マイケルソン・モーリーの実験 じっけん データ
マイケルソン・モーリーの実験 じっけん (マイケルソン・モーリーのじっけん、英 えい : Michelson-Morley experiment )とは、1887年 ねん にアルバート・マイケルソン とエドワード・モーリー によって行 おこ なわれた光速 こうそく に対 たい する地球 ちきゅう の速 はや さの比 ひ (β べーた = v /c ) の二 に 乗 じょう β べーた 2 を検出 けんしゅつ することを目的 もくてき とした実験 じっけん である[1] [注釈 ちゅうしゃく 1] 。
マイケルソンは、この業績 ぎょうせき により1907年 ねん にノーベル賞 しょう を受賞 じゅしょう した[注釈 ちゅうしゃく 2] 。
19世紀 せいき 初頭 しょとう の物理 ぶつり 学 がく の光学 こうがく 理論 りろん においては、光 ひかり の波動 はどう が伝播 でんぱ するための媒質 ばいしつ として「エーテル 」が存在 そんざい する[注釈 ちゅうしゃく 3] と考 かんが えられていた。だが、その肝心 かんじん のエーテルの存在 そんざい については、多 おお くの理論 りろん 的 てき ・実験 じっけん 的 てき な試 こころ みにもかかわらず、どのような証拠 しょうこ も見 み つけることができなかった。そのため、物理 ぶつり 学者 がくしゃ たちは、ある種 しゅ のエーテルは存在 そんざい しているにもかかわらず、どのような実験 じっけん 技術 ぎじゅつ によっても探 さぐ り出 だ せないものだと信 しん じるようになっていた[2] 。
ところが、静止 せいし したエーテル中 ちゅう の電磁気 でんじき 理論 りろん (1864年 ねん [3] )を作 つく り、光 ひかり は電磁波 でんじは であるという説 せつ (1871年 ねん [4] )を立 た てたジェームズ・クラーク・マクスウェル は、ある時 とき 、自身 じしん の方程式 ほうていしき の数式 すうしき 中 ちゅう に、直接的 ちょくせつてき ではないものの、静止 せいし エーテル中 ちゅう の地球 ちきゅう の運動 うんどう が適当 てきとう な光学 こうがく 上 じょう の実験 じっけん で探知 たんち できることが示 しめ されていることに気 き づいた[注釈 ちゅうしゃく 4] 。
ただし、その方法 ほうほう とは、マクスウェルがワシントンの航海 こうかい 年鑑 ねんかん 局 きょく に勤務 きんむ していたデイヴィッド・ペック・トッド に宛 あ てた手紙 てがみ の中 なか で
光 ひかり 速度 そくど を測定 そくてい する地球 ちきゅう 上 じょう のあらゆる方法 ほうほう では、光 ひかり は同 おな じ道筋 みちすじ を通 とお って帰 かえ ってくる。エーテルに対 たい する地球 ちきゅう の運動 うんどう は、往復 おうふく で、光速 こうそく に対 たい する地球 ちきゅう の速度 そくど の比 ひ の二 に 乗 じょう だけ変化 へんか するが、これは小 ちい さすぎて観測 かんそく できない
と述 の べている[5] [注釈 ちゅうしゃく 5] ように、光 ひかり の速 はや さ c に対 たい する地球 ちきゅう の軌道 きどう 運動 うんどう の速 はや さ v の比 ひ (β べーた = v /c ) の二 に 乗 じょう 、すなわち β べーた 2 で表 あらわ される極 きわ めて小 ちい さい有限 ゆうげん の量 りょう を測定 そくてい するという非常 ひじょう に高 たか い測定 そくてい 精度 せいど が必要 ひつよう なものであった[注釈 ちゅうしゃく 6] 。
一方 いっぽう 、上記 じょうき マクスウェルからの手紙 てがみ を読 よ む機会 きかい を得 え た、トッドの同僚 どうりょう でアメリカ海軍 かいぐん 士官 しかん であったアルバート・マイケルソン は、そのマクスウェルの考 かんが えた測定 そくてい 実験 じっけん に興味 きょうみ を抱 だ いた。マイケルソンは光 ひかり の干渉 かんしょう 効果 こうか の利点 りてん を利用 りよう することでこの測定 そくてい が可能 かのう なものであると考 かんが え、エドワード・モーリー の協力 きょうりょく を得 え て高 たか い精度 せいど でこれを観測 かんそく することを可能 かのう にしたが、その結果 けっか は否定 ひてい 的 てき なものであった。
