中手なかて骨こつ骨折こっせつ

中手なかて骨こつ骨折こっせつ（ちゅうしゅこつこっせつ、fracture of the metacarpal bone(s)）とは、掌てのひら部ぶを構成こうせいする中手なかて骨こつが主おもに直じき達たち外力がいりょくにより変形へんけい、破壊はかいを起おこす外傷がいしょうであり、構造こうぞうの連続れんぞく性せいが絶たたれた状態じょうたいのことである。

発生はっせい部位ぶいによる分類ぶんるい

中手なかて骨こつ骨折こっせつは損傷そんしょうを受うけた部位ぶいによって骨ほね端はし線せん離はなれ開ひらき、基もと底部ていぶ骨折こっせつ、骨ほね幹部かんぶ骨折こっせつ、頸部骨折こっせつの4つの種類しゅるいに分わけられる。それぞれの発生はっせい機転きてんなどは次つぎの通とおりである。

中手なかて骨こつ骨こつ端はし線せん離はなれ開ひらき

他たの部位ぶいの骨ほね端はし線せん離はなれ開ひらきと同様どうように、成長せいちょう軟骨なんこつ層そうである骨ほね端はし線せんがまだ閉鎖へいさしていない小児しょうに期きに外力がいりょくを受うけ、骨ほね端はし線せんが障害しょうがいされることで生しょうじる小児しょうに骨折こっせつである。成長せいちょう軟骨なんこつ層そうは4層そうからなるが、骨ほね端はし線せん離はなれ開ひらきは細胞さいぼう間あいだ結合けつごう組織そしきが少すくなく最もっとも抵抗ていこうの弱よわい肥大ひだい細胞さいぼう層そうを中心ちゅうしんとして生しょうじる。このため転位てんいが大おおきければ、大おおきな成長せいちょう障害しょうがいをもたらす。できるだけ保存ほぞん的てきな方法ほうほうで正確せいかくに整復せいふくを行おこない、内うち固定こていが必要ひつようとされる場合ばあいにも骨ほね端はし線せんの損傷そんしょうが少すくない方法ほうほうを選えらぶ。

中手なかて骨こつ基もと底部ていぶ骨折こっせつ

基もと底部ていぶ骨折こっせつは、打撲だぼくなどの直じき達たち外力がいりょくを受うけて生しょうじることが多おおい。脱臼だっきゅう骨折こっせつが発生はっせいすると手て部ぶの隆起りゅうき、突出とっしゅつ、手指しゅしの顕著けんちょな変形へんけいが見みられる。

第だい1中手なかて骨こつ骨折こっせつは、基もと底部ていぶに発生はっせいする場合ばあいが多おおい。このうち、第だい1中手なかて骨こつ基もと底部ていぶ関節かんせつ内ないの脱臼だっきゅう骨折こっせつで尺しゃく側がわ基もと底部ていぶに骨ほね片へんを残のこし、遠とお位くらい骨ほね片へんが橈側近きん位いへ向むけて転位てんいするものをベンネット骨折こっせつといい、手てを固かたく握にぎった状態じょうたいにおいて打撃だげき、打撲だぼくなどの衝撃しょうげきが加くわわって生しょうじる。ベンネット骨折こっせつは、アイルランドの外科医げかいベンネット（Edward Hallaran Bennett, 1837 - 1907）により1882年ねんに記しるされた第だい1中手なかて骨こつ基もと底部ていぶ骨折こっせつである。第だい1中手なかて骨こつの末梢まっしょう骨こつ片へんは長ちょう母はは指ゆび外がい転てん筋すじの筋力きんりょくにより橈背側がわに牽引けんいんされ、中手なかて手しゅ根ね関節かんせつに脱臼だっきゅうを生しょうずる。この骨折こっせつは整復せいふく位い保持ほじが困難こんなんな骨折こっせつとして知しられる。

