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アルカリ - Wikipedia

アルカリ

みず溶解ようかいして塩基えんきせいしめし、さん中和ちゅうわする物質ぶっしつ総称そうしょう

アルカリらん: alkali)とは一般いっぱんに、みず溶解ようかいして塩基えんきせい水素すいそイオン指数しすう (pH) が7よりおおきい)をしめし、さん中和ちゅうわする物質ぶっしつ総称そうしょう

典型てんけいてきなものにはアルカリ金属きんぞくまたはアルカリるい金属きんぞく水酸化物すいさんかぶつしお)があり、これらに限定げんていしてアルカリとぶことがおおい。これらはみず溶解ようかいすると水酸化物すいさんかぶつイオンしょうじ、アレニウス定義ていぎによるさん塩基えんきの「塩基えんき」に相当そうとうする。一方いっぽうでアルカリをよりひろい「塩基えんき」の意味いみもちいることもある。

アラビア: القليal-qily, القالي al-qālī由来ゆらいし、元来がんらい植物しょくぶつはい意味いみする。ジャービル・イブン=ハイヤーン命名めいめいによる(カリウムどう語源ごげん)。これらをみずかしたさいしめ性質せいしつたとえば鹸化けんかなど)がアルカリという概念がいねんはじまりである。なお植物しょくぶつはい主成分しゅせいぶん炭酸たんさんカリウム炭酸たんさんナトリウムなどであり、アルカリ性あるかりせいしめすが狭義きょうぎのアルカリではない(下記かき参照さんしょう)。

ブレンステッドローリーによるさん塩基えんき定義ていぎ以後いご一般いっぱんには、アルカリ金属きんぞくおよびアルカリるい金属きんぞく水酸化物すいさんかぶつしお)など、みず溶解ようかいすると水酸化物すいさんかぶつイオンをしょうじる物質ぶっしつ限定げんていしてアルカリとび、これらはアレニウスの定義ていぎによる塩基えんき相当そうとうする。にテトラアルキルアンモニウム水酸化物すいさんかぶつなどもこのアルカリにたり、化学かがくしき一般いっぱんに M(OH)n(M はイオン Mn+ となり、n は1以上いじょう整数せいすうである)とあらわされる。またこれらの水溶液すいようえきをアルカリとぶこともある。とくに、塩基えんき解離かいり定数ていすうがほぼ pKb < 0(Kb > 1)で、水酸化物すいさんかぶつイオンを定量ていりょうてき生成せいせいするものをつよアルカリまたはつよ塩基えんきぶ。

水溶液すいようえきかんしては、pH 7 よりおおきい塩基えんきせいのことをアルカリ性あるかりせいともいう。農学のうがくでは土壌どじょうかんして、おおむね pH 7.3 以上いじょう場合ばあいアルカリ性あるかりせいという。

またみずかした場合ばあいじゃく塩基えんきせいしめアンモニアアミン、あるいはアルカリ金属きんぞく炭酸たんさんしお燐酸りんさんしおなどをアルカリにふくめることもある。これらはそれ自体じたい水酸化物すいさんかぶつイオンをしょうじるわけではなく、その意味いみではアルカリではないが、水分すいぶんからプロトンうばうため結果けっかてき水酸化物すいさんかぶつイオンをしょうじる。これらはブレンステッド・ローリーの定義ていぎによる塩基えんきふくまれる。

このほか、アルカリをブレンステッド・ローリーの定義ていぎによる塩基えんき同義語どうぎごとしてひろもちいることもあるが、上記じょうき性質せいしつしめさない塩基えんきおおい。たとえばアルカロイド(アルカリに由来ゆらいする名前なまえ)や核酸かくさん構成こうせい成分せいぶんである塩基えんきは、強酸きょうさんとはしお形成けいせいするが、水溶液すいようえき塩基えんきせいしめさない。

さらに、アルカリ金属きんぞく・アルカリるい金属きんぞく酸化さんかぶつみずれると反応はんのう水酸化物すいさんかぶつつまりアルカリを形成けいせいする。これら自体じたい基本きほんてきにはアルカリではないが、アルカリとぶこともある。

岩石がんせきがくでは組成そせいとして酸化さんかナトリウム酸化さんかカリウムおおふく火成岩かせいがんを、アルカリがん分類ぶんるいする。

性質せいしつ

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アルカリは、ちゅう濃度のうど濃度のうど 10 mM 以上いじょう)の水溶液すいようえきでは pH 10 以上いじょうとなる。こう濃度のうど水溶液すいようえき腐食ふしょくせいがあり、また脂肪しぼう鹸化けんかし、タンパク質たんぱくしつ変性へんせいさせさらに加水かすい分解ぶんかいする。アルカリ水溶液すいようえきれるとヌルヌルした感触かんしょく石鹸せっけんるいする)があるが、これは皮膚ひふ脂肪しぼう鹸化けんかなどによる。てい濃度のうどでは一般いっぱん苦味にがみていする。一般いっぱんにはみず溶解ようかいするが、アルカリるい金属きんぞく水酸化物すいさんかぶつ水酸化すいさんかカルシウムなど)には溶解ようかいひくいものもあり、これらはアルカリ金属きんぞく水酸化物すいさんかぶつほどつよいアルカリとはならない。