「エーテルの風 ふう 」の概念 がいねん
地球 ちきゅう は太陽 たいよう の周 まわ りを公転 こうてん しており、その速 はや さは、およそ秒速 びょうそく 30kmである。太陽 たいよう 自体 じたい も銀河系 ぎんがけい の中 なか で地球 ちきゅう の公転 こうてん より速 はや く運動 うんどう しているし、銀河系 ぎんがけい 自体 じたい も高速 こうそく で運動 うんどう しているが、ここでは太陽 たいよう と地球 ちきゅう の相対 そうたい 的 てき な運動 うんどう のみに着目 ちゃくもく する。地球 ちきゅう はエーテルの中 なか を動 うご いているのだから、地球 ちきゅう 上 じょう の我々 われわれ から見 み れば「エーテルの風 ふう 」が吹 ふ いているはずである。これは、水中 すいちゅう を歩 ある くと水 みず の抵抗 ていこう を感 かん じるのと同様 どうよう である。もちろん、地球 ちきゅう の運動 うんどう とエーテルの流 なが れがたまたま一致 いっち して無風 むふう 状態 じょうたい になることもあり得 え る。しかし地球 ちきゅう の位置 いち が変 か われば、つまり季 き 節 ぶし が変 か われば、再 ふたた びエーテルの風 かぜ が吹 ふ くであろう。エーテルが常 つね に地球 ちきゅう と同 おな じ方向 ほうこう に動 うご いているとは考 かんが えにくいからである。
地球 ちきゅう 上 じょう のどの場所 ばしょ であっても、エーテルの風 ふう の向 む きや強 つよ さは、季 き 節 ぶし や時刻 じこく と共 とも に変化 へんか するはずである。光 ひかり はエーテルに乗 の って伝播 でんぱ するのだから、順風 じゅんぷう の時 とき に速 はや く、逆風 ぎゃくふう の時 とき に遅 おそ く伝 つた わるはずである。従 したが って、異 こと なる方向 ほうこう や時刻 じこく について光 ひかり の速 はや さを調 しら べることで、地球 ちきゅう のエーテルに対 たい する相対 そうたい 運動 うんどう を知 し ることができると考 かんが えられた。
期待 きたい された光 ひかり の速 はや さの変化 へんか は、最大 さいだい でも、光速 こうそく に対 たい する地球 ちきゅう の公転 こうてん 速度 そくど の比 ひ 、すなわち一 いち 万 まん 分 ぶん の一 いち 程度 ていど であった。19世紀 せいき には、多 おお くの物理 ぶつり 学者 がくしゃ たちがこの種 たね の実験 じっけん を試 こころ みた。しかし、実験 じっけん 装置 そうち の精度 せいど が不充分 ふじゅうぶん であったために、光 ひかり の速 はや さの微小 びしょう な変化 へんか を捉 とら えることはできなかった。たとえば、フィゾー =フーコー の装置 そうち は 5 % の精度 せいど で光 ひかり の速 はや さを測 はか ることができたが、エーテルの風 かぜ を測定 そくてい するには不充分 ふじゅうぶん であった。
レーザーを用 もち いて、原理 げんり 的 てき にマイケルソンの干渉 かんしょう 計 けい と同 おな じものが今日 きょう でも使 つか われている。
マイケルソンはエーテルの流 なが れを検出 けんしゅつ するに十分 じゅうぶん な精度 せいど を得 え られる実験 じっけん 方法 ほうほう を考案 こうあん した。これは今日 きょう マイケルソン干渉 かんしょう 計 けい と呼 よ ばれる装置 そうち である。まず、光源 こうげん から出 で た白色 はくしょく 光線 こうせん はハーフミラー を通 とお り、二 ふた つの互 たが いに垂直 すいちょく な光線 こうせん に分割 ぶんかつ される。それぞれの光線 こうせん は、しばらく進 すす んだ後 のち に鏡 かがみ で反射 はんしゃ され、中央 ちゅうおう に戻 もど ってくる。そして検出 けんしゅつ 器 き の上 うえ に重 かさ ね合 あ わせると、それぞれの光線 こうせん が光源 こうげん を出 で てから検出 けんしゅつ 器 き に到達 とうたつ するまでに費 ついや した時間 じかん に応 おう じて、干渉 かんしょう が起 お こる。光線 こうせん が費 ついや した時間 じかん が僅 わず かでも変化 へんか すると、干渉 かんしょう 縞 しま の位置 いち が動 うご くはずである。
