ニザーミー

ニザーミー

ニザーミー・ギャンジャヴィー（ネザーミー）（ペルシア語ごで نظامی گنجوی Nezāmi-ye Ganjavi, アゼルバイジャン語ごで Nizami Gəncəvi, 1141年ねん-1209年ねん）はペルシア人じんの詩人しじん。10世紀せいきから15世紀せいき末まつにかけてのペルシア語ご文学ぶんがく古典こてん時代じだいにおける最もっとも著しる明あきらな詩人しじんのひとりであり、ペルシア語ごロマンス叙事詩じょじしにおいて恋愛れんあい・悲恋ひれん文学ぶんがくに神秘しんぴ主義しゅぎ詩しの要素ようそを織込おりこみ独自どくじの境地きょうちを開拓かいたくした。

本名ほんみょうは、ジャラールッディーン・アブー・ムハンマド・イルヤース・イブン・ユースフ（Jalāl al-Dīn Abū Muḥammad Ilyās Ibn Yūsuf）。現在げんざいのアゼルバイジャンのギャンジャで生うまれる。父親ちちおやは現在げんざいのイランのゴムの出身しゅっしんとも伝つたえられ、母親ははおやライーサはクルド人じんであったという。生涯しょうがいに三さん人にんの妻つまを娶めとり、ダルヴァンドの王おうより下賜かしされたキプチャク出身しゅっしんの女おんな奴隷どれいでアーファークという女性じょせいを妻つまとして迎むかえ、これを熱愛ねつあいしたことがのちの作品さくひん群ぐんに大おおいに影響えいきょうを与あたえたという。ムハンマドという男児だんじを儲もうけたことが作品さくひん中ちゅうに語かたられている。ニザーミーの生地きじギャンジャをはじめとするアッラーン、アーザルバーイジャーン地方ちほうは、セルジューク朝あさ系けいのアタベク政権せいけんイルデニズ朝あさの支配しはい下かに有あったが、ニザーミーはタブリーズのイルデニズ朝あさなどの各地かくちの宮廷きゅうていに詩しを献呈けんていしたものの、生涯しょうがい、生地きじのギャンジャを愛あいして離はなれずこれらの宮廷きゅうていに仕つかえることは無なかったという。

代表だいひょう作さくはユネスコの「世界せかいの記憶きおく」に登録とうろくされた五ご編へんからなる長篇ちょうへん叙事詩じょじし、『五宝ごほう』（パンジュ・ガンジュ پنج گنج Panj Ganj）または『五ご部ぶ作さく』（ハムセ خمسه Khamse）と呼よばれる作品さくひん群ぐんで、それぞれガンジャ周辺しゅうへんの王侯おうこう貴族きぞくたちに献呈けんていされた物ものである。これらの作品さくひん群ぐんのうち、『ホスローとシーリーン』、『ライラーとマジュヌーン』などは後世こうせいに挿絵さしえ本ほんが流布るふするなどペルシア語ご文学ぶんがくや絵画かいがに大おおきな影響えいきょうを残のこしている。

イランにおいては、イラン暦れきのエスファンド月がつ21日にち（西暦せいれき3月がつ12日にち）が、ニザーミー・ギャンジャヴィーの記念きねん日びとされている。

作品さくひん

泉いずみで水浴みずあびするシーリーンを見初みそめるホスロー（『ホスローとシーリーン』第だい十じゅう七なな章しょうより）

約やく30,000の対句ついく（バイト bayt）から成なるマスナヴィー詩形しけいの五ご部ぶ作さく『ハムセ』（Khamse）がもっとも有名ゆうめい。

• 『マフザヌル＝アスラール』 ( مخزن الاسرار Makhzan al-Asrār) （神秘しんぴの宝庫ほうこ）

約やく2,260句くからなる神秘しんぴ主義しゅぎ詩し。高名こうみょうな神秘しんぴ主義しゅぎ詩人しじんサナーイーの代表だいひょう作さくのひとつ『真理しんりの園えん』（ハディーカトル＝ハキーカ حديقة الحقيقة Ḥadīqa al-Ḥaqīqa ）に倣ならって作詩さくしされ、アナトリア東部とうぶエルズィンジャンの君主くんしゅ、マングージャク朝あさのバフラームシャー・ブン・ダーウードに献呈けんていされた。1176年ねん頃ころ作詩さくし。

• 『ホスローとシーリーン』 (خسرو و شيرينKhusraw wa Shīrīn)

