アレクサンドル・プーシキン

アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン Александр Сергеевич Пушкин
『アレクサンドル・プーシキンの肖像しょうぞう画が』 （キプレンスキー作さく、1827年ねん、トレチャコフ美術館びじゅつかん所蔵しょぞう）
誕生たんじょう	アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン (Александр Сергеевич Пушкин) 1799年ねん6月6日にち ロシア帝国ていこく・モスクワ
死没しぼつ	1837年ねん2月がつ10日とおか ロシア帝国ていこく・サンクトペテルブルク
墓地ぼち	ウスペンスキー大だい聖堂せいどう
職業しょくぎょう	詩人しじん、小説しょうせつ家か、脚本きゃくほん家か
言語げんご	ロシア語ご
国籍こくせき	ロシア帝国ていこく
最終さいしゅう学歴がくれき	ツァールスコエ・セロー学習がくしゅう院いん
活動かつどう期間きかん	1820年ねん - 1836年ねん
ジャンル	詩し、小説しょうせつ、戯曲ぎきょく
文学ぶんがく活動かつどう	ロマン主義しゅぎ・プレリアリズム
代表だいひょう作さく	下記かき参照さんしょう
デビュー作さく	『ルスラーンとリュドミーラ』
配偶はいぐう者しゃ	ナターリア・プーシキナ
子供こども	マリア、アレクサンドル、グリゴリー、ナターリア パーヴェル・イヴァノフ（非ひ嫡出ちゃくしゅつ子こ）
親族しんぞく	アブラム・ガンニバル（母方ははかたの曽そ祖父そふ） セルゲイ・リヴォーヴィチ・プーシキン（父ちち） ナデージダ・オーシポヴナ（母はは）
影響えいきょうを与あたえたもの ミハイル・レールモントフ、ニコライ・ゴーゴリ他た多数たすう
署名しょめい
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アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン（ロシア語ご: Александр Сергеевич Пушкин, ラテン文字もじ転写てんしゃ: Aleksandr Sergeyevich Pushkin、1799年ねん6月6日にち（旧暦きゅうれき5月26日にち） - 1837年ねん2月がつ10日とおか（旧暦きゅうれき1月がつ29日にち））は、ロシアの詩人しじん・作家さっか。ロシア近代きんだい文学ぶんがくの嚆矢こうしとされる大だい詩人しじん。

生涯しょうがい

モスクワに出生しゅっしょう。父親ちちおやは由緒ゆいしょある家柄いえがらのロシアの地主じぬし貴族きぞく。母親ははおやの祖父そふアブラム・ガンニバルは、ピョートル1世せいに寵愛ちょうあいされた黒人こくじん奴隷どれい上あがりのエリート軍人ぐんじんであった。おじのワシーリイ・リヴォーヴィチは詩人しじんであり、カラムジンやドミートリエフなどの当時とうじの詩人しじんらがプーシキン家かに出入でいりしていた。プーシキンは早はやくから文学ぶんがくに親したしみ、また乳母うばはロシアの民話みんわや民謡みんように詳くわしく、彼かれに影響えいきょうを与あたえた。ペテルブルク郊外こうがいのツァールスコエ・セローにあったリツェイ（学習がくしゅう院いん）での公開こうかい試験しけんで朗読ろうどくした自作じさくの詩し『ツァールスコエ・セローの思おもい出で』が、デルジャーヴィンに認みとめられる。これを機きに、その才能さいのうはロシアの文学ぶんがく界かいに広ひろく知しられるところとなった。1820年ねん、最初さいしょの長編ちょうへん詩し『ルスラーンとリュドミーラ』を発表はっぴょう。

