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静脈血栓塞栓症 - Wikipedia

静脈じょうみゃく栓塞せんそくせんしょう

静脈じょうみゃく栓塞せんそくせんしょう(じょうみゃくけっせんそくせんしょう, Venous thrombosis; VTE)とは、はい栓塞せんそくせんしょう (英語えいご: Pulmonary embolism; PE) と深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんしょう (英語えいご: Deep vein thrombosis; DVT) をあわせた疾患しっかん概念がいねんである。

静脈じょうみゃく栓塞せんそくせんしょう
発症はっしょうした右足みぎあし
概要がいよう
診療しんりょう 循環じゅんかんがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 I80-I82
ICD-9-CM 453
MeSH D020246

DVTは、下肢かし上腕じょうわんその静脈じょうみゃく大腿だいたい静脈じょうみゃくなど)において血栓けっせん凝固ぎょうこしたのかたまり)がしょうじ、静脈じょうみゃくでの狭窄きょうさく閉塞へいそく炎症えんしょうしょうずる疾患しっかん[1]。しばし症状しょうじょうせいであることがおお[1]

飛行機ひこうきうちなどで、長時間ちょうじかんおな姿勢しせいつづけて発症はっしょうすることがよくられており、エコノミークラス症候群しょうこうぐんばれることもあるが、この呼称こしょうはエコノミークラス利用りようしゃ限定げんてい発生はっせいする疾患しっかんとの誤解ごかいあたえることから、欧米おうべいでの呼称こしょうやくした呼称こしょう旅行りょこうしゃ血栓けっせんしょう提言ていげんされている[2]が、バスなどでの発生はっせいはまれだとしてロングフライト血栓けっせんしょうもちいられている[3][4]

VTEは入院にゅういん患者かんじゃおも死因しいんひとつである[1]脂肪しぼう腫瘍しゅよう[5]羊水ようすい空気くうき造影ぞうえいざい寄生虫きせいちゅう異物いぶつなど血栓けっせん以外いがい[6]原因げんいんとなることもあるが、おおくの場合ばあい血栓けっせん全部ぜんぶまたは一部いちぶが、りゅうって下大しもおお静脈じょうみゃくみぎ心房しんぼうみぎ心室しんしつ経由けいゆし、はいながれつき、はい動脈どうみゃくまるとはいふさがせんしょうとなる。はい動脈どうみゃくまるとそのさきはい胞には血液けつえきながれず、ガス交換こうかんができなくなる。その結果けっか換気かんきりゅう均衡きんこうしょう動脈血どうみゃくけつなか酸素さんそぶんあつ急激きゅうげき低下ていか呼吸こきゅう困難こんなん脈拍みゃくはくすう上昇じょうしょうきる。典型てんけいてき症状しょうじょう息苦いきぐるしさやいきうときのするどいたみで、失神しっしん、ショックがきることもあり、とき死亡しぼうする。

分類ぶんるい

編集へんしゅう
 
血栓けっせん
はい栓塞せんそくせんしょう(はいけっせんそくせんしょう)
死亡しぼう危険きけんせいたか疾患しっかんである。ふさがせんしょうじた血栓けっせんおおきい場合ばあい即死そくしをきたすことがあり、原因げんいん不明ふめい場合ばあいおおい。欧米おうべいでは循環じゅんかん疾患しっかんによる死亡しぼう原因げんいんとして3番目ばんめおおい。はい組織そしき壊死えしおちいること(はい梗塞こうそく、Pulmonary Infarction:PI)が10%–15%にみとめられる。はい梗塞こうそく比較的ひかくてき末梢まっしょうはい動脈どうみゃく閉塞へいそくや、基礎きそ疾患しっかんとしてこころ疾患しっかん呼吸こきゅう疾患しっかんゆうしている場合ばあいしょうじやすい。一方いっぽう高血圧こうけつあつ糖尿とうにょうびょうこうあぶらしょう脂質ししつ異常いじょうしょう)などの生活せいかつ習慣しゅうかんびょう喫煙きつえん飲酒いんしゅ習慣しゅうかんとの関連かんれんせい不明ふめいである[7]
はい動脈血どうみゃくけつ栓塞せんそくせんしょう原因げんいんとなる血栓けっせん深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんもっとおおヒラメすじ静脈じょうみゃく血栓けっせんがしばしばみられる[8][9]
深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんしょう(しんぶじょうみゃくけっせんしょう、DVT)
深部しんぶ静脈じょうみゃく大腿だいたい静脈じょうみゃくひざ静脈じょうみゃくなど、からだ深部しんぶにある静脈じょうみゃく)に血栓けっせんができる病気びょうきはい栓塞せんそくせんしょうおも原因げんいんである。きも静脈じょうみゃく血栓けっせんができるともんみゃくあつ亢進こうしんしょう(バッド・キアリ症候群しょうこうぐん)をこす。