約やく6,500句くからなるサーサーン朝あさの君主くんしゅホスロー2世せいとその妃ひとなるアルメニアの王女おうじょシーリーンとの悲恋ひれんを描えがいたロマンス叙事詩じょじし。ペルシア語ご文学ぶんがく史上しじょうの傑作けっさくのひとつと評ひょうされる。アーザルバーイジャーン地方ちほう一帯いったいを治おさめたアタベク政権せいけんイルデニズ朝あさの当主とうしゅジャハーン・パフラヴァーンとクズル・アルスラーン兄弟きょうだいおよびセルジューク朝あさ最後さいごの君主くんしゅトゥグリル3世せいに捧ささげる讃さん辞じが詠よまれている。1177年ねんから1181年ねんの間あいだに完成かんせいした。

• 『ライラーとマジュヌーン』 (ليلى و مجنونLaylā wa Majunūn)

約やく4,500句くからなる。アラビア半島はんとうのナジュド地方ちほうのベドウィンの若わかい男女だんじょの悲恋ひれんを描えがいたロマンス作品さくひん。ベドウィン首長しゅちょう家かの姫君ひめぎみライラーと、彼女かのじょを恋焦こいこがれて求もとめるあまり狂人きょうじん（マジュヌーン）となった同おなじくベドウィンのアーミル部ぶ族長ぞくちょう家かの貴公子きこうしカイスを主人公しゅじんこうとして、その悲劇ひげきを描えがく。高名こうみょうな頌詩詩人しじんハーカーニーの庇護ひご者しゃであったシルヴァーン・シャー朝あさの君主くんしゅアフサターンの依頼いらいに応おうじて作詩さくしされた。1181年ねん作詩さくし。

• 『ハフト・パイカル』 (هفت پيكرHaft Paykar) （七なな王妃おうひ物語ものがたり）

約やく5,130句くからなり、サーサーン朝あさの君主くんしゅバハラーム・グールことバハラーム5世せい（在位ざいい420年ねん - 438年ねん）を主人公しゅじんこうとするロマンス叙事詩じょじし。バハラーム・グールと世界中せかいじゅうから選えらび抜ぬかれ彼かれに嫁とついだ七なな人にんの王妃おうひとの物語ものがたり。ニザーミーがこの詩しを捧ささげた「スライマーン」とは、マラーゲのアタベク政権せいけんアフマディール朝あさの君主くんしゅアラーウッディーン・クルプ・アルスラーンのことであると考かんがえられる。

• 『イスカンダル・ナーマ』 (اسكندر نامهIskandar Nāma) （イスカンダル（アレクサンドロス3世せい）の書しょ）

イスカンダル・ズルカルナインことマケドニアのアレクサンドロス3世せいの生涯しょうがいを描えがいた叙事詩じょじしで、『栄誉えいよの書しょ』（シャラフ・ナーマ）と『幸運こううんの書しょ』（イクバール・ナーマ）の前後ぜんご2部ぶからなる。

第だい一部いちぶ『栄誉えいよの書しょ』（シャラフ・ナーマ شرف نامه Sharaf Nāma）は約やく6,500句くからなり、イスカンダルの誕生たんじょうから諸国しょこく征服せいふくまでが描えがかれ、偉大いだいなる世界せかい征服せいふく者しゃとしてのイスカンダルを主題しゅだいとする。1196年ねんから1200年ねんまでに作詩さくしされた。

第だい二に部ぶ『幸運こううんの書しょ』（イクバール・ナーマ اقبال نامه Iqbal Nāma ）は『英知えいちの書しょ』（ヒラド・ナーマ خرد نامه Khirad Nāma ）とも呼よばれ約やく3,700句くからなり、預言よげん者しゃ、哲学てつがく者しゃとしてのイスカンダルを描えがく。イスカンダルの帝王ていおうとしての英知えいちやアリストテレスなどの哲学てつがく者しゃたちとの対話たいわを主題しゅだいとする。1200年ねんから死しの直前ちょくぜんまでに完成かんせいした。

また、1188年ねんに編あまれた、頌歌と詩しから成なる詩集ししゅうが知しられている。

ニザーミー・ギャンジャヴィーの世界せかい的てき名声めいせい

ニザーミーはその全すべての作品さくひんがペルシャ語ごで著あらわされているため、ペルシャ語ごが公用こうよう語ごであるイラン、アフガニスタン、タジキスタンにおいて非常ひじょうに高たかい名声めいせいを博はくしている。特とくにイラン国内こくないでは詩人しじんの作品さくひんはよく知しられており、また、詩人しじんの出生しゅっしょう地ちであり廟びょうがあるアゼルバイジャンにおいても、人気にんきのある詩人しじんである。もちろん他たの国々くにぐに、特とくにインドにおいても知しられている。[1]

