アクセント

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アクセントにち: あげおん(ようおん)・のぼるおん[1][2]えい: accents/accentuation)とは、音声おんせいがくにおいて単語たんごまたは単語たんご結合けつごうごとに社会しゃかいてき慣習かんしゅうとしてまっているおと相対そうたいてき強弱きょうじゃく高低こうてい配置はいちのことである[3]おと強弱きょうじゃくによる強弱きょうじゃくアクセント(つよいきおいアクセント (en:stress) 、おと高低こうていによる高低こうていアクセント長短ちょうたんアクセントけられる。

なお、ぶんレベルの感情かんじょう表現ひょうげんかかわる高低こうていイントネーションという。アクセントは音素おんそひとつであり、単語たんごごとにまっていて意味いみとのむすびつきが必然ひつぜんせいたないのにたいし、イントネーションはぶん単位たんいであり、アクセントのうえにかぶさって疑問ぎもん肯定こうていなどの意味いみくわえる。

アクセントの種類しゅるい[編集へんしゅう]

強弱きょうじゃくアクセント(つよいきおいアクセント)[編集へんしゅう]

英語えいごドイツなどおと相対そうたいてき強弱きょうじゃくさだめるアクセントを強弱きょうじゃくアクセントという[3][4][5]強弱きょうじゃくアクセントはつよいきおいアクセントともいう。

英語えいごでは、音節おんせつつよく(この場合ばあいつよとは音量おんりょうおおきいだけでなく、母音ぼいんながい(ちょう母音ぼいんかどうかではない)、ピッチがたかいなどもかかわってくる)むかよわむかという強弱きょうじゃくアクセントである(ただし英語えいごではstressという用語ようご使つかほう一般いっぱんてきで、accentは発音はつおんちがいの意味いみ使つかわれる。)。たとえば、subject という単語たんごでは、「題名だいめい」などの意味いみをもつ名詞めいし場合ばあい最初さいしょの sub- をつよ発音はつおんする。また、「服従ふくじゅうさせる」という動詞どうし場合ばあいには -ject のほうつよ発音はつおんする。そして、英語えいごではつよぜい音節おんせつあたまにくる破裂はれつおんおびする。

高低こうていアクセント[編集へんしゅう]

おと相対そうたいてき高低こうていさだめるアクセントを高低こうていアクセントという[3]声調せいちょうおなじように高低こうてい変化へんかによる音韻おんいんてき区別くべつつが、単語たんごのうちの特定とくてい音節おんせつまたはモーラだけで区別くべつおこなう。

高低こうていアクセントによってかたり意味いみ区別くべつする言語げんご代表だいひょうれい日本語にほんごである。日本語にほんごではかたりないおと高低こうていピッチ)の位置いちてきちがいによってかたり意味いみ区別くべつされているが、すべての音節おんせつ自由じゆう高低こうていわせがあるわけではない。日本語にほんごでは方言ほうげんによってアクセントの区別くべつのしかたがことなり、東京とうきょう方言ほうげんではアクセントのある位置いちによって区別くべつされ、大阪おおさか方言ほうげんではアクセントのある位置いち最初さいしょ音節おんせつ高低こうていの2つによって区別くべつされ、鹿児島かごしま方言ほうげんではアクセントがあるかないかの2とおりしか区別くべつがない。詳細しょうさい日本語にほんご方言ほうげんのアクセント参照さんしょう

日本語にほんご以外いがいでは、リトアニア位置いち高低こうてい変化へんか種類しゅるい区別くべつ)、ラトビア位置いち固定こてい高低こうてい変化へんか種類しゅるいのみを区別くべつする)、セルビア・クロアチアスロベニアヴェーダ古代こだいギリシア朝鮮ちょうせん一部いちぶ方言ほうげんなどがこれにぞくする。古代こだいには高低こうていアクセントであったがつよいきおいアクセントに変化へんかした言語げんごもあるし、ぎゃくスウェーデンのようにつよいきおい言語げんごから声調せいちょうつように変化へんかした言語げんごもある。

長短ちょうたんアクセント[編集へんしゅう]

