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機密 (正教会) - Wikipedia
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機密きみつ (正教会せいきょうかい)

キリスト教きりすときょう正教会せいきょうかいの儀式ぎしきに関かんする用語ようご
曖昧さ回避 国家こっか、機関きかん、組織そしき等とうに関かんする重要じゅうような秘密ひみつを意味いみする「機密きみつ」とは異ことなります。

正教会せいきょうかいにおける機密きみつ（きみつ、ギリシア語ご: μυστήριον[1], ロシア語ご: Таинство）とは、「主あるじ（イイスス・ハリストス（イエス・キリスト））がすべての信者しんじゃに恩寵おんちょうを与あたえようとして自みずから定さだめる、見みえる状態じょうたいでもって信者しんじゃの霊魂れいこんに見みえない神かみの恩寵おんちょうを授さづけるもの[2]」とされる。

聖体せいたい礼儀れいぎ中なかの、信者しんじゃの領りょう聖きよしの場面ばめん（デュッセルドルフの生神うるかみ女おんな庇護ひご教会きょうかい）

狭義きょうぎの機密きみつは七なな件けん機密きみつなど、目めに見みえる形かたちで神かみの恩寵おんちょうが授さづけられるものを指さすが、広義こうぎの機密きみつ概念がいねんは教会きょうかいそのものを機密きみつと捉とらえる。

狭義きょうぎの機密きみつは、聖体せいたい礼儀れいぎ等ひとし、定さだめられた各種かくしゅ儀礼ぎれい・形式けいしきに沿そって執行しっこうされる。西方せいほう教会きょうかいでのサクラメント（カトリック教会きょうかいでは秘跡ひせき、プロテスタント教会きょうかいでは礼典れいてん、聖せい公会こうかいでは聖せい奠と呼よばれる）に相当そうとうする。

「サクラメント」も参照さんしょう

狭義きょうぎの機密きみつ

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概念がいねん

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正教会せいきょうかいにおいて、イイスス・ハリストス（イエス・キリスト）は信しんじる人々ひとびとに神聖しんせい神しん゜（聖霊せいれい）を与あたえて自分じぶんのもとに一ひとつの神秘しんぴ体たいになるように特別とくべつな恩寵おんちょうを授さづけたのであり、これが機密きみつ（ミスティリオン）であると理解りかいされる。機密きみつを通とおして罪つみの赦ゆるしと人ひとの回心かいしん、ハリストスが示しめした真しんの人間像にんげんぞうが明あきらかになるとされ、信者しんじゃは機密きみつを体験たいけんし、恩寵おんちょうを受うけ、日々ひび生活せいかつを矯正きょうせいする事ことが望のぞまれるとされる[3]。

具体ぐたい的てきな目めに見みえる形かたちとしては、洗礼せんれい機密きみつにおいては水みずに沈しずめられること（洗あらわれること）、傅でん膏あぶら機密きみつにおいて膏あぶらを塗ぬられること、聖体せいたい機密きみつにおいて聖体せいたい尊みこと血ちとなったパンと葡萄酒ぶどうしゅを領りょう食しょくすること（領りょう聖きよし）などが挙あげられる。七なな件けん機密きみつが機密きみつとして認みとめられているが、この数かずについては整理せいりされるまでに紆余曲折うよきょくせつがあった（後述こうじゅつ）。

機密きみつに欠かかせないものとして、19世紀せいきのモスクワ府ふ主教しゅきょうマカリイは以下いかの三さん点てんを挙あげている。

  • 機密きみつが神かみによって立たてられたものである事こと
  • 目めに見みえる状態じょうたい、即すなわち五官ごかんで感かんじる事ことが出来できる状態じょうたいを具そなえている事こと
  • 機密きみつを以もって信者しんじゃの霊魂れいこんに目めに見みえない恩寵おんちょうを授さづける事こと[2]

機密きみつは、想像そうぞう上じょうの実在じつざいしない抽象ちゅうしょう概念がいねんとはされない。機密きみつは、人間にんげんが「私わたし」として関かかわる場ばではなく、神かみとの交まじわりの中なかで行動こうどうし体験たいけんする場ばであるとされる。機密きみつの中なかで人間にんげん性せいが聖せい神かみ゜（聖霊せいれい）のうちに関かかわり始はじめるが、人間にんげん性せいを失うしなうことはなく、機密きみつにおいてより本来ほんらい与あたえられていた天性てんせいを全まっとうして真正しんせいの人間にんげんとなり、本当ほんとうの生命せいめいに至いたるとされている[4]。

