ジョン・マンデヴィル

ジョン・マンデヴィル

ジョン・マンデヴィル（Sir John Mandeville、? - 1372年ねん11月12日にち?/11月17日にち?）は、中世ちゅうせいイングランドの騎士きし。中東ちゅうとう、インド、中国ちゅうごく、ジャワ島じゃわとう、スマトラ島すまとらとうの見聞けんぶん録ろく『東方とうほう旅行りょこう記き（マンデヴィル旅行りょこう記き）』の著者ちょしゃとして知しられる。

ヨーロッパ外がいの奇習きしゅう・風俗ふうぞくを記しるしたマンデヴィルの旅行りょこう記きはヨーロッパ中ちゅうの注目ちゅうもくを集あつめ、各国かっこく語ごに翻訳ほんやくされた。テューダー朝あさ時代じだいの探検たんけん家かウォルター・ローリーはマンデヴィルの記述きじゅつに誤あやまりは無ないと述のべ、クリストファー・コロンブス、マーティン・フロビッシャーはマンデヴィルの著作ちょさくに刺激しげきされて航海こうかいに出でた。しかし、実際じっさいのところマンデヴィルの旅行りょこう記きはヴァンサン・ド・ボーヴェの百科ひゃっか事典じてん、プラノ・カルピニやウィリアム・ルブルック、オドリコらアジアを訪おとずれた修道しゅうどう士しの報告ほうこくを元もとに書かかれたものだった。ヨーロッパ世界せかいの地理ちり学がくの知識ちしきが発達はったつするにつれて旅行りょこう記きはマンデヴィルの空想くうそうに基もとづくものだと見みなされるようになり、17世紀せいきには虚言きょげん癖へきの著述ちょじゅつ家かとして風刺ふうし劇げきに取とり上あげられるようになる。著作ちょさくの内容ないようと同様どうようにマンデヴィル自身じしんの経歴けいれき、職業しょくぎょう、存在そんざい自体じたいも疑問ぎもん視しされている。

また、マンデヴィルの文章ぶんしょう力りょくは高たかい評価ひょうかを受うけており、かつてはシェイクスピア以上いじょうの名文めいぶん家かと賞賛しょうさんされていた。しかし、ヴィクトリア朝あさ時代じだいに文学ぶんがく者しゃとしての評価ひょうかは下さがり、当時とうじ出版しゅっぱんされた『ブリタニカ百科ひゃっか事典じてん』第だい9版はんでは著作ちょさくだけでなくマンデヴィルの経歴けいれきをも虚偽きょぎだと断定だんていされている。近年きんねんでは「ジョン・マンデヴィル」を作品さくひん内ないの「語かたり手て」とみなし、旅行りょこう記きの作者さくしゃと分わけて考かんがえる傾向けいこうにある。

旅行りょこう記き中ちゅうの「ジョン・マンデヴィル」

マンデヴィルは、イングランドのセント・オールバンズの出身しゅっしんの騎士きしを自称じしょうしている。1322年ねん/1332年ねんの聖ひじりミカエルの日ひ（9月がつ29日にち）にマンデヴィルは遍歴へんれきの旅たびに出で、数すう十じゅう年ねんの歳月さいげつを経へて旅行りょこう記きを執筆しっぴつした。作中さくちゅうで旅行りょこうの目的もくてきは明確めいかくにされていないが、エルサレムなどの聖地せいち巡礼じゅんれい。あるいは傭兵ようへいとしての働はたらき場所ばしょを求もとめるためだと説明せつめいされている。旅行りょこう記きの著者ちょしゃであるマンデヴィルの不明瞭ふめいりょうな人物じんぶつ像ぞうは、語かたり部べの立場たちばや視点してんを場ばによって変かえながら目撃もくげきした事象じしょうを述のべることで、著者ちょしゃが参考さんこうとした異ことなる立場たちばの人間にんげんが書かいた様々さまざまな文献ぶんけんを一ひとつの紀行きこう文ぶんにまとめる役割やくわりを果はたした。

マンデヴィルの遺体いたいはリエージュ近郊きんこうのギレルマン教会きょうかいに埋葬まいそうされたと言いわれ、多おおくの旅行りょこう家かが彼かれの墓碑ぼひを詣もうでたが、フランス革命かくめいの際さいに教会きょうかいは破壊はかいされた。また、マンデヴィルの故郷こきょうセント・オールバンズ大だい修道院しゅうどういんにも彼かれの墓碑ぼひが置おかれており、かつては修道院しゅうどういんにマンデヴィルの石像せきぞうが飾かざられていたと伝つたえられている。

