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バチスカーフ

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バチスカーフ・トリエステマリアナ海溝かいこうくぐ直前ちょくぜん写真しゃしん

バチスカーフ(Bathyscaphe、-scape、-scaph)とは、スイス物理ぶつり学者がくしゃオーギュスト・ピカールによって発明はつめいされた、推進すいしんりょくをもち深海しんかい自由じゆううごまわることが可能かのう小型こがた深海しんかい探査たんさていである。ギリシアの「bathys(ふかい)」と「skaphos(ふね)」をわせた造語ぞうごである。歴史れきしてき経過けいかなどにより、現在げんざい深海しんかい探査たんさていのうちピカールが設計せっけい(デザイン)した一連いちれん個体こたい、およびそれに類似るいじしたタイプを総称そうしょうとなっている。広義こうぎ探査たんさてい全般ぜんぱんかんしては、深海しんかい探査たんさてい記事きじ参照さんしょう

構造こうぞう

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トリエステごう内部ないぶ構造こうぞう

ていはフロート、キャビン、みずバラストタンク、固形こけいバラスト収納しゅうのう動力どうりょくなどからなる。

フロートには浮力ふりょくざいとして入手にゅうしゅしやすく、みずよりかるガソリン充填じゅうてんされている。ガソリンのような液体えきたいあつりょくによって体積たいせきがほとんどわらず、液体えきたいたしておけば周囲しゅうい水圧すいあつがフロートをつぶすようなちからくわわらない。このため、フロートのガソリンタンクはさほど頑丈がんじょうつく必要ひつようがない。使用しようされるガソリンは潜水せんすい海域かいいき到着とうちゃくしてから注入ちゅうにゅうされる。潜水せんすい終了しゅうりょうしてからガソリンを回収かいしゅうして窒素ちっそガスを注入ちゅうにゅうする。


ひとるキャビンは潜水せんすいだま同様どうよう構造こうぞうをしているが、古典こてんてき潜水せんすいだまのようにケーブルで海面かいめんじょう船舶せんぱくなどよりろされているのではなく、てい一部いちぶをなすフロート(き)よりかかくだされている。キャビン内部ないぶ海面かいめんじょう気圧きあつちか圧力あつりょく空気くうきたされているため、周囲しゅうい水圧すいあつとの莫大ばくだい圧力あつりょくえなければならず、きわめて頑丈がんじょうつくられている。

操作そうさ

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バチスカーフは潜水せんすいかん同様どうように、海上かいじょうではみずバラストタンクに空気くうきたしてていからだかせ、潜行せんこうするさいにタンクへ海水かいすいれる。しかしバチスカーフのくぐることが想定そうていされている深度しんどでは水圧すいあつたかすぎ、潜水せんすいかんのようにタンクないみず圧縮あっしゅく空気くうき排水はいすいして浮上ふじょうすることは困難こんなんである。(たとえばチャレンジャー海淵かいえんそこにおける水圧すいあつは、通常つうじょうの「Hしき[よう説明せつめい]ボンベ圧力あつりょくの7ばい以上いじょうである)。

そのためバチスカーフは、排水はいすいするわりに砲丸ほうがんがた固形こけいバラストてて浮上ふじょうする。これは海底かいていのこされる。固形こけいバラスト収納しゅうのう漏斗ろうとかたをしていて、そこがつねにひらいている。漏斗ろうとくち部分ぶぶん装備そうびされた電磁石でんじしゃくによってバラストが保持ほじされていて、浮上ふじょうあらたな動力どうりょく必要ひつようとしない。また、もし事故じこ電力でんりょくれてもバラストは重力じゅうりょくにしたがって落下らっかし、てい自動的じどうてき浮上ふじょうするためフェイルセーフである。

前述ぜんじゅつのフロートないのガソリンを排出はいしゅつし、海水かいすい(ガソリンより比重ひじゅうたかい)をれることで浮力ふりょくほろ調整ちょうせいすることも可能かのうである。

実績じっせき

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最初さいしょのバチスカーフFNRS-2は、ベルギー国立こくりつ科学かがく研究けんきゅう基金ききん(FNRS)にちなんでづけられた。これはベルギー1946ねんから48ねんにかけて、ピカールによって建造けんぞうされた。推進すいしんりょく電池でんち駆動くどうモーターであった。1948ねん11月3にち西にしアフリカのダカールおきでの試験しけん潜行せんこうでは無人むじんで1394m潜行せんこうしたのみだったが、ピカールは希望きぼういた。深海しんかい圧力あつりょくたいあつからえたものの、なみによりフロートが破損はそんして内部ないぶのガソリンがれてしまった[1]。FNRS-2はFNRSの資金しきんすくなくなったのでフランス海軍かいぐん売却ばいきゃくされ、改造かいぞうされFNRS-3になった。ピカールは当初とうしょ相談役そうだんやくとしてフランス海軍かいぐん作業さぎょう参加さんかしたが、1ねん程度ていど離脱りだつした[1]。オーギュストの息子むすこジャック・ピカール関心かんしんいだき、FNRS-2の開発かいはつ参加さんかするようになっていた。ジャック=イヴ・クストー改造かいぞうされたFNRS-3搭乗とうじょうした[1]

