ウェストミンスター・システム

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イギリス議会ぎかい議場ぎじょうであるウェストミンスター宮殿きゅうでん

ウェストミンスター・システム英語えいご: Westminster system)とは、イギリスにおける制度せいどはんとする議院ぎいんないかくせいのモデルである。

概説がいせつ[編集へんしゅう]

イギリスで形成けいせいされた多数決たすうけつ主義しゅぎてき議会ぎかいせい民主みんしゅ主義しゅぎ概念がいねんである。その定義ていぎひとつにさだまってはいないが[1]、1688ねん名誉めいよ革命かくめいからだい世界せかい大戦たいせんまでの、イギリスのなが議会ぎかい政治せいじ伝統でんとうなかつちかわれてきた制度せいど慣行かんこう特徴とくちょうすものと理解りかいすることができる。

ディビット・リチャーズとマーティン・スミスは、ウェストミンスター・システムの主要しゅよう性格せいかくとして、議会ぎかい主権しゅけん自由じゆう公正こうせい選挙せんきょつうじた説明せつめい責任せきにん多数たすうとうによる行政府ぎょうせいふのコントロール、つよ内閣ないかく大臣だいじん責任せきにんせい官僚かんりょう無党派むとうはせい、の6てんげた[1]

また、議論ぎろん文脈ぶんみゃく比較ひかく対象たいしょうによって、特定とくてい側面そくめん着目ちゃくもくしたいくつかの定義ていぎかれる。

ウェストミンスター・システム(一元主義型議院内閣制)
国家こっか元首げんしゅ国王こくおう大統領だいとうりょう)は実質じっしつてき統治とうちけんたず、首相しゅしょうひきいる内閣ないかく行政ぎょうせいけん実権じっけんつ(一元主義型議院内閣制)。国家こっか元首げんしゅ首相しゅしょう内閣ないかく罷免ひめん議会ぎかい解散かいさんけんはん大統領だいとうりょうせい対比たいひする。
ウェストミンスター・システム(多数決たすうけつがた民主みんしゅ主義しゅぎ
議会ぎかい過半数かはんすう議席ぎせき政党せいとう党首とうしゅ首相しゅしょうとして内閣ないかく組織そしきする(多数決たすうけつがた民主みんしゅ主義しゅぎ)。過半数かはんすうをもつ政党せいとう存在そんざいせず、複数ふくすう政党せいとうにより内閣ないかく運営うんえいされるコンセンサス・システム(きょく共存きょうぞんがた民主みんしゅ主義しゅぎ)に対比たいひする。

歴史れきし[編集へんしゅう]

ウェストミンスター・システムは現在げんざいまで一貫いっかんして採用さいようされつづけている議院ぎいんないかくせいモデルとしては最古さいこのものである。イギリス議会ぎかい政治せいじなか発展はってんし、カナダオーストラリア帝国ていこく植民しょくみん独立どくりつイギリス連邦れんぽう加盟かめいこく)に普及ふきゅうしたほか、日本にっぽん憲政けんせい常道じょうどうなど世界せかい各国かっこく影響えいきょうあたえていった。

イギリスにおいて議院ぎいんないかくせい成立せいりつしたのは18世紀せいき初頭しょとうであるとされる。19世紀せいきはいると、保守党ほしゅとう自由党じゆうとうによるだい政党せいとうせい形成けいせいされ、しょう選挙せんきょせい整備せいびされた。また、首相しゅしょう実質じっしつてき庶民しょみんいん(下院かいん)の解散かいさんけんつようになったのもこのころである。その、1911ねん、1949ねん議会ぎかいほう改正かいせいつうじて、貴族きぞくいん(上院じょういん)にたいする庶民しょみんいん優位ゆうい確立かくりつした。だい世界せかい大戦たいせんこう保守党ほしゅとう労働党ろうどうとうによるだい政党せいとうせい確立かくりつし、ウェストミンスター・システムは安定あんていむかえた。このような長期ちょうきにわたる過程かていて、徐々じょじょ要素ようそそなえ、形作かたちづくられていったため、つね未完みかんのものであるという見方みかたもできる[2]

ウェストミンスター・システムの特徴とくちょうイギリス連邦れんぽう諸国しょこくへと輸出ゆしゅつされた。また、アジアアフリカカリブ海かりぶかいきゅうイギリス植民しょくみん独立どくりつするさいにも、おお採用さいようされた[3]

制度せいど[編集へんしゅう]