ベンネット骨折こっせつの症状しょうじょうとしては、通常つうじょうの骨折こっせつの症状しょうじょうに加くわえ、第だい1中手なかて骨こつの末梢まっしょう骨こつ片へんが橈背側がわに転位てんいする変形へんけいが現あらわれる。診断しんだんに際さいしては局所きょくしょ所見しょけん、X線せん像ぞうにより確認かくにんする。保存ほぞん療法りょうほうでは、第だい1指ゆびを長ちょう軸じくに末梢まっしょう側がわへ牽引けんいんし、第だい1中手なかて骨こつ伸展しんてん位い橈側から中手なかて手しゅ根ね関節かんせつ部ぶを圧迫あっぱく、約やく5週間しゅうかんのギプス固定こていを施ほどこす。整復せいふく位い保持ほじが困難こんなんな症例しょうれいに対たいしては手術しゅじゅつ療法りょうほうにより、X線せん透視とうし下したに観かん血ち的てきにキルシュナー鋼こう線せんを用もちいた内うち固定こていを行おこなう。整復せいふく固定こていが不十分ふじゅうぶんになる場合ばあいにはこれを直視ちょくし下かで行おこなう。かつてはこのベンネット骨折こっせつがボクサー骨折こっせつの別名べつめいをもっていたが、近年きんねんは後述こうじゅつの中手なかて骨こつ頸部骨折こっせつがボクサー骨折こっせつと呼よばれることが多おおい。

第だい5中手なかて骨こつ基もと底部ていぶ骨折こっせつでは、第だい5中手なかて骨こつの尺しゃく側がわ手しゅ根ね伸しん筋すじに牽引けんいんされて第だい5指ゆび中手なかて手しゅ根ね関節かんせつ内ないに骨ほね片へんを残のこし、亜あ脱臼だっきゅうを生しょうじる。

また、第だい1中手なかて骨こつ基もと底部ていぶの関節かんせつ内ないにおける複ふく合あい骨折こっせつはローランド骨折こっせつと呼よばれる。

中手なかて骨こつ骨こつ幹部かんぶ骨折こっせつ

骨ほね幹部かんぶ骨折こっせつは、骨折こっせつ線せんの方向ほうこうによって横よこ骨折こっせつと斜はす骨折こっせつに分わけられ、横よこ骨折こっせつは直じき達たち外力がいりょくを受うけて生しょうじ、中手なかて骨こつから起おこり始はじめする骨ほね間あいだ筋すじの収縮しゅうしゅくによって背せ側がわ凸とつ状じょう変形へんけいとなる。斜はす骨折こっせつは捻転ねんてん外力がいりょくを受うけて生しょうじ、横よこ骨折こっせつのような屈曲くっきょく転位てんいではなく回旋かいせん転位てんい、短縮たんしゅく転位てんいが起おこりやすい。

中手なかて骨こつ頸部骨折こっせつ

頸部骨折こっせつはボクサー骨折こっせつとも呼よばれ、頻度ひんどが高たかい。次ついで基もと底部ていぶ骨折こっせつ、骨ほね幹部かんぶ骨折こっせつ、骨ほね端はし線せん離はなれ開ひらきの順じゅんで多おおく発生はっせいする。共通きょうつうする症状しょうじょうとして、外傷がいしょうの衝撃しょうげき後ごに激痛げきつう、特定とくてい部位ぶいの圧あつ痛つう、手てや手指しゅしの機能きのう不全ふぜん、腫脹しゅちょう、変形へんけい、運動うんどう障害しょうがいなどが急激きゅうげきに発生はっせいする。

発生はっせい機転きてんはベンネット骨折こっせつと同様どうよう、拳こぶしを握にぎった状態じょうたいで打撃だげき、打撲だぼくによる外力がいりょくが加くわわった時ときに起おこるが、第だい4、第だい5中手なかて骨こつ頸部（近きん位い端はし）に多発たはつする。より強つよい衝撃しょうげきを受うけた場合ばあいには第だい2、第だい3中手なかて骨こつに生しょうじることもあり、正まさしく拳こぶしを握にぎっていない場合ばあいには第だい1中手なかて骨こつにも生しょうじる。また、乗のり物もののハンドルを握にぎったまま正面しょうめんから交通こうつう事故じこに遭あうなどした場合ばあいにも、外力がいりょくが中ちゅう手指しゅし節ぶし関節かんせつから中手なかて骨こつの長ちょう軸じくに向むかうことで生しょうじる。

