一品いっぴん親王しんのう

一品いっぴん親王しんのう（いっぽんしんのう）とは、律令制りつりょうせいにおいて皇すめらぎ親おや（こうしん）に対たいして与あたえられた最もっとも高たかい品位ひんいである一品いっぴんのこと。広義こうぎでは一品いっぴんを与あたえられた内親王ないしんのう（一品いっぴん内親王ないしんのう）も含ふくまれる。

待遇たいぐう

一品いっぴん親王しんのうには位田いでん80町まち・品しな封ふう800戸こ（『拾ひろえ芥あくた抄しょう』では600戸こ）・資し人じん160人にんが支給しきゅうされた。他たに文学ぶんがく（ふみはかせ・親王しんのうのみ）・家令かれい（いえのかみ）・扶（すけ）・大だい従したがえ・少しょう従したがえ・大書たいしょ吏・少しょう書しょ吏各1名めいが家いえ司しとして派遣はけんされた。立場たちばとしては正せい一いち位い・従したがえ一いち位いと同様どうように扱あつかわれており、待遇たいぐうとしてはそれを上回うわまわった。また、正ただし・従したがえ一いち位いと同様どうように太政大臣だじょうだいじんに就任しゅうにんする資格しかくがあった（ただし、生前せいぜんに太政大臣だじょうだいじんに就任しゅうにんした一品いっぴん親王しんのうはいない）。

資格しかく

品位ひんいは天皇てんのうと皇太子こうたいしを除のぞく皇すめらぎ親おやの序列じょれつを示しめすものであり、一品いっぴん親王しんのうは皇すめらぎ親おやの筆頭ひっとう的てきな地位ちいにあった。ただし、品位ひんいそのものは天皇てんのうとの親疎しんそは勿論もちろんのこと当該とうがい皇すめらぎ親おやの母親ははおやの出自しゅつじや年齢ねんれい、経歴けいれき、その他た社会しゃかい的てき評価ひょうかに基もとづいて叙じょせられる場合ばあいが多おおく、一品いっぴん親王しんのうと皇位こうい継承けいしょうとの関連かんれん性せいは全まったく無ない。むしろ、皇位こうい継承けいしょうから除外じょがいされた有力ゆうりょくな皇位こうい継承けいしょう権けんを持もつ皇すめらぎ親おやに対たいし皇位こうい継承けいしょうの断念だんねんの代償だいしょうとして与あたえられる例れい（為平親王ためひらしんのう・敦あつし康かん親王しんのう）すら存在そんざいした。だが、一品いっぴん親王しんのうと皇位こうい継承けいしょうが結むすび付つけられた例れいも皆無かいむでは無ない。氷高ひだか内親王ないしんのう（元正がんしょう天皇てんのう）は即位そくい直前ちょくぜんに一品いっぴんを与あたえられたこと、孝こう謙けん天皇てんのうの後継こうけい者しゃに擬なぞらえられた道祖どうそ王おう（廃はい太子たいし）及および大炊おおい王おう（淳仁天皇じゅんにんてんのう）がいずれも一品いっぴん親王しんのうである新しん田部たなべ親王しんのう・舎人親王とねりしんのう（いずれも故人こじん）の子こであり、陽成ようぜい天皇てんのうの事実じじつ上じょうの廃位はいい後のちに立たてられた時とき康かん親王しんのう（光孝みつたか天皇てんのう）は当時とうじ唯一ゆいいつの一品いっぴん親王しんのうであった。これらは一品いっぴん親王しんのうが皇位こうい継承けいしょうに関かかわった例れいであると言いえるが、同時どうじにその全すべてが特殊とくしゅな事情じじょうがあったことに留意りゅういする必要ひつようはある。

事例じれい

一品いっぴんに叙じょせられた最初さいしょの例れいは和銅わどう8年ねん（715年ねん）に叙じょせられた穂積ほづみ親王しんのうと氷高ひだか内親王ないしんのうである。この時ときには元明もとあき天皇てんのうから氷高ひだか内親王ないしんのうへの譲位じょういが決きまっておりそのための環境かんきょう整備せいびとしての一品いっぴん叙位じょいであったが、男性だんせい皇すめらぎ親おや（こうしん）よりも女性じょせい皇すめらぎ親おやが先さきに一品いっぴんを叙じょせられる事ことに対たいする朝廷ちょうてい内うちの反発はんぱつを抑おさえるために当時とうじ健在けんざいであった天武天皇てんむてんのうの皇子おうじ中ちゅう最年長さいねんちょうで知ち太政官だじょうかん事ごとも務つとめた重鎮じゅうちんの穂積ほづみ親王しんのうが同時どうじに叙じょせられたと考かんがえられている。奈良なら時代じだいに生前せいぜんに叙じょせられた他ほかの3人にん（舎人親王とねりしんのう・新しん田部たなべ親王しんのう・多紀たき内親王ないしんのう）は全すべて天武天皇てんむてんのうの子こであり、舎人親王とねりしんのう・新田にった部ぶ親王しんのうは朝廷ちょうてい内ないの要職ようしょくを歴任れきにんしている。なお、天武天皇てんむてんのうの子女しじょで最後さいごの生存せいぞん者しゃとして叙じょされた多紀たき内親王ないしんのう以外いがいはいずれも内命ないめい婦ふ以上いじょうの高位こういの女性じょせいの所生しょせいであり、母親ははおやの身分みぶんも深ふかく関与かんよしたと考かんがえられている。