 
Seidlitzia rosmarinus

日本にっぽんにおいて「アルカリ」という言葉ことば使用しよう文献ぶんけんじょう確認かくにんできる最古さいこれいは、江戸えど時代じだい後期こうきの『厚生こうせい新編しんぺん』(1811 - 1840ねん)という蘭学らんがくしょである[1][2]。よりくわしくは、alkaliかたりが「なんじ加里かりしお」と音訳おんやくされた[2]。『厚生こうせい新編しんぺん』は大槻おおつき玄沢げんたく当時とうじ蘭学らんがくしゃDictionnaire œconomique というフランス語ふらんすご百科ひゃっか事典じてんを、そのオランダやくばんから重訳じゅうやくしたものである[1][2]フランス語ふらんすごalcali英語えいごalkali などは、直接的ちょくせつてきには中世ちゅうせいラテン語らてんごalcali由来ゆらいする語彙ごいである[3]中世ちゅうせい後期こうきのヨーロッパ・キリスト教きりすときょうけんは、中東ちゅうとうきたアフリカやイベリア半島はんとうなどのイスラームきょうけんから、おおくのアラビア記述きじゅつされた錬金術れんきんじゅつ関連かんれん文献ぶんけんラテン語らてんご翻訳ほんやくした。中世ちゅうせいラテン語らてんごalcali というかたりは、アラビアal-qiliy というものの音訳おんやくである[3]

al-qiliy のうち、al- はアラビア定冠詞ていかんしである。qiliyは、qilā, qilw[注釈ちゅうしゃく 1] あるいは shabb al-‘usfur, shabb al-asākifa ともばれ[4][5]ヤークートファフルッディーン・ラーズィーによるとこれは衣料いりょう洗濯せんたく使つかえるものであり、イブン・バイタールイブン・クタイバなどの本草学ほんぞうがく医術いじゅつくわしい学者がくしゃによれば、これはレプラなどの皮膚ひふびょうきずサソリどくくものであるとされる[4][5]マスウーディーによると、これをすな酸化さんかマグネシウムぜてかしたものがガラスしゅ原料げんりょうであるという[4][5]

この qiliy は、アルカリ性あるかりせい植物しょくぶついたのこりのはいから生成せいせいする鉀塩(炭酸たんさんカリウム)やソーダはい炭酸たんさんカルシウム)を言葉ことばかんがえられている[4]qiliyかたりはさらに、そうしたくさ木灰きばいそのものや、そのあくじるをも言葉ことばとしても混同こんどうして使用しようされるようになった[4]。なお、中世ちゅうせいイスラームけん科学かがくにおいては、炭酸たんさんカリウムと炭酸たんさんカルシウムとの区別くべつはついていない[4]

qiliy をとるのによく使つかわれるくさは、rimt͟h という Haloxylon ぞくくさや、ḥamḍ という Chenopodium ぞくくさであった[4]アブー・ハニーファ・ディーナワリーは、もっとも良質りょうしつqiliyられるくさは「染屋そめやのキリー」とばれるくさSeidlitzia rosmarinus)であるとしるしている[4]。ヨルダンのアンマンあたりの砂漠さばくえる「染屋そめやのキリー」は、非常ひじょうふる時代じだいからここに人々ひとびと利用りようされており、10世紀せいき医者いしゃタミーミー英語えいごばんによると、「染屋そめやのキリー」から製造せいぞうしたアンマンの洗剤せんざいは、パレスチナやエジプトなどへの輸出ゆしゅつひんであった[6]

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ قلى‎; かたは Ullmann に依拠いきょする[4][5]qaliy文献ぶんけんもある。

出典しゅってん

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  1. ^ a b あおい文庫ぶんこ辞典じてん辞書じしょ系譜けいふ厚生こうせい新編しんぺん」 70かん 68さつ (31,32 かけ”. 2020ねん4がつ7にち閲覧えつらん
  2. ^ a b c じょ, かつえら (2016-06). “『厚生こうせい新編しんぺん』にみる蘭学らんがく音訳おんやくとその漢字かんじ選択せんたく. あるとい-WAKUMON 29: 83-93. http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~shkky/wakumon/no-29/07_xu01.pdf 2020ねん4がつ7にち閲覧えつらん. 
  3. ^ a b Définitions lexicographiques et étymologiques de « alcali » du Trésor de la langue française informatisé, sur le site du Centre national de ressources textuelles et lexicales
  4. ^ a b c d e f g h i Ullmann, M. (1986). "AL-ḲILY". In Bosworth, C. E. [in 英語えいご]; van Donzel, E. [in 英語えいご]; Lewis, B.; Pellat, Ch. [in 英語えいご] (eds.). The Encyclopaedia of Islam, New Edition, Volume V: Khe–Mahi. Leiden: E. J. Brill. ISBN 90-04-07819-3
  5. ^ a b c d Ullmann, Manfred (2016). Rüdiger Arnzen. ed. Aufsätze zur arabischen Rezeption der griechischen Medizin und Naturwissenschaft. Scientia Graeco-Arabica vol. 15. Walter de Gruyter GmbH & Co KG. p. 314. ISBN 9781614518457. https://books.google.co.jp/books?id=4N_VDAAAQBAJ&pg=PAPA314 
  6. ^ Amar, Zohar & Serri, Yaron, The Land of Israel and Syria as Described by Al-Tamimi (Jerusalem Physician of the 10th Century), Bar-Ilan University: Ramat-Gan, 2004, pp. 61–66; 111–113 ISBN 965-226-252-8 (Hebrew)

参照さんしょう文献ぶんけん

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