ギリシャ語ご通訳つうやく

ギリシャ語ご通訳つうやく
著者ちょしゃ	コナン・ドイル
発表はっぴょう年ねん	1893年ねん
出典しゅってん	シャーロック・ホームズの思おもい出で
依頼いらい者しゃ	メラス氏し
発生はっせい年ねん	不明ふめい
事件じけん	ギリシャ娘むすめとその兄あにの誘拐ゆうかい事件じけん

「ギリシャ語ご通訳つうやく」（ギリシャごつうやく、The Greek Interpreter）は、イギリスの小説しょうせつ家か、アーサー・コナン・ドイルによる短編たんぺん小説しょうせつ。シャーロック・ホームズシリーズの一ひとつで、56ある短編たんぺん小説しょうせつのうち22番目ばんめに発表はっぴょうされた作品さくひんである。イギリスの「ストランド・マガジン」1893年ねん9月がつ号ごう、アメリカの「ハーパーズ・ウィークリー」1893年ねん9月がつ16日にち号ごうに発表はっぴょう。同年どうねん発行はっこうの第だい2短たん編集へんしゅう『シャーロック・ホームズの思おもい出で』(The Memoirs of Sherlock Holmes) に収録しゅうろくされた。

ワトスンがシャーロック・ホームズの兄あにであるマイクロフト・ホームズに初はじめて出会であう作品さくひんでもある。

あらすじ

ある日ひのこと、ホームズとワトスンは遺伝いでんと性格せいかくの話はなしをしていた。その中なかでホームズは、7歳さい年上としうえの兄あにがいると語かたった。兄あにの名前なまえはマイクロフトで、ホームズ以上いじょうの観察かんさつ力りょくと推理すいり力りょくがあるらしい。ワトスンが、そんな探偵たんていの名前なまえは聞きいたことが無ないと言いうと、マイクロフトは体からだを動うごかすことが苦手にがてなので探偵たんてい稼業かぎょうはせず、数字すうじに強つよいので会計かいけい検査けんさ員いんとして勤つとめているという。また、ロンドンの中なかでも変かわり者ものたちが集あつまる「ディオゲネス・クラブ」のメンバーになっているらしい。このクラブは孤独こどくを愛あいする者ものたちが、安楽椅子あんらくいすに寝転ねころんだり新聞しんぶんを読よんだりしていて、クラブ内ないでしゃべったことが三さん度どあると退会たいかいさせられる、とホームズは言いう。

時計とけいを見みたホームズは、ディオゲネス・クラブにマイクロフトが居いる時間じかんだ、と言いってワトスンを連つれてクラブへ向むかった。クラブに着つくとすぐにホームズは、マイクロフトを連つれ出だして来きた。会話かいわができる談話だんわ室しつに座すわったホームズとマイクロフトは、窓まどの外そとを通とおる人々ひとびとの素性すじょうや家族かぞく構成こうせいを次々つぎつぎと推理すいりしていく。その推理すいり力りょくは、確たしかにホームズに勝かっているとワトスンは思おもった。マイクロフトは、解決かいけつしたくなる奇き怪かいな事件じけんがあるぞ、とホームズに言いった。興味きょうみを示しめしたホームズの前まえに、マイクロフトと同おなじアパートの住人じゅうにんでギリシャ語ごの通訳つうやくの仕事しごとをしているメラスが連つれてこられた。メラスの口くちから不可解ふかかいな事件じけんの話はなしを聞きかされる。