一ひとつ一ひとつの機密きみつは聖体せいたい機密きみつにおいて完成かんせいされる[5]。

七なな件けん機密きみつ一覧いちらん

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洗礼せんれい機密きみつ（サンクトペテルブルク）
 
聖体せいたい機密きみつ（聖体せいたい礼儀れいぎの一いち場面ばめん、デュッセルドルフ）
 
痛やめ悔機密きみつ（デュッセルドルフ）
 
婚こん配はい機密きみつ（戴冠たいかん礼儀れいぎの一いち場面ばめん、プラハ、チェコ共和きょうわ国こく）
 
神品しんぴん機密きみつ（輔祭叙じょ聖きよし、フィンランド正教会せいきょうかい）

正教会せいきょうかいにおける七なな件けん機密きみつとして以下いかがある[2]。

  • 啓蒙けいもう者しゃ（洗礼せんれい志願しがんの未み信徒しんと）がまとめて享とおるけるもの

七なな件けん機密きみつの概念がいねん整理せいりまでの経緯けいい

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通常つうじょう、正教会せいきょうかいにおいて機密きみつと言いえば、後述こうじゅつする七なな件けん機密きみつを指さす。しかしながら機密きみつを七なな件けんと数かぞえるまでの間あいだには歴史れきし的てき経緯けいいが存在そんざいする。

聖せい師父しふ達いたるは機密きみつ：ミスティリオンの概念がいねんに、ハリストス（キリスト）の藉身・救済きゅうさい・降誕こうたん・死し・復活ふっかつ・生涯しょうがいの出来事できごと・信仰しんこう・教おしえ・教義きょうぎ・奉たてまつ事こと・祈いのり・教会きょうかいの祭日さいじつ・信しん經けい・要理ようり等ひとしを含ふくめる解釈かいしゃくを示しめした[6]。

13世紀せいき以降いこう、機密きみつは七なな件けんと数かぞえられるようになった。但ただしこれはラテンのスコラ神学しんがくの影響えいきょう下かに概念がいねんが整理せいりされたものである。それまで東方とうほうの聖せい師父しふ達いたるは機密きみつの数かずには関心かんしんを持もたなかった。埋葬まいそう式しきや修道しゅうどう誓願せいがん、聖堂せいどう成なり聖きよしを機密きみつに含ふくめるよう主張しゅちょうした主教しゅきょう（15世紀せいき頃ころの府ふ主教しゅきょうイオアサフ）も存在そんざいした事ことが正教会せいきょうかいに於おいてはしばしば言及げんきゅうされることにも見みられる通とおり、機密きみつを7つに限定げんていして捉とらえる事ことの意義いぎは正教会せいきょうかいでは強調きょうちょうされない[6]。

ただし、こんにちの正教せいきょうの各種かくしゅ神学しんがく書しょ、要理ようりにおいても七なな件けん機密きみつ（七ななつの機密きみつ）の概念がいねん整理せいりは否定ひていされてはおらず、なお重要じゅうような位置いちを占しめている[3][6]。

機密きみつ執行しっこう者しゃ

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機密きみつに与あずかって神かみの恩寵おんちょうを受うけるのは正教会せいきょうかいの洗礼せんれいを受うけた正せい教徒きょうとに許ゆるされるが、機密きみつを執行しっこうする事ことが出来できるのは主教しゅきょう・司祭しさいに限かぎられる。主教しゅきょうは全ぜん機密きみつを執行しっこうする事ことが出来できるが、司祭しさいは神品しんぴん機密きみつは執行しっこうする事ことは出来できない（他たの神品しんぴんを叙じょ聖きよしする事ことは出来できない）[3]。

ただし、洗礼せんれい機密きみつのみは、洗礼せんれいを希望きぼうしている病人びょうにんが危篤きとくにあって司祭しさいの到着とうちゃくが間まに合あわない等ひとしの止やむを得えない事情じじょうにおいて、聖せい洗あらい略式りゃくしきを以もって一般いっぱん信徒しんとも執行しっこうする事ことが出来できる。これを摂と行くだり洗礼せんれいという。摂と行くだり洗礼せんれいを行おこなった際さいには信徒しんとは司祭しさいに報告ほうこくを行おこなう。もし受洗じゅせん者しゃが健康けんこうを回復かいふくした場合ばあいには残のこりの祈祷きとう・礼儀れいぎを司祭しさいが行おこなうよう定さだめられている[7]。