もしエーテルの風 かぜ が地球 ちきゅう の自転 じてん にのみ由来 ゆらい するのであれば、風向 かざむ きは12時 じ 間 あいだ ごとに反転 はんてん する。また、一 いち 年 ねん を通 とお しても、半年 はんとし ごとに風向 かざむ きが変化 へんか しなければならない。この風向 かざむ きの変化 へんか は、干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう として検出 けんしゅつ されるはずである。これは、川 かわ を行 い く船 ふね の例 れい で考 かんが えることができよう。船 ふね はスクリューにより時速 じそく 50 kmの速 はや さを得 え ることができ、川 かわ は時速 じそく 5 kmで流 なが れているとする。このとき、川 かわ を横切 よこぎ るように10 kmの距離 きょり を往復 おうふく するならば、少 すこ し下流 かりゅう に流 なが されることを気 き にしなければ、0.4時 じ 間 あいだ で帰 かえ ってくることができる。しかし、上流 じょうりゅう から下流 かりゅう 10 kmの地点 ちてん までを往復 おうふく するならば、行 い きは0.182時 じ 間 あいだ 、帰 かえ りは0.222時間 じかん 要 よう するので、合計 ごうけい で0.404時 じ 間 あいだ かかる。同様 どうよう に考 かんが えて、エーテルの風 ふう に対 たい し垂直 すいちょく に進 すす む光線 こうせん に比 くら べ、平行 へいこう に進 すす む光線 こうせん は、往復 おうふく に僅 わず かばかり長 なが い時間 じかん を要 よう する。すなわち、エーテルの風向 かざむ きによって干渉 かんしょう 縞 しま が移動 いどう するのである。実験 じっけん は、エーテルの流 なが れが太陽 たいよう から見 み て止 と まっていると仮定 かてい し、地球 ちきゅう の運動 うんどう により引 ひ き起 お こされる干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう の測定 そくてい を目的 もくてき として行 おこな われた。
マイケルソンは1881年 ねん にいくつかの実験 じっけん を行 おこな った。予想 よそう された干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう が、縞 しま の間隔 かんかく を1として0.04であったのに対 たい し、検出 けんしゅつ されたのは最大 さいだい で0.02であった。しかし、彼 かれ の実験 じっけん 装置 そうち は試作 しさく 品 ひん であり、実験 じっけん 誤差 ごさ が大 おお きかったために、エーテルの風 ふう について結論 けつろん を出 だ すことはできなかった。エーテルの風 かぜ を測定 そくてい するためには、さらに高 こう 精度 せいど な実験 じっけん を行 おこな う必要 ひつよう があった。とはいえ、この試作 しさく 品 ひん は、実験 じっけん 手法 しゅほう の有効 ゆうこう 性 せい を示 しめ すには十分 じゅうぶん であった。
そしてマイケルソンはモーリーと共 とも に改良 かいりょう 型 がた の装置 そうち を作成 さくせい し、干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう を検出 けんしゅつ するのに十分 じゅうぶん な精度 せいど を得 え ることに成功 せいこう した。彼 かれ らの実験 じっけん では、光 こう は何 なん 度 ど も反射 はんしゃ されてから検出 けんしゅつ 器 き に到達 とうたつ するため、光 ひかり が移動 いどう する長 なが さは11 mに及 およ んだ。