拳こぶしによる打撃だげきにおいて骨折こっせつを予防よぼうするためには、中手なかて骨こつ頸部に限度げんど外がいの衝撃しょうげきが加くわわらないように、衝撃しょうげきが中手なかて骨こつの縦たて軸じく方向ほうこうに伝つたわるように打うつ必要ひつようがある。骨折こっせつした場合ばあいは即座そくざにアイシングを行おこない、幅はばの狭せまいバンデージで爪つめが見みえる状態じょうたいに固定こてい、圧迫あっぱくする。スプリント材ざい（水みず硬性こうせい・水溶すいよう性せい・熱ねつ塑性そせいプラスチック製せい、アルミニウム合金ごうきん製せいなど）で手て全体ぜんたいにスプリント固定こていを施ほどこし、三角巾さんかくきんなどを使つかってスリング包帯ほうたい法ほう（吊つり包帯ほうたい）で挙きょ上じょうを行おこなう。

この他ほか、腱けんと関節かんせつ包つつみとの結合けつごう部位ぶいでは剥離はくり骨折こっせつが多おおく発生はっせいし、伸しん筋すじ腱けん断だん裂きれによってマレットフィンガー（槌づち指ゆび）と呼よばれる遠とお位くらい指ゆび節ぶし間あいだ関節かんせつの屈曲くっきょく変形へんけいが生しょうじる。軽度けいどであれば6週間しゅうかん程度ていど、副ふく子こ（アルミニウム合金ごうきん製せい、樹脂じゅし製せい、プラスチック製せいなど）固定こていを施ほどこして矯正きょうせいすることで治癒ちゆするが、重度じゅうどの腱けん損傷そんしょうや骨ほね損傷そんしょうを伴ともなう場合ばあいは手術しゅじゅつを行おこなう。

治療ちりょう概要がいよう

転位てんいがない場合ばあいには非ひ伸縮しんしゅく性せい粘着ねんちゃくテープによる整復せいふく固定こてい、アルミニウム副ふく子こ固定こてい、ギプス固定こていなどにより保存ほぞん的てき治療ちりょうを行おこなう。保存ほぞん療法りょうほうでは中ちゅう手指しゅし節ぶし関節かんせつ、近きん位い指ゆび節ぶし間あいだ関節かんせつともに90度ど屈曲くっきょく位いで矯正きょうせいして固定こていする。伸しん筋すじより屈こごめ筋すじの方ほうが強つよいため、90度ど屈曲くっきょく位いでの固定こていは他たの指ゆびの動うごきを制限せいげんせず、転位てんいの可能かのう性せいも低ひくい。第だい2 - 第だい5指ゆびの腱けんは共同きょうどう腱けんといい、4つの筋肉きんにくが1つの腱けんとなって手首てくび部ぶに繋つながるので、屈曲くっきょくさせておくことで、他たの指ゆびを動うごかした時ときに固定こていした骨折こっせつ部ぶが動うごくことを防ふせぐ。

保存ほぞん療法りょうほうでの固定こていには4 - 6週間しゅうかん程度ていどを要ようするが、期間きかんは年齢ねんれい、骨折こっせつの性質せいしつ、部位ぶい、固定こてい法ほうによって異ことなり、変形へんけい、短縮たんしゅくした場合ばあいは再さい骨折こっせつが起おきやすいため、より期間きかんを要ようする。骨ほね間あいだ筋すじ、指ゆび屈こごめ筋すじ腱けん、手て根ね伸しん筋すじなどの作用さようで頸部以遠いえんの骨ほねが掌てのひら側がわに転位てんいすると背せ側がわ凸とつの屈曲くっきょく変形へんけいが生しょうじるので、その場合ばあいは矯正きょうせい固定こていする。