上院じょういん
下院かいん
  • 政府せいふなが内閣ないかく総理そうり大臣だいじんりゃくして首相しゅしょうともばれる)には議会ぎかい最大さいだい議席ぎせきすうゆうする政党せいとう党首とうしゅ任命にんめいされ、行政ぎょうせい責任せきにんう。
  • 政府せいふ代表だいひょうひきいる内閣ないかく政党せいとう幹部かんぶ議員ぎいん構成こうせいされる。
  • 国家こっか元首げんしゅ統治とうちけんおおむ名目めいもくじょうのものであり、首相しゅしょうなどの助言じょげんもの判断はんだんしたがって行使こうしされる。
  • ただし首相しゅしょう任命にんめい助言じょげんようさない。議会ぎかい多数たすう指導しどうしゃさだまらない場合ばあい元首げんしゅみずからの判断はんだん任命にんめいすることがある。
  • 野党やとう存在そんざいみとめられる複数ふくすう政党せいとうせい採用さいようする。
  • 二院にいんせい議会ぎかいでは、すくなくとも一方いっぽう下院かいん)、または一院制いちいんせい議会ぎかいかなら議員ぎいん選挙せんきょによって選出せんしゅつする。
  • 下院かいん予算よさんあん否決ひけつ内閣ないかく不信任ふしんにん決議けつぎあん可決かけつ内閣ないかく信任しんにんあん否決ひけつ)された場合ばあいは、内閣ないかくそう辞職じしょくするか下院かいんそう選挙せんきょ実施じっしする。
  • 首相しゅしょう内閣ないかくへの信任しんにんけんのある議院ぎいん議員ぎいんであることがのぞまれる。就任しゅうにん議席ぎせきがない場合ばあい次期じきそう選挙せんきょ立候補りっこうほすることがれいである。
  • 下院かいんはいつでも解散かいさんそう選挙せんきょ可能かのうである。
  • 議会ぎかい権利けんりとして、議会ぎかい適切てきせつみとめればいかなる問題もんだい議論ぎろんすることができる。
  • 議会ぎかいにおける発言はつげん記録きろくする議事ぎじろく採用さいようする。

実例じつれい[編集へんしゅう]

現在げんざい、ウェストミンスター・システムとべる政治せいじ制度せいどっているくにとしては、イギリスのほか、オーストラリアカナダインドなどがある。

過去かこにウェストミンスター・システムを採用さいようしていたが、現在げんざいことなる特徴とくちょうくに存在そんざいする。ニュージーランドは1996ねん選挙せんきょから比例ひれい代表だいひょうせい導入どうにゅうし、ウェストミンスター・システムとはがたくなった[3]。そのほか、みなみアフリカ共和きょうわこくきゅうローデシア共和きょうわこくナイジェリアなどでもれいられた。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく政治せいじ学者がくしゃレイプハルトは2005ねん著書ちょしょで、イギリスの制度せいど影響えいきょうつよ保持ほじしているくにとしてバルバドスをあげていた[3]が、2021ねんバルバドス君主くんしゅせい廃止はいし共和きょうわせい移行いこうした。

またイギリスにおいても、2011ねん議会ぎかい任期にんき固定こていほうにより首相しゅしょう下院かいん解散かいさん時期じき決定けっていけん制限せいげんされるなど、制度せいど変容へんようがみられる(2022ねん議会ぎかい解散かいさん召集しょうしゅうほう成立せいりつにより廃止はいし)。

日本にっぽんでは、完全かんぜんなウェストミンスター・システムといえる制度せいど存在そんざいしたことがないが、その概念がいねん大正たいしょうデモクラシーにはじまる憲政けんせい常道じょうどうおおきな影響えいきょうあたえたとされる。また1994ねんしょう選挙せんきょ比例ひれい代表だいひょう並立へいりつせい導入どうにゅうさいにも、イギリスのだい政党せいとうせい手本てほんとする議論ぎろんおおられた。一方いっぽうで、過剰かじょう数値すうち目標もくひょうともなマニフェスト作成さくせいする政党せいとうあらわれるなど、ウェストミンスター・システムへの誤解ごかいぎもられた[2]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Richards, David; Smith, Martin (2002). Governance and Public Policy in the United Kingdom. Oxford University Press 
  2. ^ a b 小堀こぼりしんひろし『ウェストミンスター・モデルの変容へんよう法律文化社ほうりつぶんかしゃ、2012ねん 
  3. ^ a b c アレンド・レイプハルト ちょ粕谷あらや祐子ゆうこ やく民主みんしゅ主義しゅぎたい民主みんしゅ主義しゅぎ』勁草書房しょぼう、2005ねん 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]