理学部りがくぶ

（りがくぶ）は、大学だいがくの学部がくぶのひとつで、理学りがく（自然しぜん科学かがく）の教育きょういく、研究けんきゅうを行おこなうための学部がくぶである^[1]。

概要がいよう

自然しぜん科学かがく全般ぜんぱんを学まなび研究けんきゅうするための学部がくぶであり、日本にっぽんの大学だいがくの制度せいど上じょうの区分くぶんである。

理学部りがくぶ内ないの学科がっかとしては、数学すうがく科か、物理ぶつり学科がっか、化学かがく科か、生物せいぶつ学科がっか（生命せいめい科学かがく科か）、地球ちきゅう科学かがく科かなどに分わかれている。学位がくいの代表だいひょう例れいは学士がくし（理学りがく）。

理学部りがくぶでは先人せんじんたちが築きずいた自然しぜん科学かがくの諸しょ分野ぶんやについて学まなびはするが、（工学部こうがくぶとは異ことなって）出来上できあがった理論りろんをそのまま甘受かんじゅしてそのまま応用おうようするに止とまらず、理論りろん自体じたいの成立せいりつ過程かていを理解りかいし、それを解体かいたい・再さい構築こうちくしたり、新あらたな理論りろんを構築こうちくする能力のうりょくをも培つちかうことを重視じゅうしする。

たとえば同おなじ「りんご」ひとつを前まえにしても、物理ぶつり学がくではその位置いちや質量しつりょうや運動うんどうには着眼ちゃくがんするが、りんごの種たね・品種ひんしゅや親子おやこ関係かんけいは無視むししてしまって扱あつかわない。それに対たいして生物せいぶつ学がくでは種たね、形態けいたい、世代せだいなどに着目ちゃくもくし、運動うんどう・位置いちなどの面めんは基本きほん的てきに扱あつかわない。同おなじ自然しぜんを前まえにしていても、着眼ちゃくがん点てんが大おおきく異ことなり、まったく違ちがう側面そくめんを見みており、あたかも全まったく別べつの世界せかいを眼前がんぜんにしているようであり、また理論りろんの構築こうちくのしかたも大おおきく異ことなるのである。自然しぜん科学かがくの各かく分野ぶんやの理論りろん体系たいけいをそのまま信しんじて信者しんじゃのように振ふる舞まうことに甘あまんじず、各かく分野ぶんやの成立せいりつの背後はいごにある「ものの考かんがえ方かた」自体じたいにまで焦点しょうてんをあて、それを議論ぎろんの俎上そじょうに乗のせることも行おこなう。学問がくもんの礎いしずえ（いしづえ）として置おかれている原理げんり (principle) そのものにまで関心かんしんを持もち、時ときとしてその学問がくもん原理げんりの妥当だとう性せいを疑うたがうということすらある。

理学りがくにおいて、人間にんげん存在そんざいは理論りろんの構築こうちく者しゃであり、また自然しぜんの観察かんさつ者しゃであり、人間にんげん存在そんざいを主体しゅたいとしてとらえる傾向けいこうにある。こうした姿勢しせいは古代こだい以来いらいの哲学てつがくと共通きょうつうするところがある。理論りろんを応用おうようし、社会しゃかい的てき要請ようせいに応こたえることが目的もくてきの学部がくぶ（工学部こうがくぶ・農学部のうがくぶなど）とは異ことなる面めんがある。

自然しぜん科学かがくの中なかのどの分野ぶんやを選択せんたくするかによって、必要ひつようとなる素養そよう・技能ぎのうは異ことなってくる。物理ぶつり学がくの場合ばあいは、記述きじゅつや理論りろん構築こうちくに、自然しぜん言語げんごおよび数学すうがくという言語げんごが必要ひつようである。（自然しぜん言語げんごについては大学だいがく入学にゅうがく前まえに一いち応おうは学まなんでいるものとして）理学部りがくぶでは、（特とくに物理ぶつり学がくなどを学まなぶ学生がくせいには）数学すうがく教育きょういくをしっかりと行おこなうということになっている。ただし伝統でんとう的てきな生物せいぶつ学がくを学まなぶ学生がくせいは、しばしば、数学すうがくを学まなぶことを大だい部分ぶぶん回避かいひすることもできる。

