北朝鮮きたちょうせんによるルーマニア人じん拉致らち

北朝鮮きたちょうせんによるルーマニア人じん拉致らち（きたちょうせんによるルーマニアじんらち）は、ルーマニア国籍こくせきの一般いっぱん市民しみんが朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく（北朝鮮きたちょうせん）特殊とくしゅ機関きかんの工作こうさく員いんなどにより拉致らち・誘拐ゆうかいされた事件じけんおよび状態じょうたい。深刻しんこくな人権じんけん侵害しんがいであり、ルーマニアに対たいする重大じゅうだいな主権しゅけん侵害しんがい行為こういである。

目撃もくげき証言しょうげん

ルーマニア人じん拉致らち被害ひがい者しゃについては、曽我そがひとみの夫おっとチャールズ・ジェンキンスの著書ちょしょ『告白こくはく』（2005年ねん）の証言しょうげんで広ひろく知しられるようになった。ジェンキンスによれば、ジェンキンスら4人にんのアメリカ投降とうこう兵へいは1972年ねんまで小しょう家屋かおくでの軟禁なんきん状態じょうたいに置おかれた。そのうちの1人ひとり、ジェームズ・ドレスノクの結婚けっこん相手あいてがルーマニア人じんドイナ・ブンベアであった。ドイナ・ブンベアはイタリア在住ざいじゅうのルーマニア人じんで、1978年ねん10月にローマで拉致らちされたとみられる。2人ふたりのあいだにはリカルド（1980年生ねんせい）、ガブリエル（1984年生ねんせい）の2人ふたりの息子むすこがいた。ガブリエルは「ガビ」と呼よばれていた。ドイナ・ブンベアは1997年ねん1月がつ、北朝鮮きたちょうせんで癌がんのため死去しきょした。北朝鮮きたちょうせんの土どに埋葬まいそうされたくないというドイナの望のぞみにより、遺体いたいは火葬かそうされた。なお、ドレスノクはその後ご、1999年ねんに北朝鮮きたちょうせん人じんとトーゴ人ひとの混血こんけつ女性じょせいダダと結婚けっこんした。

ルーマニア紙し "Evenimentul Zilei" は、ジェンキンスの著作ちょさくをもとにドイナ・ブンベアの報道ほうどうを展開てんかいし、彼女かのじょの家族かぞくを突つき止とめた。それによれば、彼女かのじょは、失踪しっそう前まえに両親りょうしんに何なん度ども電話でんわをかけ、イタリア人じんから日本にっぽんで美術びじゅつ展覧てんらん会かいを開ひらかないかとのオファーを受うけたことで興奮こうふんしていたという。また、彼女かのじょの友人ゆうじんからは「ドイナが死亡しぼうした」との電話でんわを受うけ取とった。しかし、その3日にち後ごに「拉致らちされている」とのドイナ本人ほんにんからの電話でんわを受うけ取とっている。ドイナの弟おとうともまたガブリエルという名なであり、失踪しっそう時じ、彼女かのじょは28歳さい、弟おとうとのガブリエルはまだ11歳さいであった。失踪しっそうの2年ねん前まえの1976年ねん、彼女かのじょは一時いちじルーマニアに帰国きこくしており、弟おとうとと過すごしている。ドイナの家族かぞくが、イギリス制作せいさくのドキュメンタリー番組ばんぐみ「休戦きゅうせんラインを超こえて（Crossing the Line）」を2006年ねん末すえに視聴しちょうしたところ、ドイナの息子むすこのガブリエルが登場とうじょうしており、彼女かのじょによく似にていたという。彼女かのじょは自分じぶんの愛あいした弟おとうとの名なを息子むすこにもつけたと思おもわれる。