2日にち前まえの夜よる、メラスはある青年せいねんの訪問ほうもんを受うけ、「ギリシャ人じんの友人ゆうじんがビジネスの用事ようじで訪たずねてきた。自分じぶんは英語えいごしか話はなせないから、ギリシャ語ごの通訳つうやくをして欲ほしい」と言いわれた。青年せいねんはラティマーと名乗なのり、準備じゅんびされていた馬車ばしゃは窓まどに目隠めかくしがされ、行いき先さきが分わからないようになっていた。1時じ間あいだ半はんほども馬車ばしゃに揺ゆられて、メラスたちはある屋敷やしきに着ついた。家いえの中なかには眼鏡めがねをかけた中年ちゅうねんの男おとこがいて、ラティマーのことを「ハロルド」と呼よんだ。中ちゅう年男としおとこはメラスを部屋へやに案内あんないし、椅子いすに座すわらせた。すぐにハロルドが、やせ衰おとろえて顔かお中ちゅうに絆創膏ばんそうこうを貼はられた男おとこを連つれてきて、同おなじく椅子いすに座すわらせた。痩やせた男おとこはギリシャ語ごしか話はなせないので、英語えいごの質問しつもんを通訳つうやくしろと言いう。答こたえは石盤せきばんに書かかせるようにした。質問しつもんの内容ないようは、何なにかの書類しょるいへサインを求もとめるものだったが、痩やせた男おとこの答こたえは常つねに拒否きょひするものだった。質問しつもんの中なかに、メラス自身じしんからの質問しつもんを紛まぎれ込こませて、次つぎのことが分わかった。痩やせた男おとこは、アテネから来きたクラティディスで、3週間しゅうかんほどここに捕とらえられており、食事しょくじを与あたえられていないことを。あと少すこしの時間じかんがあれば、事件じけんの全容ぜんようが判明はんめいしたのだが、突然とつぜん、部屋へやに女性じょせいが入はいってきて、英語えいごで「ハロルド、もう耐たえられない」と言いった。それから痩やせた男おとこに気きづいて、ギリシャ語ごで「まあ、パウロス」と言いう。痩やせた男おとこは口くちから絆創膏ばんそうこうを剥はがして「ソフィー」と答こたえる。すぐに女性じょせいも痩やせた男おとこも、部屋へやから連つれ出だされたので、それ以上いじょうの質問しつもんはできなかった。メラスは通訳つうやくの報酬ほうしゅうとして5ポンドを貰もらったが、このことを誰だれにも話はなさないよう念ねんを押おされた。彼かれは馬車ばしゃに乗のせられて知しらない駅えきの近ちかくで降おろされ、汽車きしゃでロンドンに帰かえって来きた。そして次つぎの朝あさ、この悪事あくじのことをマイクロフトに相談そうだんしたのだった。

その話はなしを聞きいて、しばらく誰だれも口くちを開ひらかなかった。ホームズが兄あにの方ほうを見みて「何なにか手てを打うったのかな？」と聞きく。マイクロフトはロンドン中ちゅうの新聞しんぶんに、ギリシャ人じんの男性だんせいパウロス・クラティディスと、ギリシャ人じんの女性じょせいソフィーの尋たずね人びと広告こうこくを出だしていた。マイクロフトはこの事件じけんをホームズに任まかせた。ホームズは犯人はんにんたちが新聞しんぶん広告こうこくを見みて、メラスが秘密ひみつを洩もらしたと思おもい行動こうどうを起おこすかもしれないので、十分じゅうぶん注意ちゅういするようい渡いわたして、彼かれを帰宅きたくさせた。ベイカー街がいへ向むかいながら、ホームズとワトスンはメラスの出会であった人々ひとびとの関係かんけいを推理すいりした。娘むすめが誘拐ゆうかいされてきた、あるいは自分じぶんでイギリスにやってきて、悪党あくとうにたぶらかされた。それを知しった関係かんけい者しゃ、たぶん兄あにがやってきて捕つかまり、書類しょるいにサインさせられそうなった…などなど。ベイカー街がいの下宿げしゅくに着つくと、安楽椅子あんらくいすに座すわったマイクロフトがタバコを吹ふかしていた。新聞しんぶん広告こうこくに返事へんじがあったので、辻つじ馬車ばしゃで先回さきまわりしたという。返事へんじの手紙てがみには、女性じょせいはベクナムのマートルズ荘そうにいる、と書かいてあった。ホームズとワトスン、マイクロフトの3人にんはベクナムに向むかう前まえに、通訳つうやくが必要ひつような場合ばあいに備そなえてメラスを連つれていこうとした。彼かれのアパートに行いくと不在ふざいで、家主やぬしに聞きけば、眼鏡めがねをかけた男おとこが迎むかえに来きて馬車ばしゃで出でかけたという。どうやらメラスは捕つかまってしまったようだ。ホームズたちはロンドン警視庁けいしちょうに行いき、グレグスン警部けいぶに同行どうこうしてもらった。