主おもに生物せいぶつ学がくや地球ちきゅう科学かがくでは、本物ほんものの自然しぜん環境かんきょうの中なかで調査ちょうさを行おこなうことが非常ひじょうに重要じゅうようなので、フィールドワークに関かんする知識ちしきの習得しゅうとく・実地じっち訓練くんれんも行おこなう。

なお一部いちぶで誤解ごかいしている人ひとがいるので解説かいせつしておくと、理学部りがくぶでは数学すうがくを教おしえているが、だからといって数学すうがくが自然しぜん科学かがくというわけではない。数学すうがくは自然しぜん科学かがくではなく、あくまで形式けいしき科学かがくである。物理ぶつり学がくを記述きじゅつするのには自然しぜん言語げんごや数学すうがくという一種いっしゅの"記述きじゅつ言語げんご"が必要ひつようで、どちらも必須ひっすで大切たいせつなのだが、不足ふそくしていると考かんがえられる数学すうがく的てき知識ちしきを学生がくせいに習得しゅうとくしてもらうべく、理学部りがくぶのカリキュラムとして組くみ込こんでいる、ということである。本当ほんとうは、社会しゃかい科学かがくでも数学すうがくは頻用ひんようしており、数学すうがくは自然しぜん科学かがくだけで使つかわれているわけではない。だが「数学すうがく科か」を複数ふくすうあちこちに設置せっちするわけにもいかないので、便宜上べんぎじょう「理学部りがくぶ」内ないに設置せっちしている大学だいがくも多おおい、という関係かんけいになっている。なお、ケンブリッジ大だいでは、Faculty of Mathematics となっていて、数学すうがく・学部がくぶが単体たんたいで独立どくりつした学部がくぶになっている。また、理学部りがくぶでも自然しぜん言語げんごは非常ひじょうに重要じゅうようで、例たとえば生物せいぶつ学がくは基本きほん的てきに、自然しぜん言語げんごばかりで記述きじゅつされる。

学問がくもん分野ぶんやを問とわず、将来しょうらい研究けんきゅう者しゃになると、学会がっかいの発表はっぴょうをはじめ国際こくさい的てきに活躍かつやくするためには、英語えいごが流暢りゅうちょうになっていることが必須ひっすである。自然しぜん科学かがくの共通きょうつうの自然しぜん言語げんごになっている観かんもある英語えいごのしっかりした学習がくしゅうは欠かかせない。

平成へいせい時代じだいに入はいってからの大学院だいがくいん重点じゅうてん化かにより、組織そしきの管理かんり運営上うんえいじょうの機能きのうが大学院だいがくいん理学りがく研究けんきゅう科かに移行いこうしている例れいも見みられる。

進路しんろ

卒業そつぎょう・修了しゅうりょう後ごの進路しんろは様々さまざまである。「多おおくが理科りかや数学すうがくの教員きょういんになる選択せんたくをする」という誤解ごかいが一般いっぱん的てきになされているが、実際じっさいには一般いっぱん企業きぎょう (商社しょうしゃやメーカー) への就職しゅうしょく率りつの方ほうが高たかい。一方いっぽうの教員きょういんとして就職しゅうしょくする割合わりあいは決けっして高たかくなく、むしろ一般いっぱん企業きぎょうや他たの公務員こうむいん職しょくに比くらべ、低ひくいと言いえる。^{[要よう出典しゅってん]}

他たには、理論りろん系けいの研究けんきゅう者しゃになる者ものや、また工学こうがくを自学じがくし技術ぎじゅつ者しゃとなる者ものや、経済けいざい学がく、心理しんり学がくなど人文じんぶん科学かがく・社会しゃかい科学かがく系けいの分野ぶんやを専攻せんこうする者ものや、文化ぶんか・哲学てつがくに携たずさわってゆくことになる者ものもいる^[2]^[3]^[4]^[5]^[6]。

教員きょういん免許めんきょに必要ひつような科目かもくを履修りしゅうすることで、数学すうがく（数学すうがく科か）、理科りか（数学すうがく科か以外いがい）の高等こうとう学校がっこう一いち種しゅ教員きょういん免許めんきょを取得しゅとくできる大学だいがくが大半たいはんである。

