レジーム論ろん

レジーム論ろん（レジームろん、Regime theory）は、国際こくさい制度せいどあるいは国際こくさいレジームが国家こっか（やほかの国際こくさい的てきアクター）の行動こうどうに影響えいきょうを与あたえると論ろんじる国際こくさい関係かんけい論ろん（国際こくさい政治せいじ経済けいざい学がく）のリベラリズムの理論りろんである。アナーキーな国家こっか間あいだシステムにおいて協調きょうちょうが可能かのうであり、レジームが国際こくさい協調きょうちょうの事例じれいであると仮定かていする。国際こくさいレジーム論ろんとも。

理論りろん的てき基盤きばん[編集へんしゅう]

現実げんじつ主義しゅぎが対立たいりつが国際こくさい関係かんけいの規範きはんであると予測よそくするのに対たいして、レジーム論ろんは、アナーキーにもかかわらず協調きょうちょうがあるという。貿易ぼうえき、人権じんけん、集団しゅうだん的てき安全あんぜん保障ほしょうなどの争点そうてんにおける協調きょうちょうを引用いんようする。これらの協調きょうちょうの事例じれいがレジームである。もっとも頻繁ひんぱんに引用いんようされるレジームの定義ていぎは、スティーヴン・クラズナーによるものである。クラズナーは、レジームを「期待きたいの収斂しゅうれんを整ととのえる規範きはん、決定けってい、ルール、手続てつづきを持もつ制度せいど」と定義ていぎする（定義ていぎの詳細しょうさいは、「国際こくさいレジーム」を参照さんしょう）。

しかし、レジーム論ろんのアプローチすべてがリベラリズムもしくはネオリベラリズムというわけではない。この基本きほん的てきにリベラリズムの理論りろんにリアリスト的てきなアプローチを採用さいようする理論りろんを展開てんかいするジョセフ・グリエコのようなリアリズムの研究けんきゅう者しゃもいる（リアリズムは、協調きょうちょうが「決けっして」生しょうじないと言いっておらず、単たんに規範きはんとなっていないとみる）。

国際こくさい政治せいじ経済けいざい学がく（IPE）のレジーム論ろん[編集へんしゅう]

上述じょうじゅつのように、レジームは、「特定とくていの争点そうてん領域りょういきにおいてアクターの期待きたいが収斂しゅうれんするところの」一連いちれんの明示めいじ的てきあるいは黙示もくし的てきな「原則げんそく、規範きはん、ルール、意思いし決定けってい手続てつづき」と、クラズナーによって定義ていぎされる。この定義ていぎは、意図いと的てきに広ひろいものであり、公的こうてきな組織そしきから非公式ひこうしきの集団しゅうだんにいたるまでの人間にんげんの相互そうご作用さようをカバーしている。レジームは国家こっかから構成こうせいされる必要ひつようはないことに注意ちゅういするべきである。

IPEでは、レジーム論ろんへの主要しゅような三みっつのアプローチがある。支配しはい的てきな、リベラリズム的てきで利益りえき重視じゅうしのアプローチ、利益りえき重視じゅうしのアプローチを批判ひはんするリアリズム、認知にんち主義しゅぎ的てき学派がくはに出自しゅつじを持もつ知識ちしき重視じゅうしアプローチである。リベラリズムとリアリズムは合理ごうり主義しゅぎアプローチで、認知にんち主義しゅぎは社会しゃかい学がく的てきアプローチである。

リアリズムは国際こくさい関係かんけい論ろん一般いっぱんで支配しはい的てきな学派がくはであるけれども、（伝統でんとう的てきにリベラリズムの概念がいねんである）国際こくさい協調きょうちょうを説明せつめいする理論りろんであることから、レジーム論ろんでは、リベラリズムのアプローチが優勢ゆうせいである。

リベラリズムのアプローチ[編集へんしゅう]

レジーム論ろんのリベラリズム的てきな利益りえき重視じゅうしアプローチは、「期待きたいの収斂しゅうれん」が存在そんざいするので、アナーキー下かの協調きょうちょうが覇権はけん国こくなしに可能かのうであると述のべる。個別こべつの国家こっかが実際じっさいに協調きょうちょうしていることをほかのすべての成員せいいんに示しめす行動こうどうの基準きじゅんを確立かくりつすることによってレジームは協調きょうちょうを整ととのえる。すべての国家こっかが他国たこくの協調きょうちょうを期待きたいするとき、強調きょうちょうを持続じぞくさせる蓋然性がいぜんせいは劇的げきてきに高たかまる。