症状しょうじょう

編集へんしゅう

しばしば症状しょうじょうせいである[1]

  • 深部しんぶ血栓けっせんができた場合ばあい下肢かしれ (47%)、下肢かしつう (26%)、下肢かし色調しきちょう変化へんか (7%) で血栓けっせんよりとおくらい浮腫ふしゅなどといった症状しょうじょうがでるが症状しょうじょうのこともある。とく下肢かし静脈じょうみゃく血栓けっせんひだりきやすい。これはひだりそうちょうこつ静脈じょうみゃくみぎそうちょうこつ動脈どうみゃく交差こうさしているため、後者こうしゃによって前者ぜんしゃ圧迫あっぱくされやすいためである[10]
  • からだ深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんができた場合ばあいはその静脈じょうみゃく周囲しゅうい皮膚ひふ炎症えんしょうこし、血栓けっせんせい静脈じょうみゃくえんこすことがある。
  • 血栓けっせんんではいふさがせんこすと呼吸こきゅう困難こんなん (73%)、胸痛きょうつう (42%)、あせ (24%)、失神しっしん (22%)、動悸どうき (21%)、せき(せき)(11%)、血痰けったん (5%) とう症状しょうじょうきる。また、静脈じょうみゃくいか脹、血圧けつあつ低下ていか意識いしき消失しょうしつなどもしょうじ、急激きゅうげきかつ広範囲こうはんいはいふさがせんしょうじた場合ばあい心肺しんぱい停止ていしとなり、突然とつぜんする。

原因げんいん

編集へんしゅう

静脈じょうみゃくうつとどこおうったい血液けつえき凝固ぎょうこ亢進こうしん最大さいだい原因げんいんとなる。りゅううつとどこお血液けつえきながれがとどこおること)の原因げんいんとしては長時間ちょうじかんおな姿勢しせいつづけることや鬱血うっけつうっけつせい心不全しんふぜん下肢かし静脈じょうみゃくこぶ存在そんざいげられる。血液けつえき凝固ぎょうこ亢進こうしんかたまりやすくなること)は様々さまざま病態びょうたいにおいてしょうじるが、たとえば脱水だっすいがん手術しゅじゅつ長時間ちょうじかん臥床がしょう拘束こうそくころもによる身体しんたい拘束こうそくエストロゲン製剤せいざい使用しようなどがげられる。先天せんてんせい素因そいんとしてはプロテインC欠損けっそんしょうプロテインS欠損けっそんしょうアンチトロンビンIII欠損けっそんしょうなどがある[11][12]

後天的こうてんてき血栓けっせんせい素因そいんとしては、ループス・エリテマトーデスふくこうリン脂質ししつ抗体こうたい症候群しょうこうぐんベーチェットびょうなどをふく血管けっかんえん症候群しょうこうぐんなどが原因げんいんとなる[13]

欧米おうべいでは、凝固ぎょうこけいだいV因子いんし変異へんい (factor V Leiden) がかけられるが、日本にっぽんではつかっていない[14]

とく湿度しつどが20%以下いかになって乾燥かんそうしている飛行機ひこうき、とりわけ座席ざせきせまエコノミークラス発病はつびょうするかくりつたかいとおもわれているため、エコノミークラス症候群しょうこうぐんばれるが、ファーストクラスビジネスクラス、さらに列車れっしゃバスなどでも発生はっせい可能かのうせいはある。タクシー運転うんてんしゅ長距離ちょうきょりトラック運転うんてんしゅ発症はっしょう報告ほうこくされている。長時間ちょうじかんおな体勢たいせいでいることが原因げんいんである。