日本語にほんご訳やく

• 『七なな王妃おうひ物語ものがたり（ハフト・パイカル）』、黒柳くろやなぎ恒男つねお訳わけ、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ、1971年ねん7月がつ、のち各かく・ワイド版ばん
• 『ホスローとシーリーン』、岡田おかだ恵美子えみこ訳わけ、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ、1977年ねん6月がつ
• 『ライラとマジュヌーン』、岡田おかだ恵美子えみこ訳やく、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ、1981年ねん2月がつ[2]
• 『ペルシア逸話いつわ集しゅう』、黒柳くろやなぎ恒男つねお訳やく、平凡社へいぼんしゃ東洋文庫とうようぶんこ、1978年ねん。他たはカイ・カーウース
• 『ペルシアの四よっつの物語ものがたり』、岡田おかだ恵美子えみこ編へん訳やく、平凡社へいぼんしゃ、2004年ねん。他たはフェルドウスィー

インド亜あ大陸たいりくにおけるニザーミーの詩し

ラシュトラパティ・パワンのニザーミーの肖像しょうぞう

ペルシアの言語げんごと文学ぶんがくはインド亜あ大陸たいりく全体ぜんたいに多大ただいな影響えいきょうを及およぼしており、ニザーミーの詩しはインド亜あ大陸たいりくで非常ひじょうに人気にんきがあった。インド亜あ大陸たいりくのペルシア語ご・ウルドゥー語ご話者わしゃの間あいだでの彼かれの名声めいせいを高たかめたのはおそらく、アミール・ホスロー・デリーである。ニザーミーは、その独特どくとくのスピーチと詩しの言語げんごによって、次つぎのような多おおくの詩人しじんに模倣もほうされてきた：アミール・ホスロー・デリー、フワジュ・ケルマニ、ジャーミ、ハテフィ、ガーセミ、ヴァフシ・バフギ、アルフィ・シラジィ、マクタビ、ファイズィ、アシュラフ・マラギ、アーザル・ビグデリ、バドリディン・ヒラリ、ルーミー・ケルマニ、モウラーナー・ナヴィディ・シラズィ、サルマン・サヴァジ。[3]

アミール・ホスロー・デリーは、ニザーミーの『五ご部ぶ作さく』（ハムサ）を模倣もほうした他ほかの者ものたちよりも比較的ひかくてき優すぐれている。彼かれは、彼かれの詩しの中なかでニザーミーを賞賛しょうさんの芸術げいじゅつの達人たつじんとして賞賛しょうさんしている：「言葉ことばの王国おうこくの支配しはい者しゃ、名高なだかい英雄えいゆう、学者がくしゃであり詩人しじんである彼かれの杯はいで乾杯かんぱい。純粋じゅんすいなワインは酔ようほど甘美かんびであるが、我々われわれの側がわの杯はいには、泥どろしかない。」

書籍しょせき『インドの遺跡いせきにおけるペルシア語ごの碑文ひぶん』によると、現在げんざいのインド大統領だいとうりょう官邸かんていラシュトラパティ・バワンの最もっとも重要じゅうようなホールであるアショカホールには、天井てんじょうとホールの一部いちぶに、ハーフェズ、ハイヤーム、ニザーミーの美うつくしいペルシアの詩しが書かかれ、ファトフ・アリー・シャーやシャー・カジャールなどのイラン（ペルシア）の絵画かいがで飾かざられている。ホール両側りょうがわにあるニザーミーの大おおきな油絵あぶらえとペルシアの女性じょせいの大おおきな絵えは、すべての訪問ほうもん者しゃを魅了みりょうしている。

『五ご部ぶ作さく』（ハムサ）は、後ごの世紀せいきにペルシャとムガルの宮廷きゅうていで作つくられた豪華ごうかな細密さいみつ画が（ミニアチュール）の写本しゃほんの人気にんきのある主題しゅだいであった。1590年代ねんだいにムガル帝国ていこくの皇帝こうていアクバルのために作成さくせいされた『五ご部ぶ作さく』（大だい英えい図書館としょかん、Or.12208）はその一いち例れいである。[4] [5]

関連かんれん項目こうもく

• ニザーミー廟びょう
• 海外かいがいにあるイランの工芸こうげい品ひんの一覧いちらん
• 世界せかい遺産いさんの一覧いちらん (アジア)
• イランの無形むけい文化ぶんか遺産いさんのリスト
• テヘラン州しゅうの観光かんこう名所めいしょ一覧いちらん
• バザール