ピカールだいのバチスカーフはトリエステごうであり、これは1957ねんアメリカ海軍かいぐんげられた。トリエステごうは2つのみずバラストタンクと、12まんリットルガソリンまった11個いっこ浮力ふりょくタンクをっていた[2]。トリエステごうたいあつからはFNRS-2のような鋳造ちゅうぞうではなく、鍛造たんぞうだった。トリエステには溶融ようゆう石英せきえいよりも強靭きょうじん透明とうめいたかだい世界せかい大戦たいせんちゅう航空機こうくうきのキャノピーの素材そざいとして使用しようされたアクリルせいあつみが15cmの観測かんそくまどそなえられた[1]地中海ちちゅうかいでの潜行せんこう成功せいこうしたが、世界せかい最深さいしんチャレンジャー海淵かいえん潜行せんこうするためには資金しきん不足ふそくしていた。そのため、1955ねんごろにロンドンでの科学かがく会議かいぎで、アメリカ海軍かいぐん研究けんきゅうきょく英語えいごばん(ONR)に勤務きんむしていた地質ちしつ学者がくしゃロバート・ディーツ海軍かいぐん交渉こうしょうし、冷戦れいせんだった当時とうじ、ソビエトにたいして優位ゆういせいしめしたい海軍かいぐんとの思惑おもわく一致いっちしてトリエステの計画けいかく支援しえんするはこびとなった[1]。1957ねんなつにONRの支援しえん地中海ちちゅうかい潜行せんこうした。1958ねんにONRは$250000でトリエステを購入こうにゅうした。ジャックもこの計画けいかく参加さんかすることに了承りょうしょうした。チャレンジャー海淵かいえんへの潜行せんこうには当初とうしょジャックは搭乗とうじょうしない予定よていだったが、ジャックが搭乗とうじょうつよもとめてみとめられた[1]

1960ねん、トリエステごうは、ピカールの息子むすこジャック・ピカールドン・ウォルシュ英語えいごばん大尉たいい[3]操縦そうじゅうによって地球ちきゅう表面ひょうめんもっとふか地点ちてん、すなわちマリアナ海溝かいこうチャレンジャー海淵かいえん到達とうたつした。2012ねんに、映画えいが監督かんとくジェームズ・キャメロン潜水せんすいていディープシーチャレンジャー」でおなチャレンジャー海淵かいえん最深さいしんくぐるまで、2人ふたりならぶもののない「世界せかい最深さいしんおとこ」だった。船内せんない機器きき深度しんどを37,800フィート(11,521メートル)だとしめしたが、のちにこの塩分えんぶん温度おんどによる誤差ごさ考慮こうりょして36,813フィート(11,221メートル)に修正しゅうせいされた。1995ねん日本にっぽん無人むじん深海しんかい探査たんさかいこう」による精密せいみつ測定そくてい結果けっか、チャレンジャー海淵かいえんさらあさく、35,798フィート(10,911メートル)であることが判明はんめいした。

ギャラリー

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関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d e f Lisa Yount (2006ねん1がつ). Modern Marine Science: Exploring the Deep. Infobase Publishing. pp. 38-43 
  2. ^ Powerboat Workbook Errata V2006.1 (PDF). Coolangatta, Australia: Wetpaper Publishers and Consultants, January 24, 2006. p.289.
  3. ^ いちまんいちせんメートルの深海しんかいく - バチスカーフの記録きろく』(ジャック・ピカールR・S・ディーツしる佐々木ささき忠義ただよしわけ角川かどかわ新書しんしょ、1962ねん)での表記ひょうきじゅんじた。

文献ぶんけん

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  • Houot, Georges; Willm, Pierre (1954) (フランス語ふらんすご). Le Bathyscaphe à 4050 m. au fond de l'océan. Éditions de Paris. OCLC 8429243 
  • Houot, Georges; Willm, Pierre (1958) (フランス語ふらんすご). La Découverte sous-marine de l'homme-poisson au bathyschaphe. Bourrelier. OCLC 8429208 
  • Houot, Georges (1972) (フランス語ふらんすご). Vingt ans de Bathyscaphe. Arthaud. OCLC 764285 

外部がいぶリンク

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