長短ちょうたんアクセントを単独たんどく使つか言語げんごすくないが、すくなからぬ言語げんご副次的ふくじてき併用へいようされる。ドイツつよいきおいアクセントがおもだが、アクセントのある音節おんせつながくなり、長短ちょうたんアクセントが併用へいようされている。

アクセントの機能きのう[編集へんしゅう]

弁別べんべつ機能きのう[編集へんしゅう]

アクセントの弁別べんべつ機能きのうとは同音どうおん区別くべつして意味いみ仕分しわける機能きのうのことをいう[6]

アクセントが単語たんご弁別べんべつもちいられるれいおおくの言語げんごにあり、日本語にほんごも「はしはしはし」でわかるようにこの部類ぶるいはいる。ただし日本語にほんごでのアクセントの位置いちによる区別くべつおも名詞めいしにかぎられ、形容詞けいようし動詞どうしでは、アクセントのあるなしのみの対立たいりつである。また、基本きほんてきにピッチがちる場所ばしょ単語たんごないひとつにかぎられ、中国ちゅうごくのような単音たんおんぶし語根ごこんをもつ声調せいちょう言語げんご声調せいちょうなしではコミュニケーション不可能ふかのう)にくらべると対立たいりつかずすくない。

さらにアクセント変化へんか文法ぶんぽうてき意義いぎをもつれいられる。たとえば英語えいごでは、present のようにおな単語たんご名詞めいし形容詞けいようし前半ぜんはんに、動詞どうし後半こうはんにアクセントのあるれい多数たすうある。またインド・ヨーロッパ文法ぶんぽうてき語形ごけい変化へんかともなってアクセントが移動いどうするれいおおい。日本語にほんごでも平板へいばんアクセント)によって、その単語たんごたいするれを表現ひょうげんすることもある(専門せんもんアクセント)。

フランス語ふらんすごつよいきおいアクセントをつが、アクセントによる単語たんご弁別べんべつまったくない(アクセント符号ふごう使つかうが、これはアクセントを表現ひょうげんするものではない)。

統語とうご機能きのう[編集へんしゅう]

アクセントには1のまとまりを認識にんしきさせる機能きのうがあり、言葉ことばのまとまりや認識にんしきさせる機能きのう統語とうご機能きのうという[7]

たとえば日本語にほんごの「ニワニワニワトリガイル」という言葉ことばを「2にわにはとりがいる」「にわには2とりがいる」「にわにはニワトリがいる」のように言葉ことばけるはたらきをおこなうのが統語とうご機能きのうである[8]

アクセントのれい[編集へんしゅう]

以下いかにアクセントのれいすうれいげる。かく言語げんご具体ぐたいてきなアクセントについてはそれぞれの言語げんご項目こうもく参照さんしょう

日本語にほんごのアクセント[編集へんしゅう]

日本語にほんごのアクセントは高低こうていの2段階だんかいでその変化へんか音節おんせつ境目さかいめしょうじる[3]たかおとからひくおとうつ部分ぶぶんアクセントのたきおとひくくなる直前ちょくぜんたか音節おんせつ部分ぶぶんアクセントかく言葉ことばごとにさだめられたアクセントの形式けいしきアクセントのかたという[3]。アクセントのかたたかおとからひくおとうつ部分ぶぶん(アクセントのたき)の有無うむにより起伏きふくしき平板へいばんしきけられる[3]起伏きふくしきにはアクセントかく配置はいちにより、あたまだかがた中高なかだかがた尾高おだかがたがある[3]

方言ほうげんによるちが[編集へんしゅう]

日本語にほんごのアクセントは方言ほうげんはげしいが、おおくの方言ほうげん高低こうていアクセントであり、おとがり位置いちによってアクセントが区別くべつされる。近畿きんき地方ちほう四国しこく地方ちほうのアクセントでは、これにくわえて語頭ごとう高低こうてい区別くべつする。早田そうだあきらようなどは、近畿きんき四国しこくなどのアクセントは、高低こうていアクセントと単語たんご声調せいちょうわせであるとしている。また、東北とうほく地方ちほう南部なんぶ関東かんとう地方ちほう北東ほくとうのように、アクセントの区別くべつたない方言ほうげんもある。