4人にんがマートルズ荘そうに着ついたのは夜よるの10時半じはん過すぎで、屋敷やしきは真まっ暗くらだった。ホームズは馬車ばしゃの車輪しゃりんの跡あとを見みて、重おもい荷物にもつを積つんで出でて行いったようだという。玄関げんかんには鍵かぎが掛かかっていたが、ホームズが窓まどをこじ開あけて4人にんは家いえの中なかへ入はいった。メラスが通訳つうやくした部屋へやに入はいると、上うえの方ほうからうめき声ごえが聞きこえる。ホームズが先頭せんとうになって階段かいだんを上のぼり、声こえのする部屋へやに入はいった。ホームズはすぐに出でてきて「木炭もくたんガスだ」と言いう。火鉢ひばちの中なかで青あおい炎ほのおがあがり、二ふたつの人影ひとかげがあった。ホームズが息いきを止とめて部屋へやに飛とび込こみ、窓まどを開あけて火鉢ひばちを投なげ出だした。助たすけ出だしたのは、縛しばられたメラスとパウロスで、パウロスは間まに合あわなかったが、メラスは何なにとか助たすかった。メラスの話はなしによると、ここへ連つれてこられて通訳つうやくをさせられたが、パウロスはサインを拒否きょひした。メラスは秘密ひみつを洩もらした裏切うらぎり者ものと言いわれて殴なぐられ気絶きぜつし、気きがついたらホームズたちに助たすけられていたという。

新聞しんぶん広告こうこくに返事へんじをくれた人物じんぶつによると、ソフィーはギリシャの金持かねもちの娘むすめでイギリスの友人ゆうじんを訪たずねてきた。そこでハロルドに会あって一目惚ひとめぼれし、駆かけ落おちを持もちかけられた。驚おどろいた友人ゆうじんたちはソフィーの兄あにであるパウロスに連絡れんらくし、やってきたパウロスが悪人あくにん二に人にんの手てに引ひっかかったのだ。眼鏡めがねの男おとこはウィルスン・ケンプという悪人あくにんで、パウロスを餓死がし寸前すんぜんまで追おい詰つめ、兄妹きょうだいの財産ざいさんを譲ゆずる書類しょるいへのサインを求もとめていた。顔かおが分わからないよう、パウロスには絆創膏ばんそうこうを貼はっていた。ソフィーは兄あにがイギリスにいることを、メラスが通訳つうやくに来きた日ひまで知しらなかった。馬車ばしゃの御者ぎょしゃによると、悪人あくにん二に人にんはソフィーを連つれて、借かりていた家いえから立たち去さったという。

その後ご何なんか月げつも経たってから、ホームズの元もとにブダペストから新聞しんぶんの切きり抜ぬきが届とどいた。それには「女性じょせい一いち人にんを連つれて旅行りょこう中ちゅうの、英国えいこく人じんの男おとこ二に人にんが刺殺しさつされた」とあった。ハンガリー警察けいさつでは、喧嘩けんかして刺さし違ちがえたと考かんがえていた。だがホームズは、あの娘むすめに会あえたのなら、自分じぶんと兄あにが受うけた仕打しうちにどんな復讐ふくしゅうをしたのか語かたってくれるだろう、と言いった。 　

謎なぞ

• 犯人はんにんの2人ふたりが、どのような経緯けいいでコンビを組くむようになったかは、最後さいごまで明あきらかにされていないが、W・S・ベアリング＝グールド著ちょ「シャーロック・ホームズ　ガス灯がすとうに浮うかぶその生涯しょうがい」（河出かわで書房しょぼう、ISBN : 4309460364）では、モリアーティ教授きょうじゅとの関係かんけいが示唆しさされている。

関連かんれん項目こうもく

• ディオゲネス - 古代こだいギリシアの哲学てつがく者しゃ。