このため、予想 よそう される干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう は0.4であった。検出 けんしゅつ を容易 ようい にするため、この装置 そうち は石造 いしづく りの建物 たてもの の地下 ちか 室 しつ に配置 はいち され、熱 ねつ や振動 しんどう の影響 えいきょう は最小 さいしょう に抑 おさ えられた。振動 しんどう を抑 おさ えるための工夫 くふう として、装置 そうち は大理石 だいりせき の巨大 きょだい なブロックの上 うえ に置 お かれ、そのブロックは水銀 すいぎん のプールに浮 う かべられた。彼 かれ らの計算 けいさん によれば、振動 しんどう による影響 えいきょう は、期待 きたい される干渉 かんしょう 縞 しま の移動 いどう の100分 ぶん の1以下 いか であった。水銀 すいぎん のプールには別 べつ の利点 りてん もあった。すなわち、装置 そうち の向 む きを容易 ようい に変 か えることができたのである。向 む きを変 か えながら実験 じっけん を繰 く り返 かえ すことにより、エーテルの「風向 かざむ き」を検出 けんしゅつ することができたのである。
失敗 しっぱい したことで有名 ゆうめい な実験 じっけん [ 編集 へんしゅう ]
赤色 あかいろ レーザーを用 もち いたマイケルソンの干渉 かんしょう 計 けい による干渉 かんしょう 縞 しま
これらの緻密 ちみつ な考察 こうさつ と工夫 くふう にもかかわらず失敗 しっぱい したことで、彼 かれ らの実験 じっけん は有名 ゆうめい になった。エーテルの性質 せいしつ を明 あき らかにすることが目的 もくてき であったが、The American Journal of Science に掲載 けいさい されたマイケルソンとモーリーの1887年 ねん の論文 ろんぶん では、検出 けんしゅつ された干渉 かんしょう 縞 しま のずれは期待 きたい されたものの40分 ぶん の1程度 ていど であったこと、およびずれは速度 そくど の二 に 乗 じょう に比例 ひれい することから、測定 そくてい された風速 ふうそく は地球 ちきゅう の公転 こうてん 速度 そくど の約 やく 6分 ぶん の1であり、「大 おお きくとも4分 ぶん の1」であると結論 けつろん された。このような「風速 ふうそく 」が測定 そくてい されたとはいえ、この値 ね はエーテルの存在 そんざい の証拠 しょうこ としては小 ちい さすぎ、後 のち には実験 じっけん 誤差 ごさ の範囲 はんい であり実際 じっさい の「風速 ふうそく 」は0であると考 かんが えられるようになった。
マイケルソンとモーリーの1887年 ねん の論文 ろんぶん の後 のち も、さらに工夫 くふう を凝 こ らした実験 じっけん が続 つづ けられた。ケネディとイリングワースは、鏡 かがみ に半 はん 波長 はちょう の「段差 だんさ 」を設 もう けることで装置 そうち 内 ない で発生 はっせい する干渉 かんしょう を軽減 けいげん した。イリングワースは300分 ぶん の1、ケネディは1500分 ぶん の1の干渉 かんしょう 縞 しま のずれを、それぞれ検出 けんしゅつ した。ミラーはビラリ現象 げんしょう を防 ふせ ぐために磁性 じせい 体 たい を用 もち いない装置 そうち を作成 さくせい し、マイケルソンは不変 ふへん 鋼 こう を用 もち いて熱 ねつ の影響 えいきょう をさらに小 ちい さくした。その他 た にも、外乱 がいらん を防 ふせ ぐ様々 さまざま な工夫 くふう がなされた。
モーリーは自 みずか らの実験 じっけん 結果 けっか に納得 なっとく せず、デイトン・ミラー と共 とも に、さらなる実験 じっけん を行 おこな った。ミラーは、光線 こうせん が 32 m もの距離 きょり を移動 いどう する巨大 きょだい な装置 そうち をウィルソン山 やま 天文台 てんもんだい で建設 けんせつ した。エーテルの風 かぜ が建物 たてもの の厚 あつ い壁 かべ に乱 みだ される可能 かのう 性 せい を懸念 けねん し、彼 かれ は、布 ぬの で作 つく られた小屋 こや を建 た てた。彼 かれ は装置 そうち の角度 かくど や恒星 こうせい 時 じ によって生 しょう じる様々 さまざま な、小 ちい さなばらつきを一 いち 年 ねん ごとに測定 そくてい した。彼 かれ の測定 そくてい では、エーテルの風速 ふうそく は最大 さいだい でも 10 km/s であると結論 けつろん された。ミラーは、この風速 ふうそく が地球 ちきゅう の公転 こうてん よりも遅 おそ いのは、エーテルが地球 ちきゅう の公転 こうてん に「引 ひ きずられる」からであると考 かんが えた。