執行しっこうされる奉たてまつ神かみ礼あや・各かく言語げんごの対照たいしょう表ひょう

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聖体せいたい礼儀れいぎと聖体せいたい機密きみつのように、機密きみつが執行しっこうされる奉たてまつ神かみ礼あや：礼儀れいぎ（儀礼ぎれい）と機密きみつそれぞれに呼称こしょうがある。どの奉たてまつ神かみ礼あや：礼儀れいぎでどの機密きみつが執行しっこうされるかが正教会せいきょうかいにおいて定さだめられている。

機密きみつ 行おこなわれる礼儀れいぎ・場面ばめん ギリシャ語ご ロシア語ご 英語えいご
洗礼せんれい機密きみつ 聖せい洗礼せんれい儀ぎ
および聖せい洗あらい略式りゃくしき[8][9][7] 		Βάπτισμα[10] Крещение Baptism
傅でん膏あぶら機密きみつ 聖せい洗礼せんれい儀ぎ[9] Χρίσμα[10] Миропомазание Chrismation
聖体せいたい機密きみつ 聖体せいたい礼儀れいぎ[11] Θεία Ευχαριστία[10] Евхаристия (причащение) Holy Communion (Eucharist)
痛やめ悔機密きみつ 告解こっかい礼儀れいぎ[12] Εξομολόγηση[10] Исповедь Penance
神品しんぴん機密きみつ 聖体せいたい礼儀れいぎ[13] Ιερωσύνη[10] Священство Holy Orders
婚こん配はい機密きみつ 戴冠たいかん礼儀れいぎ[14] Γάμος[10] Брак (венчание) Marriage
聖ひじり傅でん機密きみつ 聖ひじり傅でん礼儀れいぎ[15] Ευχέλαιο[10] Елеосвящение (соборование) Unction

広義こうぎの機密きみつ

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概念がいねん

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狭義きょうぎの機密きみつは、正教会せいきょうかいの主教しゅきょう・司祭しさいによって執行しっこうされ正せい教徒きょうとが与あずかる目めに見みえる行為こういによるものを指さす概念がいねんであるが、より広ひろい意味いみでの機密きみつの概念がいねんには、神かみによる救すくいの計画けいかく、福音ふくいん、神かみの国くに、教会きょうかいが含ふくまれる。広義こうぎにおいては、教会きょうかい自体じたいが神かみと神かみの民みんとの神秘しんぴ的てき結合けつごう体たいであり、機密きみつの場ばであるとされる[16][5]。聖せい師父しふ達いたるによる伝統でんとう的てきな機密きみつ概念がいねんには、ハリストス（キリスト）の藉身・救済きゅうさい・降誕こうたん・死し・復活ふっかつ・生涯しょうがいの出来事できごと・信仰しんこう・教おしえ・教義きょうぎ・奉たてまつ事こと・祈いのり・教会きょうかいの祭日さいじつ・信しん經けい・要理ようり等ひとしが含ふくまれているともされる[6]。

聖書せいしょ箇所かしょ

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エフェス書しょ（エフェソの信徒しんとへの手紙てがみ）1章しょう9節せつ - 10節せつは機密きみつの説明せつめいに用もちいられる聖書せいしょ箇所かしょの一ひとつである[16]。

"μυστήριον"はエフェス書しょの中なかでは1:9、3:3、5:32、6:19(20)に出でて来くる。狭義きょうぎの"μυστήριον"（ミスティリオン）は「機密きみつ」と正教会せいきょうかいで訳やくされているが、日本にっぽん正教会せいきょうかい訳やく聖書せいしょでは"μυστήριον"につき、エフェス書しょ1:9、3:3、5:32、6:19(20)のいずれの箇所かしょについても、いずれも「奥義おうぎ」[17]と訳やくし、聖書せいしょ内ないで訳語やくごを統一とういつしている（他方たほうたとえば新しん共同きょうどう訳やく聖書せいしょではμυστήριον"につき、1:9と3:3では"「秘ひめられた計画けいかく」、5:32と6:19(20)では「神秘しんぴ」として、同おなじ原語げんごに別べつの語彙ごいを用もちいている[18]）。

