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微細構造定数 - Wikipedia

微細びさい構造こうぞう定数ていすう

電磁でんじ相互そうご作用さようつよさをあらわ物理ぶつり定数ていすう

微細びさい構造こうぞう定数ていすう(びさいこうぞうていすう、えい: fine-structure constant)は、電磁でんじ相互そうご作用さようつよさをあらわ物理ぶつり定数ていすうであり、結合けつごう定数ていすうばれる定数ていすうひとつである。電磁でんじ相互そうご作用さようは4つある素粒子そりゅうし基本きほん相互そうご作用さようのうちの1つであり、量子りょうし電磁でんじ力学りきがくをはじめとする素粒子そりゅうし物理ぶつりがくにおいて重要じゅうよう定数ていすうである。1916ねんアルノルト・ゾンマーフェルトにより導入どうにゅうされた[2][3]記号きごうαあるふぁあらわされる。

微細びさい構造こうぞう定数ていすう
fine-structure constant
記号きごう αあるふぁ
7.2973525643(11)×10−3 [1]
相対そうたい標準ひょうじゅん不確ふたしかさ 1.6×10−10
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歴史れきしてき経緯けいいから、複数ふくすう電磁気でんじきりょう単位たんいけいとそれらがもとづくりょう体系たいけいがあるが、微細びさい構造こうぞう定数ていすう次元じげんりょうで、単位たんいはなく、りょう体系たいけいらずわらない。微細びさい構造こうぞう定数ていすう

である(2022CODATA推奨すいしょう[1])。微細びさい構造こうぞう定数ていすう逆数ぎゃくすう測定そくてい)もよくにするりょうで、その

である[4]

物理ぶつり定数ていすうとの関係かんけい

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微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

あらわされる。ここで、hプランク定数ていすうe電気でんきもとりょうZ0自由じゆう空間くうかんにおける電磁波でんじは特性とくせいインピーダンスである。電磁でんじ相互そうご作用さようおおきさをあらわ結合けつごう定数ていすうである電気でんきもとりょうを、量子りょうしろん特徴付とくちょうづける普遍ふへん定数ていすうであるプランク定数ていすう関係付かんけいづけているりょうといえる。 特性とくせいインピーダンスは複数ふくすうある電磁気でんじきりょう体系たいけいのうち、どのりょう体系たいけいもとづいているかをめる定数ていすうである。

国際こくさいりょう体系たいけい (ISQにおいては、電気でんき定数ていすう εいぷしろん0磁気じき定数ていすう μみゅー0、およびひかり速度そくど c により Z0 = 1/εいぷしろん0c = μみゅー0cあらわされるので、微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

となる[5]素粒子そりゅうし物理ぶつりがくではしばしば c = ħ = Z0 = 1固定こていする自然しぜん単位たんいけいもちいられるので[6][7]

 

となる[6][8]

ガウス単位たんいけいZ0 = 4πぱい/c とするりょう体系たいけいもとづいているので

 

である[9]原子げんし単位たんいけいでは e = ħ = 1固定こていするので

 

となる[10]

物理ぶつり定数ていすう

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微細びさい構造こうぞう定数ていすうおな次元じげん物理ぶつり定数ていすうあいだ比例ひれい係数けいすうとなる。

電子でんしコンプトン波長はちょう λらむだeたいして、ボーア半径はんけい a0

 

であり、古典こてん電子でんし半径はんけい re

 

である。 また、リュードベリ定数ていすう R逆数ぎゃくすう

 

となる。

電子でんし静止せいしエネルギー mec2たいして、ハートリーエネルギー Eh

 

である。

微細びさい構造こうぞう定数ていすう1916ねんゾンマーフェルトにより導入どうにゅうされた。水素すいそ原子げんしスペクトルせんわずかな分裂ぶんれつ微細びさい構造こうぞう)を説明せつめいするためにボーアの原子げんし模型もけい楕円だえん軌道きどうゆるすように拡張かくちょうゾンマーフェルトの量子りょうし条件じょうけん)して、さらに相対そうたいろん効果こうかふくめた模型もけいかんがえた。

微細びさい構造こうぞう定数ていすうはボーア模型もけいにおいて基底きてい状態じょうたいにある電子でんし速度そくど光速こうそくたいするひとしく、ゾンマーフェルトの解析かいせきなか自然しぜんあらわれ、水素すいそ原子げんしのスペクトルせん分裂ぶんれつおおきさをめている。

原子げんし構造こうぞう説明せつめいする理論りろんにおいて導入どうにゅうされた定数ていすうであったが、現在げんざいでは原子げんし構造こうぞうからはなれてより一般いっぱん素粒子そりゅうし電磁でんじ相互そうご作用さようつよさをあらわ結合けつごう定数ていすうなされている。

測定そくてい

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微細びさい構造こうぞう定数ていすうおも測定そくてい手法しゅほうとしてはミュー粒子りゅうし電子でんし異常いじょう磁気じきモーメント測定そくていによる方法ほうほう[11][12][13]や、セシウムルビジウム原子げんしはんとべ英語えいごばん測定そくていによる方法ほうほう[14][15]がある[16]