ネオリベラリズムは、リアリズムが諸国しょこくが利益りえきを共有きょうゆうする程度ていどと国家こっか関係かんけいの反復はんぷく的てき性格せいかくを軽視けいししているという。裏切うらぎりが支配しはい的てきな戦略せんりゃくとなっている古典こてん的てきな囚人しゅうじんのジレンマを使つかう世界せかいを暗黙あんもくのうちにモデル化かすることで、リアリズムは間違まちがいを起おこしている。このモデルと現実げんじつの違ちがいは、国家こっかが囚人しゅうじんと違ちがって、囚人しゅうじん同士どうしは二度にどと出会であわないのに対たいして、国家こっか同士どうしは継続けいぞく的てきに協力きょうりょくしなくてはならない。今日きょうのある決定けっていは、将来しょうらいの帰結きけつとつながっているのである。相互そうご協力きょうりょくはしたがって合理ごうり的てきである。繰くり返かえされる相対そうたい的てきに小ちいさな協力きょうりょく行動こうどうの総計そうけいは、終おわりのない相互そうご裏切うらぎりによって相手あいてから利益りえきを得えようとして一いち回かいの行為こういで受うけ取とる取とり分ぶんよりも大おおきい。

繰くり返かえし囚人しゅうじんのジレンマでは、アクターの行動こうどうは次つぎの前提ぜんていで決定けっていされる。（1）国家こっかは合理ごうり的てきで、単一たんいつで、取とり分ぶんを最大さいだい化かするアクターであり、アナーキー状況じょうきょうで、安全あんぜん保障ほしょうのジレンマに直面ちょくめんしている、（2）現在げんざいの行動こうどうが将来しょうらいの帰結きけつと関連かんれんしている。囚人しゅうじんのジレンマは一いち回かい限かぎりではない、（3）将来しょうらいにおいて、他国たこくが「目めには目めを戦略せんりゃく」で裏切うらぎるかも知しれないので、現時点げんじてんで協力きょうりょくするのは国家こっかの利益りえきである、（4）国家こっかは絶対ぜったい利得りとくに関心かんしんを持もつ、つまり効用こうよう分析ぶんせきにおいて他国たこくの損得そんとくを考かんがえないと理論りろんは仮定かていする。対照たいしょう的てきに、リアリズムは、国家こっかが相対そうたい利得りとくに関心かんしんを持もつと論ろんじる。

おそらくもっとも有名ゆうめいなネオリベラリズムの国際こくさい関係かんけい論ろん者しゃであるロバート・コヘインは、国際こくさいレジームが以下いかの点てんで協調きょうちょうの蓋然性がいぜんせいを高たかめると論ろんじる。（1）メンバーの行動こうどうを監視かんしし、遵守じゅんしゅを報告ほうこくすることによる他国たこくの行動こうどうに関かんする情報じょうほうの提供ていきょう、レジームは裏切うらぎりの用件ようけんを規定きていし、裏切うらぎりに対たいする処罰しょばつ規定きていを明確めいかくにしている、このことは、レジームのほかのメンバーに悪用あくようされる恐怖きょうふを低下ていかさせ、誤解ごかいの機会きかいを最小限さいしょうげんにする、制裁せいさいの明文化めいぶんかは秘密裏ひみつりの裏切うらぎりの誘惑ゆうわくを低ひくめる。（2）取引とりひき費用ひようの低下ていか、協調きょうちょうを制度せいど化かすることによって、レジームは、将来しょうらいの合意ごういのコストを低ひくくすることができる。合意ごういに達たっするコストを低ひくくすることによって、レジームは、将来しょうらいの協調きょうちょうの可能かのう性せいを高たかめる。GATTの各かくラウンドは、続つづくラウンドで再ふたたび議論ぎろんする必要ひつようのない多おおくの手続てつづき上じょうの問題もんだいを解決かいけつし、協調きょうちょうを容易よういにした。（3）メンバー間あいだの協力きょうりょくの期待きたいを一般いっぱん化かする、相互そうご作用さようが予見よけんできる将来しょうらいの間あいだ継続けいぞくするという反復はんぷくと信条しんじょうを作つくることによって、レジームは、評判ひょうばんの重要じゅうよう性せいを高たかめ、複雑ふくざつな戦略せんりゃくの活用かつようを許容きょようする。レジームが協調きょうちょうする誘因ゆういんと裏切うらぎりへの抑止よくしを提供ていきょうできると主張しゅちょうする研究けんきゅう者しゃもいる。