有名ゆうめい発生はっせい事例じれい

編集へんしゅう

2002ねんに、サッカー日本にっぽん代表だいひょう選手せんしゅ高原たかはらただしやすし旅客機りょかくきでの移動いどうちゅう発病はつびょう[15]。エコノミークラスより座席ざせきひろいビジネスクラスを利用りようして発病はつびょうしたため[4]、「エコノミークラス以外いがいなら安全あんぜん」というわけではない。結果けっかとして、有力ゆうりょくされていたにちかんワールドカップ代表だいひょうりが見送みおくられた[15]。なお、高原こうげん選手せんしゅの2006ねんワールドカップドイツ大会たいかい代表だいひょう選出せんしゅつ関連かんれんして、ドイツへの移動いどうさいしては高原こうげん選手せんしゅのみは日本にっぽんサッカー協会きょうかいからファーストクラスがあてがわれた(ジーコ監督かんとく以下いかのスタッフはビジネスクラスを利用りよう)。

2015ねん、NBAプレイヤーのクリス・ボッシュNBAオールスターゲーム終了しゅうりょう診断しんだんされた。治療ちりょうのためシーズンを全休ぜんきゅうし、復帰ふっきしたものの、2015-2016シーズン再発さいはつし、NBA引退いんたい表明ひょうめいしている。

自動車じどうしゃでの車中しゃちゅうはくでも発生はっせいする。2004ねん新潟にいがたけん中越なかこし地震じしん車中しゃちゅうはく避難ひなん生活せいかつおくひとたちのなかに、エコノミークラス症候群しょうこうぐんによる死亡しぼうしゃ多数たすう報告ほうこくされ、災害さいがい関連かんれんのほうが直接ちょくせつ死者ししゃよりもおお事態じたいになったことから注目ちゅうもくされた。2011ねん東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいようおき地震じしん、2016ねん熊本くまもと地震じしんなどでも多数たすう発生はっせいしている[16]

静脈じょうみゃく栓塞せんそくせんしょう突然とつぜんをきたすじゅうあつ疾患しっかんである。そのため発症はっしょうするまえ予防よぼうすることが非常ひじょう重要じゅうようである。一般いっぱんてき推奨すいしょうされている予防よぼうほうしめす。

  • 長時間ちょうじかんにわたっておな姿勢しせいらない。時々ときどき下肢かしうごかす。飛行機ひこうきないでは、着席ちゃくせきちゅうあしすこしでもうごかしたりすることなどが推奨すいしょうされている[17]。ただし、乱気流らんきりゅうにより負傷ふしょうする事故じこもあることから、飛行ひこうちゅうにむやみにせきってあるいたりすることは忌避きひされる。航空こうくう会社かいしゃによっては、座席ざせきでできる簡便かんべん下肢かし運動うんどうほうしるしたパンフレットがかく座席ざせきそなけられている場合ばあいもある。
  • 麻痺まひ療養りょうようのため長期ちょうき臥床がしょう余儀よぎなくされる場合ばあい長時間ちょうじかん手術しゅじゅつおこな場合ばあい弾性だんせいストッキング空気くうきしき圧迫あっぱく装置そうちもちいて血液けつえきうつとどこおふせ必要ひつようがある。とく弾性だんせいストッキングはリスクのあるれいすべてにおこなわれるべきである[18]長期ちょうき臥床がしょうへの利用りようは、外科げか手術しゅじゅつ抑制よくせい予防よぼう効果こうかみとめられるが、脳卒中のうそっちゅう深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんしょうには効果こうかがないと報告ほうこくされている[19][20]
  • 脱水だっすいこさないよう、適量てきりょう水分すいぶん[21]飛行機ひこうきないでは客室きゃくしつ乗務じょうむいんして、適宜てきぎみずってきてもらう[22]ビールなどのアルコール飲料いんりょう緑茶りょくちゃ紅茶こうちゃコーヒーなどカフェインふくもの利尿りにょう作用さようがあり、かえって脱水だっすいこすおそれがあるため、水分すいぶん補給ほきゅうにはてきしていない。
  • アスピリンやそのこう血小板けっしょうばんやくは、VTEの予防よぼうとして十分じゅうぶんではない[21]
  • ハイリスク患者かんじゃ、たとえば下肢かし静脈じょうみゃく血栓けっせん存在そんざいする場合ばあいには、はい血栓けっせんぶのをふせぐために下大しもおお静脈じょうみゃくフィルター留置とめおき検討けんとうされる[21]
  • 災害さいがい避難ひなんしょにおいては、たたみかマットをいた雑魚寝ざこねよりも簡易かんいベッドをもちいると、深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせん陽性ようせいりつ低下ていか可能かのうである[23][24]

