弁べん柄がら

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弁べん柄がら（べんがら、オランダ語ご: Bengala 、紅殻べにがらとも表記ひょうき^[1]^[2]）あるいは酸化さんか鉄てつ赤あか（英語えいご: Red Iron Oxide ）は、赤色あかいろ顔料がんりょう・研磨けんま剤ざいの一ひとつ。酸化さんか第だい二に鉄てつ^[2]（赤色あかいろ酸化さんか鉄てつ、酸化さんか鉄てつ(III)、Fe₂O₃）を主要しゅよう発色はっしょく成分せいぶんとする。

顔料がんりょう

酸化さんか鉄てつ顔料がんりょうでは最もっとも生産せいさん量りょうが多おおい。日本にっぽんでは、江戸えど時代じだいにインドのベンガル地方ちほう産さんを輸入ゆにゅうしたために^[2]「べんがら」と名なづけられた。このほか吹屋ふきや（現在げんざいの岡山おかやま県けん高梁たかはし市し）では銅どうを産むした鉱山こうざんの副産物ふくさんぶつとして造つくられ、伊万里焼いまりやきや輪島塗わじまぬりなどに使つかわれたほか、吹屋ふきやの家々いえいえの木材もくざいをベンガラで塗ぬった、赤褐色せきかっしょくの建物たてもの群ぐんが現存げんそんする^[1]。現代げんだいのベンガラは天然てんねん産さん・赤あか鉄鉱てっこうもあるが、多おおくは合成ごうせいされた工業こうぎょう用ようベンガラである。Color Index Generic Nameは合成ごうせい酸化さんか鉄てつ赤あかが Pigment Red 101 で^[3]、天然てんねん酸化さんか鉄てつ赤あかが Pigment Red 102 である^[3]。化学かがく組成そせいは鉄てつの赤錆あかさびと同様どうようといえる。硫酸りゅうさん鉄てつを高温こうおんで熱ねっし、苛性かせいソーダで中和ちゅうわしたものである。

弁べん柄がらを作つくるにはおよそ次つぎのような工程こうていがある^[4]。

鉄鉱てっこう石せきを砕くだく。
硫黄いおう分ぶんを除のぞく。
不純物ふじゅんぶつを沈殿ちんでんさせ、緑みどり礬（りょくばん／ろくは／ローハ）という結晶けっしょうを作つくる。
朴ぼく（ホウノキ）の葉はに緑みどり礬を盛もる。
松まつの薪たきぎで2日間にちかん、700度どで焼やき続つづける。
水洗みずあらいして石臼いしうすで粉こなにする。
これを3度ど繰くり返かえす。
粉こなの中なかの酸さんを水みずに溶とけ出ださせる。
弁べん柄がらの成分せいぶんが沈殿ちんでん。
上澄うわずみを捨すて、水みずを入いれる。
これを10回かいから100回かい繰くり返かえす。
板いたに塗ぬり延のばし、天てん日干ひぼしする。

その他た、赤土あかつちベンガラ、丹土たんどベンガラ、赤あか泥どろベンガラ、パイプ状じょうベンガラ、鉄てつ丹にベンガラ、ローハベンガラがある。中なかでも球状きゅうじょう微粒子びりゅうしで赤あかい色相しきそうが良好りょうこうなのはローハベンガラである。ローハは緑みどり礬（りょくばん）とも呼よばれ、江戸えど時代じだいに刊行かんこうされた『和漢わかん三さん才さい図会ずえ』には緑みどり礬を焼やき、朱しゅ辰たつ砂すなの代用だいようにする。これを礬紅というと記述きじゅつされている。また、緑みどり礬は薬用やくようや火薬かやく、染料せんりょうや顔料がんりょうとして使用しようされ、古来こらい赤あかの顔料がんりょうとして用もちいられた朱しゅ辰たつ砂すなの代かわりに、緑みどり礬を焼やいて加工かこうし赤あかの顔料がんりょうとした。丹土たんどベンガラとローハベンガラの化学かがく組成そせいは同様どうようであり、鉄てつ（Fe）、珪素けいそ（Si）、アルミニウム（Al）などが強つよく検出けんしゅつされるのが特徴とくちょうである。

着色ちゃくしょく力りょくや隠蔽いんぺい力りょくが大おおきく、耐たい熱性ねっせい、耐たい水性すいせい、耐たい光こう性せい・耐たい酸さん性せい、耐たいアルカリ性せいのいずれにも優すぐれており、安価あんかなうえ無毒むどくで人体じんたいにも安全あんぜんなため非常ひじょうに用途ようとは多おおい。古ふるくは弥生やよい時代じだい後期こうきから古墳こふん時代じだい初頭しょとうにかけて濃尾平野のうびへいやを中心ちゅうしんに生産せいさんされた、赤あか彩いろどりを施ほどこした土器どき（パレススタイル土器どき）の彩色さいしきにも使つかわれていた^[5]。