異常いじょう磁気じきモーメント

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2021ねん現在げんざいにおけるもっと精度せいどたか測定そくていの1つは、電子でんし異常いじょう磁気じきモーメント ae測定そくていもとづくものである[17]。2008ねんのハーバード大学だいがく研究けんきゅうグループによる電子でんし異常いじょう磁気じきモーメントの測定そくていとして

 

られており[18][17]、ここから微細びさい構造こうぞう定数ていすうとして

 

られている[13]。なお、まる括弧かっこない標準ひょうじゅん不確ふたしかさかく括弧かっこない相対そうたい標準ひょうじゅん不確ふたしかさをあらわす。

2023ねんにはハーバード大学だいがく・ノースウェスタン大学だいがく研究けんきゅうグループよって

 

という結果けっかられており[19]、ここから微細びさい構造こうぞう定数ていすうとして

 

られている[19]

原子げんしはんとべ

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光子こうし吸収きゅうしゅうした原子げんし原子げんしはんとべこす。原子げんし X原子げんし質量しつりょうma(X) とすると、運動うんどうりょう ħk光子こうし吸収きゅうしゅうはんとべするはんとべ速度そくどvr = ħk/ma(X) となる。はんとべ速度そくど測定そくていから原子げんし質量しつりょう ma(X)もとめることができる。原子げんし質量しつりょう ma(X)微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

関係かんけいしきつ。ここで Rリュードベリ定数ていすうAr(X), Ar(e) はそれぞれ原子げんし X電子でんし相対そうたい原子げんし質量しつりょうである。リュードベリ定数ていすうについては相対そうたい標準ひょうじゅん不確ふたしかさが 1.9×10−12精度せいどで、電子でんし相対そうたい質量しつりょうについては 3×10−11 というたか精度せいどられている。さらにいくつかの原子げんしについては相対そうたい原子げんし質量しつりょう相対そうたい不確ふたしかさが 1×10−10 よりたか精度せいどられているため、原子げんし質量しつりょう ma(X)測定そくていから微細びさい構造こうぞう定数ていすうることができる[20]。 なおSIがさい定義ていぎされる以前いぜんは、原子げんし質量しつりょう ma ではなくプランク定数ていすう h との h/maわせとして測定そくていられていた。プランク定数ていすうがSIの定義ていぎ定数ていすうとして不確ふたしかさのないをもつ以前いぜんは、プランク定数ていすう相対そうたい不確ふたしかさが 1.2×10−8 であり(2016 CODATA)、 h/maわせのほうがよりたか精度せいど測定そくていされる。

たとえば133Cs原子げんしはんとべ測定そくていでは、2018ねんカリフォルニア大学だいがくバークレーこう研究けんきゅうグループにより

 

というられており[21][17]、ここから微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

られている[13]

また87Rb原子げんしはんとべ測定そくていでは、2011ねんカストレル・ブロッセル研究所けんきゅうじょ英語えいごばん研究けんきゅうグループによる

 

という結果けっかられており[22][17]、ここから微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

られている[13]。 2020ねんには

 

という結果けっかられており、この結果けっかから微細びさい構造こうぞう定数ていすう

 

計算けいさんされている[23]

SIのさい定義ていぎ影響えいきょう

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国際こくさい単位たんいけい(SI)がさい定義ていぎされ、プランク定数ていすう電気でんきもとりょうのSI単位たんいによる定義ていぎとなった。 SIがさい定義ていぎされる以前いぜん微細びさい構造こうぞう定数ていすう測定そくていとして、電気でんき測定そくていによりこれら定数ていすう方法ほうほうがあった[24]


多元たげん宇宙うちゅうろんとの関係かんけい

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21世紀せいき初頭しょとうスティーブン・ホーキング著書ちょしょホーキング、宇宙うちゅうかた」での言及げんきゅうふくみ、複数ふくすう物理ぶつり学者がくしゃ多元たげん宇宙うちゅうろんかんがかた探求たんきゅうはじめ、微細びさい構造こうぞう定数ていすうほろ調整ちょうせいされた宇宙うちゅう示唆しさするいくつかの宇宙うちゅう定数ていすうの1つであった[25]

R.P. ファインマンの言葉ことば

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電子でんし光子こうし相互そうご作用さようする過程かていあらわファインマン・ダイアグラムれい実線じっせん電子でんし伝播でんぱ関数かんすう波線はせん光子こうし伝播でんぱ関数かんすうであり、それらをむす頂点ちょうてんαあるふぁあらわれる。

量子りょうし電磁でんじ力学りきがく (QEDにおいて、微細びさい構造こうぞう定数ていすう電子でんし光子こうし相互そうご作用さよう結合けつごう定数ていすうである。QEDでは ħ = c = εいぷしろん0 = 1とする自然しぜん単位たんいけいがとられるため、微細びさい構造こうぞう定数ていすうαあるふぁ = e2/4πぱい となり、e = 4πぱいαあるふぁ関係かんけいつ。QEDの発展はってん貢献こうけんした物理ぶつり学者がくしゃR.P. ファインマンはその著書ちょしょなかつぎのようにべている[26]

