親告罪しんこくざい

親告罪しんこくざい（しんこくざい、独どく： Antragsdelikt）とは、告訴こくそがなければ公訴こうそを提起ていきすることができない犯罪はんざいを指さす。告訴こくそを欠かく公訴こうそは、訴訟そしょう条件じょうけんを欠かくものとして判決はんけつで公訴こうそ棄却ききゃくとなる。

概要がいよう

16世紀せいきのカロリナ刑けい法典ほうてん（英語えいご版ばん）において誘拐ゆうかい罪ざい、強姦ごうかん罪ざい、姦通かんつう罪ざい、親族しんぞく間あいだ窃盗せっとう罪ざいについて定さだめられたのが最初さいしょであるとされている。日本にっぽんには1810年ねんフランス刑けい法典ほうてん（フランス語ふらんすご版ばん）を経由けいゆして旧きゅう刑法けいほう典てんで伝つたわった。告訴こくそ権けんについても1808年ねんのフランス治ち罪ざい法典ほうてん（フランス語ふらんすご版ばん）を経由けいゆして治ち罪ざい法ほうで伝つたわった。

親告罪しんこくざいのうち、犯人はんにんと被害ひがい者しゃの間あいだに一定いっていの関係かんけいがある場合ばあいに限かぎり親告罪しんこくざいとなるものを相対そうたい的てき親告罪しんこくざい、それ以外いがいの親告罪しんこくざいを絶対ぜったい的てき親告罪しんこくざいという。前者ぜんしゃの「相対そうたい的てき親告罪しんこくざい」の例れいとしては親族しんぞく間あいだの窃盗せっとう（刑法けいほう244条じょう・親族しんぞく相しょう盗ぬすめ例れい）がある。

なお、公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいの告発こくはつ（独禁法どっきんほう第だい96条じょう1項こう）や、外国がいこく政府せいふの請求せいきゅう（刑法けいほう第だい92条じょう2項こう）がないと公訴こうそを提起ていきできない罪つみも親告罪しんこくざいと呼よぶことがある。

親告罪しんこくざいにおいては告訴こくそされない限かぎりは犯罪はんざいではない、と言いう見解けんかいもある。

現実げんじつ的てきに、告訴こくそが無なければ捜査そうさ自体じたいがされることはなく起訴きそされることもないが、犯罪はんざいではないと言いうよりは犯罪はんざいが成立せいりつしないと言いうのが正ただしい。

親告罪しんこくざいの例れい

親告罪しんこくざいの例れいとしては、次つぎのようなものがある。

事実じじつが公おおやけになると、被害ひがい者しゃに不利益ふりえきが生しょうじるおそれのある犯罪はんざい
- 未成年みせいねん者しゃ略取りゃくしゅ・誘拐ゆうかい罪ざい（刑法けいほう229条じょう本文ほんぶん、224条じょう）
- 名誉めいよ毀損きそん罪ざい・侮辱ぶじょく罪ざい（同どう法ほう232条じょう、230条じょう・231条じょう）
- 信書しんしょ開封かいふう罪ざい・秘密ひみつ漏も示しめせ罪ざい（同どう法ほう135条じょう、133条じょう・134条じょう）
罪責ざいせきが比較的ひかくてき軽微けいびであり、または当事とうじ者しゃ相互そうごでの解決かいけつを計はかるべき犯罪はんざい
- 過失かしつ傷害しょうがい罪ざい（刑法けいほう209条じょう）
- 私用しよう文書ぶんしょ等とう毀棄きき罪ざい・器物きぶつ損壊そんかい罪ざい・信書しんしょ隠匿いんとく罪ざい（同どう法ほう264条じょう、259条じょう・261条じょう・263条じょう）
親族しんぞく間あいだの問題もんだいのため、介入かいにゅうに抑制よくせい的てきであるべき犯罪はんざい
- 親族しんぞく間あいだの窃盗せっとう罪ざい（親族しんぞく相しょう盗ぬすめ例れい）・不動産ふどうさん侵おかせ奪だつ罪つみ（刑法けいほう244条じょう2項こう、235条じょう・235条じょうの2）
- 親族しんぞく間あいだの詐欺さぎ罪ざい・恐喝きょうかつ罪ざい等ひとし（同どう法ほう251条じょう・244条じょう2項こう準用じゅんよう、246条じょう、249条じょうなど）
- 親族しんぞく間あいだの横領おうりょう罪ざい（同どう法ほう255条じょう・244条じょう2項こう準用じゅんよう、252条じょうなど）
そのほか行政ぎょうせい的てきな理由りゆうなど
- 著作ちょさく権けん侵害しんがいによる著作ちょさく権けん法ほう違反いはんの罪つみ（著作ちょさく権けん法ほう123条じょう、119条じょう1号ごう）
  - 一定いってい要件ようけん下かの著作ちょさく権けん等とう侵害しんがい等とう罪ざいについては非ひ親告罪しんこくざい（「日本にっぽんの著作ちょさく権けん法ほうにおける非ひ親告罪しんこくざい化か」を参照さんしょう）。
- 各種かくしゅ税法ぜいほう違反いはんの罪つみ（告発こくはつ）

告訴こくそ権けん者しゃ

告訴こくそ権けん者しゃは、原則げんそくとして被害ひがい者しゃ（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう230条じょう）。そのほかに、

被害ひがい者しゃの法定ほうてい代理人だいりにん（同どう法ほう231条じょう1項こう）
被害ひがい者しゃが死亡しぼうした場合ばあいは、被害ひがい者しゃの明示めいじした意志いしに反はんしない限かぎり、被害ひがい者しゃの配偶はいぐう者しゃ、直系ちょっけいの親族しんぞく又または兄弟きょうだい姉妹しまい（同どう法ほう231条じょう2項こう）
被害ひがい者しゃの法定ほうてい代理人だいりにんが被疑ひぎ者しゃ・被疑ひぎ者しゃの配偶はいぐう者しゃ・被疑ひぎ者しゃの4親等しんとう内ないの血族けつぞく若もしくは3親等しんとう内ないの姻族いんぞくであるときは、被害ひがい者しゃの親族しんぞく（同どう法ほう232条じょう）
死者ししゃに対たいする名誉めいよ毀損きそん罪ざい（刑法けいほう230条じょう2項こう）については、死者ししゃの親族しんぞく又または子孫しそん（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう233条じょう1項こう）
名誉めいよ毀損きそん罪ざいについて被害ひがい者しゃが告訴こくそせず死亡しぼうした場合ばあいは、被害ひがい者しゃの明示めいじした意志いしに反はんしない限かぎり、その親族しんぞく又または子孫しそん（同どう法ほう233条じょう2項こう）
親告罪しんこくざいにおいて告訴こくそ権けん者しゃがいない場合ばあいは、検察官けんさつかんが利害りがい関係かんけい者しゃからの申もうし立たてにより告訴こくそ権けん者しゃを指名しめいする（同どう法ほう234条じょう）

告訴こくそ期間きかん

親告罪しんこくざいは、原則げんそくとして犯人はんにんを知しった日ひから6か月げつ経過けいか後ごは告訴こくそすることができない（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう235条じょう1項こう柱はしら書しょ本文ほんぶん）。

告訴こくそ不可分ふかぶんの原則げんそく

共犯きょうはんの一人ひとりないし数すう人にんに対たいして告訴こくそした場合ばあいは、他たの告訴こくそされていない共犯きょうはん者しゃに対たいしても告訴こくその効力こうりょくが及およぶ（刑事けいじ訴訟そしょう法ほう238条じょう1項こう）。