後年 こうねん 、ケネディもウィルソン山 やま において実験 じっけん を行 おこな った。その結果 けっか 、干渉 かんしょう 縞 しま のずれはミラーによって測定 そくてい されたものに比 くら べて10分 ぶん の1しか確認 かくにん されず、また、季 き 節 ぶし ごとの変動 へんどう も見 み られなかった。これに基 もと づくマイケルソンやローレンツ らによる議論 ぎろん が1928年 ねん に報告 ほうこく され、そこではミラーの実験 じっけん 結果 けっか を確認 かくにん するための追試 ついし が必要 ひつよう であると結論 けつろん された[6] 。ローレンツは、原因 げんいん が何 なに であれ、実験 じっけん 結果 けっか が彼 かれ とアインシュタイン の特殊 とくしゅ 相対性理論 そうたいせいりろん と矛盾 むじゅん すると考 かんが えていた。この議論 ぎろん にアインシュタインは参加 さんか していなかったが、彼 かれ は、干渉 かんしょう 縞 しま のずれは実験 じっけん 誤差 ごさ であると考 かんが えた[7] 。現在 げんざい にいたるまで、ミラーの実験 じっけん 結果 けっか の再現 さいげん には成功 せいこう していない。
報告 ほうこく 者 しゃ
年 とし
光線 こうせん の移動 いどう 距離 きょり (メートル)
期待 きたい された干渉 かんしょう 縞 しま のずれ
測定 そくてい された干渉 かんしょう 縞 しま のずれ
実験 じっけん の分解能 ぶんかいのう
エーテルの風速 ふうそく の上限 じょうげん
マイケルソン
1881
1.2
0.04
0.02
マイケルソンとモーリー
1887
11.0
0.4
< 0.01
8 km/s
モーリーとミラー
1902–1904
32.2
1.13
0.015
ミラー
1921
32.0
1.12
0.08
ミラー
1923–1924
32.0
1.12
0.03
ミラー (太陽光 たいようこう )
1924
32.0
1.12
0.014
トマシェック (恒星 こうせい 光 こう )
1924
8.6
0.3
0.02
ミラー
1925–1926
32.0
1.12
0.088
ケネディ (ウィルソン山 やま )
1926
2.0
0.07
0.002
イリングワース
1927
2.0
0.07
0.0002
0.0006
1 km/s
ピカードとスタヘル (リギ山 さん )
1927
2.8
0.13
0.006
マイケルソンら
1929
25.9
0.9
0.01
ヨース
1930
21.0
0.75
0.002
今日 きょう では、レーザー やメーザー を用 もち いることにより、光線 こうせん の移動 いどう 距離 きょり をキロメートルの規模 きぼ にした実験 じっけん が行 おこな われている。この種 たね の実験 じっけん を初 はじ めて行 い ったのは、メーザーの開発 かいはつ 者 しゃ の一人 ひとり であるチャールズ・タウンズ らである。彼 かれ らの1958年 ねん の実験 じっけん では、考 かんが えられるあらゆる実験 じっけん 誤差 ごさ を含 ふく めても、エーテルの風速 ふうそく が 30 m/s 以下 いか であることが結論 けつろん され、1974年 ねん にはこれが 0.025 m/s にまで狭 せば められた。1979年 ねん のブリエとホールの実験 じっけん では、風速 ふうそく は全 すべ ての方向 ほうこう について 30 m/s 以下 いか であり、かつ、二 に 次元 じげん に限 かぎ れば 0.000001 m/s 以下 いか であると結論 けつろん された。
