ラーニー・キ・ヴァーヴ

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世界遺産 グジャラートしゅうパータンのラーニー・キ・ヴァーヴ(王妃おうひ階段かいだん井戸いど
インド
英名えいめい Rani-ki-Vav (the Queen’s Stepwell) at Patan, Gujarat
ふつめい Rani-ki-Vav (le puits à degrés de la Reine) à Patan, Gujerat
面積めんせき 4.68 ha緩衝かんしょう地帯ちたい 125.44 ha)
登録とうろく区分くぶん 文化ぶんか遺産いさん
文化ぶんか区分くぶん 遺跡いせき
登録とうろく基準きじゅん (1), (4)
登録とうろくねん 2014ねんだい38かい世界せかい遺産いさん委員いいんかい
公式こうしきサイト 世界せかい遺産いさんセンター英語えいご
地図ちず
ラーニー・キ・ヴァーヴの位置(インド内)
ラーニー・キ・ヴァーヴ
使用しよう方法ほうほう表示ひょうじ

ラーニー・キ・ヴァーヴ (Rani ki vav) [1]は、インド西部せいぶグジャラートしゅうパータンのこ階段かいだん井戸いどである。インドの宗教しゅうきょう文化ぶんかともむすびついた独特どくとく階段かいだん井戸いどとく西にしインドに数多かずおおのこるが、サラスワティがわ沿いにきずかれたこの7そう構造こうぞう階段かいだん井戸いどはそのなかでも代表だいひょうてきなものと位置いちづけられ、2014ねんUNESCO世界せかい遺産いさんリストに登録とうろくされた。日本にっぽんではラニ・キ・ヴァヴ[2][3]ラーニー・ヴァーヴ[4]ラーニー・ワーウ[5]ラーニ・キ・ヴァヴ[6]ラーンキ・ヴァーヴ[1]などとも表記ひょうきされる。また、ラーニー (rani) はインドの女王じょおう王妃おうひ王女おうじょなどを意味いみ[7]、ヴァーヴ (vav) は階段かいだん井戸いどをさす名称めいしょうひと[8]であって、意味いみやくして王妃おうひ階段かいだん井戸いど[9]表記ひょうきされることもある。世界せかい遺産いさん名称めいしょうは、それらの併記へいきである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

インドの階段かいだん井戸いど井戸いどいてはいるものの、日本語にほんごの「井戸いど」から想起そうきされる構造こうぞうぶつからは乖離かいりしているとしばしばわれ[10][11]実際じっさいにはヒンドゥーきょうイスラームともむすびついた「神殿しんでん」のような建物たてものである[10]紀元前きげんぜん3千年紀せんねんき以来いらいきずかれてきたが[12]現在げんざい様式ようしきにつながるものは3世紀せいきから4世紀せいきごろにあらわれ、6世紀せいき以降いこう徐々じょじょ建築けんちく方法ほうほう様式ようしき洗練せんれんされていった[13]

インドにすうひゃく単位たんいのこ構造こうぞうぶつで、うち100程度ていど良好りょうこう保存ほぞん状態じょうたいとされる[14]首都しゅとデリー周辺しゅうへんふくめ、インド各地かくちられるが、とりわけグジャラートしゅうおおのこ[15]。そのグジャラートに数多かずおおのこ階段かいだん井戸いどなかで、現存げんそん最古さいこといわれ[16]、また、規模きぼめんでも最大さいだいきゅうとされるのが[17]、ラーニー・キ・ヴァーヴである。

ラーニー・キ・ヴァーヴのヴィシュヌぞう

ラーニー・キ・ヴァーヴは、ラージプートしょ王朝おうちょうのひとつ、チャウルキヤあさ(ソーラーンキーあさ)のビーマデーヴァ1せい英語えいごばんおう在位ざいい1022ねん - 1064ねん)のあとかれしのんで王妃おうひウダヤマティ (Udayamati) が11世紀せいきちゅう建造けんぞうしたものである[18]パータン当時とうじおうだった[19]。その規模きぼ奥行おくゆやく65 m、はばやく 20 m、ふかやく 27 m[3][注釈ちゅうしゃく 1]で、マル・グジャラ様式ようしき採用さいようされた7そう構造こうぞうになっている[20]。なお、グジャラートしゅうみずむすびついた女神めがみ信仰しんこうさかんだった土地とちであり[21]、このには、王妃おうひだい富豪ふごう夫人ふじんといった女性じょせいてた階段かいだん井戸いどおお[22]

その、13世紀せいき以降いこうのサラスワティがわ氾濫はんらん泥土でいどうずもれてしまい、本格ほんかくてき調査ちょうさは20世紀せいきまでおこなわれなかった[12]。このことは、彫刻ちょうこく良好りょうこう状態じょうたい保存ほぞんされることにつながった[19]

レリーフにえがかれた彫刻ちょうこくおおきなものだけで500たい以上いじょう[9]ちいさいものもふくむと1500にもなる[9][2]。そのなかでも最奥さいおう位置いちするのがヴィシュヌで、春分しゅんぶん秋分しゅうぶん陽光ようこうらしされる場所ばしょひがしきにられている[19]

世界せかい遺産いさん[編集へんしゅう]