リアリズムのアプローチ[編集へんしゅう]

ジョセフ・グリエコのようなリアリストは、覇権はけん安定あんてい論ろんを使つかったパワー重視じゅうしのレジーム理論りろんを提案ていあんしている。覇権はけん安定あんてい論ろんの対抗たいこう理論りろんとしてレジーム論ろんは機能きのうするけれども、リアリズムは、レジームがどのように変化へんかするのかを説明せつめいするためにレジーム論ろん自体じたいのなかで覇権はけん安定あんてい論ろんを利用りようする。リアリズムは、強力きょうりょくな覇権はけん国こくの存在そんざいがレジームを成功せいこうさせると論ろんじる。

レジーム論ろんでは、リアリズムとリベラリズムは、国際こくさい協調きょうちょうの性質せいしつ、および国際こくさい制度せいどがどれほどの役割やくわりを果はたすのかをめぐって異ことなる。リベラリズムは、レジームが国家こっか利益りえきの収斂しゅうれんを通つうじて出現しゅつげんし、国際こくさい制度せいどが利益りえきの統合とうごうを作つくり出だすことを助たすけると論ろんじる一方いっぽうで、リアリズムは、レジームが国際こくさいシステムにおけるパワーの配分はいぶんを単たんに反映はんえいしているだけだという。強力きょうりょくな国家こっかが自分じぶんたちの安全あんぜん保障ほしょうや経済けいざい利益りえきに沿そうようなレジームを創設そうせつするのである。レジームは、国家こっか、とくに大国たいこくに対たいして独立どくりつしたパワーを持もっていない。こうして、レジームは、現実げんじつの独立どくりつ変数へんすう（パワー）と観測かんそくされた結果けっか（協調きょうちょう）の単たんなる媒介ばいかい変数へんすうに過すぎないのである。スーザン・ストレンジは、第だい二に次じ大戦たいせん後ごの世界銀行せかいぎんこうやGATT・IMFなどの国際こくさい機関きかんは、アメリカの大だい戦略せんりゃくの道具どうぐに過すぎないと論ろんじている。

認知にんち主義しゅぎのアプローチ[編集へんしゅう]

上記じょうきの合理ごうり主義しゅぎアプローチとは対照たいしょう的てきに、認知にんち主義しゅぎは、リベラリズムとリアリズムの双方そうほうが誤あやまった仮定かていを使つかっている点てんで合理ごうり主義しゅぎ理論りろんを批判ひはんする。つまり、国家こっかがいつも、また永遠えいえんに合理ごうり的てきなアクターである、利益りえきは静態せいたい的てきである、利益りえきとパワーの異ことなる解釈かいしゃくは不可能ふかのうである、といった仮定かていである。認知にんち主義しゅぎは、合理ごうり主義しゅぎ理論りろんが、将来しょうらいの帰結きけつが現在げんざいの決定けっていに影響えいきょうする繰くり返かえしゲーム理論りろんを活用かつようするときでも、そのような反復はんぷくの重要じゅうような含意がんい、すなわち学習がくしゅうを無視むししていると批判ひはんする。繰くり返かえしゲームの帰結きけつは、将来しょうらいに向むかってだけでなく、過去かこに向むかっても影響えいきょうを及およぼす。アクターが将来しょうらいを考慮こうりょに入いれるためだけでなく、過去かこを考慮こうりょしているから、ある人ひとの今日きょうの決定けっていは、明日あしたの決定けっていと同おなじではない。最後さいごに、認知にんち主義しゅぎは、分析ぶんせき目的もくてきのため社会しゃかい制度せいどあるいはアクターがそれらを取とり巻まく社会しゃかい政治せいじ的てき文脈ぶんみゃくから分離ぶんりできると信しんじないポスト実証じっしょう主義しゅぎ的てき方法ほうほう論ろんを利用りようする。認知にんち主義しゅぎのアプローチは、合理ごうり主義しゅぎの代かわりに、社会しゃかい学がく的てきもしくはポスト実証じっしょう主義しゅぎ的てきである。認知にんち主義しゅぎによれば、利益りえきやパワーだけでなく、「認識にんしき」や「環境かんきょう」も重要じゅうようなのである。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

『国際こくさいレジーム』Stephen D. Krasner著ちょ, 河野こうの勝まさる監訳かんやく、勁草書房しょぼう、Tōkyō、2020年ねん10月がつ。ISBN 978-4-326-30293-2。