この実験 じっけん 結果 けっか は、(干渉 かんしょう を起 お こす光 ひかり の)波 なみ は空気 くうき や水 みず のような何 なに かの媒質 ばいしつ (光 ひかり の場合 ばあい はエーテル)中 ちゅう を伝播 でんぱ するべきという当時 とうじ の理論 りろん からは受 う け入 い れ難 がた いものであったため、この結果 けっか を説明 せつめい する様々 さまざま な新 しん 理論 りろん が検討 けんとう された。例 たと えば、実験 じっけん 環境 かんきょう の問題 もんだい 、または地球 ちきゅう の重力 じゅうりょく の影響 えいきょう で、地球 ちきゅう の運動 うんどう と同 おな じ向 む きのエーテルの流 なが れが発生 はっせい してしまっている、などというエーテル引 ひ きずり仮説 かせつ である。ミラーは、実験 じっけん 室 しつ の壁 かべ や装置 そうち 自体 じたい によりエーテルの風 かぜ がさえぎられているのではないかと考 かんが えた。もし、そうであるならば、「第 だい 一 いち 仮定 かてい 」と呼 よ ばれる単純 たんじゅん なエーテルの理論 りろん は誤 あやま りであることになる。ハマールが行 おこな った検証 けんしょう 実験 じっけん (英語 えいご 版 ばん ) は、光線 こうせん の通 とお り道 みち の一方 いっぽう を、巨大 きょだい な鉛 なまり ブロックの間 あいだ に通 とお したものであった。彼 かれ の理論 りろん によれば、もしエーテルが重力 じゅうりょく の影響 えいきょう を受 う けるならば、この鉛 なまり ブロックの存在 そんざい は干渉 かんしょう 縞 しま に影響 えいきょう を与 あた えるはずであった。しかし、結果 けっか として干渉 かんしょう 縞 しま には一切 いっさい の影響 えいきょう が見 み られなかった。
ヴァルター・リッツ の放出 ほうしゅつ 理論 りろん は、エーテルの存在 そんざい を仮定 かてい せずに実験 じっけん 結果 けっか を巧 たくみ く説明 せつめい するものであった。この理論 りろん は「第 だい 二 に 仮定 かてい 」と呼 よ ばれることになる。しかし、これは天文学 てんもんがく 上 じょう の観測 かんそく 事実 じじつ との間 あいだ に矛盾 むじゅん を抱 かか えていた。特 とく に、第 だい 二 に 仮定 かてい に基 もと づくならば、連 れん 星 ぼし が発 はっ する光 ひかり は、連 れん 星 ぼし の運動 うんどう の影響 えいきょう により干渉 かんしょう 縞 しま のずれを引 ひ き起 お こすはずであるが、実際 じっさい にはそのような現象 げんしょう は観測 かんそく されていないのである。サニャックの実験 じっけん は、一定 いってい の速度 そくど で回転 かいてん するテーブルの上 うえ に装置 そうち を置 お くことでなされる。この装置 そうち はマイケルソンの実験 じっけん のものとは少 すこ し異 こと なり、光 ひかり の軌道 きどう がテーブルに沿 そ って閉 と じた円 えん を描 えが いているのである。鏡 かがみ や検出 けんしゅつ 器 き がテーブルと一緒 いっしょ に回転 かいてん することで、右 みぎ 回 まわ りの光 ひかり と左 ひだり 回 まわ りの光 ひかり が異 こと なる長 なが さを進 すす むことになり、リッツの放出 ほうしゅつ 理論 りろん を直接的 ちょくせつてき に検証 けんしょう することができた。リッツの理論 りろん によれば、光源 こうげん と検出 けんしゅつ 器 き の相対 そうたい 速度 そくど が0、つまりいずれもテーブルと一緒 いっしょ に動 うご くのだから、干渉 かんしょう 縞 しま のずれは検出 けんしゅつ されないはずであった。しかし、この場合 ばあい 、干渉 かんしょう 縞 しま のずれが観測 かんそく されたのである。この実験 じっけん により放出 ほうしゅつ 理論 りろん は否定 ひてい され、このような干渉 かんしょう 縞 しま のずれはリングレーザージャイロスコープ で用 もち いられている。
