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'''統一場理論'''(とういつばりろん)とは、様々な力を統一しようとする[[場の理論]]のこと。最終的には自然界の[[素粒子の相互作用|四つの力]]をすべて統一しようという理論的試みである。この全ての力を統一した理論のことを'''[[万物の理論]]'''と呼ぶ。現在、万物の理論の候補は、[[超弦理論]]のみであると考えられている。 |
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'''統一場理論'''(とういつばりろん)とは[[場の理論]]において種々の相互作用力を一種類に統一する理論である。自然界の[[素粒子の相互作用|四つの力]]をすべて統一することが到達点である。この全ての力を統一した理論のことを'''[[万物の理論]]'''と呼ぶ。現在、万物の理論の候補は、[[超弦理論]]のみであると考えられている。 |
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== 概要 == |
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[[アルベルト・アインシュタイン]]は[[一般相対論]]の論文を発表した後、[[重力]]と[[電磁気力]]の統一を試みたが、当時は完成させることはできなかった(現在では、超弦理論に重力と電磁気力は含まれている)。また、電磁気力と弱い力を統一した[[電弱統一理論]]は、統一場理論の一例である。 |
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場の理論は種々の場同士の結合の理論と言っても過言ではない。場の理論では場(粒子)は半径を持たない無限に小さいものとされ、そのような秒像では衝突をはじめとするあらゆる物理現象は場同士が相互作用力で引き合うことなくして起こり得ない。統一場理論とは場の理論において、模型が持つ結合の理論を一つに統一するための理論であり、狭義には[[ゲージ理論]]によって記述される相互作用を統一する理論である。 |
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== 歴史と背景 == |
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== 歴史と背景 == |
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自然物理学の歴史は力の統一の歴史といってもよい。[[アイザック・ニュートン]]は[[天体]]の力と地上の力を[[万有引力]]として統一した。つまり天体の重力も地上の重力も同様なニュートンポテンシャルをもつ運動方程式で表せる。[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]は[[電気力]]と[[磁気力]]を電磁気力として統一した。つまり、[[電流]]や時間変動する[[電場]]は[[磁場]]を生じ、時間変動する磁場は電場を生じる。互いに相互関係にあり、これら2つを電磁気力として統一された。
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一見異なる物理現象や法則であってもその実、よりシンプルな理論の一部である、という事実は物理学の歴史が示しており、「よりシンプルな理論でより多くを説明する」という目的は理論物理学の一つの至上命題である。古くは[[マックスウェル|ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]による[[電気力]]と[[磁気力]]を電磁気力として統一である。[[電流]]や時間変動する[[電場]]は[[磁場]]を生じ、時間変動する磁場は電場を生じる。互いに相互関係にあり、これら2つを電磁気力として統一された。 |
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場の理論の相互作用力の統一の試みは、最初期としては[[アルベルト・アインシュタイン]]や[[テオドール・カルツァ]]、[[オスカル・クライン]]による[[重力|一般相対性理論]]と[[電磁気力|量子電磁気学]]の統一の試みであるが、これは場の理論が確立していない時代の試みであり、量子電磁気学はファインマンらによって[[くりこみ|繰り込み]]が発見されて以降ようやく確立した理論である。くりこみ可能性の議論によれば量子重力場の理論は理論内に無限の発散を含んでおり、量子重力場理論そのものが破綻をきたしていたため重力を含む統一理論の研究は長く影を潜めることになる。 |
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さらに[[スティーヴン・ワインバーグ]]、[[アブドゥス・サラム]]は[[ 電磁気力]]([[ 電磁力]]とも 呼ぶ)と[[ 弱い 力]]を[[ 電弱統一理論]]として 統一した。この 意味は、「[[ 電荷]]をもつ[[ 素粒子]]は 必ず[[ 弱超電荷]]もあわせもつ」 理論形式になっているということで、つまり 普通の 電荷の 定義に 弱超電荷演算子の 第3 成分が 含まれている。このような 電弱の 不可分な 関係は 実験事実に 基づくが、 数学的には 非可換な2×2 行列であらわされる。た だしこ の[[ 電弱統一理論]] に[[強い 力]]の 理論である [[量子色力学]]を加えた[[標準模型]]では、電磁気力と[[弱い力]]、[[強い力]]の[[結合定数 (物理学)|結合定数]]はそれぞれ異なり、合計3つある。 |