工業こうぎょう用ようベンガラとしてセメントやプラスチック、ゴムの着色ちゃくしょく、塗料とりょう、インク、絵具えのぐ等ひとしに用もちいられるほか、中部ちゅうぶ・近畿きんき地方ちほう以西いせいの伝統でんとう的てきな民家みんか建築けんちくの木材もくざいに塗ぬられているものを目めにすることができる。欠点けってんは彩いろどり度どが低ひくいことで、鮮あざやかなものは橙だいだい赤色あかいろをしている一方いっぽう、彩いろどり度どの低ひくい赤褐色せきかっしょくのものも多おおい。日本にっぽんにおいては赤あかというより褐色かっしょくの顔料がんりょうとして認識にんしきされていることも多おおい。

なお赤あかい色相しきそうの良好りょうこうで彩いろどり度どの高たかいローハベンガラは、磁器じきの絵付えつけ、漆器しっき、歴史れきし的てき建造けんぞう物ぶつのベンガラ塗装とそうに多用たようされ、江戸えど時代じだいに製造せいぞうされたローハベンガラは高品たかしな質ただし・高こう付加ふか価値かちであった。ベンガラ産地さんち吹屋ふきやの西にし江え邸てい蔵ぞうに大切たいせつに保存ほぞんされている。現在げんざい、ローハベンガラは日光にっこう東照宮とうしょうぐうなど文化財ぶんかざい修復しゅうふくや作家さっかに使用しようされている。

代赭たいしゃ色しょく

日本工業規格にほんこうぎょうきかく（JIS）では、JIS慣用かんよう色しょく名めいの一ひとつとして右みぎのように定義ていぎされている。

酸化さんか鉄てつ赤あかの顔料がんりょう

酸化さんか鉄てつ赤あかを主しゅたる発色はっしょく成分せいぶんとするものには他たに、マルスレッド（Mars Red）、レッドオーカー（Red Ochre）、ライトレッド（Light Red）、ベネシャンレッド、ヴェネチア赤あか（Venetian Red）、インディアンレッド、インド赤あか（Indian Red）、テラローザ（Terra Rosa）、ターキー赤あか（-あか）、鉄てつ朱しゅ（てつあか）、鉄てつ丹に（てつたん）がある。これらは同一どういつの対象たいしょうを名指なざすとは限かぎらず、区別くべつする場合ばあいがある。

研磨けんま剤ざい

光学こうがくガラスを研磨けんましてレンズやプリズムを製造せいぞうする研磨けんま剤ざいとして非常ひじょうに広ひろく使用しようされ、ガラス研磨けんま剤ざいの代名詞だいめいしであった^[2]。レンズ製造せいぞう現場げんばでは単たんに「紅べに」（べに）と呼よび、これでガラス素材そざいを研磨けんますることを俗ぞくに「紅べにを付つける」「紅べにを散ちらす」等とうという^[2]。現在げんざい研磨けんま剤ざいはもっと「切きれ」の良よい酸化さんかセリウムに移行いこうしているが、これを「白はく紅くれない」（しろべに）と矛盾むじゅんを含ふくんだ呼よび方かたをするのは研磨けんま剤ざい＝紅殻べにがらであった名残なごりである^[2]。

出典しゅってん

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b 「【おっとフォーカス】出色しゅっしょく紅べにの町並まちなみ」『読売新聞よみうりしんぶん』2022年ねん9月がつ13日にち、夕刊ゆうかん、2面めん。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f 小倉おぐら磐夫いわお 1994, pp. 199–204.
^ ^a ^b The Color of Art Pigment Database : Pigment Red,PR
^ 吉岡よしおか幸雄ゆきお 2007.
^ 堀木ほりき真美子まみこ「パレススタイル土器どきの赤色あかいろ顔料がんりょう」『愛知あいち県けん埋蔵まいぞう文化財ぶんかざいセンター研究けんきゅう紀要きよう』第だい9号ごう、2008年ねん、53-64頁ぺーじ、doi:10.24484/sitereports.112121-22503。

参考さんこう文献ぶんけん

小倉おぐら磐夫いわお『カメラと戦争せんそう光学こうがく技術ぎじゅつ者しゃたちの挑戦ちょうせん』朝日新聞社あさひしんぶんしゃ、1994年ねん12月。ISBN 4-02-330311-9。
吉岡よしおか幸雄ゆきお『日本にっぽんの色いろを歩あるく』平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ〉、2007年ねん10月がつ。ISBN 978-4582853964。
北野きたの信彦のぶひこ『ベンガラ塗装とそう史しの研究けんきゅう』雄山閣ゆうざんかく、2013年ねん2月がつ。ISBN 4639022638。