乱みだれを主体しゅたいに互の目め（ぐのめ）を交まじえるなど多彩たさいである。帽子ぼうしは表ひょうは乱みだれ込こんで丸まるく返かえり、裏うらは「一いち枚まい」風ふうになる。佩表（はきおもて）の茎くきの目釘めくぎ孔あな上じょうに「一いち」の銘めいがある。

外装がいそう

拵こしらえは全長ぜんちょう104.4センチメートル。拵こしらえは鐔の無ない合口あいくち拵こしらえで、上杉うえすぎ家か刀剣とうけんに特徴とくちょう的てきな様式ようしきである。刀剣とうけん研究けんきゅう者しゃの廣井ひろい雄一ゆういちは2001年ねんの論文ろんぶんで上杉うえすぎ家か伝来でんらいの打だ刀かたな拵こしらえは大おおまかに2種類しゅるいに分類ぶんるいすることができ、姫ひめ鶴一つるいち文字もじをそのうちの片方かたがたに分類ぶんるいできるとしている。その特徴とくちょうとして刃はの方ほうが鞘さやの厚あつみが薄うすく、断面だんめんが卵たまごのような形かたちをとり、下さげ緒おを通とおすための栗ぐり型がたが山やまのような形状けいじょうで高たかく作つくられており、柄えの先端せんたん部ぶが大おおきめに作つくられており、輪わ鼓こと呼よばれる飾かざりが目立めだつものであるとしている。柄え巻まきは藍あい革かわ巻まき。

脚注きゃくちゅう

用語ようご解説かいせつ

• 作風さくふう節ぶしのカッコ内ない解説かいせつおよび用語ようご解説かいせつについては、個別こべつの出典しゅってんが無ない限かぎり、刀剣とうけん春秋しゅんじゅう編集へんしゅう部ぶ『日本にっぽん刀がたなを嗜たしなむ』に準拠じゅんきょする。

参考さんこう文献ぶんけん

• 高山たかやま一之かずゆき『日本にっぽん刀がたなの拵こしらえ―高山たかやま一之かずゆき作品さくひん集しゅう』慶けい友とも社しゃ、2006年ねん。ISBN 978-4874492390。 
• 竹村たけむら雅夫まさお『上杉うえすぎ謙信けんしん・景勝けいしょうと家中かちゅうの武装ぶそう』宮みや帯たい出版しゅっぱん社しゃ、2010年ねん。ISBN 978-4863660564。 
• 広井ひろい雄一ゆういち『刀剣とうけんのみかた: 技術ぎじゅつと流派りゅうは』第一法規出版だいいちほうきしゅっぱん株式会社かぶしきがいしゃ、1971年ねん。 
• 文化庁ぶんかちょう監修かんしゅう『国宝こくほう・重要じゅうよう文化財ぶんかざい大全たいぜん』 別べつ、毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ、2000年ねん。ISBN 978-4620803333。 
• 米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん「太刀たち　銘めい　一いち　（号ごう姫ひめ鶴一つるいち文字もじ）」『開館かいかん記念きねん特別とくべつ展てん 上杉うえすぎ家かの至宝しほう』2001年ねん9月がつ29日にち。 
• 廣井ひろい雄一ゆういち「上杉うえすぎ家かに伝来でんらいした刀剣とうけん・甲冑かっちゅう」『開館かいかん記念きねん特別とくべつ展てん 上杉うえすぎ家かの至宝しほう』2001年ねん9月がつ29日にち。 
• 上杉うえすぎ博物館はくぶつかん; 佐野さの美術館びじゅつかん; 埼玉さいたま県立けんりつ歴史れきしと民俗みんぞくの博物館はくぶつかん『上杉うえすぎ家かの名刀めいとうと三さん十じゅう五ご腰こし』佐野さの美術館びじゅつかん、埼玉さいたま県立けんりつ歴史れきしと民俗みんぞくの博物館はくぶつかん、米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん、2017年ねん9月がつ23日にち。ISBN 978-4-915857-95-9。 NCID BB24791466。 
  • 渡邉わたなべ妙子たえこ『太刀たち　銘めい　一いち　（姫ひめ鶴一つるいち文字もじ）　黒くろ塗ぬり合口あいくち打だ刀がたな拵こしらえ』2017年ねん9月がつ23日にち、27頁ぺーじ。 
• 根津ねづ美術館びじゅつかん・富山とやま県けん水墨すいぼく美術館びじゅつかん・佐野さの美術館びじゅつかん・徳川とくがわ美術館びじゅつかん編へん・発行はっこう『名物めいぶつ刀剣とうけん』（展覧てんらん会かい図録ずろく）、2011 ISBN 978-4-915857-79-9 NCID BB06911850
  • 渡邉わたなべ妙子たえこ『太刀たち　銘めい　一いち　（号ごう姫ひめ鶴一つるいち文字もじ）　』2011年ねん、38頁ぺーじ。 
• 刀剣とうけん春秋しゅんじゅう編集へんしゅう部ぶ「日本にっぽん刀がたなを嗜たしなむ」、ナツメ社しゃ、2016年ねん3月がつ1日にち、NCID BB20942912。 
• 福永ふくなが酔よい剣けん『皇室こうしつ・将軍家しょうぐんけ・大名だいみょう家か刀剣とうけん目録もくろく』（復刻ふっこく）雄山閣ゆうざんかく出版しゅっぱん、2020年ねん11月27日にち。ISBN 978-4639027379。 NCID BC04133230。 

外部がいぶリンク

• 米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん 特別とくべつ展てん ｢上杉うえすぎ家かの至宝しほう｣
• 米沢よねざわ市し上杉うえすぎ博物館はくぶつかん 特別とくべつ展てん ｢山形やまがたの刀剣とうけん｣