次第しだいに政治せいじ色しょくを帯おびた詩しを発表はっぴょうするようになり、文学ぶんがく的てき急進きゅうしん派はの代弁だいべん者しゃとなっていった。それを疎うとんだ政府せいふは、1820年ねんに彼かれをキシナウへ送おくる。1823年ねんまでキシナウに留とどまった。その間あいだ、夏なつにカフカース（コーカサス）とクリミアに旅たびして長編ちょうへん詩し『コーカサスの虜とりこ』（露ろ: Кавказский пленник、英えい: Prisoner of the Caucasus）や『バフチサライの泉いずみ』を書かき、高たかい評価ひょうかを得えた。1823年ねんにはオデッサに移うつり住すむが、再ふたたび政府せいふと衝突しょうとつし、1824年ねんに両親りょうしんの住すむ北きたロシア、プスコフ県けんミハイロフスコエ村むらに送おくられる。この時期じきにシェークスピアを愛読あいどくし、『ボリス・ゴドゥノフ』などの戯曲ぎきょくを書かいている。1826年ねん、皇帝こうていニコライ1世せいへの嘆願たんがんが認みとめられてペテルブルクに戻もどる。しかし、1825年ねんに起おこったデカブリストの蜂起ほうきの後のちの締しめ付づけのために、デカブリスト（十二月じゅうにがつ党員とういん）に友人ゆうじんをもつプーシキンは、北きたロシアにいた時期じきに書かいた『ボリス・ゴドゥノフ』などの詩しを発表はっぴょうすることが許ゆるされず、政府せいふの監視かんしのもと、窮屈きゅうくつな生活せいかつを余儀よぎなくされる。ニコライの創設そうせつした秘密ひみつ警察けいさつである皇帝こうてい官房かんぼう第だい三さん課かは、長官ちょうかんアレクサンドル・ベンケンドルフ伯爵はくしゃくのもとでプーシキンへの監視かんしを行おこなった。結婚けっこんの前年ぜんねんの1830年ねんには、ボルジノにてロシア初はつの短篇たんぺん小説しょうせつ集しゅう『ベールキン物語ものがたり』、叙事詩じょじし『コロムナの家いえ』、『ヌーリン伯爵はくしゃく』、韻文いんぶん小説しょうせつ『エヴゲーニイ・オネーギン』を完成かんせいする。

1831年ねん、ナターリア・ゴンチャロワと結婚けっこん。プーシキンとナターリアの間あいだには、1832年ねんに小説しょうせつ『アンナ・カレーニナ』のモデルとして知しられる長女ちょうじょマリア、1833年ねんに長男ちょうなんアレクサンドル、1835年ねんに次男じなんグリゴリー、1836年ねんに次女じじょナターリア（孫まごはゾフィー・フォン・メーレンベルク）の、計けい2男なん2女じょが生うまれた。

1833年ねん、オラルとオレンブルクを訪問ほうもん。

1836年ねん、雑誌ざっし『同どう時代じだい人じん』を創刊そうかん。ニコライ1世せいの強権きょうけん的てきな専制せんせい政治せいじの圧政あっせい下か、検閲けんえつや発禁はっきん処分しょぶんなど言論げんろんへの弾圧だんあつに反発はんぱつした。同年どうねん11月がつ、『大尉たいいの娘むすめ』を第だい4号ごうに発表はっぴょう。その後ご、宮廷きゅうてい詩人しじんの地位ちいを与あたえられ監査かんさ付つきで帝室ていしつへの出入でいりを許ゆるされるが、この待遇たいぐうを、名なうての美人びじんで密ひそかに慕したう者ものが多おおかったと言いわれる妻つまナターリアを帝室ていしつに出入でいりさせるためのものとして、屈辱くつじょくと受うけ取とったという。プーシキンの進歩しんぽ思想しそうを嫌きらった宮廷きゅうてい貴族きぞく達たちは、フランス人じんのジョルジュ・ダンテスをたきつけ、ナターリアにい寄いよらせる。やがて、プーシキンは妻つまに執拗しつようにい寄いよるダンテスに決闘けっとうを挑いどみ、1837年ねん1月がつ27日にち、サンクトペテルブルク北郊ほっこうのチョールナヤ・レチカで決闘けっとうを行おこなった。この決闘けっとうで受うけた傷きずがもとで、その2日にち後ごに息いきを引ひき取とった。37歳さい没ぼつ。政治せいじ的てきな騒動そうどうを恐おそれた政府せいふは、親したしい者ものだけを集あつめて密ひそかに葬儀そうぎを執とり行おこなった。遺体いたいはミハイロフスコエ付近ふきんのウスペンスキー大だい聖堂せいどうの墓地ぼちに埋葬まいそうされた。

評価ひょうかと影響えいきょう

プーシキンは、はじめて作品さくひんのなかに積極せっきょく的てきに口語こうごを取とり入いれて独自どくじの語かたりの文体ぶんたいを作つくり上あげて近代きんだい文章ぶんしょう語ごを確立かくりつし、さらに新あたらしい国民こくみん文学ぶんがくをも確立かくりつして後代こうだいのロシア文学ぶんがくに影響えいきょうを与あたえた。ヴィッサリオン・ベリンスキーは、最初さいしょの国民こくみん詩人しじんとしてプーシキンを評価ひょうかしている。プーシキンの死しを知しった詩人しじんミハイル・レールモントフは、「詩人しじんの死し」という題名だいめいの詩しを書かき、殺害さつがい者しゃとしての上流じょうりゅう社会しゃかいを告発こくはつした。