旅行りょこう記きの著者ちょしゃ「ジョン・マンデヴィル」

著者ちょしゃであるジョン・マンデヴィルの正体しょうたいをフランドルの医師いしジャン・ド・ブルゴーニュとする説せつがあるが、ジャン・ド・ブルゴーニュの経歴けいれきは明あきらかになっていない。ジャン・ド・ブルゴーニュはエジプトで生活せいかつしていた時期じきに旅行りょこう記きの執筆しっぴつを思おもい立たち、自分じぶんが訪おとずれた経験けいけんがないエジプト以外いがいの地域ちいきの記録きろくについては他者たしゃの記録きろくを参考さんこうにし、ジョン・マンデヴィルという筆名ひつめいで旅行りょこう記きを刊行かんこうしたと考かんがえられている。1371年ねんにパリで制作せいさくされた最初さいしょ期きの『東方とうほう旅行りょこう記き』の写本しゃほんには、1365年ねんに「リエージュの医学いがく教授きょうじゅ」ジャン・ド・ブルゴーニュが著あらわした論文ろんぶんが収録しゅうろくされている。

ジャン・ド・ブルゴーニュと呼よばれる老人ろうじんの臨終りんじゅうの場ばに立たち会あったリエージュの公証こうしょう人じんのドウトレミューズは、彼かれの口くちからイングランドである伯爵はくしゃくを殺害さつがいしたために国外こくがいに逃亡とうぼうした過去かこと、ジャン・ド・マンデヴィルという本名ほんみょうを聞きかされた。マンデヴィルに関かんする記録きろくの多おおくはジャン・ドウトレミューズの記述きじゅつに依拠いきょしており、この点てんからドウトレミューズは自身じしんが著あらわした旅行りょこう記きをジャン・ド・ブルゴーニュによるものと見みせかけるために「ジョン・マンデヴィル」という架空かくうの人物じんぶつを生うみ出だしたとする指摘してきもある。ジャーナリストのジャイルズ・ミルトンは13世紀せいき末まつから14世紀せいき初頭しょとうにかけて多おおく存在そんざいしていた「ジョン・マンデヴィル」の中なかで、エドワード2世せいに仕つかえたエセックスの貴族きぞくジョン・マンデヴィルが旅行りょこう記きの著者ちょしゃだと推定すいていしている。

1403年ねんに没ぼっしたリエージュ近郊きんこうのトンゲレンの司祭しさい・年代ねんだい記き作家さっかのラデュルフス・ド・リヴォはマンデヴィルについて彼かれが著名ちょめいな医者いしゃであったこと、ギレルマン教会きょうかいに埋葬まいそうされたこと、彼かれが3ヶ国かこく語ごからなる旅行りょこう記きを書かき上あげたことを記録きろくしているリエージュのサン・ジャック教会きょうかいのベネディクト会かい士しコルネリウス・ザントフリートは、マンデヴィルが医術いじゅつに長たけた髭面ひげづらの老人ろうじんと記しるしている。1625年ねんにイギリスのサミュエル・パーチャスによって発行はっこうされた『パーチャスの巡礼じゅんれい者しゃ伝でん』には、「ジョン・マンデヴィルによる」堕落だらくした教会きょうかいの批判ひはんが収録しゅうろくされ、多おおくの著述ちょじゅつ家か・好古こうこ家かがパーチャスのこの記録きろくを引用いんようした。

訳書やくしょ

• マンデヴィル『東方とうほう旅行りょこう記き』（大場おおば正史せいし訳わけ、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ, 1964年ねん）- 底本ていほんはエジャトン版ばん
• 『マンデヴィルの旅たび』（福井ふくい秀加ひでか・和田わだ章あきら監訳かんやく、英えい宝たから社しゃ, 1998年ねん）- 底本ていほんはハメリウス編へんのコットン版ばん

参考さんこう文献ぶんけん

• 愛宕あたご松男まつお「マンデヴィル」『アジア歴史れきし事典じてん 第だい8巻かん』収録しゅうろく（平凡社へいぼんしゃ, 1961年ねん）
• 大沼おおぬま由布ゆう「『マンデヴィルの旅行りょこう記き』と「装置そうち」としての語かたり手て」『同志社大学どうししゃだいがく英語えいご英えい文学ぶんがく研究けんきゅう』91号ごう収録しゅうろく（同志社大学どうししゃだいがく, 2013年ねん）
• ジュディス.A.マクラウド『世界せかい伝説でんせつ歴史れきし地図ちず』（巽たつみ孝之たかゆき日本語にほんご版ばん監修かんしゅう、大槻おおつき敦子あつこ訳やく、原はら書房しょぼう, 2013年ねん1月がつ）
• ジャイルズ・ミルトン『コロンブスをペテンにかけた男おとこ―騎士きしジョン・マンデヴィルの謎なぞ』（岸本きしもと完かん司つかさ訳やく、中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ, 2000年ねん3月がつ）