日本にっぽんでは、2004ねん平成へいせい16ねん)にはい栓塞せんそくせん予防よぼう管理かんりりょう診療しんりょう報酬ほうしゅう収載しゅうさいされた。日本にっぽんでははじめての「予防よぼう」の保険ほけん適応てきおうである。

日本にっぽん旅行りょこう学会がっかいは、地震じしんさいの『マスメディア一部いちぶ報道ほうどうなかには、具体ぐたいてき予防よぼうさくはほとんど報道ほうどうされず、間違まちがった情報じょうほうふくまれている』と指摘してきしている[25]

  • はいりゅうシンチグラムラジオアイソトープもちいてはいりゅう分布ぶんぷ調しらべる検査けんさはいふさがせんしょう診断しんだんもっとてきしているとされていたが、近年きんねん造影ぞうえいCTにそのゆずりつつある。
  • はい動脈どうみゃく造影ぞうえい血管けっかんない造影ぞうえいざい注入ちゅうにゅうしてはい動脈どうみゃく描出びょうしゅつする検査けんさたか診断しんだんのうつが、技術ぎじゅつ経験けいけん必要ひつようである。
  • 造影ぞうえいCT静脈じょうみゃくない造影ぞうえいざい急速きゅうそく注入ちゅうにゅうし、はい動脈どうみゃく到達とうたつするタイミングにわせてCTを検査けんさ比較的ひかくてき簡便かんべん診断しんだんのうたかい。
  • 動脈どうみゃく血液けつえきガス分析ぶんせき動脈どうみゃくから血液けつえき採取さいしゅし、酸素さんそ二酸化炭素にさんかたんそりょう調しらべる検査けんさ呼吸こきゅう機能きのう評価ひょうかする検査けんさとしてスクリーニングもちいられる。
  • せん溶系血液けつえき採取さいしゅD-ダイマー、TAT、FDPなどを測定そくていする検査けんさ。D-ダイマー(D-dimer)とは血栓けっせん溶解ようかいする過程かていしょうじる分解ぶんかい産物さんぶつであり、血栓けっせんしょうせん溶において上昇じょうしょうする。
  • 心電図しんでんずはいふさがせんしょうでははい血管けっかん抵抗ていこう上昇じょうしょうによりみぎしん負荷ふかがかかるため、心電図しんでんず異常いじょうていする。
  • けい食道しょくどうエコーしんエコーちょう音波おんぱ血栓けっせん存在そんざいみぎしん負荷ふか程度ていど確認かくにんする。けい食道しょくどうエコーは食道しょくどううちからちょう音波おんぱてる検査けんさカメラにている)で心臓しんぞうはい血管けっかん観察かんさつによりてきしている。
  • 下肢かし静脈じょうみゃくエコー: 下肢かし静脈じょうみゃく血栓けっせんしょううたがわる場合ばあい下肢かし静脈じょうみゃくエコーで(とくヒラメすじ静脈じょうみゃくおおい)血栓けっせん有無うむ確認かくにんする。(感度かんど95%, 特異とくい98%)[26]
  • 凝固ぎょうこ因子いんし日本人にっぽんじんではFactor V Leiden(ライデンでつかったためこのようにばれる異常いじょうだい5因子いんし)はみられないため(現時点げんじてんでは報告ほうこく)、V因子いんし活性かっせい測定そくていする意義いぎうすい。むしろ日本人にっぽんじんではプロテインC/プロテインSについて活性かっせい異常いじょう念頭ねんとうかなけらばならない。コーカソイドのみにだいV因子いんし活性かっせい異常いじょう報告ほうこくされており、日本にっぽん在留ざいりゅうのコーカソイドの発症はっしょうさいには留意りゅうい必要ひつようかんがえられる。