『エヴゲーニイ・オネーギン』の主人公しゅじんこうオネーギンは、ロシア社会しゃかいになじめない青年せいねんの典型てんけいとされた。ヒロインのタチヤーナは情熱じょうねつ的てきな女性じょせいで、貴族きぞくの出身しゅっしんでありながら農民のうみん文化ぶんかの理解りかい者しゃでもあり、その後ごのロシア文芸ぶんげいの女性じょせい像ぞうに影響えいきょうを与あたえた。

逸話いつわ

決闘けっとうによって死しぬ以前いぜん、プーシキンは強つよ運うんの持もち主ぬしとして知しられ、数すう多おおくの決闘けっとうで、自分じぶんは一切いっさい撃うたず、相手あいてに撃うたせ、いずれも弾たまが外はずれ、当然とうぜんの如ごとく笑わらって済すませていたという逸話いつわがいくつかある（死しぬこととなる決闘けっとうにおいても、出血しゅっけつして怒いかりの形相ぎょうそうだったのが、最後さいごの方ほうでは周囲しゅういに笑わらっていたとされる）。

• 逸話いつわ1：若わかい友人ゆうじんと詩しの事ことから喧嘩けんかとなり、決闘けっとうに至いたったが、平然へいぜんと笑わらいながらプーシキンは彼かれが撃うつのを待まち、弾たまはそれた。大声おおごえで笑わらいながら友人ゆうじんの身体しんたいを抱だいて手てを握にぎった。侮辱ぶじょくされたと思おもった友ともはしきりに撃うてというが、「僕ぼくのピストルはね、雪ゆきが詰つまっちまったんだ」といって笑わらいながら撃うたなかった。
• 逸話いつわ2：南みなみロシア・キシニェフの事こと。ある参謀さんぼう将校しょうこう（『人間にんげんの死しにかた』の逸話いつわを原文げんぶんママ）とバカラ賭博とばくの事ことで決闘けっとうに至いたった。プーシキンはピストルの代かわりに一いち袋ふくろの桜桃おうとうを持もって立たっていた。相手あいてが狙ねらっている間あいだ、終始しゅうし桜桃おうとうを頬張ほおばり続つづけ、弾たまが外はずれると、「どうだ、得心とくしんがいったか？」といい、笑わらいながら立たったままだった。
• 逸話いつわ3：有名ゆうめいなピストルの名手めいしゅ（『人間にんげんの死しにかた』原文げんぶんママ）の軍人ぐんじんとの決闘けっとう話ばなし。吹雪ふぶきの中なか、夜会やかいでも行いくような気持きもちで行おこなったプーシキンだが、この時ときは、双方そうほうとも2発はつ撃うった。しかし互たがいに2発はつとも外はずれたとされ、介添かいぞえに促うながされて中止ちゅうしになった。水みずのような彼かれの冷静れいせいさは常つねに友人ゆうじん達たちを驚おどろかせた。

作品さくひん

南みなみロシアにいた時期じきにはバイロンの影響えいきょうを受うけ、「コーカサスの虜とりこ」などの詩しを作つくっている。プスコフに移うつされた時期じきからはシェイクスピアの研究けんきゅうを行おこない、ボリス・ゴドゥノフなどに影響えいきょうが見みて取とれる。

• ルスラーンとリュドミーラ（詩し、1820年ねん）
• コーカサスの虜とりこ（詩し、1822年ねん）
• バフチサライの泉いずみ（詩し、1824年ねん）
• シベリアへ送おくる詩し（1827年ねん） - シベリアへ流ながされた友人ゆうじんオドエーフスキイ公爵こうしゃくにあてた詩し
• ジプシー（詩し、1827年ねん）
• ポルタワ（詩し、1829年ねん）- ポルタヴァの戦たたかい
• 小しょう悲劇ひげき（「けちな騎士きし」、「モーツァルトとサリエリ」、「石いしの客きゃく」、「黒死病こくしびょうの時代じだいの饗宴きょうえん」の4篇へん、1830年ねん）
• ボリス・ゴドゥノフ（戯曲ぎきょく、1831年ねん）
• ベールキン物語ものがたり（短たん編集へんしゅう、散文さんぶん、1831年ねん）
  • その一発いっぱつ
  • 吹雪ふぶき
  • 葬儀そうぎ屋や
  • 駅長えきちょう
  • 百姓ひゃくしょう令嬢れいじょう
• サルタン王おうの物語ものがたり（1831年ねん）
• 金かねの鶏にわとりの物語ものがたり（1834年ねん）
• 漁夫ぎょふと魚さかなの物語ものがたり（1835年ねん）
• エヴゲーニイ・オネーギン（韻文いんぶん小説しょうせつ、1825年ねん - 1832年ねん）
• 青銅せいどうの騎士きし（詩し、1833年ねん）
• スペードの女王じょおう（1833年ねん）
• プガチョーフ叛乱はんらん史し（散文さんぶん、1834年ねん）
• 大尉たいいの娘むすめ（散文さんぶん、1836年ねん）
• ピョートル大帝たいていのエチオピア人じん（1837年ねん）- 主人公しゅじんこうイブラヒムのモデルは、祖父そふアブラム・ガンニバル。
• エジプトの夜よる（1837年ねん）
• 人魚にんぎょ(死後しごに出版しゅっぱんされた未完みかんの作さくで、ダルゴムイシスキーの歌劇かげき《ルサルカ》の原作げんさくに成なった)