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[[スティーヴン・ワインバーグ]]、[[アブドゥス・サラム]]は[[ 電磁気力]]([[ 電磁力]]とも 呼ぶ)と[[ 弱い 力]]を[[ 電弱統一理論]]として 統一した。この 意味は、「[[ 電荷]]をもつ[[ 素粒子]]は 必ず[[ 弱超電荷]]もあわせもつ」 理論形式になっているということで、つまり 普通の 電荷の 定義に 弱超電荷演算子の 第3 成分が 含まれている。このような 電弱の 不可分な 関係は 実験事実に 基づくが、 数学的には 非可換な2×2 行列であらわされる。 これにより実験的には全く異質な相互作用力であった 電磁気力と[[4点フェルミ相互作用|フェルミ相互作用]]は、実は2種類のゲージ対称性が破れた結果生じていることが判明し た。こ れを[[ 電弱統一理論]] とい う。電弱統一理論は相互作用力を統一する理論ではない(この 意味で統一場理論ではない)が、純粋なゲージ理論である 量子電磁気学と質量次元を持つ 相互作用であ るフェルミ相互作用を、ゲージ理論のみで説明している。 |
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ところで「統一」という言葉は別の意味で使われることもある。つまり、各々の力の結合定数は現在観測されうる限りの低エネルギー領域では異なるが、ある高エネルギーの点で同一の値になると期待されている。[[繰り込み理論]]によれば結合定数がエネルギーに依存することを利用して、このような理論を構成する試みがある。この流れで電磁気力、弱い力、強い力の三つが[[大統一理論]]として統一されようとしている。しかし最も単純で美しいと言われるSU(5)ゲージ群に基づく大統一理論は、[[陽子崩壊]]が現在までのところ一例も観測されていないという実験事実と矛盾し、すでに否定されている。そこで[[超対称性]]を仮定することによって修正した[[超対称大統一理論]]も未完成ではあるが、20年以上前から考えられている。これらは[[重力相互作用]]をのぞいた三つの力を全て統一しようという試みである。 |
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現在、現実に存在する粒子秒像を説明することが出来る[[標準模型]]は上記の二種類のゲージ理論、[[U(1)|アーベル群]]対称性で記述される超電荷相互作用と[[SU(2)|特殊ユニタリ群]]対称性で記述される弱い相互作用、加えてSU(3)対称性で記述される[[強い相互作用|量子色力学]]をゲージ理論として含んでいる。これらのゲージ群をより大きなゲージ群の部分群と仮定し、ゲージ結合定数を統一しようとする理論が[[大統一理論]](Ground Unified Theory : GUT)である。[[くりこみ群]]の観点によるとゲージ結合定数は物理現象そのものの典型的なスケールに依存しており、例えば異なるエネルギーの衝突実験においては同じ粒子同士の衝突であっても結合定数は異なる値を取ることになる。ゲージ結合定数とエネルギースケールの関係は標準模型においてはほぼ完全に解析することが可能であり、<math>10^{16}</math> GeV程度の領域でほぼ等しい値となる。大統一理論はこのような典型的なスケール以上において、例えばU(1)、SU(2)、SU(3)の三つの対称性がSU(5)などの大きな対称性に統一され、結合定数が一つになる、と考えている。また、[[超対称性]]によって拡張された[[超対称大統一理論]]ではゲージ理論では<math>10^{16}</math>~<math>10^{17}</math> GeV程度でゲージ結合の値が極めて等しい値となるが、[[陽子崩壊]]などの大統一演算子の抑制が通常の理論より弱くなるため、非常に厳しい制限がついている。 |
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一方、素粒子の世界では効果が小さすぎて観測の困難な重力も含めて、四つの力を全て統一しようという試みは、世界中の[[理論物理学者]]がこぞって研究しているにも拘らず、現在のところまだ完成にはほど遠い。これは、[[重力相互作用]]の[[ゲージ粒子]]である[[重力子]]が[[繰り込み]]不可能であることに起因している。 |
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標準模型のゲージ相互作用に加え、重力をも含めた統一理論の構築には、上記のように量子重力場の理論が含む無限の発散を取り払う必要がある。[[弦理論]]は理論に[[ベクトル]]と二次の[[テンソル]]が自然に現れ、これらをゲージ場および重力場と見なすことで4つの相互作用力を弦の理論に統一することが出来る可能性があり、盛んに研究されている。弦理論においても重力理論はくりこみ不可能であり、量子重力理論としての候補にはなり得ないが、超対称性を用いて拡張された[[超弦理論]]は、この問題も解決しており、S行列のユニタリ性などから26次元の理論であれば矛盾無く構築可能であることが示されている。 |