この問題 もんだい に対 たい する説明 せつめい は、ローレンツ=フィッツジェラルドの収縮 しゅうしゅく 仮説 かせつ 、あるいは長 なが さの収縮 しゅうしゅく と呼 よ ばれる仮説 かせつ により与 あた えられた。この仮説 かせつ によれば、全 すべ ての物体 ぶったい は、運動 うんどう のエーテルに対 たい する相対 そうたい 的 てき な向 む きに沿 そ って縮 ちぢ むのである。そのため、エーテルの風 ふう により光 ひかり の速 はや さが変 か わっても、ちょうどそれを打 う ち消 け すように長 なが さが変化 へんか するので、干渉 かんしょう 縞 しま のずれは生 しょう じないのである。1932年 ねん に、マイケルソン=モーリーの実験 じっけん を改良 かいりょう したケネディ・ソーンダイクの実験 じっけん が行 おこな われた。この実験 じっけん では、二 ふた つの光線 こうせん が進 すす む距離 きょり は等 ひと しくなく、一方 いっぽう だけを極端 きょくたん に短 みじか くした。この実験 じっけん では、長 なが さの収縮 しゅうしゅく に伴 ともな って予想 よそう される時間 じかん の遅 おく れ が正 ただ しくなければ、地球 ちきゅう の運動 うんどう は干渉 かんしょう 縞 しま に影響 えいきょう を与 あた えるはずであった。しかし、そのような影響 えいきょう は観測 かんそく されなかった。このことは、特殊 とくしゅ 相対性理論 そうたいせいりろん の根幹 こんかん を成 な す、長 なが さの収縮 しゅうしゅく と時間 じかん の遅 おく れの二 ふた つの仮説 かせつ が正 ただ しいことの証拠 しょうこ であると考 かんが えられる。
エルンスト・マッハ は、実験 じっけん 結果 けっか はエーテル理論 りろん に対 たい する反証 はんしょう となっていると主張 しゅちょう した。また、アインシュタインはローレンツ=フィッツジェラルド収縮 しゅうしゅく を相対 そうたい 性 せい 仮説 かせつ から導出 どうしゅつ した。すなわち、特殊 とくしゅ 相対性理論 そうたいせいりろん は、エーテルの風 かぜ を検出 けんしゅつ できなかった実験 じっけん 結果 けっか を矛盾 むじゅん なく説明 せつめい しているのである。今日 きょう では特殊 とくしゅ 相対性理論 そうたいせいりろん がマイケルソン=モーリーの実験 じっけん に対 たい する「解 かい 」であると考 かんが えられているが、当時 とうじ はそのような共通 きょうつう 理解 りかい はなかった。アインシュタイン自身 じしん でさえ1920年 ねん 頃 ごろ に、「空間 くうかん は物理 ぶつり 的 てき な実在 じつざい 性 せい を備 そな えている」ことから「空間 くうかん が持 も つ特質 とくしつ そのものをエーテルと呼 よ ぶことができる」と述 の べた。この場合 ばあい 、エーテルを普通 ふつう の意味 いみ でいう媒質 ばいしつ として考 かんが えることはできず、運動 うんどう の概念 がいねん をエーテルにあてはめることはできない。
トロウトン=ノーブルの実験 じっけん (英語 えいご 版 ばん ) は、静電気 せいでんき 学 がく におけるマイケルソン=モーリーの実験 じっけん と考 かんが えてよかろう。また、1908年 ねん に行 おこな われたトロウトン=ランキンの実験 じっけん (英語 えいご 版 ばん ) は、ケネディ=ソーンダイクの実験 じっけん に相当 そうとう するものだと考 かんが えられる。
重力 じゅうりょく 波 は の検出 けんしゅつ への応用 おうよう [ 編集 へんしゅう ]
アインシュタインの一般 いっぱん 相対性理論 そうたいせいりろん の予言 よげん のうち、重力 じゅうりょく 波 は の存在 そんざい は、長 なが らく相対性理論 そうたいせいりろん の検証 けんしょう によって間接 かんせつ 的 てき に観測 かんそく されたのみであった。このため超 ちょう 高 こう 感度 かんど の、キロメートル規模 きぼ の大 おお きさのマイケルソン干渉 かんしょう 計 けい をファブリー・ペロー干渉 かんしょう 計 けい と組 く み合 あ わされたものが、直接的 ちょくせつてき に重力 じゅうりょく 波 は を検出 けんしゅつ する実験 じっけん 計画 けいかく において使用 しよう された(例 たと えばLIGO やVirgo )。2015年 ねん 9月 がつ に同 おな じ構造 こうぞう の2基 き のマイケルソン干渉 かんしょう 計 けい をもつLIGOによって直接的 ちょくせつてき な観測 かんそく に成功 せいこう している。