関連かんれん作品さくひん

オペラ

プーシキンの作品さくひんの幾いくつかは、ロシア・ソ連それんの作曲さっきょく家かたちによってオペラ化かされている。

• グリンカ
  • 『ルスランとリュドミラ』（1842年ねん）
• ダルゴムイシスキー
  • 『石いしの客きゃく』（1872年ねん）
• キュイ
  • 『カフカスの捕虜ほりょ』（1857-8年ねん）
  • 『黒死病こくしびょうの時代じだいの饗宴きょうえん』（1900年ねん）
• ムソルグスキー
  • 『ボリス・ゴドゥノフ』（1874年ねん）
• チャイコフスキー
  • 『エヴゲーニイ・オネーギン』（1879年ねん）
  • 『スペードの女王じょおう』（1890年ねん）
• リムスキー＝コルサコフ
  • 『モーツァルトとサリエリ』（1898年ねん）
  • 『皇帝こうていサルタンの物語ものがたり』（1900年ねん）
  • 『金鶏きんけい』（1909年ねん）
• ラフマニノフ
  • 『アレコ』（1892年ねん）（原作げんさく・物語ものがたり詩し「ジプシー」）
  • 『けちな騎士きし』（1904年ねん）
• コルンドルフ
  • 『黒死病こくしびょうの時代じだいの饗宴きょうえん』（1972年ねん）

などがある。

管弦楽かんげんがく作品さくひん

• グバイドゥーリナ
  • 『ペスト流行りゅうこう時じの酒宴しゅえん』（2006年ねん）
• B・アサフィエフ
• バレエ『バフチサライの泉いずみ』（1934年ねん）

その他た

• 『オネーギンの恋文こいぶみ』 - 『エヴゲーニイ・オネーギン』を映画えいが化か。レイフ・ファインズ主演しゅえん。
• 『ブロンズの天使てんし』 - さいとうちほの漫画まんが。プーシキンの妻つまナターリアを主人公しゅじんこうに、プーシキン、ダンテス、ナターリアの姉あねエカテリーナの四角よつかど関係かんけいを描えがく。コミックは小学館しょうがくかんフラワーコミックスから。全ぜん7巻かん。
• 「漁夫ぎょふと魚さかなの物語ものがたり」は脚色きゃくしょくされて「きんいろのさかな」として紙芝居かみしばいになっている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 草くさ鹿しか外吉そときち 『プーシキン 愛あいと抵抗ていこうの詩人しじん』 新しん日本にっぽん出版しゅっぱん社しゃ、1989年ねん。
• 神西じんざい清きよし・草くさ鹿しか外吉そときち・川端かわばた香かおり男里おのさと他た訳やく 『プーシキン全集ぜんしゅう』全ぜん6巻かん、河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ
• 金子かねこ幸彦さちひこ 『伝記でんきプーシキン』 日本にっぽん評論ひょうろん社しゃ 1948年ねん。

関連かんれん項目こうもく

• プーシキン美術館びじゅつかん
• プーシキン通どおり
• フィラレート (モスクワ府ふ主教しゅきょう) - プーシキンとの対話たいわ形式けいしきの作品さくひんを残のこしたモスクワ府ふ主教しゅきょう・詩人しじん
• ボリス・トマシェフスキー
• シェレメーチエヴォ国際こくさい空港くうこう - 2019年ねん5月がつ31日にちにロシアのウラジーミル・プーチン大統領だいとうりょうが空港くうこう名めいにアレクサンドル・プーシキンの名前なまえを冠かんする大統領だいとうりょう令れいに署名しょめい。
• ウクライナのアレクサンドル・プーシキン記念きねん碑ひの取とり壊こわし

外部がいぶリンク

• アレクサンドル・プーシキン：作家さっか別べつ作品さくひんリスト - 青空あおぞら文庫ぶんこ
• 『プーシキン（Aleksandr Sergeevich Pushkin）』 - コトバンク
• プーシキンのおとぎ話ばなし（ロシア語ご）
• プーシキン「３みっつの泉いずみ」（上田うえだ進すすむ訳やく）- ARCHIVE