掌てのひら側部そくぶ骨こつ皮質ひしつの挫くじけ滅めつや変形へんけいが顕著けんちょな場合ばあいには整復せいふく位いの保持ほじが困難こんなんであるため、中ちゅう手指しゅし節ぶし関節かんせつ、骨折こっせつ部ぶ周囲しゅうい軟部組織そしきへの負担ふたんを考慮こうりょし、ピンニング術じゅつなどの経けい皮がわ的てき骨ほね接合せつごう術じゅつ（釘くぎ、鋼はがね線せんなどの固定こてい具ぐで経けい皮がわ的てきに骨折こっせつ部ぶを繋つなぐ手術しゅじゅつ）を行おこなう。キルシュナー鋼こう線せんによる経けい皮がわ的てき鋼こう線せん刺とげ入にゅう固定こてい法ほう、中手なかて骨髄こつづい内ない釘くぎ固定こてい法ほう intramedullary nailing of metacarpal、ポリ-L-乳酸にゅうさん（PLLA）ピンによる中手なかて骨髄こつづい内ない固定こてい法ほうなどがある。麻酔ますいを施ほどこしてX線せん透視とうし下かに整復せいふく術じゅつを行おこなった後のちでアルミニウム副ふく子こ固定こていもしくはギプス固定こていを施ほどこす。

徒手としゅ整復せいふくが困難こんなんもしくは不可能ふかのうであれば、再さい転位てんいや指ゆびの伸展しんてん障害しょうがいを考慮こうりょして観かん血ち的てき整復せいふく内ない固定こてい術じゅつ（切開せっかいして骨折こっせつ部ぶを展開てんかいし、鋼はがね線せん、プレートなどの固定こてい具ぐで骨折こっせつ部ぶを繋つなぐ手術しゅじゅつ）を行おこなう。ロープロファイルプレートおよびスクリュー low profile plate and screw system による治療ちりょうなどがある。

この他ほか、複雑ふくざつ骨折こっせつでは感染かんせん症しょう予防よぼうのための抗生こうせい物質ぶっしつ投与とうよなどを行おこなう。また、いずれの場合ばあいもX線せんで骨ほね癒合ゆごうを確認かくにんする。

骨折こっせつ型がた、粉砕ふんさいの程度ていど、軟部組織そしきの損傷そんしょうの程度ていどによっては、術後じゅつごに指ゆび拘かかわ縮ちぢみが起おこりやすい。この予防よぼうとして中ちゅう手指しゅし節ぶし関節かんせつ屈曲くっきょく位いでの可動かどう域いき訓練くんれんなどの運動うんどう療法りょうほうを行おこなう。30度ど以上いじょうの角かく状じょう変形へんけいを残のこすと中手なかて指ゆび節ぶし関節かんせつの伸展しんてん位い拘かかわ縮ちぢみとなる。低てい出力しゅつりょく超ちょう音波おんぱパルス（LIPUS）などによる治療ちりょうも有効ゆうこうとされる。

発生はっせい部位ぶいに関かかわらず、整復せいふくが不完全ふかんぜんだと運動うんどう障害しょうがいや運動うんどう痛つうを残のこす。中手なかて骨こつ骨折こっせつでは回旋かいせん転位てんいを合併がっぺいしやすいが、この転位てんいでは中ちゅう手指しゅし節ぶし関節かんせつから回旋かいせんすることにより、手てを握にぎる動作どうさをしたときに指ゆびが重かさなり合あうクロスフィンガーが認みとめられることがあり、その場合ばあいは手術しゅじゅつによる矯正きょうせいが必要ひつようになる。

参考さんこう文献ぶんけん

『南山みなみやま堂どう医学いがく大だい辞典じてん』南山みなみやま堂どう 2006年ねん3月がつ10日とおか発行はっこう ISBN 978-4-525-01029-4