宇宙 うちゅう 重力 じゅうりょく 波 は 望遠鏡 ぼうえんきょう は、NASA とESA の共同 きょうどう 計画 けいかく で500 kmのマイケルソン干渉 かんしょう 計 けい 3基 き を宇宙 うちゅう 空間 くうかん に設置 せっち するものである。これにより、極 きわ めて低 ひく い周波数 しゅうはすう の重力 じゅうりょく 場 じょう をも拾 ひろ うことができると考 かんが えられている。
^ なお、この実験 じっけん は現在 げんざい のケース・ウェスタン・リザーブ大学 だいがく で行 おこ なわれた。
^ この実験 じっけん は、エーテル 理論 りろん を初 はじ めて否定 ひてい した物理 ぶつり 学 がく 史 し における重要 じゅうよう な役割 やくわり を果 は たしたものとして知 し られている。同時 どうじ に、「第 だい 二 に 次 じ 科学 かがく 革命 かくめい の理論 りろん 面 めん の端緒 たんしょ 」ともされている。
Earl R. Hoover, Cradle of Greatness: National and World Achievements of Ohio’s Western Reserve (Cleveland: Shaker Savings Association, 1977).
^ 水面 すいめん を波 なみ が伝 つた わるには水 みず が、音 おと が伝 つた わるためには空気 くうき などといった媒質 ばいしつ が必要 ひつよう であることが知 し られており、光 こう は真空 しんくう であっても伝播 でんぱ することから、真空 しんくう 中 ちゅう でもなにか光 ひかり を伝 つた える媒質 ばいしつ 、すなわち「エーテル」が存在 そんざい すると考 かんが えられていた。
^ この測定 そくてい 実験 じっけん は、静止 せいし エーテル中 ちゅう の理論 りろん としての初期 しょき マクスウェル方程式 ほうていしき の正当 せいとう 性 せい を示 しめ す意味 いみ もあることがわかる。
^ これは、マクスウェルがデイヴィッド・ペック・トッドに宛 あ てた手紙 てがみ の
Even if we were sure of the theory of aberration, we can only get differences of position of stars, and in the terrestrial methods of determining the velocity of light, the light comes back along the same path again, so that the velocity of the earth with respect to the ether would alter the time of the double passage by a quantity depending on the square of the ratio of the earth’s velocity to that of light, and this is quite too small to be observed.
というくだりのことだと思 おも われる。
^ 手紙 てがみ の中 なか のくだりからわかるように、その測定 そくてい の困難 こんなん さからマクスウェル自身 じしん はそのような実験 じっけん を全 まった く仮想 かそう 的 てき なものだと考 かんが えていたようである。
^ 講談社 こうだんしゃ (1972) 第 だい 6章 しょう
^ 講談社 こうだんしゃ (1972) p.139
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小出 こいで 昭一郎 しょういちろう 『物理 ぶつり 学 がく 』(三 さん 訂 てい 版 ばん )裳 も 華 はな 房 ぼう 、1997年 ねん 。