共通きょうつうのアクセント[編集へんしゅう]

アクセントがた[編集へんしゅう]

日本語にほんご共通きょうつうは、おとたかさの急激きゅうげき下降かこうがあるかないか、あるとすれば位置いちがどこかがまっている。下降かこうを /]/ 、下降かこうのないことを末尾まつびの /=/ でしめすと、つぎひょうのようになる。

1はく 2はく 3はく 4はく
(0)がた /エ=/ はし /ハシ=/ むかし /ムカシ=/ 水泳すいえい /スイエー=/
(1)がた /エ]/ はし /ハ]シ/ 朝日あさひ /ア]サヒ/ 富士山ふじさん /フ]ジサン/
(2)がた はし /ハシ]/ そば /ソバ]ヤ/ 色紙いろがみ /イロ]ガミ/
(3)がた おとこ /オトコ]/ かみなり /カミナ]リ/
(4)がた いもうと /イモート]/

下降かこう直前ちょくぜんはく下降かこうになっているアクセントかくにあたり、アクセントかくのないかたを(0)がた表現ひょうげんし、アクセントかくのあるかたはアクセントかくまえからかぞえた位置いちによって(1)がた、(2)がた、...(n)がた表現ひょうげんする。アクセントかく位置いちうしろからかぞえた位置いちによって-(1)がた、-(2)がた、...-(n)がた表現ひょうげんすることもできる。

アクセントかくのないかたかくがた(むかくがた)、アクセントかくのあるかたゆうかくがた(ゆうかくがた)とう。かくがたのことを平板へいばんがた(へいばんがた)、ゆうかくがたのことを起伏きふくがた(きふくがた)ともう。ゆうかくがたのうち、(1)がたあたまだかがた(あたまだかがた)、-(1)がた尾高おだかがた(おだかがた)、それ以外いがい中高なかだかがた(なかだかがた)ともう。

一語いちごぶんでは(0)がたと-(1)がたはほとんど区別くべつがつかないが、のちにガ、ニ、オなどの助詞じょしなどをけてみるとその区別くべつ明瞭めいりょうになる。たとえば、はな /ハナ=/、はな /ハナ]/ は区別くべつがつかないが、はな /ハナガ=/、はな /ハナ]ガ/ は明瞭めいりょう区別くべつできる。

複合語ふくごうご[編集へんしゅう]

ふく合名ごうめい全体ぜんたいで1つのアクセント単位たんいとなる。アクセントかく後部こうぶ要素ようそあたまはくや、前部ぜんぶ要素ようそ最後さいごはくかれることがおおい。たとえば「アクセント辞典じてん」をれいにすると、

  • /ア]クセント/ + /ジテン=/ → /アクセントジ]テン/

「あかとんぼ」については、ふるくは /ア]カトンボ/ が普通ふつうだったが、現代げんだいではとして /アカト]ンボ/ と発音はつおんするのが普通ふつうになっている。これについては童謡どうようあかとんぼ』も参照さんしょう

おおくの場合ばあいふくあい動詞どうしつぎのように前部ぜんぶ要素ようそゆうかくがたであればかくがたに、前部ぜんぶ要素ようそかくがたであればゆうかくがたになる。

  • /ミ]ル/ + /ナオ]ス/ → /ミナオス=/
  • /キル=/ + /ナオ]ス/ → /キナオ]ス/

これは山田やまだ美妙びみょうが『日本にっぽんだい辞書じしょ』で指摘してきしたことから「美妙びみょう法則ほうそく」とばれる。ただし、現代げんだいではどちらもゆうかくがた発音はつおんされることがおおい。

動詞どうし形容詞けいようし活用かつよう[編集へんしゅう]

動詞どうしにはかくがたのものとゆうかくがたのものがあり、活用かつようがたもそれによってことなる。いちれいしめすとつぎのとおりである。

終止しゅうし連体れんたいがた 未然みぜんがた+ナイ 未然みぜんがた+ウ 連用形れんようけい+タ 連用形れんようけい+マス 仮定かていがた 命令めいれいがた
かくがたく) /キク=/ /キカナイ=/ /キコ]ー/ /キータ=/ /キキマ]ス/ /キケ]バ/ /キケ=/
ゆうかくがたく) /カ]ク/ /カカ]ナイ/ /カコ]ー/ /カ]イタ/ /カキマ]ス/ /カ]ケバ/ /カ]ケ/