類型るいけい

名称めいしょうとして「理学部りがくぶ」を名乗なのる大学だいがく学部がくぶの他ほかに、私立しりつ大学だいがくの半分はんぶん以上いじょうは理工学部りこうがくぶの理学りがく系けいの学科がっかも同様どうようの研究けんきゅう教育きょういく活動かつどうを行おこなっている。また、総合科学部そうごうかがくぶ（広島大学ひろしまだいがく、徳島大学とくしまだいがく）、教育きょういく学部がくぶ（早稲田大学わせだだいがく）、教養きょうよう学部がくぶ（東京大学とうきょうだいがく、国際基督教大学こくさいきりすときょうだいがく）、文理学部ぶんりがくぶ（日本にっぽん大学だいがく）、リベラルアーツ学がく群ぐん（桜美林大学おうびりんだいがく）に理学りがく（自然しぜん科学かがく）の教育きょういく、研究けんきゅうがなされるコースが設置せっちされている大学だいがくもある。

学がく群ぐん制せいや学がく域いき制せいを敷しく大学だいがくについては、筑波大学つくばだいがくにおいては、独自どくじの「学がく群ぐん・学がく類るい」制度せいどが敷しかれ理学部りがくぶという名称めいしょうの学部がくぶは存在そんざいしないが、同大どうだい学理がくり工学こうがく群ぐんの開設かいせつする数学すうがく類るい・物理ぶつり学がく類るい・化学かがく類るいや、同どう大学生だいがくせい命いのち環境かんきょう学がく群ぐんの地球ちきゅう学がく類るい・生物せいぶつ学がく類るい（多様たよう性せい、情報じょうほう、分子ぶんし細胞さいぼう、応用おうよう生物せいぶつ、人間にんげん生物せいぶつの各かくコース）が他た大学だいがくの理学部りがくぶに相当そうとうしている。金沢大学かなざわだいがくでは理学部りがくぶは工学部こうがくぶを母体ぼたいとして2008年ねんに3学がく域いき構想こうそうの下したに創設そうせつされた「理工りこう学がく域いき」に統合とうごう・再編さいへんされた。同どう大学だいがくでは地理ちり学がく系けいは、人間にんげん社会しゃかい学がく域いきの人文じんぶん学がく類るい人間にんげん科学かがくコースに地理ちり学がく研究けんきゅう室しつがある。

理学りがく（自然しぜん科学かがく）の境界きょうかい領域りょういきの教育きょういく、研究けんきゅうをする学科がっかが設置せっちしている大学だいがくもある。

地理ちり学科がっか^{[注釈ちゅうしゃく 1]}が理学部りがくぶに設置せっちされている大学だいがくもあるが、数かずは少すくない（東北大学とうほくだいがくなど）^[7]。かつては、旧きゅう東京都立大学とうきょうとりつだいがくや東京教育大学とうきょうきょういくだいがくでも理学部りがくぶに地理ちり学科がっかや地学ちがく科か地理ちり学がく専攻せんこうが設置せっちされていた^[7]。

北海道大学ほっかいどうだいがく、大阪大学おおさかだいがくでは他た大学だいがくの大半たいはんで繊維せんい学部がくぶや工学部こうがくぶで設置せっちされていた高分子こうぶんし学科がっか、広島大学ひろしまだいがくでは物性ぶっせい学科がっかといった学科がっかがこれに該当がいとうした。

近年きんねんでは、理学部りがくぶの学科がっかを再編さいへんして複数ふくすうのコースを設もうけた理学りがく科かとし、境界きょうかい領域りょういきの教育きょういく、研究けんきゅうを容易よういにしている大学だいがくがある。

大学だいがく制度せいどが成立せいりつした当時とうじ唯一ゆいいつの大学だいがくであった東京大学とうきょうだいがくでは理学部りがくぶには8つの学科がっかが置おかれていたが、その内容ないようは数学すうがく科か、物理ぶつり学科がっか、化学かがく科か、生物せいぶつ学科がっか、星ほし学科がっか、工学科こうがっか、地質ちしつ学科がっか、採鉱さいこう冶金やきん学科がっかと今いまでは工学部こうがくぶに相当そうとうするものも含ふくみ、いわゆる理系りけい的てき分野ぶんやを網羅もうらするものだった。

岡山理科大学おかやまりかだいがくもかつては工学部こうがくぶに相当そうとうする学科がっか（電子でんし理学りがく科か、機械きかい理学りがく科かなど）を含ふくんでいた。

東京理科大学とうきょうりかだいがくでは、他た大学だいがくでは工学部こうがくぶに設置せっちされる応用おうよう物理ぶつり学科がっか、応用おうよう化か学科がっかといった応用おうよう理学りがくの学科がっかが、理学部りがくぶにある。