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しかし、物質の基本的な構成物である[[素粒子]]を「点」とせず、ある種の「ひも」とすればこの問題は解決できるかもしれないことがわかった。(なお、この「ひも」は[[宇宙論]]における「[[宇宙ひも]]」とは別の概念である)。この[[弦理論]]で[[超対称性]]を仮定したものを「[[超弦理論]]('''超ひも理論'''ともいう)」という。 |
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==参考文献== |
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2014年12月13日 (土) 04:52時点における版
統一場理論(とういつばりろん)とは場の理論において種々の相互作用力を一種類に統一する理論である。自然界の四つの力をすべて統一することが到達点である。この全ての力を統一した理論のことを万物の理論と呼ぶ。現在、万物の理論の候補は、超弦理論のみであると考えられている。
概要
場の理論は種々の場同士の結合の理論と言っても過言ではない。場の理論では場(粒子)は半径を持たない無限に小さいものとされ、そのような秒像では衝突をはじめとするあらゆる物理現象は場同士が相互作用力で引き合うことなくして起こり得ない。統一場理論とは場の理論において、模型が持つ結合の理論を一つに統一するための理論であり、狭義にはゲージ理論によって記述される相互作用を統一する理論である。
歴史と背景
一見異なる物理現象や法則であってもその実、よりシンプルな理論の一部である、という事実は物理学の歴史が示しており、「よりシンプルな理論でより多くを説明する」という目的は理論物理学の一つの至上命題である。古くはジェームズ・クラーク・マクスウェルによる電気力と磁気力を電磁気力として統一である。電流や時間変動する電場は磁場を生じ、時間変動する磁場は電場を生じる。互いに相互関係にあり、これら2つを電磁気力として統一された。
場の理論の相互作用力の統一の試みは、最初期としてはアルベルト・アインシュタインやテオドール・カルツァ、オスカル・クラインによる一般相対性理論と量子電磁気学の統一の試みであるが、これは場の理論が確立していない時代の試みであり、量子電磁気学はファインマンらによって繰り込みが発見されて以降ようやく確立した理論である。くりこみ可能性の議論によれば量子重力場の理論は理論内に無限の発散を含んでおり、量子重力場理論そのものが破綻をきたしていたため重力を含む統一理論の研究は長く影を潜めることになる。
スティーヴン・ワインバーグ、アブドゥス・サラムは電磁気力(電磁力とも呼ぶ)と弱い力を電弱統一理論として統一した。この意味は、「電荷をもつ素粒子は必ず弱超電荷もあわせもつ」理論形式になっているということで、つまり普通の電荷の定義に弱超電荷演算子の第3成分が含まれている。このような電弱の不可分な関係は実験事実に基づくが、数学的には非可換な2×2行列であらわされる。これにより実験的には全く異質な相互作用力であった電磁気力とフェルミ相互作用は、実は2種類のゲージ対称性が破れた結果生じていることが判明した。これを電弱統一理論という。電弱統一理論は相互作用力を統一する理論ではない(この意味で統一場理論ではない)が、純粋なゲージ理論である量子電磁気学と質量次元を持つ相互作用であるフェルミ相互作用を、ゲージ理論のみで説明している。
現在、現実に存在する粒子秒像を説明することが出来る標準模型は上記の二種類のゲージ理論、アーベル群対称性で記述される超電荷相互作用と特殊ユニタリ群対称性で記述される弱い相互作用、加えてSU(3)対称性で記述される量子色力学をゲージ理論として含んでいる。これらのゲージ群をより大きなゲージ群の部分群と仮定し、ゲージ結合定数を統一しようとする理論が大統一理論(Ground Unified Theory : GUT)である。くりこみ群の観点によるとゲージ結合定数は物理現象そのものの典型的なスケールに依存しており、例えば異なるエネルギーの衝突実験においては同じ粒子同士の衝突であっても結合定数は異なる値を取ることになる。ゲージ結合定数とエネルギースケールの関係は標準模型においてはほぼ完全に解析することが可能であり、 GeV程度の領域でほぼ等しい値となる。大統一理論はこのような典型的なスケール以上において、例えばU(1)、SU(2)、SU(3)の三つの対称性がSU(5)などの大きな対称性に統一され、結合定数が一つになる、と考えている。また、超対称性によって拡張された超対称大統一理論ではゲージ理論では~ GeV程度でゲージ結合の値が極めて等しい値となるが、陽子崩壊などの大統一演算子の抑制が通常の理論より弱くなるため、非常に厳しい制限がついている。
標準模型のゲージ相互作用に加え、重力をも含めた統一理論の構築には、上記のように量子重力場の理論が含む無限の発散を取り払う必要がある。弦理論は理論にベクトルと二次のテンソルが自然に現れ、これらをゲージ場および重力場と見なすことで4つの相互作用力を弦の理論に統一することが出来る可能性があり、盛んに研究されている。弦理論においても重力理論はくりこみ不可能であり、量子重力理論としての候補にはなり得ないが、超対称性を用いて拡張された超弦理論は、この問題も解決しており、S行列のユニタリ性などから26次元の理論であれば矛盾無く構築可能であることが示されている。
参考文献
- 二間瀬敏史『図解雑学 素粒子』、ナツメ社
- 戸塚洋二『素粒子物理』、岩波書店
- 九後汰一郎『ゲージ場の量子論1、2』、培風館
- 藤川和男『ゲージ場の理論』、岩波書店
- S. Weinberg著、青山秀明、 有末宏明共訳『場の量子論1-4』、吉岡書店
関連項目