この物件ぶっけん世界せかい遺産いさん暫定ざんていリスト記載きさいされたのは1998ねん7がつ3にちのことであり、2013ねん1がつ31にちはじめて推薦すいせんされた[23]特徴とくちょうてきな「井戸いど」はアメリカ先住民せんじゅうみんエチオピア民族みんぞくなどにもられるが、世界せかい遺産いさん委員いいんかい諮問しもん機関きかんである国際こくさい記念きねんぶつ遺跡いせき会議かいぎ (ICOMOS) は、それらとくらべても独自どくじ価値かちみとめられるとした[24][25]。また、インド国内こくないのこ階段かいだん井戸いどなかには、壮麗そうれいさが特筆とくひつされるアダーラジの階段かいだん井戸いど英語えいごばんをはじめ[11][26]各種かくしゅ文献ぶんけん紹介しょうかいされるものがいくつもあるが、ラーニー・キ・ヴァーヴはそれらのなかでも、とく技術ぎじゅつてき建築けんちくてき観点かんてんや、装飾そうしょくぐん芸術げいじゅつてき観点かんてんなどから、顕著けんちょ価値かちゆうするものとICOMOSからみとめられ、「登録とうろく」が勧告かんこくされた[27]

2014ねんだい38かい世界せかい遺産いさん委員いいんかいでは、委員いいん各国かっこくから技術ぎじゅつめん芸術げいじゅつめんたいする賛辞さんじ相次あいつぎ、異論いろんなく登録とうろくみとめられた[28]

登録とうろくめい[編集へんしゅう]

この世界せかい遺産いさん正式せいしき登録とうろくめい英語えいご: Rani-ki-Vav (the Queen’s Stepwell) at Patan, Gujarat および フランス語ふらんすご: Rani-ki-Vav (le puits à degrés de la Reine) à Patan, Gujerat である。その日本語にほんごやくは、以下いかのように若干じゃっかんれがある。

登録とうろく基準きじゅん[編集へんしゅう]

レリーフの数々かずかず

この世界せかい遺産いさん世界せかい遺産いさん登録とうろく基準きじゅんのうち、以下いか条件じょうけんたし、登録とうろくされた(以下いか基準きじゅん世界せかい遺産いさんセンター公表こうひょう登録とうろく基準きじゅんからの翻訳ほんやく引用いんようである)。

  • (1) 人類じんるい創造そうぞうてき才能さいのう表現ひょうげんする傑作けっさく
  • (4) 人類じんるい歴史れきしじょう重要じゅうよう時代じだい例証れいしょうする建築けんちく様式ようしき建築けんちくぶつぐん技術ぎじゅつ集積しゅうせきまたは景観けいかんすぐれたれい

この階段かいだん井戸いど芸術げいじゅつてき建築けんちくてき意義いぎなどにたいして適用てきようされたものである。なお、もともとインド当局とうきょく基準きじゅん (1) と (3) で推薦すいせんしていたが、ICOMOSが基準きじゅん (3) の理由りゆう説明せつめいとして提示ていじされたものは基準きじゅん (4) にこそふさわしいとして、適用てきよう基準きじゅん変更へんこう勧告かんこくしており[32]委員いいんかい決議けつぎでもそれが踏襲とうしゅうされた。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 世界せかい遺産いさん検定けんてい事務じむきょく 2017(p.153) によるが、武澤たけざわ 2006 (p.24) では奥行おくゆき65 m、間口まぐち 16 m、ふかさ18 m とされている。
  2. ^ 世界せかい遺産いさん検定けんてい事務じむきょく 2016では、「王妃おうひ階段かいだん井戸いど」の部分ぶぶんが「女王じょおう階段かいだん井戸いど」になっていた。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 神谷かみや武夫たけお王妃おうひ階段かいだん井戸いど(ラーンキ・ヴァーヴ)
  2. ^ a b c 日本にっぽんユネスコ協会きょうかい連盟れんめい 2014, p. 23
  3. ^ a b c 世界せかい遺産いさん検定けんてい事務じむきょく 2017, p. 153
  4. ^ 武澤たけざわ 1995, pp. 18–19
  5. ^ 武澤たけざわ 2006, p. 27
  6. ^ 地球ちきゅうあるかた編集へんしゅうしつ 2016, p. 21
  7. ^ 『リーダーズ英和えいわ辞典じてんだい3はん、『しん英和大えいわだい辞典じてんだい6はんほか
  8. ^ 武澤たけざわ 1995, pp. 6–7
  9. ^ a b c d 東京とうきょう文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょ 2014, p. 270
  10. ^ a b 武澤たけざわ 2006, p. 14
  11. ^ a b 福田ふくだ 2001, p. 133
  12. ^ a b ICOMOS 2014, p. 126
  13. ^ 武澤たけざわ 2006, p. 17
  14. ^ 武澤たけざわ 2006, pp. 14, 29
  15. ^ 武澤たけざわ 2006, p. 29
  16. ^ 福田ふくだ 2001, p. 135
  17. ^ 武澤たけざわ 1995, p. 19
  18. ^ Rani ki vav Management Plan, 2014, pp.3, 18
  19. ^ a b c 武澤たけざわ 2006, p. 24
  20. ^ 世界せかい遺産いさん検定けんてい事務じむきょく 2016, p. 240
  21. ^ 武澤たけざわ 1995, p. 7
  22. ^ 武澤たけざわ 1995, p. 75
  23. ^ ICOMOS 2014, p. 125
  24. ^ ICOMOS 2014, p. 126
  25. ^ 東京とうきょう文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょ 2014, p. 270
  26. ^ 地球ちきゅうあるかた編集へんしゅうしつ 2016, p. 501
  27. ^ ICOMOS 2014, pp. 126–127
  28. ^ 東京とうきょう文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょ 2014, pp. 271–272
  29. ^ 西にし 2014, p. 43
  30. ^ 古田ふるた & 古田ふるた 2016
  31. ^ 『なるほどちょう世界せかい2017』昭文社しょうぶんしゃ、2016ねん、p.143
  32. ^ ICOMOS 2014, p. 128

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

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