アラビア語ごエジプト方言ほうげん

アラビア語ごエジプト方言ほうげん
話はなされる国くに	エジプト、他た数すうカ国かこく
話者わしゃ数すう	76,000,000人にん +
言語げんご系統けいとう	アフロ・アジア語族ごぞく セム語ご派は 西方せいほうセム語ご 中央ちゅうおうセム語ご 南方みなかた中央ちゅうおうセム語ご アラビア語ご アラビア語ご中央ちゅうおう方言ほうげん アラビア語ごエジプト方言ほうげん
表記ひょうき体系たいけい	アラビア文字もじ
言語げんごコード
ISO 639-2	arz
ISO 639-3	arz

アラビア語ごのエジプト方言ほうげんは、アラビア語ご口語こうご（アーンミーヤ）の方言ほうげんの一ひとつで、一般いっぱん的てきにはカイロで話はなされている口語こうごのことをいう。

エジプト内うちでも地域ちいきごとに方言ほうげんの隔へだたりはあるが、テレビ・ラジオが普及ふきゅうし、カイロが中東ちゅうとうにおける映画えいが、テレビドラマ、大衆たいしゅう音楽おんがく制作せいさくの中心ちゅうしん的てき地位ちいを占しめるようになったことから、カイロの話はなし言葉ことばが事実じじつ上じょうの「標準ひょうじゅん語ご」として国くに中ちゅうに広ひろがったほか、エジプト国外こくがいでもエジプト口語こうごを理解りかいできるアラブ人じんは多おおい。

歴史れきし

エジプト人じんの本来ほんらいの母語ぼごはエジプト語ごであり、イスラムの征服せいふく当時とうじは初期しょきコプト語ごとよばれるギリシャ語ごの強つよい影響えいきょうを蒙こうむった形かたちのエジプト語ごが使用しようされていた。これは当時とうじの東ひがしロろーマ帝国まていこくの公用こうよう語ごがギリシャ語ごであったためである。

イスラムの侵略しんりゃくと征服せいふくにより、アラビア語ごが行政ぎょうせい言語げんごとしてギリシャ語ごに取とって代がわり、エジプト人じんは新あらたなバイリンガリズムに晒さらされることとなった。およそ3～4世紀せいきにわたって、コプト語ごを日常にちじょう言語げんごとしアラビア語ごを公的こうてきな言語げんごとするというバイリンガリズム（時じにはかつての公用こうよう語ごであるギリシャ語ごをも加くわえたトリリンガリズム）が継続けいぞくしたが、次第しだいにアラビア語ごが優勢ゆうせいとなり母語ぼご置換ちかんを起おこすようになった。下しもエジプトでは遅おそくとも11世紀せいきまでにはアラビア語ごが支配しはい的てきとなり、上うえエジプトでも14世紀せいきまでにはアラビア語ごが支配しはい的てきな日常にちじょう言語げんごとして使つかわれるようになった。

エジプト・アラビア語ごはこの過程かていで多少たしょうの借用しゃくよう語ごをコプト語ご、ギリシャ語ごから受うけ入いれたが、それ以外いがいにほとんどこれらの基層きそう言語げんごから影響えいきょうを受うけることはなかった。

主おもな特徴とくちょう

発音はつおん面めん

• ج - フスハーの/ʤ/が/g/に対応たいおうしており、書かかれたものを読よむ際さいにも/ʤ/の音おと価かを持もつ文字もじジームが/g/と発音はつおんされる。エジプトの小学校しょうがっこうや、外国がいこく人じん向むけの語学ごがく学校がっこうでも、この発音はつおんで教育きょういくが行おこなわれる。ピラミッドのある "giza" もエジプト方言ほうげん発音はつおんであり、表記ひょうき上じょうは "jiza" である。（歴史れきし的てきには/g/の方ほうが古ふるい発音はつおんであり、マグリブ方言ほうげんの一部いちぶにも残のこっている。）
• ق - フスハーの/q/が多おおくの場合ばあい、声門せいもん閉鎖へいさ音おん（フスハーでのハムザ）に変化へんかしている。ただし、qur'aan「クルアーン」、thqafa「文化ぶんか」など、語かたりによっては/q/で発音はつおんされるものも少すくなくない。
• ث - フスハーの/θしーた/が/t/になっている。ごく一部いちぶは/s/になっている。
• ذ - フスハーの/ð/が/d/になっている。ごく一部いちぶは/z/になっている。
• ظ - フスハーの/ðˁ/が/dˤ/になっている。ごく一部いちぶは/zˤ/になっている
• 有ゆう声ごえ子音しいんと無声むせい子音しいんが隣となり合あわせると、後こう側がわにある子音しいんに同化どうかする。
• 一部いちぶの二に重母音じゅうぼいんの/ai/は/eː/と、/au/は/oː/と長ちょう母音ぼいん化かする。
• フスハーの短たん母音ぼいんのうち、/i/は/e/と、/u/は/o/と発音はつおんする。

文法ぶんぽう面めん

• 語順ごじゅんはほぼ常つねにSVOで、VSOが好このましいとされる正則せいそくアラビア語ご（フスハー）とは異ことなる。
• 疑問ぎもん詞しはフスハーや他た地域ちいきの方言ほうげんでは文頭ぶんとうにおかれることが多おおいが、エジプト口語こうごでは文末ぶんまつにおかれることが多おおい。

例れい：あなたのお名前なまえは？

フスハー：ma-smuka？

レバノン・シリア口語こうご：shu ismak?

エジプト口語こうご：ismak eh?

• 名詞めいし文ぶんの否定ひていに使つかわれる単語たんごは lā ではなく、mish。また、動詞どうし文ぶんの否定ひてい形がたは、動詞どうしを ma と sh で挟はさむ。

例れい：私わたしは知しらない

フスハー：lā aʿrif

エジプト口語こうご：maʿrafsh

• 現在進行形げんざいしんこうけいの存在そんざい - 動詞どうしの現在げんざい形がたの頭あたまに b をつけることで、現在進行形げんざいしんこうけいを表あらわす。

例れい：私わたしは今いま、この本ほんを読よんでいる。

ana ba'ra al kitab da.

（つづりはbi-aqraだが、q が声門せいもん閉鎖へいさ音おんに変化へんかしているため、アポストロフィーで表記ひょうきした）

語彙ごい

• トルコ語ご由来ゆらい、英語えいご、フランス語ふらんすご由来ゆらいなど外来がいらい語ごが多おおい。

例れい：バシャ（地位ちいのある男性だんせい、「旦那だんな」＝トルコ語ご由来ゆらい）、アサンセール（エレベーター＝フランス語ふらんすご由来ゆらい）。

• アラビア語ご由来ゆらいの名詞めいしも、エジプト独特どくとくの用法ようほうが目立めだつ。

例れい：アラベーヤ（車くるま＝フスハーではサイヤーラ）

jese koi keeray makoray hon.

書籍しょせき

日本語にほんごで書かかれたアーンミーヤの教材きょうざいは少すくないが、アラビア語ごエジプト方言ほうげんについてはいくつか出版しゅっぱんされている。 アラビア文字もじの教材きょうざいとアルファベットの教材きょうざいがある。

• 「CDエクスプレス エジプトアラビア語ご」（白水しろみず社しゃ）
• 「ニューエクスプレス エジプトアラビア語ご」（白水しろみず社しゃ）
• 「まずはこれだけ エジプト・アラビア語ご」（国際こくさい語学ごがく社しゃ）
• 「タビトモ会話かいわエジプト」（JTBパブリッシング）