ニキアス

Nicias

ニキアス（希まれ: Νικίας、紀元前きげんぜん470年ねん - 紀元前きげんぜん413年ねん）は、ペロポネソス戦争せんそうの時代じだいに活躍かつやくした古代こだいアテナイの将軍しょうぐん（ストラテゴス）、政治せいじ家か。

略伝りゃくでん

アテナイの名家めいかに生うまれ、ラウリオンの銀山ぎんざんに由来ゆらいする遺産いさんを継承けいしょうしていた。民衆みんしゅうを指導しどうしていたペリクレスに対たいし貴族きぞく派はの先頭せんとうに立たって政治せいじ上じょう対立たいりつしていたが、紀元前きげんぜん429年ねんのペリクレスの死後しご、政治せいじ家かの首位しゅいとなり後ごのアリストテレスからはアテナイを代表だいひょうする市民しみんの一人ひとりとして数かぞえられた。民衆みんしゅうの指導しどう者しゃとなったクレオンの政敵せいてきとなるが、その用心深ようじんぶかさと慎つつしみによって民衆みんしゅうからも好意こういをもたれたという。ニキアスの政見せいけんは穏健おんけんであり、クレオンの好戦こうせん的てきな政策せいさくに反対はんたいし、アテナイに有利ゆうりな条件じょうけんでスパルタとの和平わへいを確立かくりつすることを目的もくてきとしていた。

ペロポネソス戦争せんそうで将軍しょうぐんとしてニキアスが歴史れきしに登場とうじょうするのは、離反りはんしたレスボス島とうをアテナイが制圧せいあつした紀元前きげんぜん427年ねん7月がつに、海軍かいぐんを率ひきいてミノア島とうを攻略こうりゃくした時ときである。前ぜん426年ねんの夏なつにはミロス島とうに出撃しゅつげきしタナグラの戦たたかいに勝利しょうりする。前ぜん425年ねん8月がつ、ピュロス方面ほうめんでのスパルタ勢ぜいの攻勢こうせいのさいにニキアスがクレオンに指揮しき権けんを譲ゆずり渡わたすという局面きょくめんもあったが、9月にはアテナイ軍ぐんが押おし返かえしコリントス領りょうを攻撃こうげきするのに参加さんかしている。前ぜん424年ねんの夏なつ、キュテーラ攻略こうりゃくに加くわわる。前ぜん423年ねんの夏なつにスパルタと1年間ねんかんは有効ゆうこうとなる休戦きゅうせん条約じょうやくに加盟かめいし儀式ぎしきに加くわわる。その直後ちょくご、スパルタの将軍しょうぐんブラシダスについていたメンデー市しを奪回だっかいする。

紀元前きげんぜん421年ねん初頭しょとうから和平わへい交渉こうしょうの気運きうんがアテーナイに高たかまり、提唱ていしょう者しゃの中なかでもニキアスは最もっとも積極せっきょく的てきだった。和平わへい条約じょうやくはその年としの3月がつ頃ごろに発効はっこうし、「ニキアスの和わ約やく」と呼よばれる。

前ぜん416年ねん、アテーナイはシケリア遠征えんせいを企くわだてて、その6月がつ末まつにニキアスはアルキビアデス、ラマコスとともに司令しれい官かんとして出発しゅっぱつするが、もともと作戦さくせんには反対はんたいであった。アルキビアデスはシケリア上陸じょうりく前まえに本国ほんごくへ召還しょうかんされ、ラマコスもシュラクサイを包囲ほうい中ちゅうに戦死せんしした。スパルタはシュラクサイ救援きゅうえんのために将軍しょうぐんギュリッポスを送おくった。アテーナイもデモステネスとエウリュメドンが率ひきいる増援ぞうえん軍ぐんを派遣はけんする。しかし、アテーナイ軍ぐんはスパルタ・コリントス・シュラクサイ連合れんごう軍ぐんに壊滅かいめつ的てきな敗戦はいせんを被こうむりエウリュメドンは戦死せんし、ニキアスとデモステネスは投降とうこうしてギュリッポスに身みをゆだねる。捕虜ほりょ7000名めいとともにシュラクサイ近郊きんこうの石いし切ぎり場じょうに送おくられ、ギュリッポスの命令めいれいに反はんして、デモステネスとニキアスは処刑しょけいされた。

逸話いつわと評価ひょうか

ニキアスの最後さいごについて史家しかのトゥーキュディデースは「彼かれの常つね日頃ひごろの言行げんこうが一ひとつとして徳とくに背そむくところのなかったことを思おもえば、このような不運ふうんの極きわみに終おわるべきいわれはなかったのであるが」と述のべている。プラトンの対話たいわ篇へん『ラケス』には攻撃こうげき的てきなラケスに対たいして、理知りちと判断はんだん力りょくを代表だいひょうする人物じんぶつとして登場とうじょうしている。

成功せいこうをおさめた作戦さくせんとして、コリントス人じんを待まち伏ぶせで大半たいはんを倒たおしたり、シュラクサイの騎兵きへいが通とおると予想よそうした平原へいげんに棘とげをまいて勝利しょうりをおさめるなど、周到しゅうとうさと機転きてんを見みせている。逆ぎゃくに前まえ425年ねんに指揮しき権けんを譲ゆずったクレオンが予期よきに反はんしてスパルタの捕虜ほりょを連つれて凱旋がいせんした時ときには、アテーナイ市民しみんの間あいだで大変たいへんな不評ふひょうを受うけた。このことはアリストパネスの喜劇きげき『鳥とり』でも揶揄やゆされている。