機密きみつ（奥義おうぎ）は、ハリストス（キリスト）を中心ちゅうしんとし（コロサイ書しょ2:2）、ハリストスの藉身に由来ゆらいし（ティモフェイ前書ぜんしょ（テモテへの手紙てがみ一いち）3:16[19]）、十字架じゅうじかに結むすびつきつつ（コリンフ前書ぜんしょ2:8）、天てんにあり地ちにある万物ばんぶつの一切いっさいを回復かいふくさせるものである。この「万物ばんぶつ」とは人ひとのみならず全すべての被ひ造物ぞうぶつを含ふくむものである（エフェス書しょ（エフェソの信徒しんとへの手紙てがみ）1:10）[16]。

こうした機密きみつ（奥義おうぎ）は、教会きょうかいにおける（狭義きょうぎの）機密きみつにおいて体験たいけんされる[16]。

ミスティリオンの語義ごぎ

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「謎なぞ」と同時どうじに「謎なぞの解とき明あかし」の意味いみも持もつ語かたり。神かみによる見みえざる神秘しんぴ的てきな恵めぐみを、見みえるものを通とおして自身じしんの心しん体たいに享とおるけることを意味いみする。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ ミスティリオン。「ミュステーリオン」が古典こてんギリシャ語ご読よみであるが、本ほん項こうは現代げんだいのギリシャ正教会せいきょうかいにも関かかわる記事きじであるため、現代げんだいギリシャ語ご読よみを採用さいようする。
  2. ^ a b c マカリイ p.381 - p.382
  3. ^ a b c 『正教せいきょう要理ようり』76頁ぺーじ - 77頁ぺーじ、日本にっぽんハリストス正教会せいきょうかい教団きょうだん、1980年ねん12月12日にち初版しょはん発行はっこう
  4. ^ メイエンドルフ 1993 p17
  5. ^ a b メイエンドルフ 1993 p20 - p21
  6. ^ a b c d e イラリオン・アルフェエフ 2004 p.104
  7. ^ a b 前掲ぜんけい『正教せいきょう要理ようり』80頁ぺーじ - 81頁ぺーじ
  8. ^ （洗礼せんれいを受うける者ものが重じゅう篤あつしの場合ばあいに緊急きんきゅうに行おこなわれるもの：摂と行くだり洗礼せんれい）
  9. ^ a b 『聖せい事こと経けい』, pp. 35-65.
  10. ^ a b c d e f g Τたうαあるふぁ ιερά Μυστήρια της Εκκλησίας μας
  11. ^ 領りょう聖きよしは聖体せいたい礼儀れいぎ中ちゅうのみならず、病床びょうしょうにある病者びょうしゃが与あずかる事こともある。
  12. ^ 『聖せい事こと経けい』, pp. 69-84.
  13. ^ 前掲ぜんけい『信仰しんこうの機密きみつ』135頁ぺーじ
  14. ^ 『聖せい事こと経けい』, pp. 97-124.
  15. ^ 『聖せい事こと経けい』, pp. 141-215.
  16. ^ a b c d "Orthodox Study Bible" P. 1599 （2008年ねん）
  17. ^ 「奥義おうぎ」の日本にっぽん正教会せいきょうかい訳やく聖書せいしょにおけるルビ＝「あうぎ」（「おーぎ」と読よむ）
  18. ^ 新しん共同きょうどう訳やく聖書せいしょと同おなじ日本にっぽん聖書せいしょ協会きょうかいによるものでも、口語こうご訳やく聖書せいしょでは「奥義おうぎ」（ルビ：おくぎ）として、エフェソ1:9、3:3、5:32、6:19(20)のいずれにも同おなじ語彙ごいをあてている。
  19. ^ この部分ぶぶんにも訳語やくご「奥義おうぎ（あうぎ）」が出でて来くるが、ここの原語げんごも"μυστήριον"であって訳語やくごが統一とういつされている。口語こうご訳やく聖書せいしょも「奥義おうぎ（おくぎ）」と訳やくして訳語やくごが統一とういつされている。他方たほう、新しん共同きょうどう訳やく聖書せいしょでは該当がいとう箇所かしょは「秘ひめられた真理しんり」と訳やくされ、ここでも他たの箇所かしょとは異ことなる訳語やくごが用もちいられている。

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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