ポラーノの広場ひろば

シロツメグサの花はな

『ポラーノの広場ひろば』（ポラーノのひろば）は、宮沢みやざわ賢治けんじの短編たんぺん小説しょうせつ（童話どうわ）。賢治けんじが亡なくなった翌年よくねんの1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）に発表はっぴょうされた作品さくひんである。　賢治けんじが自筆じひつメモで「少年しょうねん小説しょうせつ」や「長編ちょうへん」としてタイトルを挙あげていた4つの作品さくひん（他たの3つは「銀河ぎんが鉄道てつどうの夜よる」「風ふうの又また三郎さぶろう」「グスコーブドリの伝記でんき」）の1つである。

イーハトーブを舞台ぶたいに、博物はくぶつ局きょくで働はたらくキューストと農夫のうふの子こファゼーロ少年しょうねんたちが伝説でんせつのポラーノの広場ひろばを追おい求もとめ、ついに自みずから理想りそうの広場ひろばを実現じつげんするまでを描えがいた作品さくひんである。本ほん作さくはキューストが執筆しっぴつしたという体裁ていさいが取とられており、タイトルの後のちに「前ぜん十じゅう七なな等とう官かん　レオーノ・キュースト誌し　宮沢みやざわ賢治けんじ訳述やくじゅつ」と記しるされている。

成立せいりつの経緯けいい

本ほん作さくは、複数ふくすうの先駆せんく作品さくひんをベースに1927年ねん頃ごろに初稿しょこうが成立せいりつしたと推定すいていされている。先駆せんく作品さくひんとしては以下いかのものがある。

• 童話どうわ「ポランの広場ひろば」 - 1924年ねん以前いぜんに執筆しっぴつされたと推定すいてい。1924年ねんに花巻はなまき農のう学校がっこうの生徒せいとに筆写ひっしゃさせた草稿そうこう（欠落けつらくあり）のみが現存げんそんしている。冒頭ぼうとう部ぶは現存げんそんしないため、タイトルは全集ぜんしゅう編集へんしゅう者しゃによる命名めいめい。主人公しゅじんこうのキュステが小学生しょうがくせいのファゼロと「ポランの広場ひろば」に行いき、山猫やまねこ博士はかせ（デステゥパーゴという名前なまえはない）らとの歌合戦うたがっせんに参加さんかする物語ものがたりで、「ポラーノの広場ひろば」と比較ひかくするとファンタジックな内容ないようである。

• 戯曲ぎきょく「ポランの広場ひろば」 - 上記じょうきの童話どうわをベースにして執筆しっぴつしたと推定すいていされる戯曲ぎきょく作品さくひん。1924年ねん8月がつに花巻はなまき農のう学校がっこうの生徒せいとを役者やくしゃとして上演じょうえんされた。表紙ひょうしタイトルのひとつには「第だい二に幕まく」とあるが、戯曲ぎきょくとして上演じょうえんされたのはこれがすべてである。キュステ、ファゼロの名前なまえは童話どうわと共通きょうつう。作中さくちゅうの「牧者ぼくしゃの歌うた」「ポランの広場ひろばの歌うた」には既存きそん曲きょくを流用りゅうようしてメロディーが付ふされ、劇げき中ちゅうで歌うたわれている。

• 童話どうわ「毒蛾どくが」 - 主人公しゅじんこう（文部もんぶ局きょくの巡回じゅんかい視学しがく官かん）が、イーハトブで大だい発生はっせいした毒蛾どくが騒動そうどうについて記しるしたという体裁ていさいの作品さくひん。1922年ねんもしくは1923年ねんに岩手いわて県けんで毒蛾どくがが大だい発生はっせいした事件じけんに取材しゅざいして書かかれたと推定すいていされている。

このようにしていったん成立せいりつした本ほん作さくであるが、『校本こうほん宮澤みやざわ賢治けんじ全集ぜんしゅう 第だい10巻かん』（1974年ねん）編集へんしゅうの際さいの草稿そうこう調査ちょうさによって、1931年ねん頃ごろに最終さいしゅう章あきら「六ろく、風ふうと草くさ穂ほ」の部分ぶぶんを中心ちゅうしんに大おおきく手てを加くわえられ、一部いちぶの草稿そうこうが本編ほんぺんから外はずされたことが確認かくにんされた（それ以前いぜんの全集ぜんしゅうではこの箇所かしょを組くみ込こんで本文ほんぶんを作成さくせいしていた）。この改稿かいこうでは「新あたらしいポラーノの広場ひろば」についてキューストがファゼーロたちに演説えんぜつしたり、その場ばにいた人物じんぶつからキューストが「ロザーロと結婚けっこんすればいい」と言いわれてキューストが否定ひていするといった点てんが削けずられる一方いっぽう、ファゼーロたちが語かたる事業じぎょうの内容ないようがより具体ぐたい的てきなものになっている点てんで違ちがいがある。またその場所ばしょも、「以前いぜん宴会えんかいの開ひらかれていた広場ひろば」から、デステゥパーゴが手放てばなした工場こうじょうに変更へんこうされている。

あらすじ

昔むかし、モリーオ市しの郊外こうがいの野原のはらには、市民しみん達たちが集たかって祭まつりを楽たのしんだというポラーノの広場ひろばがあった。そこではよくコンサートやオーケストラがあり、どんな人ひとでも上手じょうずに歌うたうことができるという伝説でんせつがあった。