拉致らちの背景はいけい

金きむ日成いるそんによって後継こうけい者しゃに指名しめいされた金きむ正日じょんいるは、1976年ねんの対たい南みなみ工作こうさく部門ぶもん幹部かんぶ会議かいぎにおいて、工作こうさく員いんの現地げんち化か教育きょういくを図はかること、そのために外国がいこく人じんを積極せっきょく的てきに拉致らちするよう指令しれいを出だしたといわれる。1977年ねん、金きむ正日じょんいるは、北朝鮮きたちょうせんの工作こうさく員いんたちに対たいし「マグジャビ」（手当てあてたり次第しだい）に外国がいこく人じんを誘拐ゆうかいするよう命めいじた。

現状げんじょうと解決かいけつに向むけた取とり組くみ

2005年ねん、ルーマニアのミハイ・ラズヴァン・ウングレアーヌ外相がいしょうが北朝鮮きたちょうせん政府せいふに口頭こうとうで説明せつめいを求もとめたのに対たいし、返答へんとうがなかった旨むねを明あきらかにしている。また、2007年ねん2月がつ、カリン・ポペスク・タリチェアヌ首相しゅしょうが来日らいにちした際さい、安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょうとドイナ・ブンベアの件けんについて話はなすなど、拉致らち問題もんだいに関心かんしんを高たかめていると思おもわれる。ルーマニア政府せいふは、北朝鮮きたちょうせんに対たいし調査ちょうさ依頼いらいをしており、外交がいこうレベルで拉致らち問題もんだいを取とり上あげているのは、日本にっぽん、韓国かんこく、タイ王国おうこく以外いがいではルーマニアだけである（2006年ねん段階だんかい）。北朝鮮きたちょうせんは、かつて日本にっぽんに対たいして言いっていたのと同様どうよう「そういう人ひとはいない」と答こたえているが、いずれ真相しんそうは明あきらかになっていくものと思おもわれる。

2014年ねん2月がつ17日にち、国際こくさい連合れんごう人権じんけん理事りじ会かいの決議けつぎを受うけて設置せっちされた北朝鮮きたちょうせんの人権じんけんに関かんする調査ちょうさ委員いいん会かいは最終さいしゅう報告ほうこく書しょを発表はっぴょうした。報告ほうこく書しょは北朝鮮きたちょうせんに対たいして、生存せいぞん拉致らち被害ひがい者しゃとその子こどもを即時そくじ帰国きこくさせること、正確せいかくな情報じょうほうを提供ていきょうすること、もし亡なくなっている場合ばあいはその遺骨いこつを返還へんかんすることなどを北朝鮮きたちょうせんに要求ようきゅうした。これを受うけて開ひらかれた同年どうねん3月3日にちの国際こくさい拉致らち解決かいけつ連合れんごう第だい3回かい総会そうかいでは、「拉致らちの命令めいれい者しゃは政権せいけんの最高さいこう権力けんりょく者しゃである金きむ日成いるそん、金きむ正日じょんいるであると断定だんていした」とする共同きょうどう声明せいめいが出だされた。総会そうかいにはルーマニア人じん家族かぞくと米国べいこく人じん家族かぞくからのメッセージが届とどいた。

北朝鮮きたちょうせん当局とうきょくはルーマニア人じん拉致らちを未いまだ認みとめていない。外国がいこく人じん拉致らちは、相手あいて国こくに対たいする主権しゅけん侵害しんがい行為こういであり、したがって、国際こくさい法ほうにのっとり、原状げんじょう回復かいふく、犯人はんにんの相手あいて国こくへの引ひき渡わたし、公式こうしきな謝罪しゃざい、被害ひがい者しゃ家族かぞくに対たいする補償ほしょうを速すみやかに行おこなわなければならない。

参考さんこう文献ぶんけん

• チャールズ・ジェンキンス 著しる、伊藤いとう真しん 訳やく『告白こくはく』角川書店かどかわしょてん〈角川かどかわ文庫ぶんこ〉、2006年ねん9月がつ（原著げんちょ2005年ねん）。ISBN 978-4042962014。 

関連かんれん項目こうもく

• 北朝鮮きたちょうせん拉致らち問題もんだい