鑑別かんべつ疾患しっかん

編集へんしゅう

診断しんだん

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まず臨床りんしょう症状しょうじょうからほんしょううたがうことが重要じゅうようである。同様どうよう症状しょうじょうではきょせいこころ疾患しっかんうたがうのが通常つうじょうであるが、つねほんしょう念頭ねんとう必要ひつようがある。

確定かくてい診断しんだんには画像がぞう検査けんさもちいられる。画像がぞう検査けんさはいりゅう不自然ふしぜん欠損けっそん血栓けっせん存在そんざい証明しょうめいできれば診断しんだん確定かくていする。従来じゅうらいはいりゅうシンチグラムがgold standardとされてきたが1990年代ねんだい後半こうはん造影ぞうえいCTの優位ゆういせい証明しょうめいした論文ろんぶん発表はっぴょうされ、ながれがわった。2003ねん発表はっぴょうされたBritish Thoracic Societyのガイドラインでは診断しんだんにD-ダイマー測定そくてい造影ぞうえいCTをもちいることが推奨すいしょうされている。

急性きゅうせいはい栓塞せんそくせんしょうでは一刻いっこくはや治療ちりょう必要ひつようであり、すみやかに診断しんだんをつけなければならない。日本にっぽんでは欧米おうべいくらべCTの普及ふきゅうりつたかいため、造影ぞうえいCTによる診断しんだん現実げんじつてき有用ゆうようであるとおもわれる。しかしながら2005ねん現在げんざいでも実地じっち医療いりょうにおける診断しんだんほういま確立かくりつされているとはがたい。一方いっぽう欧米おうべいでは深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんしょう/はい栓塞せんそくせんしょう除外じょがい診断しんだんほうがガイドラインされておりD-ダイマー測定そくていによるスクリーニングが簡便かんべんせい、コスト、患者かんじゃ負担ふたんという側面そくめん普及ふきゅうしている(その確定かくてい診断しんだんとしてCTなどの画像がぞう診断しんだんもちいられる)。

治療ちりょう

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血栓けっせん除去じょきょ循環じゅんかん動態どうたい改善かいぜん目的もくてきとした治療ちりょうおこなわれる[27]

こう凝固ぎょうこ療法りょうほう

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薬物やくぶつもちいて血液けつえきかたまりにくくする治療ちりょうほうヘパリン注射ちゅうしゃ)、ワルファリン内服ないふく)などのこう凝固ぎょうこやくもちいられる。血栓けっせん増大ぞうだい再発さいはつふせぎ、生命せいめい改善かいぜんする。禁忌きんきれい出血しゅっけついのちかかわる場合ばあい)をのぞきほぼぜんれいおこなわれる。ヘパリンは可能かのうであればてい分子ぶんしりょうヘパリンをもちいるべきである。てい分子ぶんしりょうヘパリンは長期ちょうき投与とうよこたえ、腫瘍しゅよう患者かんじゃにも投与とうよ可能かのうである[18]

副作用ふくさようとして出血しゅっけつ血小板けっしょうばん減少げんしょうしょう(ヘパリン)などがある。血栓けっせん急速きゅうそくかす効果こうかはないため、じゅうあつしはい栓塞せんそくせんしょうには治療ちりょうほう併用へいようされる。

血栓けっせん溶解ようかい療法りょうほう

編集へんしゅう

薬物やくぶつもちいて血栓けっせんかす治療ちりょうほうウロキナーゼ組織そしきプラスミノーゲン活性かっせい因子いんし(tPA)などの血栓けっせん溶解ようかいざいもちいられる。血栓けっせん早期そうき溶解ようかいさせ、循環じゅんかん動態どうたい改善かいぜんさせる。すみやかな改善かいぜん効果こうかられる反面はんめんじゅうあつし出血しゅっけつこす危険きけんせいもあるため投与とうよじゅう症例しょうれいかぎられるのが一般いっぱんてきである。とくにんには慎重しんちょう投与とうよもとめられる[18]。なお、モンテプラーゼ(遺伝子いでんしぐみえt-PA)について2005ねん7がつ25にちより不安定ふあんてい血行けっこう動態どうたいともな急性きゅうせいはいふさがせんしょうかぎ健康けんこう保険ほけん適用てきよう認可にんかされた。

血管けっかんない治療ちりょうほう (IVR)

