リントヴルム

ドイツの自治体じちたいヴルマンスクイックの紋章もんしょう

リントヴルム（ドイツ語ご: Lindwurm）は、主おもにドイツに伝つたわるほか、スカンディナヴィアでも知しられている、伝説でんせつ上じょうの大だい蛇へびないし翼つばさのあるドラゴンである。日本語にほんごではリントブルムとも表記ひょうきされうる。

ワイバーンやアンフィスバエナと同様どうよう、中世ちゅうせい以降いこうの紋章もんしょうにしばしば描えがかれており、紋章もんしょう学がくにおいては雄々おおしさや容赦ようしゃなさを表あらわしていたという。

ドイツ

ドイツの民俗みんぞく学者がくしゃヴィル＝エーリヒ・ポイカートによると、ドイツにおいてドラゴン（ドイツ語ごでドラッヘ drache）は8世紀せいき以前いぜんに伝つたわった外来がいらいの概念がいねんで、ゲルマン民族みんぞくに元来がんらい知しられていた地ちを這はう怪かい蛇へびと、南方みなかた由来ゆらいの空そらを飛とぶ竜りゅうとが同格どうかく視しされるようになったのは15-16世紀せいき頃ごろのことである。

クラーゲンフルト市しのリントヴルム像ぞう（左ひだり）。

オーストリアのリントヴルムはクラーゲンフルト市しの伝承でんしょうが有名ゆうめいである。紋章もんしょうにもなった。 この伝承でんしょうとは別べつに、ドイツに1200年代ねんだいから伝つたわる別べつの物語ものがたりがある。このクラーゲンフルトの近ちかくに住すんでいたリントヴルムは川かわの主おもで、川かわに沿そって現あらわれては旅行りょこう者しゃを襲おそっていた。この存在そんざいはリントヴルムが脅威きょういであったため退治たいじに懸賞けんしょうがかけられた。数すう人にんの青年せいねんが雄お牛うしを鎖くさりにつなぎ、リントヴルムが雄お牛うしを飲のみ込こんだ時ときに魚さかなのように釣つり上あげて殺ころしたという。

スカンディナヴィア

デンマークではリントヴルムに相当そうとうする語かたりは「レンオアム」 (lindorm) である。レン（lind）は「しなやか」という意味いみの形容詞けいようしからの派生はせいで「蛇へび」を意味いみし、orm は英語えいごの worm に相当そうとうする語かたりでこれも「蛇へび」の意いである。dragon に相当そうとうする drage （ドラーウェ）と違ちがい、レンオアムはスカンディナヴィア元来がんらいの竜りゅうである。北欧ほくおうでは元々もともと翼つばさのある竜りゅうは知しられておらず、シグルズの竜りゅう退治たいじを示しめしたルーン文字もじ碑いしぶみでも、ドイツの『ニーベルンゲンの歌うた』においても、竜りゅうは巨大きょだいな蛇へびの姿すがたで表現ひょうげんされている。

シーサーペントが描えがかれたノルウェーの自治体じちたいSeljordの紋章もんしょう

スカンディナヴィアでは海うみの怪物かいぶつをリンノルム（ノルウェー語ご: linnorm）と呼よぶ場合ばあいが多おおい。たてがみを備そなえた馬うまの頭あたまと蛇へびの胴どうをもち、赤あかい炎ほのおのような目めをした巨大きょだいな怪物かいぶつであり、船ふねを襲おそって沈しずめることもあった。なお、スカンディナヴィアでは特とくに18世紀せいきから19世紀せいきにかけて遠洋えんよう漁業ぎょぎょうの漁師りょうしや水夫すいふや乗客じょうきゃくからシーサーペント（大だい海蛇うみへび）の目撃もくげき談だんが絶たえなかった。

その他たの地域ちいき

ドイツやイギリスのリントヴルムの描写びょうしゃは主おもに尾おは、鏃のように尖とがっており、ワニのように長ながい頭あたまで鋭するどい牙きばを持もつ。ただし、イギリスのリントヴルムは蝙蝠かわほりの翼つばさを持もたない姿すがたも多おおく、そういった翼つばさを持もたない個体こたいについてはリンドドレイク（Linddrake）とも呼よばれる。

リントヴルムに関かんする伝説でんせつ

古ふるい時代じだいにはリントヴルムは空そらを飛とべないと考かんがえられ、流星りゅうせいとは結むすびつけられなかった。稲光いねみつや流星りゅうせいがリントヴルムの発はっしたものなのではないかと言いわれるようになるのは、後年こうねんになってからである。

なお、白しろのリントヴルムを見みた者ものには幸運こううんが訪おとずれるとも言いわれている。

参考さんこう文献ぶんけん

• アラン, トニー『世界せかい幻想げんそう動物どうぶつ百科ひゃっか ヴィジュアル版ばん』上原うえはらゆうこ訳やく、原はら書房しょぼう、2009年ねん11月（原著げんちょ2008年ねん）。ISBN 978-4-562-04530-3。 
• 宇川うがわ絵里えり 著ちょ「デンマーク 解説かいせつ」、竹原たけはら威たけし滋しげる・丸山まるやま顯德けんとく編著へんちょ 編へん『世界せかいの龍りゅうの話はなし』（初版しょはん）三弥みつや井い書店しょてん〈世界せかい民間みんかん文芸ぶんげい叢書そうしょ 別巻べっかん〉、1998年ねん7月がつ10日とおか、174-175頁ぺーじ。ISBN 978-4-8382-9043-7。 
• ポイカート, ヴィル＝エーリヒ『中世ちゅうせい後期こうきのドイツ民間みんかん信仰しんこう - 伝説でんせつの歴史れきし民俗みんぞく学がく』中山なかやまけい子こ訳やく、三さん元げん社しゃ、2014年ねん10月がつ。ISBN 978-4-88303-362-1。 
• 松平まつだいら俊久としひさ「リントヴルム」『図説ずせつヨーロッパ怪物かいぶつ文化ぶんか誌し事典じてん』蔵持くらもち不ふ三也みつや監修かんしゅう、原はら書房しょぼう、2005年ねん3月がつ、225-226頁ぺーじ。ISBN 978-4-562-03870-1。 

関連かんれん項目こうもく

• 竜王りゅうおう (北欧ほくおう民話みんわ)
• 龍りゅうと娘むすめ
• ワーム (伝説でんせつの生物せいぶつ)
• ワイバーン