結合けつごう定数ていすう e、つまりホンモノの電子でんしがホンモノの光子こうし放出ほうしゅつ吸収きゅうしゅうする振幅しんぷくについては、深遠しんえんうつくしいいがある。これは実験じっけんではおよそ0.08542455ぐらいにまる単純たんじゅんかずだ(友人ゆうじん物理ぶつり学者がくしゃたちは、この数字すうじがわからない。というのも、この逆数ぎゃくすうの2じょうおぼえているからであり、およそ137.03597 、最後さいごけたには2程度ていど不確ふたしかさがあるだ。これは50ねん以上いじょうまえ発見はっけんされてからずっとなぞであり、優秀ゆうしゅう理論りろん物理ぶつり学者がくしゃたちはみなかべけ、なやんでいる。)。すぐにでもこの結合けつごうあらわかずがどこからあらわれたのか、りたいだろう。円周えんしゅうりつや、もしかしたら自然しぜん対数たいすうそこ関係かんけいしているのかもしれない。だれもわからないのだ。こいつはまったくもって物理ぶつりがくにおける重大じゅうだいなぞひとつだ。人間にんげん理解りかいおよばないところからあらわれた魔法まほうかずだ。

— R.P. Feynman、QED: The strange theory of light and matter

脚注きゃくちゅう

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出典しゅってん
  1. ^ a b CODATA Value
  2. ^ Sommerfeld (1916)
  3. ^ NIST "Current advances: The fine-structure constant and quantum Hall effect"
  4. ^ CODATA Value
  5. ^ NIST "Fundamental Physical Constants-Atomic and Nuclear Constants"
  6. ^ a b Peskin & Schroeder (1995, Notations and Conventions)
  7. ^ Cottingham & Greenwood (2005, p. 25)
  8. ^ Nair (2012, p. 103)
  9. ^ ブリタニカ百科ひゃっか事典じてん
  10. ^ 物理ぶつり化学かがくもちいられるりょう単位たんい記号きごう (だい3はん) p.174 脚注きゃくちゅう 3)
  11. ^ Mohr, Taylor & Newell (2012), V.A.
  12. ^ Mohr, Newell & Taylor (2016), V.A.
  13. ^ a b c d Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021), IV.D.
  14. ^ Mohr, Taylor & Newell (2012), VII.
  15. ^ Mohr,Newell & Taylor (2016), VII.
  16. ^ Kinoshita (1996)
  17. ^ a b c d Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021) TABLE XXI.
  18. ^ Hanneke, Fogwell & Gabrielse (2008)
  19. ^ a b Fan, X.; Myers, T. G.; Sukra, B. A. D.; Gabrielse, G. (2023-02-13). “Measurement of the Electron Magnetic Moment”. Physical Review Letters 130 (7): 071801. doi:10.1103/PhysRevLett.130.071801. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.130.071801. 
  20. ^ Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021), X.
  21. ^ Parker et al. (2018)
  22. ^ Bouchendira et al. (2011)
  23. ^ Morel, Léo; Yao, Zhibin; Cladé, Pierre; Guellati-Khélifa, Saïda (2020-12). “Determination of the fine-structure constant with an accuracy of 81 parts per trillion” (英語えいご). Nature 588 (7836): 61–65. doi:10.1038/s41586-020-2964-7. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/s41586-020-2964-7. 
  24. ^ Mohr, Newell & Taylor (2016), VIII.
  25. ^ Stephen Hawking (1988). A Brief History of Time. Bantam Books. pp. 7, 125. ISBN 978-0-553-05340-1. https://archive.org/details/briefhistoryofti00step_1 
  26. ^ Feynman (1986)

参考さんこう文献ぶんけん

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論文ろんぶん

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CODATAの詳説しょうせつ
異常いじょう磁気じきモーメントの測定そくてい
原子げんしはんとべによる測定そくてい
  • A. Wicht, J. M. Hensley, E. Sarajlic, and S. Chu (2002). “A Preliminary Measurement of the Fine Structure Constant Based on Atom Interferometry”. Physica Scripta (T102): 82. doi:10.1238/Physica.Topical.102a00082. 
  • R. Bouchendira, P. Cladé, S. Guellati-Khélifa, F. Nez, and F.Biraben (2011). “New Determination of the Fine Structure Constant and Test of the Quantum Electrodynamics”. Phys. Rev. Lett. 106 (8). doi:10.1103/PhysRevLett.106.080801. 
  • R.H. Parker, C. Yu, W. Zhong, B. Estey, and H. Müller (2018). “Measurement of the fine-structure constant as a test of the Standard Model”. Science 360 (6385): 191-195. doi:10.1126/science.aap7706. 

書籍しょせき

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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