編集へんしゅう

血管けっかんない治療ちりょうほうとは、血管けっかんないカテーテルもちいて薬剤やくざい注入ちゅうにゅうしたり血栓けっせん除去じょきょする治療ちりょうほう血栓けっせん溶解ようかい療法りょうほう不可能ふかのう場合ばあいいのちかかわる出血しゅっけつ予想よそうされる場合ばあい)や、大量たいりょう血栓けっせん早急そうきゅう除去じょきょする必要ひつようがある場合ばあいおこなわれる。高度こうど技術ぎじゅつ必要ひつようとするため、実施じっし可能かのう施設しせつかぎられる。以下いかのような治療ちりょうおこなわれている。

  • カテーテルからふさがせん直接ちょくせつ血栓けっせん溶解ようかいざい注入ちゅうにゅうし、血栓けっせんかす。
  • カテーテルやワイヤーで血栓けっせんこまかく粉砕ふんさいする。
  • カテーテルで血栓けっせん吸引きゅういん除去じょきょする。

手術しゅじゅつ療法りょうほう

編集へんしゅう

手術しゅじゅつ血栓けっせん除去じょきょする方法ほうほう急激きゅうげきかつ広範囲こうはんいはいふさがせんにより生命せいめい危機ききひんしている場合ばあいは、救命きゅうめいのためいちこく予断よだんなく緊急きんきゅう手術しゅじゅつとなる。また薬物やくぶつ療法りょうほうかず病状びょうじょう悪化あっかする場合ばあい手術しゅじゅつ検討けんとうされる。

死亡しぼうりつは10%ないし30%と報告ほうこくされている。死亡しぼうれいおおくが発症はっしょう直後ちょくご突然とつぜんである。治療ちりょう奏効そうこうすれば生命せいめい良好りょうこうであるが症状しょうじょう消失しょうしつ再発さいはつのおそれがあり、こう凝固ぎょうこ療法りょうほうつづける必要ひつようがある(とくこうリン脂質ししつ抗体こうたい症候群しょうこうぐんでは終生しゅうせいおよぶ)。再発さいはつした場合ばあいはさらに死亡しぼうりつたかたきり入院にゅういん高齢こうれい閉塞へいそくせいはい疾患しっかん悪性あくせい疾患しっかんひとしがその危険きけん因子いんしとなる[28]

疫学えきがく

編集へんしゅう

日本にっぽんでの年間ねんかん症例しょうれいすうやく4,000れい2000ねん)と推計すいけいされ、増加ぞうか傾向けいこうである。英国えいこくでは年間ねんかん25,000にん入院にゅういん患者かんじゃが、予防よぼう可能かのうであった静脈じょうみゃく栓塞せんそくせんしょう死亡しぼうしている[21]

リスクファクター

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旅行りょこうちゅう発生はっせいする報告ほうこく事例じれいでは、日本人にっぽんじんなどの黄色おうしょく人種じんしゅ黒人こくじん白人はくじんくらべるとすくないが、整形せいけい外科げか手術しゅじゅつ発症はっしょうする報告ほうこく事例じれいでは人種じんしゅあいだ頻度ひんどはない[7]高齢こうれいしゃ発症はっしょうしやすい[7]。また、男女だんじょでは女性じょせいほう発生はっせいしやすい[よう出典しゅってん]肥満ひまん発症はっしょうリスクを上昇じょうしょうさせる[7]

  • 環境かんきょう要因よういん
脱水だっすい感染かんせん旅行りょこう長期ちょうき臥床がしょう手術しゅじゅつなどによるりゅううつとどこおなど。
  • 先天的せんてんてき要因よういん
プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンなどのせん溶系因子いんし先天的せんてんてき低下ていか欠損けっそんなどがみられる。日本人にっぽんじんでは凝固ぎょうこだいV因子いんし異常いじょうである Factor V Leidenはつかっていない。
遺伝いでんせい疾患しっかんサラセミアでは、VTEの経験けいけんりつたかくなる傾向けいこうがある[29]
ABOしき血液けつえきがたのうち、Oがたのみ血液けつえき凝固ぎょうこ必要ひつようフォン・ウィルブランド因子いんし濃度のうどかたより25%ほどひくいため、かたよりわずかに血液けつえき凝固ぎょうこしにくく血栓けっせんきにくい性質せいしつつ。ぎゃくうとOがた基準きじゅんとするとかた(Aがた、Bがた、ABがた)はエコノミークラス症候群しょうこうぐん発生はっせいりつが50%ほどおおくなるというデータがある[30]
  • 後天的こうてんてき要因よういん
ループスエリテマトーデスこうリン脂質ししつ抗体こうたい症候群しょうこうぐん血管けっかんえん症候群しょうこうぐんなどのにかわばらびょう自己じこ免疫めんえき疾患しっかんなど。