一品いっぴん叙位じょいは社会しゃかい的てきにも財政ざいせい的てきにも大おおきな意味いみを有ゆうするために死後しごの叙位じょいは比較的ひかくてき多おおかったものの、生存せいぞん者しゃへの叙位じょいは極きわめて慎重しんちょうに行おこなわれ、平安へいあん時代じだい最初さいしょの叙位じょいは天てん長ちょう8年ねん（831年ねん）の葛原くずはら親王しんのうであった。奈良なら時代じだいからこの時期じきを通つうじて、二に品ひん親王しんのうの地位ちいに約やく20年ねん以上いじょういること、それ以下いかの場合ばあいには親王しんのうが就つく官職かんしょくで事実じじつ上じょう最高さいこう位いであった式部しきぶ卿きょうを長期ちょうきにわたって務つとめて「第だい一いちの親王しんのう」たるに相応ふさわしい経歴けいれきを保持ほじし、なおかつ母親ははおやの出自しゅつじ（いわゆる「后きさき腹はら」でなければ叙位じょいされる可能かのう性せいは低ひくかった）や天皇てんのうとの親疎しんそ、藤原ふじわら氏しなどの権力けんりょく者しゃとの親疎しんそも加味かみされて叙じょされた。これはすなわち「宗室そうしつの長老ちょうろう」としての統括とうかつ能力のうりょくと実績じっせきが期待きたいされた場合ばあいにそれに相応ふさわしい親王しんのうのみが叙じょされるということであり、これらの条件じょうけんを満みたしていても当時とうじの財政ざいせい状況じょうきょうや政治せいじ状況じょうきょうなどから一品いっぴんに叙じょせられずに薨去こうきょする親王しんのうもいた。一方いっぽう内親王ないしんのうの場合ばあいは、叙位じょい自体じたいが珍めずらしくなり、9世紀せいきに生前せいぜんに一品いっぴんに叙じょされたのは、藤原ふじわら良りょう房ぼうを祖父そふに持もつ清和せいわ天皇てんのうの同母どうぼ姉妹しまいの儀子のりこ内親王ないしんのうのみであった。

平安へいあん時代じだい中期ちゅうき以降いこう

摂関せっかん政治せいじ期きになると、后きさき腹はら以外いがいの天皇てんのうの子女しじょは臣籍しんせき降下こうかする例れいがほとんどとなり、一品いっぴん叙位じょいの条件じょうけんも二に品ひんの経歴けいれきよりも天皇てんのうや摂関せっかんとの関係かんけいが重視じゅうしされるようになった。また、為平親王ためひらしんのうや敦あつし康かん親王しんのうのように皇位こうい継承けいしょうにおいて優位ゆういだった親王しんのうが皇位こういを断念だんねんせざるを得えなくなった代償だいしょうに授さづけられるケースが生しょうじた（藤原ふじわら氏しの策動さくどうで皇すめらぎ籍せきに復帰ふっきさせられた兼明親王かねあきらしんのう（元もと・左大臣さだいじん源みなもと兼明かねあきら）の一品いっぴん叙位じょいも近似きんじの例れいと言いえる）。特とくに内親王ないしんのうへの一品いっぴん、とりわけ藤原ふじわら道長みちながの孫まごや曾孫そうそんに対たいする叙位じょいが多おおく見みられるようになる（醍醐天皇だいごてんのうから後こう朱雀すざく天皇てんのうまでの子女しじょのうち一いち品ひんに叙じょされたのが男性だんせい4名めいに対たいして女性じょせい9名めいでうち4名めいが道長みちながの孫まごあるいは曾孫そうそんにあたる内親王ないしんのうであった）。こうして一品いっぴん親王しんのうの重要じゅうよう性せいは急速きゅうそくに失うしなわれていき、天皇てんのう・あるいは外戚がいせきの庇護ひごを受うけた親王しんのう・内親王ないしんのうへの待遇たいぐう付与ふよへと変質へんしつすることになった。

参考さんこう文献ぶんけん

• 安田やすだ政彦まさひこ「八はち・九きゅう世紀せいきの一品いっぴん叙位じょい」（初出しょしゅつ:『日本にっぽん歴史れきし』第だい575号ごう（1996年ねん4月がつ）・所収しょしゅう:「一品いっぴん親王しんのう」（加筆かひつ・改題かいだい）『平安へいあん時代じだい皇すめらぎ親おやの研究けんきゅう』（吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1998年ねん） ISBN 978-4-642-02330-6）