形容詞けいようし同様どうようである。

終止しゅうし連体れんたいがた 連用形れんようけい 連用形れんようけい+タ 仮定かていがた
かくがたあかい) /アカイ=/ /アカク=/ /アカ]カッタ/ /アカ]ケレバ/
ゆうかくがたあおい) /アオ]イ/ /ア]オク/ /ア]オカッタ/ /ア]オケレバ/
具体ぐたい音調おんちょう[編集へんしゅう]

実際じっさいには、この下降かこうつぎのような様々さまざま要因よういんイントネーション)がくわわって、具体ぐたいてき音調おんちょうができる。

  • 音調おんちょう: ひとまとまりに発音はつおんされるまとまりの最初さいしょの1はくと2はくあいだ上昇じょうしょうする((1)がた場合ばあいはそのまえ)。
  • プロミネンス: 焦点しょうてんとなるかたり最初さいしょの1はくと2はくあいだ上昇じょうしょうする((1)がた場合ばあいはそのまえ)。
  • 文末ぶんまつイントネーション: 疑問ぎもんぶんであれば文末ぶんまつ上昇じょうしょうする。
  • 自然しぜん下降かこう: はいなか空気くうきるにしたがい、ぶん全体ぜんたい自然しぜんにゆるやかに下降かこうしてゆく。

音調おんちょう上昇じょうしょうを [ で表示ひょうじした具体ぐたい音調おんちょういちれい以下いかしめす。自然しぜん下降かこうとう捨象しゃしょうしてある。(0)がたと-(1)がたちがいが明瞭めいりょうになるように、かりにダをけてある。かたりれい前出ぜんしゅつのアクセントがた一覧いちらんおなじである。

1はく 2はく 3はく 4はく
(0)がた だ エ[ダ はしだ ハ[シダ むかしだ ム[カシダ 水泳すいえいだ ス[イエーダ
(1)がた だ [エ]ダ はしだ [ハ]シダ 朝日あさひだ [ア]サヒダ 富士山ふじさんだ [フ]ジサンダ
(2)がた はしだ ハ[シ]ダ そばだ ソ[バ]ヤダ 色紙いろがみだ イ[ロ]ガミダ
(3)がた おとこだ オ[トコ]ダ かみなりだ カ[ミナ]リダ
(4)がた いもうとだ イ[モート]ダ

リトアニアのアクセント[編集へんしゅう]

リトアニア標準ひょうじゅんにおいては単語たんごごとにたん下降かこう上昇じょうしょう三種さんしゅのアクセントのうちいずれかが設定せっていされている。また名詞めいし形容詞けいようしきょくようするが、きょくようさいにアクセントの位置いち種類しゅるい変化へんかする特徴とくちょうられる。この変化へんか規則きそくせいとらえるために、4しゅのアクセント・タイプ(kirčiuotė (lt)という概念がいねん存在そんざいしている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 世界せかいだい百科ひゃっか事典じてん(NDL経由けいゆ) & 00577092.
  2. ^ えい学会がっかい 1923.
  3. ^ a b c d e f g 長野ながのただし日本語にほんご音声おんせい表現ひょうげん玉川大学たまがわだいがく出版しゅっぱん、1995ねん、108ぺーじ
  4. ^ 強弱きょうじゃくアクセント』 - コトバンク
  5. ^ つよさアクセント』 - コトバンク
  6. ^ 長野ながのただし日本語にほんご音声おんせい表現ひょうげん玉川大学たまがわだいがく出版しゅっぱん、1995ねん、109ぺーじ
  7. ^ 長野ながのただし日本語にほんご音声おんせい表現ひょうげん玉川大学たまがわだいがく出版しゅっぱん、1995ねん、110ぺーじ
  8. ^ 長野ながのただし日本語にほんご音声おんせい表現ひょうげん玉川大学たまがわだいがく出版しゅっぱん、1995ねん、109-110ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]