脚注きゃくちゅう

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  2. ^ いちすぎただしひとし「エコノミークラス症候群しょうこうぐん”から“旅行りょこうしゃ血栓けっせんしょう”」『日本にっぽんバイオレオロジー学会がっかいだい16かんだい1ごう、2002ねん、32-33ぺーじdoi:10.11262/jpnbr1987.16.1_32 
  3. ^ ロングフライト血栓けっせんしょう 厚労省こうろうしょう 関西かんさい空港くうこう検疫けんえきしょ
  4. ^ a b 長時間ちょうじかん搭乗とうじょうよう注意ちゅうい 「ロングフライト血栓けっせんしょう」をふせ方法ほうほう”. ウェザーニュース. 2024ねん1がつ2にち閲覧えつらん
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  6. ^ はいふさがせんしょう メルクマニュアル
  7. ^ a b c d はいふさがせんしょう 国立こくりつ循環じゅんかんびょう研究けんきゅうセンター
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  13. ^ 岡田おかだじょう へん, 「最速さいそくきよし診断しんだんじゅつ」, pp.15-22.
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  15. ^ a b とらよんミーティング~限界げんかいへの挑戦ちょうせん~]だかはらただしやすし(SC相模原さがみはら)<前編ぜんぺん>「突然とつぜんやまいえたストライカー」(スポーツコミュニケーションズ) @gendai_biz”. 現代げんだいビジネス (2014ねん5がつ9にち). 2024ねん1がつ2にち閲覧えつらん
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  17. ^ 浅井あさい康文やすふみ丹野たんの克俊かつとし奈良なら伊藤いとうやすしもり和久かずひさ航空機こうくうきない救急きゅうきゅう体制たいせいかんする現状げんじょう展望てんぼう」(pdf)『国際こくさい交通こうつう安全あんぜん学会がっかいだい27かんだい3ごう、2002ねん11月、217–224ぺーじ 
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  22. ^ 以前いぜんペットボトルはい飲料いんりょうすい機内きないんで水分すいぶん補給ほきゅうすることができたが、法規ほうき改定かいてい2007ねんから国際線こくさいせん機内きないへペットボトルをふくむ100ml以上いじょうのプラスチックせい容器ようきはいった飲料いんりょう化粧けしょうひんなどの液体えきたいるいめなくなり、この手段しゅだん使つかえなくなった。遠慮えんりょなく客室きゃくしつ乗務じょうむいんして、みずたのんでかまわない。なお、日本にっぽん就航しゅうこうしている国際線こくさいせん格安かくやす航空こうくう会社かいしゃでは、オーストラリアジェットスター航空こうくう搭乗とうじょう飲料いんりょうすいりボトルを配布はいふし、飛行ひこうちゅう機内きない冷水れいすいでセルフサービスでみず方式ほうしきっている。
  23. ^ はしばみさわ和彦かずひこ最近さいきん地震じしん災害さいがいにおける深部しんぶ静脈じょうみゃく血栓けっせんしょうはいふさがせんしょう(DVT・PE)の現状げんじょう はい栓塞せんそくせんしょうフォーラム in 名古屋なごや(ランチョンセミナー 5-1)
  24. ^ 今回こんかい震災しんさいからまれつつあるあたらしいなが植田うえだしんさく石巻赤十字病院いしのまきせきじゅうじびょういん呼吸こきゅう外科げか日経にっけいメディカル オンライン 記事きじ:2011ねん8がつ1にち 閲覧えつらん:2011ねん9がつ22にち
  25. ^ 車中しゃちゅうはく血栓けっせんしょう予防よぼう! ロングフライト血栓けっせんしょう(=エコノミークラス症候群しょうこうぐん 日本にっぽん旅行りょこう学会がっかい
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参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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