博物はくぶつ局員きょくいんのキューストは、「5月がつのしまいの日曜日にちようび」に脱走だっそうしたヤギを見みつけてくれた少年しょうねんのファゼーロから、最近さいきんポラーノの広場ひろばが復活ふっかつしたという話はなしを聞きく。興味きょうみを持もったキューストは約やく10日にち後ごに羊ひつじ飼かいのミーロと三さん人にんでつめくさの灯ひをたどる探索たんさくをはじめるが、見みつからない。あきらめかけていたが、さらに5日にち後ご、ファゼーロが、ついにポラーノの広場ひろばを見みつけ出だしたというニュースを持もってきて騒然そうぜんとなる。

しかし広場ひろばに到着とうちゃくすると、そこは山猫やまねこ博士はかせことデステゥパーゴ県けん議員ぎいんらによる酒盛さかもりの場ばであった。参加さんか者しゃによる歌合戦うたがっせんが開ひらかれる中なか、酔よった山猫やまねこ博士はかせがファゼーロと悶着もんちゃくをおこし、食卓しょくたくナイフで決闘けっとうになってしまう。決闘けっとうは事ことなきを得えたものの、その夜よるからファゼーロ少年しょうねんが失踪しっそうしてしまう。

失踪しっそう事件じけんは警察けいさつ沙汰ざたとなり、山猫やまねこ博士はかせも行方ゆくえをくらませてしまう。ファゼーロが見みつからないまま夏なつを迎むかえ、キューストは出張しゅっちょう帰がえりに立たち寄よったセンダード市しで、偶然ぐうぜんに憔悴しょうすいした山猫やまねこ博士はかせを見みつけ、山猫やまねこ博士はかせの決闘けっとうの夜よるの事情じじょうを知しる。彼かれは工場こうじょうの経営けいえいに失敗しっぱいしてヤケ酒しゅを飲のんで、騒さわぎを起おこしただけであり、失踪しっそうには関かかわっていないと言いう話はなしを聞きいて別わかれる。

9月1日にちの夕方ゆうがたになって、ファゼーロが突然とつぜんやってくる。少年しょうねんはセンダード市しで革かわ染ぞめ工場こうじょうで働はたらいていたと打うち明あけた。　二人ふたりは山猫やまねこ博士はかせの倒産とうさんした（密造みつぞう酒しゅ？）工場こうじょうを見みて周まわりながら、この工場こうじょうをもっと正直しょうじきな会社かいしゃに再建さいけんする夢ゆめを語かたり合あう。　そして理想りそう的てきな産業さんぎょう組合くみあいを運営うんえいして、本当ほんとうのポラーノの広場ひろばを自みずからの手てで造つくろうと誓ちかい合あう。　　

7年ねん後ごファゼーロの経営けいえいする工場こうじょうは軌道きどうに乗のり、生産せいさんされたハムと皮かわ類るいと醋酸さくさんとオートミールはモリーオ市しの特産とくさん品ひんとして出荷しゅっかできるまでに成長せいちょうした。キューストは3年ねん後ごに博物はくぶつ局員きょくいんを辞やめて、大学だいがくの副手ふくしゅや農事のうじ試験場しけんじょうの技手ぎしゅなどを務つとめた後のち、大だい都会とかいのトキーオで働はたらいていた。ある日ひ、友達ともだちのできないキューストの元もとに楽譜がくふが届とどく。そこにはき覚きおぼえのあるポラーノの広場ひろばの歌うたが印刷いんさつされていて、キューストは昔むかしの友人ゆうじんたちを懐なつかしむのであった。　

解説かいせつ

キューストは賢治けんじの生涯しょうがいと多おおくの共通きょうつう点てんが見みられ、賢治けんじの分身ぶんしんと言いわれている。またイーハトーブをはじめ、モリーオ市し、センダード市し、トキーオ市しなどは実在じつざいの地名ちめいをベースにして賢治けんじが創作そうさくした地名ちめいと推定すいていされている（イーハトーブの項目こうもくを参照さんしょう）。

物語ものがたりの舞台ぶたいである「ポラーノの広場ひろば」は最初さいしょは「伝説でんせつの広場ひろば」であったが、探索たんさくの結果けっか「政治せいじ家かの酒盛さかもり場じょう」、「密造みつぞう酒しゅ工場こうじょう」としてキューストたちの前まえに現あらわれ、最終さいしゅう的てきには「自分じぶんたちで積極せっきょく的てきに打うち立たてる理想りそう的てきな共同きょうどう組合くみあい」に収束しゅうそくする。　ポラーノの広場ひろばに登場とうじょうする、この共同きょうどう組合くみあいこそ、賢治けんじの夢見ゆめみた「農村のうそんのあるべき姿すがた」だったとされている。ただし、キュースト自身じしんはアドバイスを与あたえる存在そんざいであって、産業さんぎょう組合くみあいに直接ちょくせつ加くわわっていない点てんは『農民のうみん芸術げいじゅつ概論がいろん綱要こうよう』の理想りそうとは微妙びみょうに異ことなっている。

外部がいぶリンク

• 『ポラーノの広場ひろば』：新字しんじ新しん仮名かめい - 青空あおぞら文庫ぶんこ - 校本こうほん全集ぜんしゅう以前いぜんに刊行かんこうされた講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ版はん（1971年ねん）を底本ていほんにしており、本編ほんぺんから外はずされた草稿そうこうが一部いちぶ混淆こんこうしている。